248. 仕える者達
黒い斬撃を放ったカイムは、背中にある漆黒の鳥の様な羽を羽ばたかせながらヤシャとラセツの前へと下降してきた。
「オマエらは邪魔なんで、消えるかここに居てちょ」
ヘラヘラとしているカイムの顔を見たヤシャとラセツは、眼下の飛空艇にいる雄太へと視線を向ける。
「ダメダメ〜。 オマエらはマルバス様の邪魔になるから、俺がここで相手すんの」
カイムは両腕を下へと振り下ろし、腕へと黒い複数の刃を発現させた。
カイムが発現させた刃を見たヤシャは、チラリと横にいる黄色い千疋狼の姿となっているラセツへと視線を向ける。
「ソレ、良いな」
「あぁ。 主から貰った。 オマエも使える筈だ」
「分かった」
ヤシャはラセツと短い言葉を交わすと、手にしていた三節棍を無造作に首へと巻きつけた。
「よしを。 手伝え」
『ハイハイ。 どうぞ。 こうなったら好きにしろよ。 もう』
瞬間、首にある三節棍がグニグニと形を変えてヤシャへと纏わりついていき、同時にヤシャは力を込めて全身から膨張を発現させた。
ヤシャが纏う膨張は、ラセツの様に人狼のシルエットを象って行くが、そこから更にグニグニと形を変え、背中へと一対の鳥の様な翼を発現させ、濃い緑色の鳥人の様な姿へと成った。
「千疋狼、改め、鴉天狗」
背中へと羽を生やし、カラスの様な顔となったヤシャは、両手へと細くて黒い金棒を握っており、金棒の先を向けてカイムへと構えを取った。
よしを(笑)とヤシャが融合し、鴉天狗へと変わった姿を見たラセツは、嬉しそうに狼の口を吊り上げる。
「オマエらはホントズルいのぉ」
「オマエもギルフォードを使えば良い」
「ワシはオマエの様に器用ではないからのぉ。 とりあえず、コレで良いわぃ」
ラセツが両拳へと力を入れると、臀部にあった数本の尻尾が消え、ラセツの両拳がボコんと膨れ上がって巨大化した。
「脳筋めが」
「最高の褒め言葉じゃぃ」
姿を変えたラセツとヤシャを見たカイムは、面倒くさそうに舌打ちをしながら2人を睨む。
「なんでもアリかよ。 まぁ、とりあえず、俺は仕事をこなすだけだ、 な!」
カイムは、ラセツとカイムへと向かって刃を飛び出させている両腕をクロスさせながら袈裟に振るう。
振われたカイムの腕から、無数の黒い斬撃が放たれ、ラセツとヤシャへと向かって飛んでいく。
すると、ラセツがヤシャの前へと躍り出ると、両手を広げて前へと突き出して、黒い斬撃を掌で受け止めて握り潰す。
瞬間、ラセツの後ろにいるヤシャが背中の翼を広げ、カイムへと向けて無数の羽を飛ばした。
「どこ狙ってるのさっ!」
ヤシャが飛ばした向かって来る羽を、カイムは手から黒い風を発現させて周囲へと撒き散らした。
ヤシャが放った羽は、カイムが発現させた風によってカイムの周囲をフワフワと力なく舞っており、カイムは下から掬い上げる様にして右腕を上へと向けて振るい上げる。
「そんな小細工が効くと思ってんのかよ!」
カイムが振るった右腕から、まるで黒くて太い氷柱の様な鋭利な結晶が現れ、ラセツへと向かって飛んで行った。
「フン!」
ラセツは、飛んでくる黒い鋭利な結晶へと左手の平を突き出して受け止めると同時に、左腕を引いて結晶の勢いを殺し、結晶の横を右拳で殴って結晶を弾き飛ばした。
「固いねぇ・・・ そんじゃ、これならどうだ!」
カイムは結晶を殴り飛ばしたラセツの姿を見た後に、すぐさま両腕を何度無掬い上げる様にして振って、無数の黒い結晶を発現させてラセツへと飛ばした。
ラセツは右手と左手の付け根を合わせて両手を広げ、大きな盾の様にして前へと翳す。
カイムが放った結晶は、次々とラセツの両手へと突き刺さっていくが貫通するまでには至っておらず、ソレを見たカイムは眉根を寄せて苦い表情となる。
「へぇ〜。 ちょっと固すぎんじゃねぇのお宅?」
カイムが再度両手を動かして追撃を放とうとした瞬間、突如として背後から気配を感じ、咄嗟に身体を捻って両腕を頭上で交差させた。
カイムが交差させた両腕は、『ガインっ』と言う固い音と共に2本の金棒を受け止めており、その金棒の先には金棒を握っているヤシャの姿があった。
「どっから出てきたんだよオマエっ!!」
ヤシャは、カイムの軽口へと全く答える様子もなく、そのまま何度も金棒をカイムへと打ちつけてきた。
ヤシャの金棒とカイムの腕が何度も何度も激しく打つかり合い、金属同士がぶつかり合う様な音を撒き散らす。
そんな中、カイムは左右から気配を感じ、翼を使って上昇する。
「クっ!?」
ド──
──ゴン!!
