234. 最下位
雄太とエゼルリエルが話している中、宴の準備が終わり、皆んなが世界樹の前へと集合した。
世界樹の前には、大きなテーブルがいくつも並び、多種多様な多くの料理が並べられていた。
雄太から見たソレは、まるで、新たな世界を祝う様に捧げられた神への供物の様であり、エゼルリエルの話を聞いた雄太は、得も言えないもどかしい感情に包まれた。
新たな世界の神や創造神の誕生と言う、明らかに一人の人間で許容できる様な域を超えまくっている出来事は、雄太を憂鬱な気持ちへとさせた。
「クソ! こんなクソ重い話なんて、俺一人で抱え込んでられるか!」
横でニヤニヤしているエゼルリエルの顔を見た雄太は、エゼルリエルを睨みながら大声でアリアとシスを呼びつけた。
「アリアさん! シスぅぅぅ! 集合ぉぉぉぉ〜!!」
雄太の急な招集に対し、アリアはパッと雄太の横へと姿を現し、シスは膨張の転移によってズブズブと地面から小さな姿を現した。
「急にどうしたんですか? タチバナ様?」
「マスター。 お呼びでしょうか?」
身体の前で手を組み合わせ何処ぞのメイドの様に姿を現した黒髪の小さなシスと、不思議そうに首を傾げながら現れたアリアへと向け、雄太はキッと強い視線を向ける。
「えぇ〜っと・・・ 私、何かお気に召さない事をしでかしたのでしょうか・・・」
雄太の強い視線によって、アリアはオドオドとし出す。
「いえ、そんな事は全くない? のですが・・・ ちょっと話しておきたい事がありまして・・・」
「はぁ?」
「マスター。 私もでしょうか?」
「あぁ。 お前は絶対聞け。 寧ろ、この話をお前に丸投げしたいくらいだ」
「??」
雄太の物言いに対し、アリアとシスはちょこんと首を傾げる。
「おばちゃん。 もう一回いいか?」
「えぇ。 いいわよ。 私にもアンタにそうさせた一端はあるわけだしね」
そして、エゼルリエルはさっき雄太に伝えた事をアリアとシスへと再度話す。
「──うぅっ。 ──うぇっ。 ──おえ”ぇ”ぇ”っ!」
雄太が脳内で想像していた通り、この話を聞いたアリアは盛大に取り乱して泣き始め、ストレスによって顔を真っ青にして嘔吐き始めた。
「・・・・・・・」
アリアが泣きじゃくりながら盛大に嘔吐いている姿を見た雄太は、「ホラな?」と言った様な顔をエゼルリエルへと向ける。
そして、嘔吐いているアリアの横では、思考も機能も停止させたシスが、能面の面の様に無表情となり、ピクリとも動かずに立ち尽くしている。
「って事で、俺一人でコレを抱え込むのはマジで無理なんで、話を共有しました! この場にいる皆様は、既に運命共同体となりましたので、この話から逃げられるとは思わないでください!」
雄太はスッキリした顔で、苦しそうに嘔吐いているアリア、完全停止しているシス、眉尻を下げて呆れた顔をしているエゼルリエルへとぶっちゃけた。
「あんたねぇ・・・ なんで私まで巻き込むのよ・・・」
「酷いでず・・・ ──ウップ。 こんな話、聞きたくなかったです。 ──オ”エ”っ」
「・・・・・・」
「おい。 シス。 聞いてんのか?」
「・・・イエス。 マスター・・・」
「壊れたフリしても無駄だからな。 実務のほとんどはアリアさんとお前がやる事になるんだからな」
「「お”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”」」
アリアとシスは、顔を真っ青にし、地面へと両手両膝をつけて盛大に嘔吐いた。
「「・・・・・・」」
その気持ちが分からなくもない雄太とエゼルリエルは、そっとその哀れな姿を見守った。
「って事で、アリアさんは自身に変わった事がないか確認をしてくれ。 シスとおばちゃんは、とりあえず待機って感じで」
