221. 量産型〇〇
次々と襲いかかって来る魔族を、雄太は玄武の岩の拳で殴り、魔族の後方へと錐揉みさせながら飛ばして行く。
雄太の考え的には、その場で殴って叩き潰しても良いのだが、どうせ殴るなら嫌がらせも兼ねて、魔族の後方へと殴り飛ばして、人間魚雷、いや、魔族ボムとして同士討ちの為の道具に使っていた。
魔族と戦っている鬼達は、雄太へと魔族が向かって行くのも気にせずに、常に2対1や3対1といった様に数的優位を作って容赦無く魔族を1体ずつ再起不能にして行く。
魔族をボコった鬼達は、魔族がボコられて動けなくなった後、シャキンっと指を変形させて尖らせ、尖った指で種を突き刺して吸収する。
雄太の目に映るボロボロの姿で方々で倒れている元魔族達は、種を吸収されて人間の姿へと変わっているが、姿が変わった人達は、色々な意味で悪そうな顔つきをしており、明らかに一般市民やダイバーの様には見えなかった。
さらに良く観察してみると、この場に居る魔族だった者達の首には、例外なくバーコードが刻印されており、犯罪を犯した者達が魔族にされていると言う事が分かった。
コイツらは全員が犯罪者なのか・・・
魔族だった者達に刻印されているバーコードに気づいた雄太は、木下へと連絡を取る。
「ジジイ。 聞こえるか?」
『あぁ、聞こえておる』
「俺の側にいる魔族達は、俺の視界に入る限りの奴らには、例外なく犯罪者の刻印が彫られている。 そっちはどうだ?」
『ちょっと待て。 確認する』
雄太のヘッドマウントへと、何やら木下が警官と話している声が聞こえて来る。
『小僧。 警察の服を着ておるが、こっち側の倒れている魔族も犯罪者の刻印がある者達だ』
「マジかよ・・・ 一体どうなってるんだ? お巡りさんはいつから犯罪者の集団になったんだ?」
『バカかお前は・・・ そんな訳なかろう。 ──ふぅ〜、 これは、ギルドが犯罪者を利用して魔族を組織していると言う事だろうが・・・』
木下は雄太のアホな発言に溜息を吐きながら現状について答える。
『今、警官達が倒れている犯罪者どもの照会をしておる。 簡単にギルドには辿りつかないとは思うが、ギルドの奴らは犯罪者を捨て駒の使い魔として利用しておるようだな。 害悪でしかない犯罪者の有効活用とも言えるかもしれないが、ここまで躊躇せずに簡単に多くの命を使い捨てるとは・・・』
木下は、多くの命を簡単に使い捨てる様なギルドに、魔族に対し、得も言えぬ怒りの感情が湧いてきた。
「叩けば叩くほど色々と分かってくるな・・・ ってか一旦話を切るぞ。 それなりの奴が出てきやがった」
『何!? オマ──』
雄太は木下との通信を無理やり切り、鬼や魔族の間を走りながらスルスルとすり抜けて来る警察官の制服を着ている者へと視線を向ける。
すり抜けて来る者は、走りながらも合気道の様に両手だけで鬼達の攻撃をいなして地へと伏せて突き進んでいる。
そして、息も乱れさせずに涼しい顔をして雄太の前へと現れた。
首から下は、キッチリ、キッカリ、ビシっとして綺麗な警官の服を綺麗に着こなしているが、髪は金と茶でマダラに染め上げており、どちらかと言うと、深夜のコンビニの前で座っていそうな雰囲気があった。
「色々な意味で悪そうなオマワリサンだな」
雄太は、滞空させている巨大な岩の拳を目の前の派手な頭の警察官へと向ける。
「お前が橘花 雄太か?」
派手な頭の警察官は、ズレたネクタイの位置を両手で綺麗に直しながら雄太を睨みつける。
「人違いだ。 橘花 雄太はあっちに居る」
雄太は、自身の背後に居る木下の方を親指で差しながら答える。
「そうか・・・ 橘花 雄太。 我々の崇高なる目的の為にここで死ね」
派手な頭の警察官、オセは、はぐらかす雄太の言葉を完全に無視し、ネクタイを弄っていた両手をダラんと下げて脱力し、腰を軽く落として足を肩幅で広げる。
「酷く会話が成り立ってねぇぞ、オマエ。 人の話聞けよ」
雄太は滞空している岩の手を広げ、広げた手の指先をオセへと向ける。
二人がそれぞれに構えると、時間が静止したかの様に数秒の間、二人の動きがピタリと止まるが、オセがゆらりと身体を揺らし、左へと倒れる様に身体を傾ける。