上昇したカイムの眼下に見えたのは、巨大な岩の様な掌同士が合わさっており、ラセツが背後からカイムを叩き潰そうとしていた。
「マジで容赦ねぇ ──な!?」
上昇したカイムの下へと向けられた視界には、既にヤシャの姿がなく、何故か自身の上から気配を感じたカイムは、頭上を払うかの様に右腕を振り上げながら右側へと瞬時に移動した。
ガインっ!
カイムの振り上げた腕には、ヤシャの金棒を弾いた感触があり、カイムはヤシャとラセツの姿が捉えられる位置へと向けて急いで身体を移動させる。
「どうなってやがんだコイツら!? チョロチョロと変な所から現れやがって! 隠密かなんかか!?」
カイムは、まるで実態が掴ませない様にカイムの隙から攻撃を仕掛けて来るラセツとヤシャの動きに腹が立ち、苛立ちを顕にしながらラセツとヤシャへと視線を向けた。
「なんかマジでスッキリしねぇ・・・ て事で、このモヤモヤをスッキリさせてもらうから! 【解放】!!」
カイムは、ラセツとヤシャへと視線を向けながら両腕を深く組む様にして身体を曲げ、魔族の力を解放させる。
解放の言葉と共に、深く組んでいた両腕を勢いよく左右へと広げると、カイムの両手には漆黒のギザギザと歪に曲がった剣が握られており、背中の翼の羽は1枚1枚が刃の様な姿となり、更に1対から2対へと増えていた。
そしてカイムの顔へは、こめかみと額に2対の目が増えて、合計3対の目がキョロキョロと動きながらもラセツとヤシャを凝視していた。
「ケヒっ! 視界良好だぜ!」
カイムが姿を変えた瞬間、ラセツが右拳を振り上げてカイムへと向かって距離を詰める。
カイムはラセツによって上から振るい落とされた拳を、両手の剣を当てて軽く横へと受け流すと、背中の刃の様な翼の羽が一つに纏って蜘蛛の脚の様に伸びていき、ラセツの肩へと突き刺さった。
「ぐっ!?」
そして、更に背中の翼の羽が変形し、カイムの背後へと向かって伸びた。
ガキンっ!
