表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 1. 第4章 動き出す歯車 編
202/290

202. 息吹

雄太はここで芽衣の母親が出て来た事に対して驚くが、芽衣はいつもの如く平然とした顔で雄太を見つめる。


「橘花さん。 私は一生あなたを全力で支えます。 あなたの思うままに私を利用してください」


「いや・・・ サラっと何事も無かったかの様に重い事を言わないで・・・ しかも、利用するとか、俺の心象悪くなって行く一方だから・・・」 


「小僧っ!貴様ぁぁぁぁぁぁぁああ! ワシの娘を使い捨てる気かぁぁぁぁぁぁああ! 芽衣ちゃん! あんな鬼畜で歩く地雷の様な奴になんて一切構う事なんてないぞ! アレだけはダメだっ! アレは呪われてるぞ!」


「では、貴方が魔族と戦って世界を救ってくれるんですね? 貴方一人に、24時間、365日、寝る暇もないくらい魔族を集中させれば良いんですね?」


「え? いや・・・ ソレは流石に・・・ 寝る暇もないくらいって、え? ワシ一人に魔族を集中させるって、 冗談ですよね?」


「橘花さん。 それと、ここにお集まりのみなさん。 我らがギルドマスターが全ての魔族を引き受けていただけるとの事です。 と言う事で、我らがギルドマスターを囮りとして矢面に立たせ、私達はできる範囲で進めていきましょう」


