244. 罠
吸収した岩山があった場所を背に、眼下にビルや建物を見下ろしながら雄太は空を駆けている。
雄太より更に上空で天海されている魔法陣は、雄太が岩山を吸収下にもかかわらず、未だにオーロラの様に次から次へと色を変えながら存在している。
そんな背後の上空へとチラリと視線を移しながら雄太は思考を巡らせる。
──何故、未だにアレは形を保っているのか
──と
光の柱を発していた岩山を一つ消したはずだ。
しかし、上空のアレは未だに形を保っている。
何故だ?
一つ潰しただけでは足りないのか?
全てを消さない限りあれは起動しているのか?
それとも──
等と色々な事を考えながらも、先日、自身が巻き込まれた岩山へと向けて雄太は空を駆ける。
『マスター。 先ほど飛ばした膨張が距離が近いモノから順に吸収を始めますが宜しいでしょうか?』
「あぁ。 支障がでない範囲で他の膨張も回して使っていいから、急いで岩山を吸収してくれ」
『ロジャー』
「それと、クレシアさんに市街地の岩山には近づかない様に伝えてくれ。 何か嫌な予感がする」
『ロジャー』
「現地に到着次第、スライムダンジョンに居るスキルズは俺の元へ来い。 勿論、あのグータラも連れて来るんだぞ」
『ロジャー』
雄太は首を左右へと振り、少し離れた場所に見える光の柱を確認する。
アレがスライムをベースにしたモノで、ダンジョンのコアを使っているってのは分かったが、何故こうも気前よく人目につく場所へと配置されたんだ?
魔法陣を発現させた事で役目は終了って事なのか?
雄太はこうもあっさりとしている状況に対して何故か嫌な予感がし、少しでも早く日本の各地に配置されている岩山の吸収を急がせる。
数から見ても、ダンジョンコアがある岩山は日本だけにしか無いはずだ。
他の国に発現した岩山は、形を整えるだけのモノなのか?
普通、こう言うのってパワーバランスとかが大事になって来るんじゃ無いのか?
ってなると、なんで市街地の岩山だけは何も起きてないんだ?
雄太は、色々と湧き出て来る疑問の渦に飲み込まれそうになる思考を纏めることができず、少し苛立った様子で先を急ぐために脚へと力を入れようとするが、指にあるリングが明滅したので少し速度を落として明滅しているリングを確認する。
確認したリングは、穴を一つ飛ばした状態で、先ほどと同じ様に普通なら丸くコアが嵌っているであろう箇所へと、3分の1程の緑色の光が発現されていた。
さっきと同じくらいの大きさだな・・・
すると、すぐにその横にある穴が明滅し、穴の3分の1程の青い光が発現した。
その後も、直ぐに順にリングの穴が明滅しては3分の1程の光が発現してを繰り返し、
雄太が市街地へと到着する頃にはリングの穴が明滅しながら埋め尽くされた。
雄太のリングへと、元々あった薄い黄色と白のコアを初めとし、青、緑、赤、紫、橙の7つのダンジョンコアが全て発現した。
『マスター。 全て回収し終わりました』
「早いな・・・ 岩山の周りに魔族はいなかったのか?」
『イエス。 ヤシャ達がいる場所とは違い、他の岩山の周りには魔族の存在はありませんでした』
「・・・そうか」
『罠でしょうか?』
「絶対罠だな」
雄太は、今まで自分の両親や木下達が集めるのに苦労していたダンジョンコアがこうもすんなりと回収できた事に対し、かなりの違和感と嫌な予感を感じた。
「とりあえず、各地の膨張は回収しておけ。 スキルズがとって来た膨張もあるが、アリアさんにもスライムを大量に吸収させておく様に伝えてくれ」
『ロジャー』
「俺は一旦、クレシアさん達と合流する。 その後にお前らダンジョン組を発現させるから待機しておけ」
『ロジャー』
雄太は市街地にある岩山のから少し離れたところで浮遊し、岩山の近くで警戒しながら待機しているクレシアへと向けて高度を下げて近づいていく。
「クレシアさん」
「あ! ユータ君!」
空から降りてきた雄太を見たクレシアは、少しホっとしたのか表情を緩めるが、他のダイバー達は険しい表情で岩山の周りを警戒していた。
「エージ達大丈夫かな?」
「まぁ、多分大丈夫でしょ? あんなジジイでも、一応は現役の勇者ですし、俺のスキルズも置いてきたんで」
「ユータ君のスキルが一緒なら大丈夫とは思うけど、何か嫌な予感がするんだよね・・・」
「それには同感です。 ジジイや俺が居たところにあんだけ魔族を集中させておきながら、他の岩山には全く魔族がいなかったっポイんで」
「え? 他の場所も見てきたの?」
クレシアは雄太が言った他の岩山という言葉に驚き、唖然とした表情を見せる。
「いや、俺のスキルを飛ばして岩山を吸収させたんですけど、そん時に周りに魔族の、あ〜、スライムの反応があるかどうか確かめさせたんですよ」
「あ〜、そう言う事ね」
何故かフゥ〜っと息を吐いきながら納得した様子のクレシアであったが、雄太の次の言葉に対して表情を険しくさせた。
「それで、吸収した光の柱を出していた岩山なんですけど、アレ、日本に発現していたヤツ、特殊なダンジョンコアで出来ていました」
「は?」
「ほら。 俺の指輪、全部埋まりましたよ」
