22. 調査報告 1日目
ダンジョンの入り口へと歩いて向かっていたのだが、帰りが遅くなるのが嫌と言う事で、雄太とエルダは途中から走った。
走っているエルダは、雄太の膨張の癖に途中から息を荒げてヒーヒー言いながら「もう走れない!無理!」等と弱音を吐き出した。
「オマっ!? 巫山戯んなよ! 俺の膨張で造った身体の癖に何でそんなに息が荒れんだよ!? 何なんだよオマエって!?」
雄太が怒りを露わにしながらエルダの構成を確認すると、造形変形や意思疎通と一緒にリアリティーを出す為なのか質量追加も同時に加わっており、それに気付いた雄太はエルダから質量追加を解除した。
「うわっ!? 軽っ!? わたしの身体軽ぅ〜い!!」
エルダは両腕を泳ぐ様にバタバタとさせながら赤腕の様に浮いていた。
「・・・クソっ! 浮けてよかったなっ!」
雄太は宙に浮いてバタバタしているエルダの気持ち良さそうな表情へと嫉妬の怒りが込み上げ、膨張で繋がって浮いているエルダを置き去りにするかの様な勢いで思いっきり走り出した。
「ウッヒョー! 楽ちん楽ちん。コレは堪りませんなぁ。 って言うかちょっと速くない? ねぇ、聞こえてるユータぁ? ねぇってばぁ? ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ぶつかるぅぅぅぅ!?壁にぶつかるぅぅぅぅ!! イダっ!? ちょっとユータぁぁぁぁ!! わたし壁にぶつかってるから!! イダダダダダダぁぁぁ!! ちょっと止まってぇぇぇぇ!! うわっ!? わわわわわわわわ!? ユータぁぁぁぁ! 止まってぇぇぇぇ!! お願いだから止まっでぐだざいぃぃぃぃぃ!! グルグルじでるがら゛ぁぁぁぁぁ!! イダダダダ!? あばばばばばばばばばばばばば! ウップ!? ごめんなざぁぁぁぁい゛!! どまっでぐだざぁぁぁぁぁぁぁい!」
雄太が思いっきり走った事によって、空中に浮いているエルダは飛ばない凧の様に雄太と繋がっている膨張によって引っ張られており、雄太が曲がったりジャンプしたりする度に、膨張に引っ張られて自由の効かない身体をダンジョンの壁へと打ち付けられて、終いには、エルダの身体が風の抵抗を受け始め、エルダの身体は膨張の紐を中心にグルグルと回り出し、エルダは回転しながらダンジョンの壁へと強かに打ち付けられ、目、口、鼻から何かをキラキラと噴出させていた。
「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ──デロデロデロデロ〜」
雄太がエルダを引っ張って全力で走った事により、予定通りにダンジョンの入り口へと短い時間で到着した。
「ゲボボボボボボボ〜。 うっうっうっうっ──」
入り口に到着した事で回転から解放されたエルダは、壁に手を付けて泣いて鼻水らしきものを垂らしながら盛大に何かをリバースしていた。
「・・・ひでぇな・・・」
それを遠くから見ていた雄太は、容姿端麗なエルダの酷い有様にドン引きしていた。
「・・・オイ・・・ さっさと外に出るぞ・・・ スキルを解除するから俺の頭の中に戻っても騒ぐなよ。 分かったな。騒いだらまたコレやるからな」
雄太はまるで汚された乙女の様に泣きながら座っているエルダへと声をかけた。
「ひっく、ひっく、うっう〜、っうっうっ──」
エルダは両手で顔を抑えて泣きながら無言で首を縦にコクコクとフリ、雄太がスキルを解除した事で粒子の様に姿を霧散させた。
雄太の中へと戻ったエルダは、泣き声を殺すかの様に「うっうっ」と静かに泣き続けていた。
ゲートを潜って見張りの佐藤へと挨拶をした雄太は、ハロワへと足を向けた。
自動ドアを潜り、冷水機で水を飲んだ雄太は、カウンターに居るおばちゃんの元へと向かう。
「ただいま。 今日も大漁だぜ」
「あぁ。 戻ったかい。 それじゃ昨日と同じ部屋で待っといておくれ」
おばちゃんは雄太が出したカードを機械で確認し、昨日と同じ部屋へと行く様に指示をする。
雄太はおばちゃんに言われるままに部屋へと向かい、慣れた様子でドアを開けてソファーへと腰を下ろす。
昨日、ソファーの後ろにあった大量のスライムゼリーは綺麗さっぱりと無くなっており、雄太はおばちゃんを待っている間にソファーの後ろへと今日の分のスライムゼリーを収納から取り出した。
