219. 反撃
雄太に集中している攻撃を分散させる為、木下はスキルを発現させながら警官隊へと向けて走り出した。
案の定と言うか、ビルとビルの間から出て来た木下へも多くの攻撃が向かってくるが、木下はその悉くをスキルの【絶対防御】で防いでいく。
基本、警官隊の攻撃は雄太へと集中しているいるのだが、それでも木下へと向かってくる攻撃の数も少なくはなく、飛び出して来たはいいもの、木下は警官隊へと向かう足を止めさせられていた。
「クソっ! 一体、どれだけの数がおると言うのだ! 早く奴らの攻撃の手を止めなければ──」
木下の周りに展開されている半透明の盾は、忙しなく動きながら木下へと向かってくる攻撃の全てを防いでいた。
目に見えて襲ってくる魔法攻撃は難なく防ぐ事はできてはいるが、その隙を縫う様にして銃撃でのヘッドショットが嫌らしく襲ってくる。
スキルを展開させながら強引に警官隊へと向けて走ろうとするも、その度にスキルの盾と盾の隙間をつく様にヘッドショットが襲ってくる。
木下は襲い来る攻撃に耐えられず、先程居たビルとビルの間まで後退し、警官隊と空中で今も攻撃を受け続けている雄太へと視線を向ける。
そして、徐に自身の腕に嵌っているブレスレットへと視線を移し、ブレスレットの効果を思い出しながらブレスレットへと手を触れる。
「小僧! 聞こえるか!?」
木下はブレスレットへと触れながら雄太へと向けて声をあげる。
「ジジイか?」
「小僧。 喋れると言う事はまだ死んではいないって事なんだよな?」
「勝手に俺を殺すな。 生きてはいるが、この攻撃量をなんとかしないと外に出れねぇ」
「そうか・・・ おまえ、ワシのスキルを覚えているか?」
木下は自身のスキルについて雄太へと尋ねる。
「あぁあ? 何言ってんだ? こんな時にそんな事で連絡してきたのかよ?」
雄太は、現状にイラつく様に木下へと怒りの矛先を向けようとするが、木下は構わず話を続ける。
「ワシのスキルでお前の周りに結界を張る。 その隙に動ける様に態勢を整えろ」
「そうしたらジジイやダイバー達が殺られるだろうが。 どうせ、今もダイバー達を守るためにスキルを発動しているんだろ?」
雄太は木下のスキルを思いだし、スキルの効果でダイバー達を守っていると予想するが、雄太は自身の周りからブレスレットをしているダイバー達の反応が消えていることに気づく。
「おい。 ブレスレット、いや、ダイバー達の反応が消えているが、何処行ったんだ?」
「ダイバーのみんなは転移させて裏ギルドへと返した。 クレシアへと伝言を頼み、人数を集めてここへと来てもらう為にな」
「そうか。 いい判断だ。 って言うか、なんでジジイは残ったんだよ?」
雄太は木下だけが残った理由がわからずに、思ったことをそのまま質問する。
「愚問だな。 おまえ一人だけを残して、ギルドマスターであるワシがおめおめと帰れるか」
「無理すんじゃねぇよ。 一線を退いたジイ様は大人しく帰れよ」
「フン。 おまえこそ強がるなよ。 現に、そこから一歩も動けておらぬではないか。 流石におまえでもあれだけの集中砲火を受ければ、亀の様に閉じこもることしかできておらぬでは無いか」
木下は未だに攻撃を受けて爆煙をあげている空へと視線を移す。
「動けねぇんじゃねぇよ。 あえて動いてねぇんだよ」
「ハッ! 強がるのはよせ」
「強がりじゃねぇよ。 俺をどこかのヘボ勇者と一緒にすんじゃねぇ。 どうせ、ヘボ勇者様はスキル使っても動けなかったんだろ?」
木下は雄太の煽る様な言葉を聞いて、ブレスレットと空中の爆煙を睨みつけながら「ぐぬぬぬぬ」と悔しそうに奥歯へと力を込めていた。
「それじゃ聞くが、何故、お前は動いておらんのだ? 本当は動けないんだろ? 素直に動けないと言え。 ワシが動ける様に時間を作って助けてやる」