蜘蛛の脚の様に伸びた3つの翼は、ヤシャの打ち下ろしを受け止めており、こめかみと額の眼がギョロリとヤシャを睨みつけた。
「マジかよ。 オマエら巫山戯んじゃねぞ。 俺はオマエらの速度が速いと思っていたんだけど、速度が速いだけじゃなくて転移までしてやがるのかよ」
カイムの額の目が、周りに散っているヤシャが放った緑の羽を睨みつけた。
そして、背中の蜘蛛の脚を動かしてラセツとヤシャへと斬りかかりながら上空へと移動する。
「あぁ〜。 マジで面倒臭ぇなコレ・・・ ヴィネに手伝ってもらった方が早そうかな・・・」
カイムのこめかみの眼の一つが、遠くにいるヴィネの姿へと視線を移す。
□
カイムがヤシャとラセツと戦いながらヴィネをへと視線を向けている時同じく、結界の中からイズナがヴィネを見つけて膨張を展開させた。
「ミカ! 行って!」
イズナの掛け声と共に、ミカはイズナの視線の先にいるカミヨの結界を細切れにしているヴィネの横へと転移し、ヴィネへと向けて槍を突き刺した。
「散れ!」
「ウソっ!?」
急に自身の横へと姿を現して攻撃してきたミカに驚いたヴィネは、まるで何かに引っ張られる様に後ろへと自身の身体を移動させる。
「ッチィィぃぃ!」
ヴィネに槍を避けられたミカは、突きの体勢から瞬時に横薙ぎに槍を振るうも、ヴィネは既に槍の間合いから不自然な動きで抜け出ており、ヴィネを仕留め損ねたミカは、舌打ちをしながらヴィネへと睨む様に視線を向けた。
「どうやって私の結界をくぐり抜けてきたのよ!?」
ヴィネはヴィネで急に姿を現したミカに驚いており、両手両足を広げながら体勢を整える。
ヴィネが体勢を整えていると、今度は自身の左側からイズナが現れて薙刀をヴィネの腰へと向けて横へ薙ぐ。
「どりゃぁぁぁ!」
「ひぃぃぃぃ!?」
ヴィネは再度何かに引っ張られる様な不自然な動きでイズナの横薙ぎを躱し、視界へとミカとイズナの姿を捉える。
「うわっ!? キモチ悪っ!? なんなのよ今の動き!?」
遠くからヴィネの動きを見ていたエルダは、両腕で自身の肩を抱いて二の腕を激しく摩りながら驚きの声を上げる。
「まるで何かに引っ張られる様な動きでしたね」
「他にも何かいる?」
間近でヴィネの動きを見たミカとイズナも、ヴィネの奇妙な動きに対して疑問を抱く。
疑問を抱いているスキルズ同様、ヴィネも己の攻撃から抜け出てきたミカとイズナに対して疑問を抱いたいた。
「アンタ達、一体どこから出てきたのよぉ!? って言うかぁ、私の攻撃結界からどうやって抜け出したのよぉ!」
「そう簡単に教えるわけないでしょ」
「社外秘です!」
ミカはヴィネを睨みつけながら槍先をヴィネへと向けて構え、イズナはヴィネへと向けてビシっと左手の中指を立てる。
「べ、別にぃ〜! ちょっとだけ気になっただけだしぃ〜! 教えてくれないならソレなりの対応をするだけだしぃ〜!」
ヴィネはそう言うと、両手の指を大きく広げながら両手首を下半身の辺りでクロスさせた。
そして、何かを空中へと撒くかの様に両腕を頭上へと持ち上げる。
瞬間、何かに気づいたカミヨがミカとイズナへと戻って来る様に指示を出す。
「ミカ! イズナ! こっちへ!」
ミカとイズナは瞬時にカミヨの元へと転移で戻って来るが、転移が遅れたのか、イズナの左手が切り落とされていた。
「私の手ぇぇぇぇぇ!!」
「なんなのよ一体!? どう言う攻撃なのよアレ!? 全く見えないんですけどぉぉぉぉ!?」
手がなくなって狼狽えるイズナと、攻撃の方法が分からなくて狼狽えるエルダによって、ミカとカミヨはウザそうに眉間へと皺を寄せる。
そして、カミヨが更に眉間に皺を寄せながら口を開く。
「目には全く見えないけど、私の結界には反応があったわ。 アレは、見えない無数の糸の様なモノで攻撃しているわ」
「なんて攻撃してくれるのよ」
カミヨの声を聞いたミカは、カミヨと同じ様にさらに眉間へと皺を寄せる。
スキルズがヴィネの攻撃方法を見破ったと同時に、ヴィネも、ミカとイズナの動きを見て急に現れた現象について転移と言う当たりをつけた。
「そんな事しちゃうわけねぇ〜・・・ そうなると、こうするしかないわよねぇ〜」
ヴィネは両手の指を空中で何かを摘むかの様にちょいちょいと動かし、自身の周りへと見えない糸を張り巡らせた。




