25. 2層への移動
次の朝、日の出と共に目覚めた雄太はエルダによって何故か怒られた。
『ユータが眼を瞑ったら何も見えないじゃないの! しかも眠ったら声まで届かないし! 私、どんなに怖かったか分かってんの!? ねぇ!? 分かってる!? 本当に分かってる!?』
と言う事らしい。
「そんなの俺が知るか! 昨日得たスキルでそんな事まで分かる訳ないだろ!」
せっかく水龍のおかげで久しぶりに心地良く眠れたと言うのに、寝起きでエルダにガミガミ言われた雄太は少し不機嫌になり、水龍を使ってお風呂に入った後にご飯を食べて家を出た。
早朝と言う事もあり、出勤中の人が多く歩いていたりバス停でバスを待っていたりと、なんだか懐かしい感じに浸りながらハロワへと向かって原チャを走らせた。
昨日おばちゃんに言われた事もあってか、急いで原チャを走らせてハロワへと着いた雄太は、恒例の冷水機で水を飲んだ後におばちゃんがいるカウンターへと向かった。
「おはよ」
「あぁ。 おはようさん」
雄太はカードをカウンターへと置いておばちゃんへと挨拶をした。
「今から行って来るから後の事は頼んだ。 色々とあると思うけど程々にな」
「あんたに言われなくても分かってるわよ。 あんたこそ無茶はするんじゃないよ」
軽く言葉を交わし、おばちゃんからカードを受け取った雄太はダンジョンへと向かった。
今日のダンジョンゲートの見張り番は佐藤さんじゃないヤル気がない方の人だった。
もし、見張りが佐藤さんだったら、俺が夜になってもダンジョンから帰って来なかった場合、何かしらアクションを起こす可能性があったから、今日はこのヤル気のない人で逆に良かったわ。
ゲートを潜って階段を降り、ダンジョンとの境目に着くと、赤腕を6本発現させて、4本は俺が、2本はエルダに任せてスライムを捕食しながら全力で奥へと向けて走った。
エルダは邪魔なので発現させず、並列思考で赤腕を操作させた。
並列思考でエルダに赤腕を操作させると、前方だけがグラス状だった雄太のゴーグルは、360°の輪状へと変形して横や背後まで視界が届く様になり、視界共有をしたエルダのサポートによって背後へも視覚を広げる事ができる様になった。
最初は慣れない視覚のせいで酷く酔ったりして真面に動けなかったのだが、慣れてくると、今まで何故ここまで自分の視界が狭かったのかと思える程に違和感がなくなっていた。
少し時間をかけて広がった自身の視界とエルダとの視界共有に慣れた雄太は、当初の予定通り、全力で走ってスライムを吸収しながらダンジョンの最奥へと向かって行った。
ダンジョンの奥へと向かう道中はコレと言った珍しい事も無く、雄太が取りこぼしたスライムもエルダがフォローして吸収してるお陰で、まだ昼前と言うかなり早い時間で最奥へと到着した。
「階段が見えなくなってるな・・・ って事はアーススライムがリポップしているのか・・・」
これにより雄太はアーススライムのリポップは確定と判断し、おばちゃんから貰った端末を使っておばちゃんへとボイスメッセージで報告を送った。
「アーススライムは今日もリポップあり。 今のところリポップは確定? 昨日に続き、2層へと続く階段の上にリポップしている。 広場の入り口から奥の壁に向かって約10m進んだところの地面にいる」
雄太はボイスメッセージを送った後に端末を腰のホルダーへと仕舞い、エルダを膨張へと発現させた。
「どうする? オマエが倒してみるか?」
「だからぁ! 私じゃ無理だって! 私は直接的な戦闘より、さっきみたいにユータの補助をしているのが性に合っているの!」
「んだよソレ? そんなもの姿があるかないかだけの違いじゃねぇか!」
「馬鹿言わないでよ! 姿があるとないとじゃ大きな違いなのよ! 私がユータの中に居れば、傷付くのはユータだけで私は傷つかないし、怖い思いもしなくて良いじゃないの!」