瞬間、オセの姿が消え、雄太の眼でも捕らえられない速さでオセが腰を屈めて下で両腕を広げながら雄太の眼前へと迫ってきた。
雄太のディスプレイにはオセの姿は捉えきれておらず、オセに追随しているスライムを指すアイコンだけが目に写り、雄太はアイコンを元に、咄嗟に後ろへと飛び退く。
雄太が後ろへと飛び退いたと同時に、オセは下で広げていた腕を眼前でクロスさせる様に下から上へと薙いだ。
スライムを示すアイコンのおかげでギリギリでオセの攻撃を躱せた雄太は、着地と同時にオセの両手へと視線がいった。
「そんなモン、 どこに隠してたんだよ」
「・・・・・・」
腕を眼前でクロスさせているオセの両手には、各、指の間に漆黒のナイフが握られており、オセは雄太の質問へと答える事なく、再度腰を落として両腕を下へと向けて脱力させる様に無言で構える。
「無視かよ。 ってか、コミュニケーション能力皆無か、よっ!」
雄太は、口を開きながらも滞空させている両手を手刀にしてオセへと向けて振り下ろす。
しかしオセは、ユラリと身体を前へと倒す様に傾かせると、雄太の手刀を躱して背後へと置き去りにし、雄太の正面で右下から左上へ、左下から右上へと両手を交互に逆袈裟でナイフを連続して振るう。
雄太は両腕のガントレットの掌を広げてオセのナイフへと対応するが、オセは右から左へ、左上から右下へといった様に連続して雄太の全身へと向けてナイフを繰り出す。
戦闘素人の雄太は、オセの蓮撃に追いつくことができずに防戦一方となる。
「っク!?」
オセから繰り出される蓮撃のウザさに、雄太は耐えきれずに足元から地面へと膨張を発現させ、オセへと向けて爆発させる。
ドンっ!
「ぐぅ!?」
雄太への攻撃中に急に足元が爆発したオセは、反応が間に合わずにまともに食らって後ろへと吹き飛ぶが、雄太が咄嗟に発現させた膨張の爆発の威力が小さかった為に、オセは警官の服をボロボロにさせただけでダメージをあまり受けることがなかった。
「クソっ! 玄武じゃ重いし遅すぎる!」
雄太はオセと距離をとり、発現させている玄武を解除して赤兎の姿となった。
オセはピクリと目を一瞬広げ、急に玄武を解除して赤兎の姿となった雄太に反応する。
「これで、速度的にはなんとかなる、かっ!」
赤兎の姿になった雄太は、オセとの距離を一瞬にして詰め、赤兎の長い腕でオセの顔面を正面から殴りつける。
オセは、咄嗟に眼前で腕をクロスさせて顔と雄太の拳との間に潜り込ませて直撃を防ぐも、殴られた勢いのまま吹き飛んで地面を転がる。
「玄武より威力は落ちるが、速度はだいぶ上がったな」
オセを殴り飛ばした雄太は、垂直にピョンピョンと軽く飛び、自身の身体の感覚を確かめる。
殴り飛ばされたオセは、地面へと片膝をつきながら前方で雄太がピョンピョンと軽く飛んでいる姿を眺める。
雄太が軽く何度か跳ねた後、オセの目に映っていた雄太の姿が一瞬してにオセの前から消えた。
「!?」
オセは瞬時に左右へと首を向けて周囲を確認するも、オセの視界には雄太の姿は全くなく、頭上から落ちて来る影に気づいて「ハッ」っとした表情と共に自身の頭上を見上げると、自身へと踵を振り下ろそうとしている雄太の姿が目に入った。
「っ!?」
頭上で踵を振り下ろす雄太に気づいたオセは、前方へと身体を投げ出す様に飛び出し、無様に地面を転がりながら雄太の踵落としをギリギリで躱す。
ドンっ!
オセにギリギリで躱された雄太の踵落としは、アスファルトでコーティングされた地面を突き破り、アスファルトの下の茶色い地面が剥き出しとなって現れた。
急に消えた雄太の位置に気づき、ギリギリで雄太の攻撃を躱すことができたオセは、地面を転がりながらそのまま立ち上がって雄太を睨みつけながら口を開く。
「橘花 雄太・・・ 一体、なんなんだオマエは・・・ なんなんだその能力は」
赤兎の姿となり、急に速度が早くなった雄太の動きに対して驚くオセは、先程までの様に脱力した構えを取らずに、肩へと力を入れて雄太への警戒を強めて睨みつける。