「ジジイの手助けなんていらねぇよ。 ぶっちゃけ、俺を気にする余裕もねぇんだろ? だったらそのまま自分の身でも守ってろよ」
「こんな時まで本当に口の減らないガキだな。 それで、何をする気なんだお前は? なんで動いていないんだ?」
「ちょっとした準備をしててな・・・」
「準備?」
「クソ ──あいつら、魔族だけじゃなく、普通の人間の警官も混ぜてやがんのかよ・・・・ そんじゃ、先ずは、後ろの魔族を片付けるか」
「は?」
雄太の言葉を聞いた木下は、雄太の背後から銃弾と魔法の弾幕を展開している警官隊へと目を向ける。
「──【槍棘】」
雄太がスキルの名前を発言すると、木下の目に映る景色が一瞬ブレた様に見えた。
瞬間──
警官隊がいる方へと向けて、地面やビルから夥しい数の赤黒い棘が現れた。
「なっ!?」
赤黒い棘は、幾何学的な模様を描きながら、カクカクと増殖するかの様に伸びていき、次々と警官隊を襲い始めた。
警官隊を襲っている槍棘は、警官隊の体内にあるスライムへと反応して追いかけるかの様に伸びていき、的確に警官隊の体内にいるスライムを突き刺すと同時に吸収し始める。
そして、槍棘によって体内のスライムを吸収された警官隊は次々に気を失って倒れていった。
地面やビルから飛び出して伸びている無数の赤い棘によって、体内のスライムを貫かれて次々と倒れていく警官隊の姿を見た木下は、目と口を大きく開けながら驚愕を表情となった。
「こ、小僧・・・ ま、まさか、これを──」
「──あぁ。 広げるのに少し時間がかかった。 流石にこんだけ広いと精度が落ちてしまう。 って事で、先ずは後ろの奴からだ」
雄太の後ろで地面やビルから無数に伸びている赤黒い槍棘を見た雄太の前方にいる警官達は、いきなりの出来事に攻撃の手が止まってしまっていた。
そんな警官達が驚いて攻撃の手を止めた爆煙の中から、雄太を包んでいる丸い岩の塊がゆっくりと地上へと降りていく。
そして、地上へと降りた岩の塊は、花を咲かせる様に広がり、その中心から無傷の雄太が姿を表した。
「次は派手にいくぞ。 ジジイ、後ろの奴らは任せるぞ」
ブレスレットから聞こえてきた雄太の声を聞いた木下が雄太へと視線を向けた瞬間、魔族だけを貫いていた地面やビルから伸びていた槍棘は、その姿を綺麗さっぱりと消し去った。
地面やビルから槍棘が姿を消したと同時に、雄太を取り囲む様にして数えきれない数の餓鬼達が、まるで地面から生え出てくるかの様にして姿を現した。
「徹底的にやってやる。 そっちがその気なら、遠慮なくやってやるよ」
背後の景色を視線だけで見た雄太が視線を動かし、睨みつける様に前方の警官隊へと視線を向けた瞬間、地面から現れた餓鬼達の姿が次々と変わっていった。
子供の様な姿で現れた餓鬼達は、どんどんと身体が成人男性ほどにまで大きくなっていき、棘のついた棍棒を持った鬼の姿へと変貌した。
「さぁ行け。 全面戦争だ」
雄太が前方の警官隊へと向けて腕を伸ばして指を差すと、雄太の周りにいた鬼達が一斉に警官隊へと向けて駆け出した。
「ジジイ! ボサっとすんな! ちゃんと仕事しやがれ!」
雄太は木下がいるビルとビルの間へと顔を向け、木下へと動く様に指示を出す。
「分かっておるわい!」
木下はスキルを発現させながらビルとビルの間から走って出てきて雄太へと背を向ける。
「任せても良いのか?」
「問題ない。 一般人を平然と巻き込みやがったあいつらは、見せしめにド派手に殺してやる」
雄太は上空で滞空しているテレビ局の中継ヘリへと顔を向ける。
「地球に手を出した事を後悔させてやる」
雄太の足元に広がっていた岩の花が巨大な手の形となってゆっくりと移動し、雄太の左右で手を広げて並び、まるでゴツい岩の羽の様に滞空した。




