229. 買い出し
ケレランディアへと雄太が声をかけるも、ケレランディアは頬を引き攣らせて雄太に無理やり転移させられた木下達が居た虚空へと視線を向けていた。
「鈴木さん? 早く次いきますよ」
「は、 ──はい・・・」
ケレランディアは雄太の声によって思考が戻り雄太へと顔を向ける。
「そ、それでは、現在、我々エルフが街を造っていますが、我々だけでは労力が足りておらず、橘花さんのスキルで補う事は可能でしょうか?」
ケレランディアは恐る恐ると言った様子で雄太へと口を開く。
「大丈夫ですよ。 ソレじゃ、よっ! ほっ!」
雄太はスキルを発現させて黒装束へと姿を変える。
「それじゃ、こいつらを使ってください」
雄太がそう口にすると、雄太の周りの地面からもぞもぞと生えて来る様に、赤黒いブヨブヨ、ツルっとした身体の鬼と餓鬼が姿を現した。
「とりあえず、デカイので50、小さいので50発現させましたので、コイツらに指示をお願いします。 お前ら。 鈴木さんの指示通りに働けよ」
雄太が鬼と餓鬼達に指示を出すと、鬼と餓鬼達が一斉にコクリと頷いた。
そして、鬼と餓鬼達は、一斉に身体を動かし初め、ケレランディアを中心として取り囲む様に移動した。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ケレランディアは360°を鬼と餓鬼達に囲まれ、手にしていたタブレットで顔を隠しながら身を縮めて怯えた。
「「・・・・・・」」
その光景を見ていたエゼルリエルと芽衣は、ケレランディアの気持ちを察したのか、顔を引き攣らせながら心の中で静かに合掌した。
「それで、おばちゃん。 次はなんだ?」
「え、えぇ・・・」
ケレランディアの悲惨な姿を眺めていたエゼルリエルは、いきなり雄太に話を振られ、首をギギギとぎこちなく動かしてゆっくりと雄太へと顔を向ける。
「そ、そうねぇ・・・ 色々と決まっていっているから、特にないわね・・・ イスフェルテの民達へも既にブレスレットを渡して移動は完了しているし・・・」
エゼルリエルは何かを考える様に顎に手を当てて考える。
「・・・それじゃ、1つ頼まれてくれないかしら」
「ん? 俺でできる事なら別にいいが」
「そう・・・」
エゼルリエルは顎から手を離して雄太へと頼み事を告げる。
「それじゃ、ハロワ内の冷水機を此処に持って来て頂戴」
「はぁ?」
雄太はエゼルリエルの唐突な頼み事に首を傾げる。
「なんでだよ? 水が欲しいなら、アリアさんに言えば良いだろ?」
「デスデス」
雄太は横に居るアリアへと視線を向け、アリアはコクコクと頷く。
「まぁ、事情は冷水機を持ってきたら話すわ。 多分、今のあんたならアレを動かせると思うから。 恥ずかしい話、今のアレは私たちエルフでは動かせなくなってしまってねぇ・・・ あそこに置いたは良いものの、これからどうしたものかと悩んでいたのよ」
エゼルリエルは面目なさそうに雄太へと視線を向ける。
「頼み事って言うか、雑用すぎるだろ・・・ 俺、そんなに暇している様に見えるか?」
雄太は少し罰が悪そうに右手でワシっと側頭部の髪をかき上げて頭を触る。
「雑用に思えたのなら謝るわ。 アレは、私達エルフにとってとても大事なモノなのよ。 いくら近くにいるとは言え、あまり無防備に離して置きたくないのよ。 お願い」
雄太は、少し思い詰めた様な顔で真剣にお願いしてきたエゼルリエルの姿を見たのは初めてで、雑用をさせられているのかなんなのか、良く分からない様な感情で頭の中をモヤモヤさせながらも、軽く鼻息をフゥ〜とさせながら肩をすくめる。
「わぁ〜ったよ。 行って来るよ。 そんで、あの冷水機を此処に持ってくれば良いんだな?」
「えぇ。 お願い。 もうってきたら、そうねぇ・・・ あの街の真ん中に置いてくれないかしら?」
「・・・なんで冷水機を街の真ん中に置かなきゃいけねぇんだよ・・・ オブジェにするのか? それとも、街の憩いの水飲み場にでもするのかよ?」
雄太はエゼルリエルの意図が全く分からずに、おかしな者を見る様な目でエゼルリエルへと視線を向けた。
「まぁ、オブジェと言えばオブジェになるのかしら? とりあえず、頼んだわよ。 私は彼の手伝いをしているから」
エゼルリエルはそう言うと、鬼と餓鬼に囲まれてビクビクしながら指示を出しているケレランディアへと視線を向けた。
「ふぅ〜。 んじゃさっさと取って来るわ」
「橘花さん! 私もお手伝いします! その・・・ 母に置いて行かれたのでやる事がなくて・・・」
芽衣はみんなが動き出している事に負い目を感じているのか、胸の前で両手を握りしめて雄太へと熱い視線を向けた。
「んん〜。 まぁ、ただ、冷水機を取りに行くだけなんですけど・・・ それじゃ、ついでに一緒に外へと食材の買い出しにでも行きますか?」