雄太は睨みつける様に自身の顔へと視線を向けているクレシアの前へと指輪のある右手を差し出す。
「え? ウソでしょ? は?」
クレシアは信じられないものを見る様にして雄太の指にはまっているリングを何度も何度もマジマジと眺めており、ブレスレットを使ってヤリクへと連絡を取り始めた。
「俺も最初はクレシアさんと同じでしたよ。 あれだけ魔族が隠し続けていた特殊ダンジョンのコアがこうも簡単に回収できたなんて」
「偽物、 ──ってことは?」
「最初に吸収したコアと同じ様にコレといった違和感はないですね。 まぁ、分散された感じで吸収されてるんで、少し変な感じはしますけど」
『雄太君。 俺、 すっごく嫌な予感がするんだけど』
クレシアのブレスレットで連絡が繋がっているヤリクが心配そうに声をかけてきた。
『今までの苦労がなんだったのかってくらいに簡単すぎる。 っていうか、ここに来て、上手く事が運びすぎだろ』
「私もそう思う」
「いや、俺だってそう思いますよ」
・・・・・・
3人は少し沈黙するが、ヤリクが沈黙を破るかの様に声を発した。
『まぁ、 コレで全てのダンジョンコアを手に入れられたし、俺たちの当初の目的は完了した訳だが、そんで、そこはどういう状況なんだ? テレビでは他の国の岩山から出ていた光の柱が消えたって言ってるが』
ヤリクの言葉を聞いた雄太とクレシアは、遠くの上空に見える魔法陣の端へと視線を向ける。
「ここ以外の日本の岩山は全て俺が吸収しましたけど、未だに魔法陣は出現したままですね」
『こうなると、アレの発現方法や現状が全く解らねぇな。 クレシア。 なんか分かるか?』
「私にもさっぱりだよ。 色々とチグハグすぎて、原理も規則性も全く分からなさすぎ」
クレシアは参ったと言わんばかりに肘を曲げて両手を上げた。
「それで、片桐の消息?家族や親類は分かったんですか?」
『あぁ。 家族や親類の構成は分かったんだが、全員が綺麗さっぱりと姿を消している。 こっちもマジでお手上げって感じだな』
ヤリクが溜息を吐きながら雄太へと答える。
「そうですか・・・ それじゃ、俺は一旦ここにある岩山を吸収した後にでもジジイ達のところへ戻りますわ──」
『──マスター! 上っ!!』
雄太がこのままこの場での話を終わらせようとした瞬間、上空より無数の氷の槍が白い冷気を発しながら雄太達へと向かって降ってきた。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ──
「─ぐっ!?」
雄太が咄嗟に氷の槍の群れへと向けて手を翳して防ごうとするも、雄太より先にその存在に気付いたシスによって雄太の赤兎を起点に膨張が広がって現れ、アメーバの様な歪なドーム状のシールドを形成した。
シスが展開させた膨張のシールドは、雄太の周囲に居たダイバー達ごと庇うかの様に広がって展開されたのだが、突如として現れた氷の槍の数が多く、しかも広範囲だった為、急遽広げた膨張では全てを防ぎきれず、少なくないダイバー達が氷の槍で全身を貫かれ、氷と地面が接触する堅い音と共にくぐもった息が漏れる声と呻き声が辺りへと響き渡った。
「みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! クソっ! 白き清らかなる聖なる地よ! 傷つきし者達を癒したまえぇぇぇ!!【聖域】ぃぃぃぃぃぃ!!」
クレシアは、我を忘れたかの様に膨張のドームの下から抜け出て氷の槍の餌食となって貫かれた者達へと駆け寄り、両腕を広げながら地面へと向けて急いでエリアヒールを発現させる。
しかし、明らかに致命傷を受けている者達が多く、エリアヒールを発現させながらも僅かな生命を紡ぐかの様に必死になって追加でヒールをかけ始める。
クレシアがみんなを癒している中、雄太は首を振ってキョロキョロと周りを見渡しながら虚空へと向かって大声で吠える。
「クソガァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 一体、何処に隠れていやがるっ! 出てこいゴラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、地面へと広範囲に渡って膨張を瞬時に展開させて結界を張り巡らせ、シス以外のスライムダンジョンで待機していたスキルズと鬼と餓鬼を発現させて指示を出す。
「オマエらぁぁぁぁぁ!! 絶対にコレをやったヤツを見つけだせぇぇぇぇぇ!! 生かして此処から帰すんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
発現されたスキルズは、まるで、雄太の怒りに呼応するかの様に全身から殺意を剥き出しにしながら一斉にその場から散って見えない獲物を探す為に走り出した。
「シスっ! 寄生散布だっ!」
『ロジャー』
そして、
膨張が発現されている地面からは、
まるで、血の様な赤黒い湯気の様な姿となった膨張が揺めきながら空中へと拡散された。
「全力でブッ殺してやる!」