「う”ぅ”っ・・・ わ”か”り”ま”し”た”・・・」
「ロ”シ”ャ”ー」
「・・・・・・分かったわ」
地面に両手両膝をつけているアリアとシスは、俯いていた顔を重たそうに上げ、涙ぐみながら恨みが籠った様な視線を雄太へと向ける。
エゼルリエルも巻き込まれた事で酷く嫌そうな顔をしながらも、流石に嫌とは言えないのか、無理やり納得するかの様に小さく頷く。
こうして、アリアとシスへの雄太のカミングアウトか終わり、一蓮托生の仲間を増やした雄太は、賑やかになっている世界樹の前へと視線を向ける。
「うおし! スッキリしたところで宴だ宴っ!」
「・・・とんでもない事になったこんな状態の私に何を楽しめと・・・」
「・・・同じく」
「アルコールが入ったら、絶対悪酔いしそうだわ・・・」
多くの食べ物を前にしてもアリアとシスの目は死んでおり、エゼルリエルは、楽しそうに笑顔でエルフ達と乾杯をしているケレランディアへと恨めしそうな視線を向けていた。
「ねぇ、彼も引き入れても良いかしら?」
エゼルリエルが恨めしそうに見つめている先のケレランディアを見た雄太は、激しく首を横に降った。
「アレはダメだろ。 こんな話をアレが聞いた日にゃ、絶対に俺を崇め讃える様な変な宗教を立ち上げるぞ! そんな事をされた日にゃ、俺はその信者共を一人残らず駆逐し、この世界を即座にリセットしてやる!」
「そうね。 アレは確実にヤルわね。 この世界の為にもアレだけには絶対教えられないわね。 私の失言だったわ」
雄太の物騒な物言いに対し、エゼルリエルは瞬時にその光景が脳内再生できたのか、即座に自分の意見を否定した。
そんなこんなで宴が始まりだしたところで、大きな鶏のもも肉を片手に、口元を盛大に汚しているシスが雄太へと声をかけてきた。
「マスター」
「ん? どうしたんだ? ──モグモグ」
色々な料理に舌鼓を打っていた雄太は、シスに急に声をかけられ事で、警戒する様に少しだけ気を張る。
「もうすぐエルダ達の帰還の時間となります」
「・・・・・・ すっかり忘れてた」
シスの報告を聞いた雄太は、ハッとした様な顔をし、宴で騒がしくなっている周りを見渡す。
「まぁ、 いいか・・・ それじゃ、みんなを此処へと発現させてくれ」
「ロジャー」
雄太の指示を聞いたシスは、手にしていた鳥のもも肉をガツガツと急いで口の中へと入れ、地面へと3箇所に分けて膨張を展開させた。
シスが膨張を展開させると、それぞれの膨張がモゾモゾ、ボコボコと縦に波打ちながら蠢き出し、それぞれからスキルズが姿を現した。
ラセツとギルフォード、ヤシャとコピー、ミカとエルダがチームごとに膨張から現れ、どのチームも満足げに勝ち誇った顔をしている。
「主ぃ。 戻ったぞ」
「只今戻りました」
「マスター。 ただいまです」
ラセツ、ヤシャ、ミカが真っ先に口を開き、ギルフォード、コピー、エルダはそれぞれが目をギラギラとさせながら睨み合っている。
「おかえりっ。 その様子じゃ、どのチームも満足した結果の様だな?」
「おう」
「はっ」
「そうですね」
睨み合っている3人とは違い、ラセツ、ヤシャ、ミカのそれぞれの顔には、負ける気のない自信が見てとれた。
「まぁ、俺も収納の中を見ていないから、結果がどうなってるのか分かんねぇしな」
そう言うと雄太はシスへと視線を向ける。
「それでは、結果発表をしますが宜しいでしょうか?」
周りの宴の様子が気になっていたスキルズではあったが、それ以上の自分の望みという欲が優ったのか、全員がコクリと頷く。
「分かりました。 それでは、最下位から発表します」
黒髪の小さいシスは、口の周りを汚しながらも淡々と言葉を続ける。
そして、まるで収納の中身を確認するかの様に目を瞑って動きを止める。
「最下位は」