「テメっ!? フザケんなよ!? なに俺を肉壁に使ってんだよ! 肉壁になるはオマエの役目だろうが!!」
「フザケてるのはユータでしょ!? 私はユータの肉壁にすらなり得ないわよ!! 私なんて単に他より長く生きて人化できただけの普通のスライムだったのよ! 耐久力や戦うスキルなんて何1つも持ち合わせちゃいないわよ! そんな戦う術を全く知らない普通のスライムだった私があんなのと戦える訳ないでしょ! 私の戦力の無さを馬鹿にしないでよ!」
エルダは、何故か開き直ったかの様な態度で、まるで自慢するかの様にドヤ顔で胸を張りながら自分を自嘲しだし、アーススライムとの戦闘を必死に拒み続けた。
雄太は自分の戦力の無さを自慢しているエルダを可哀想な奴を見るかの様に哀れんだ目で見下した。
「え!? 何その目!? なんでそんな目で私を見るの!? ちょっと止めて! そんな目で私を見ないでぇぇぇぇ!」
エルダは雄太に哀れむ様な目線で凝視された事に、頬を赤らめて恥じらいながら胸を隠す様に自分の両肩を抱いてしゃがみ込んだ。
「・・・ なんかもういいや・・・ 可哀想過ぎて逆にこっちが罪悪感を感じるわ・・・ もうオマエは俺の邪魔にならない様にサポートだけしてろ・・・」
雄太はしゃがみ込んでブツブツ言いながら恥じらっているエルダの発現を解除し、代わりに6本の赤腕を発現させた。
「ハァ〜・・・ オマエのせいで緊張が解けちまったじゃねぇか・・・ こんなとこさっさと終わらせて先に進むぞ・・・ ってか、オイ。 イジけてないで手伝えよ。 それがオマエのアイデンティティなんだろ?」
雄太はアーススライムがいる地面へと向けて、発現させた赤腕で押し潰す様に広げて被せた。
「!?!!!」
アーススライムは突然覆い被された赤腕に驚き、まるで赤腕から逃れる様に抵抗しながら起き上がろうとするが、身体を持ち上げた端から赤腕に吸収されていき、自身の体積をどんどん縮小させていった。
雄太はトドメと言わんばかりに6本の赤腕で縮小したアーススライムを掬い上げる様に地面から剥がし、地面から剥がされたアーススライムは雄太の赤腕の中でその身をあっさりと消滅させた。
「う〜ん・・・なんとか簡単に倒せる様にはなったけど、普通のスライムを吸収する感覚でもう少しチャチャっとできる様になりたいな・・・まぁ、スーツのレベルが上がればなんとかなるかもな」
アーススライムを吸収した跡には昨日と同じ様に下へと続く階段が口を開いており、階段の出現を確認した雄太は、下層へと向かう前に昼ご飯を食べる事にした。
早めの昼ご飯を食べ終えた雄太は、タバコを咥えながら2層めの階段へと足をかける。
下へと続く階段は、一見して1層めと同じ造りの様な感じで薄く光る岩肌で周りを覆われているが、足元の段差だけは、まるで人の手が加えられたかの様に奇麗に角や形が揃えられ、しかも階段は真っすぐに下へと降りていくのではなくグルグルと螺旋状になっており、雄太は階段に対してかなりの違和感を感じた。
階段の内部は入り口とは違って高さは大体3m程あり、幅は大人の男性が5、6人は並んで歩いても少し余裕がありそうで、雄太は全く窮屈さを感じる事はなかった。
「なんなんだこの階段・・・ なんで階段だけがこんなにも人の手が加えられたかの様に奇麗に舗装されているんだ? 角は直角だわ隙間はねぇわで、ありえねぇだろこんなの?」
『さぁ?私がこのダンジョンで生まれた時には既にこんな感じだったけど。言われてみれば確かに不思議ね?私が生まれるよりも前の大昔に誰かが舗装したのかしら?』
雄太はエルダと会話しながらも警戒を解くことはなく、赤腕を前後へと展開しながら舗装された螺旋状の階段を下りていき、2層へと到着した。
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