収納からゼリーを出し終えたタイミングでドアからノックの音が聞こえ、おばちゃんと鈴木が入って来た。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
雄太はソファーから立ち上がって鈴木へと軽く会釈をした。
「ほぉお。 今日も大漁じゃないかい? あんたは本当に凄いねぇ。 ドロップ率100%なんじゃないのかい?」
おばちゃんは雄太の後ろにあるスライムゼリーの山を見て驚き、素直に本心から雄太を褒めた。
「まぁな。 そんな事よりさっさと本題に入ろうぜ」
雄太は急かす様におばちゃんと鈴木へと視線を送る。
「そうだねぇ。 先ずは何から話すべきか・・・ 鈴木君お願い」
おばちゃんの言葉は何かを含んでおり、自分からでは無く鈴木から雄太へと伝える様に促し、鈴木は手にしているタブレットの画面へと目を落として操作し始めた。
「はい。 では先ず、昨日原チャと交換したスライム鉱石についてお話しさせて頂きます。 今朝方、ギルドの研究所へとスライム鉱石を送ったのですが、先程素材についての報告がありました。 研究所にいる鑑定スキル持ちが鑑定しましたところ、橘花さんが仰っていた、名称、素材、共にスライム鉱石と言う事で一致しました。 その後、ちょっとした実験の後に色々と素材の有用性が発見され、あのサイズでの買い取り価格は、最初のレア素材と言う事も考慮され、1,000万と言う事になりました」
「鑑定スキル持ちって言うのも吃驚だが、素材の値段にも吃驚だな・・・ と言う事はかなり有用な素材って事なのかアレは?」
雄太は鈴木から伝えられた価格に驚き、何に有用性があってそこまで高くなったのかが気になった。
「そうですねぇ・・・ あの素材って柔らかくて小さいのにやたら重たかったじゃないですか? ギルドの研究者が実験の為に薄く削って火で炙ってみたところ、柔らかかった素材が非常に硬くなり、1ミリもない薄さで1トンの負荷に耐えたらしいです」
「はぁ!?」
「この耐久力は色々と多用できそうでして、ダイバーの防具や武器と言った装備は勿論、建築材や電子機器と言った所で大いに役に立つでしょう。 また、他の実験では、素材へとある一定の負荷をかけたところ、膨大なエネルギーを放出する事が判明しました。 5ミリ立方くらいのサイズで、東京都の電力を2日は賄えるくらいのエネルギー量らしいです。 今はダンジョンから獲れるモンスターコアを使って世界中で発電をしていますが、5ミリ立方のスライム鉱石で発電できる量はモンスターコア約4個分に相当します。 通常、モンスターコアは1個100円で買い取っていますので、10センチ立方の大きさのスライム鉱石ですと、およそモンスターコア32,000個分、金額にして320万円ですね」
「マジかよ!?」
雄太が思っていた以上にスライム鉱石はなかなかにヤバイ素材だった。
「産出量が少ないので電力についてはこのままモンスターコアを使用するかと思いますが、他にも利用用途がありそうなので今後が楽しみです」
鈴木はメガネのブリッジを人差し指で上げながらタブレットから目を離す。
「この報告を聞いた時はわたしも吃驚したわよ。 今日のわたしのメールは研究所からの質問や新たな素材の催促メールで埋れまくっていたわよ・・・ それで、調査はどうだったんだい? リポップしたかい?」
おばちゃんは少し窶れた様な表情をしながら雄太へと依頼についての報告を聞いてきた。
「あぁ、リポップしたな」
「「リポップした(のね)(んですね)!!」」
「だけど、アーススライムも素材もサイズが小さかった」
雄太は収納から3センチ程の大きさのスライム鉱石を取り出してテーブルの上へと置く。
おばちゃんと鈴木はテーブルの上へと置かれた小さなスライム鉱石を見つめ、サイズが小さいがまた採れたと言う事で喜色を浮かべた顔で喜んだ。
「リポップと素材の獲得については、明日も引き続き調査を続けるよ」
「あぁ。 頼んだよ」
おばちゃんは雄太の報告を聞いて肩の荷が少し軽くなったのか、ソファーへと深く背を持たれさせて寛いだ。
「・・・それとだな──」
「「??」」
おばちゃんと鈴木はまだ続きがあるかの様な雄太の物言いに目をピクリと動かした。
「──アーススライムを倒した跡に下へと続く階段が現れた」
「「なん (ですって) (だって)!?」」
おばちゃんと鈴木はソファーから身体を起こし、雄太から続けて報告された内容に驚愕し、外へと漏れんばかりの大声を張り上げた。