「はっ──」
芽衣は雄太が言った『一緒に買い出し』と言う言葉に目を輝かせながら嬉々として返事をした。
「──はい!」
雄太は満面の笑顔で返事をした芽衣を見た後、エゼルリエルへと視線を向ける。
「おばちゃん。 ついでに食材の買い出しもして来るから。 って言うか、全くダイバーカードの残金確認していなかったけど、俺って金あんのかよ?」
「あんたねぇ〜・・・ あんたが金がないって言うんなら、この世の中の大半の人達は、全員毎日泥水啜ってるわよ」
エゼルリエルはどこか呆れた様な顔で雄太を見る。
「なんだよそれ・・・」
「あんたは残高を気にする必要がないって事よ。 あんた。 一体、どれだけ未知のスライムの素材で荒稼ぎしたと思ってるんだい ──ったく」
エゼルリエルは呆れた様な顔から一転し、恨めしそうな顔を雄太へと向ける。
雄太はスライム素材を大量に買い取ってもらっていたことを思い出したのだが、そうなのか?と言った様な不思議そうな顔をしながら思案顔になる。
「ほら! さっさと地上に行って買い出しと冷水機を取っておいで! 時間は有限だよ!」
エゼルリエルは、両手を叩いてパンパンと音を立てた後、何かを考えている雄太へとシッシっと手を振って動く様に促す。
「んだよ。 いつもいつも。 ──俺は犬や猫かっつうの」
雄太はエゼルリエルにされた雑な扱いに口を言いながら、芽衣の横へと移動する。
「んじゃ、行って来るわ。 何かあったら連絡くれ」
「あぁ」
雄太はさっきシスが地上へと撒いた寄生の膨張を操作し、ハロワの裏側にあるゴミ捨て場の前へと芽衣と一緒に転移した。
雄太と芽衣が地上へと現れると、地上は夜の帳が落ち始めており、ハロワの建物の周りには人の気配が全くなかった。
ハロワの敷地内を歩き、ハロワの館内を覗いてみると、館内は薄暗くなってあかりが落とされており、自動ドアには【本日休館】と言う札がかけられていた。
その札を見た雄太は、一瞬、「こんなんで良いのかよ?」とも思ったが、スライムダンジョン内で忙しなく働いているエルフ達や、市街地で起こった出来事を思い出し、「それなりに大事だな」と思い直した。
そして、雄太と芽衣は、先ずは買い出しと言う事で、近くの大型スーパーへと足を向けた。
雄太と芽衣は、大型スーパーで大量の食材を購入する時に、雄太の収納に仕舞うのを前提にして、一度に一気に購入するのではなく、何度かに分けて怪しまれない程度に数回に分けて購入した。
その過程の中、雄太は自身のカードの残高が気になって店員に残高の確認をしてもらったのだが、雄太のダイバーカードの残高を見た店員はマルの多さに目を見開いて絶句し、「お客様は残高をお気になさらなくても宜しいかと」と濁された。
雄太は自身の残高がかなり気になったのだが、レジ待ちで後ろが支えていた為、それ以上言及することなくさっさと会計を済ませた。
都合、雄太と芽衣で引いていた大型のカート2台分を、合計5回往復程色々と買い込んだ。
芽衣は、雄太との買い物の途中、レジのおばちゃんに「羨ましいねぇ。 新婚ホヤホヤだねぇ」等と言われ、雄太が反論しようとしたところを遮って「えぇ! ホヤホヤなんですぅ〜」とドヤ顔で言い切った。
雄太は、芽衣のドヤ顔と躊躇なく言い切った言葉にドン引きしながら反論しようとするも、
「いや、違うか──」
「──婚約したばかりなんですよ〜」
「してないか──」
「──もう、アツアツすぎて」
「アツくねぇ──」
「──毎晩アレがアレなんですよ〜」
「なんだよ。 アレがアレっ──」
「──それでコレって言うね」
「コレって──」
「──彼、毎晩、足りなくて足りなくて」
「いや、違──」
「──そのせいで1ヶ月で10kgも痩せたんですよ」
「オマ──」
「──とにかくスゴイの」
「「「「「・・・・・・」」」」」
雄太の反論は悉く芽衣によって言葉を遮られ、しかも、丁度、生活用品をと言う事で大量のティッシュを購入しており、芽衣は頬へと手をやって身体をクネクネさせながらレジのおばちゃんと訳の分からない話を続けており、その話を聞いていた周りのおばちゃん達は、雄太を足先から頭までを、ジロジロとまるで舐め回す様に、品定めをするかの様に熱い視線を向けていた。
雄太は、人前でそんなイカれた事を平然と言ってのけている芽衣を見て、無表情になって自我を消した。
そして、周りの視線に耐えきれず、自我と一緒にスキルで自身の姿をこの場から消そうとしたところで、何かを察した芽衣によってガシっと手首を握りしめられ、雄太は周りのおばちゃん達の丸聞こえするヒソヒソ話と獣を見る様な視線によってSUN値をガリガリと削られた。
この日雄太は、2度と芽衣と買い物に行かないことを心に誓った。
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