ラセツとヤシャは目を閉じ、エルダとミカは胸の前で祈る様に手を組み、ギルフォードは「アリア、アリア」とイった目つきでブツブツと呟いてており、コピーはハァハァと息を荒げていた。
「ラセツ組!」
「の”ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぐっ!?」
シスが発表した瞬間、ギルフォードは地面へと両手両膝をついて絶叫し、ラセツは悔しそうに目を開いてギリっと奥歯を噛み締めた。
「アリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ごめんよアリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ギルフォードは泣きながら地面を激しく叩いており、その姿を見たエルダとコピーは、ニタァ〜っとゲスい笑みを浮かべた。
「リア充、死すべし! 朽ちるべし!」
「お前の愛の力なんて所詮こんなモノなんだよ!」
エルダとコピーは、腕を組みながら仁王立ちをし、ドヤ顔でギルフォードを見下ろしていた。
「うぅっ・・・ アリア・・・ ごめんよ・・・ ──うぅっ」
雄太の目の前では、一番真面で優勝候補と思っていたチームの、まさに天国と地獄と呼べる様な光景が広がっていた。
そして、勝負に勝てなかったと言うよりは、エルダとコピーにガチで馬鹿にされているギルフォードがとても可哀想に見えた。
「シス。 数字はあえて言ってやるな。 分かる、だろ?」
雄太はギルフォードを馬鹿にしているエルダとコピーへと視線を向ける。
「ロジャー。 ヤツラを増長させる様な要因は与えません」
シスは雄太の言っている事をすぐに理解し、コクリと深く頷く。
一通りギルフォードを虐め尽くしたコピーとエルダは、狂気を貼り付けた顔でシスへと顔を向ける。
「ヒぃ!?」
「さぁ、シスよっ! 偉大なる勝者の名を、尊敬と敬意の念を込めて讃え伝えるが良い!」
コピーは、何処ぞの王様の様に右手を広げながらサッと腕を突き出す。
「フン。 悔しいけど、アンタの言う事は正しいわね。 ゴミにしては、王者への尽くし方を良く分かっているじゃない。 まぁ、私の為に代わりに言ってくれた事は、褒めて遣わすわ」
エルダは腕を組みながら頬へと右の人差し指を当て、蔑む様な目でコピーへと視線を向ける。
「コノ!?」
「アラアラ? どうしたのかしら? もしかして、図星を突かれて怒ったのかしら? オコなのかしら? オコオコプンプンなのかしら?」
コピーとエルダの醜い争いが激化し始めた。
「ハっ! だ、誰がオコオコプンプンだって? お前こそ、内心ドキドキソワソワでウンコ漏らしてんじゃねぇのか? って言うか、マジで匂ってるぞ? アレ? ウンコじゃなくて負け犬の匂いがしているぞ? いや、負けスライムか?」
「あら? 気づいてしまったのかしら? ごめんねぇ〜。 王者にもなると、色々と隠しても隠せないものがあるのよねぇ〜。 コレにはホント困ってるのよねぇ〜。 あなたが嗅いだたモノは、格の違いってモノよ。 格の違いの匂いに気付けるなんて、あなた、本当に素晴らしいわね。 コレを機に、ちゃんと自分の格の匂いを覚えておくのよ? その、 負け犬の様な湿った雑巾みたいなスライムの匂いをね。 ──ウフフフフフ」
「グぬぬぬぬぬぬぬ!」
「・・・・・・」
コピーはエルダに対抗する様に罵り返しているが、エルダはソレのさらに上を行き、雄太にはエルダの罵り方の方がコピーよりも何倍も上手い様に感じ取れた。
「って言うか、何がどうなったら此処までコイツらが自信満々になれるんだ・・・」
雄太は、ここまで己の勝ちを信じ込んでいる『カス x2』に対し、不可解で怪訝な視線を向けた。