芽衣の提案に全員が頷いた。


「いや、そんな──」


「黙れ。 良い大人が女々しく吠えるな。 餌は餌らしく、口と目を閉じて大人しくしてろ」


芽衣は木下が何かを言おうとするのを遮るかの様にギロリと木下を睨みつけて黙らせた。



・・・・・・



「・・・なんか、本当に凄い事になってきたな・・・ なかなかないだろこんな大イベントなんて・・・ ミディアにいた時もこんな大事なんてなかったぞ」


「そうだね。 あっちはあっちで色々と慌ただしい毎日だったけど、ここまで濃縮された様な出来事はなかったね」


ヤリクとクレシアは呆れた様に苦笑を浮かべながら、芽衣と木下から雄太へと視線を移した。


「それについては我々エルフも同意見ですね。 ここ最近で急に濃密な日々を過ごしている気がします」 


「まさか、我々エルフが人と手を取り合って一つの事をすると言う日が来るとは思ってもいませんでした」


エゼルリエルとケレランディアも雄太へと視線を移す。


「・・・なんだよ。 なんでみんなで俺を見るんだよ」


「フぅ〜〜。 お前がこの大事の中心にいるからだろうが」


こめかみと首を赤く染め上げている木下は、雄太の背後に映る何かを懐かしむかの様にため息を吐きながら苦笑した。


「では、私は明日の事について母へと連絡をしてきます。 詳細が決まればコレで橘花さんへと連絡すればいいんですよね?」


芽衣は手にしているブレスレットを見た後に雄太へと視線を移した。


「あぁ。 それで連絡をくれ。 とりあえず会う場所だけはこの場で決めておこう。 明日はハロワに来てもらって、その後にスライムダンジョンに移るって感じでいいか?」


雄太はエゼルリエルへと顔を向ける。


「あぁ。 私はそれで構わないわ。 拠点となるあのダンジョンは見せておくべきね。 必要な施設や設備等についても意見をいただきたいわね」 


「分かりました。 では、集合場所はハロワ、向かう先はスライムダンジョンと言う事で。 時間が決まり次第すぐにお知らせ致します。 では、私はこれで」


芽衣は軽く皆へと会釈をした後に執務室の扉を開けて外へと出て行った。


芽衣が扉を開けて出て行ったと同時に、扉の向こう側から大声援が聞こえてきた。


「・・・どうやって外に出て行くんだコレ・・・」


「もう、ここからスライムダンジョンに戻るしかないわね・・・」


「絶対それでお願いします。 私はまだ死にたくないです」


大歓声を聞いたエゼルリエルとケレランディアは、まるで扉の向こうに地獄を見たかの様に、軽く目から光を失なわせながら扉を見つめた。


「って事でジジイ。 しっかりと気合いれろよ。 これからあんたには裏ギルドのダイバーを率いて派手に外で暴れてもらうんだからな」


「ふぅ〜。 こうなったら、貴様に言われんでもやってやるつもりだ。    ・・・ルカとの約束もあるしな・・・」


「あ? なんだって?」


雄太は、木下が小声で発した最後の言葉を聞き取れずに手を耳へとやって身体を傾けた。


「まぁ、外の事はワシに任せて、お前は好きな様に暴れてろ。 魔族共を派手に表舞台へと引きずり出してやる」


「やっぱ、勇者様は言うことが違うねぇ」


「そりゃそうよ。 なんせ、2つの世界の勇者様なんだからね」


ヤリクとクレシアは、木下をからかう様にチャチャを入れながらも、どこか楽しそうに笑い合っていた。


「それじゃ、先ずは、あいつらにやる気を出してもらう為に、エルフの紹介をさせてもらうぞ」


「え”!?」


「な、何故よ!?」


ケレランディアとエゼルリエルは、急に木下が発した意味がわからない言葉に対して驚いた。


「ワシらの世界ではエルフに大層な夢とロマンを見ている奴らが多くてな。 まぁ、あいつらの士気を高める為の事前報酬という事で一肌脱いでやってくれ」


「一肌脱ぐどころか、全裸にされそうな絵しか見えないんですけど」 


ケレランディアは、自分の腕をさすりながら心底嫌そうに表情を歪めた。


「まぁ、何も喋らず威厳がある様に振る舞っていれば、皆、その見た目に騙されるだろうよ。 表に出たら、絶対に口を開かずに、険しい表情で道端の石やゴミを見る様な目であいつらを見てやってくれ」


「・・・何故コレから共に戦う仲間に対してそんな事をするのよ?」


エゼルリエルは、木下の言っている事の意味が分からずに怪訝な顔で聞き返した。 


「ナニ。 あいつらにとってはそれがご褒美なんだよ」


「「・・・・・・」」


流石は変態ギルドのギルドマスターという事はあるのか、なかなかギルドメンバー達のツボを抑えている様に雄太は感じた。


「トップがコレだから、外のアレは起こるべくして起こったって感じだな」


雄太がボソッと呟いた言葉に対し、エゼルリエル、ケレランディア、ヤリク、クレシアは大きく頷いた。


「このギルド、マジでヒデぇ〜な・・・」


木下は雄太の中傷を無視して席を立ち上がり、扉へと向かって歩き出した。


「さぁ、向こうの世界では叶わなかった、人とエルフが手を取り合う瞬間だ」


木下は貫禄のある笑みを浮かべながら扉を開け放った。


木下が発した言葉に対し、雄太を除く全員は、何か思うところがあるかの様に軽く笑みを浮かべながら木下の後ろをついて行く様に開かれた扉からゆっくりと外へと出て行った。









カウンターの外では大勢のダイバーが集まっており、木下が扉から出てくると同時に歓喜の大歓声をあげた。


その光景を見た木下は、歳も礼儀も作法も関係なくカウンターの上へと飛び乗り、ダイバー達へと向かって声を発した。


「静まれ!」










大勢のダイバー達は木下の一言でピタっと一斉に静まりかえり、今までお祭りの様な騒ぎだったフロアへと静寂が訪れた。


「先ほど、お前達が目にした通り、60年前のダンジョン転移によって、実はエルフも地球へと転移していたと言うことが分かった」


ザワザワとフロアがざわめき始める。


「この60年間、今まで身を隠し続けていたエルフは、何故、今になって姿を現した? しかも、この裏ギルドに?」


木下の何かを含む様な言葉によってさらにフロアがざわめき立つ。


「それはな、次の満月に異世界が再度この世界へと転移してくるからだ」


ざわついていたフロアが一瞬で静まり返る。


「お前らも知っている通り、ギルドの奴らは異世界からきた王国の奴らによって作られた。 そうだな?」


全員が思い思いに静かに頷く。




ある者は憎しみを込めて。


ある者は悲しみを押し殺して。


ある者は怒りを目に宿して。




「だが、奴らはそれだけでは済まなかった。 異世界から来た王国の奴らの正体は、ワシらの世界を、文明を、日常を、食らい尽くそうとする人ならざる者、 魔族と呼ばれる化け物だ」


木下が話しているタイミングで、ヤリクが木下が立っているカウンタの下へと鎖の塊を出現させた。


そして、雄太は縛鎖を少し解除し、鎖によって閉じ込めているモノをダイバー達へと見せる。


そこには、以前、雄太が捕縛した、全身が黒く、口が耳まで裂け、顎に小さな2本の角を生やし、目の上に4対、両目尻、両肩、両腕などと言った身体中に沢山の目がある魔族が姿を現した。


禍々しく、明らかに異形な姿を見たダイバー達は、一斉に言葉を飲み込み、木下の足元にいる魔族を凝視した。


「こいつは、小僧によって捕らえれた魔族だ」


木下は背後に居た雄太へと視線を向ける。


「事実、この世界には、ギルドを思いのままに操っている少数の魔族によって支配されている。 少数のな」


至る所からゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込む音が聞こえてきた。


「しかも、こいつらは使い魔を使って普通の人間でさえ化け物の様な姿に変える」


木下は自身に埋め込まれた種の事を思い出したのか、顔を険しくした。


「そんな奴らが今度の満月に転移してくる。 我々は他にも捕らえた魔族を尋問し異世界の情報を吐かせた」


木下はヤリクへと視線を向け、ヤリクが頷く。


「これは、冗談でも、夢でも、幻覚でも幻でもなく、逃れられない事実だ。 異世界の転移を食い止める方法はない。 ワシらは、この世界を魔族から守り抜く為に、その為に、今まで姿を隠していたエルフと共に手をとりあってこの地球で魔族を迎え撃つ」


木下は雄太の横に立つエゼルリエルへと視線を向け、エゼルリエルが頷く。


「聞き出した話によると、最初のダンジョン転移も魔族による仕業だ。 我々は一度、魔族の手に落ちた。 いや、今も地球は魔族によって支配されている」


フロアが一気にざわめき始めた。


「だが! これ以上、ワシらの地球で奴らの好き勝手にはさせん! 魔族を駆逐し、この世界を自らの手で守るのだ!」


ざわめきが大きくなる。


「安心しろ! 魔族と戦う対抗手段もある!」


木下は縛鎖で捕縛されている魔族の鎖を掴んで持ち上げる。


「沈黙を破り、我々と共に魔族と戦う仲間もいる!」


エゼルリエルとケレランディアは自然と足を動かし一歩前へと出た。


「ワシらが受けた蹂躙をこれで終わらせるのだ!」


木下はカウンターを足の裏で叩く。


「耐え忍ぶのはこれまでだ!」


木下に合わせてヤリクとクレシアがフロアを足の裏で叩く。


「平穏を取り戻すのだ!」


足の裏でフロアを叩く音が徐々に広がる。





──この日





「平等を取り戻すのだ!」


フロアを叩く音は、まるで、大きな心臓の音の様にリズムを刻む。





──長年、種の様に硬く身を閉じて深く地へと潜っていた勇者のギルドは





「ワシらの世界を取り戻すのだ!」


ギルド全体は、鼓動を始めた生命が動き出すかの様に揺れ動く。





──橘花 雄太 と言う、世界や世代をも超えた栄養を得て





「お前らぁぁぁぁぁ! 表に出るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


フロアの底が抜けるかと思う様な一際大きな1つの音が全体を包み込む。





──大樹となる為に地上へと向けて大きな産声をあげた






オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