201. 人類補○計画
唾を盛大に飲み込んだ木下は雄太へと強い視線をながら口を開く。
「お前がやろうとしている事は、まるで、お前による人類の支配じゃないか・・・」
「流石橘花さん!人類補○計画ですね!」
「いや、違うだろ・・・親子揃ってどんな脳味噌してんだよ・・・」
雄太は冷たい視線をイカれた親子へと向ける。
「ですが、やろうとしている事は、西洋の魔女狩り、江戸時代の踏み絵と同じ事ですよね?橘花さんのブレスレットで魔族を炙り出す的な?」
「まぁ、同じって言われれば同じだけど・・・ これで地球の人達が救えるならそうせざるを得ないだろ? って言うか、俺は世界を支配する気はサラサラないから。 俺は今の生活を守りたいだけだから」
「しかし、コレって実質的に雄太君が人類を支配しているのと同じになるよな? なんせ、ブレスレットを嵌める事で、殺生与奪を雄太君に握られてるのと同じだろ?」
ヤリクは、雄太の話を聞いた後でどうしてもブレスレットを外したいのか、必死にブレスレットをカリカリと指で弄りながらも雄太へと意見を言う。
「しかたねぇだろ。 他に方法がねぇんだから。 ぶっちゃけ、俺1人だけであれば、魔族が来ようが何が来ようが生き残る自信はあるけど、流石に俺の生活を脅かす様な輩は見逃せないし、この世界があっての俺の生活だからな・・・ これ以上、俺の穏やかな生活を壊す者は許せんってだけだ」
「経験者が語ると、ソレらしく聞こえるわね・・・」
雄太が置かれた苦境を見ていたエゼルリエルは、神妙な顔つきで雄太の言葉を聞く。
「まぁな。 これ以上俺の生活を壊す様な奴は、俺が全力で阻止する。 そして、その身に俺の生活を壊そうとしたことを思い知らせてやる」
雄太の口角が釣り上がり、ソレを見た全員が息を飲む。
「でも、ブレスレットだけじゃ流石に魔族とは戦えないわよね? 魔族が大人しくブレスレットをしてくれる訳じゃないし、手枷くらいの役割はできそうだけど?」
「まぁな。 おばちゃん達には、コレとは別なものを作ってもらう」
そう言うと、雄太は掌から赤黒い拳銃の弾の様なモノを発現させた。
「何よコレ? 弾? こんなモノで魔族に対抗できるとでも?」
「コレはブレスレットと同じ効果がある弾だ。 おばちゃん達には、コレを打ち出す物を造ってほしい。 コレを魔族の体内へと打ち込めば、内側から俺のスキルが侵食する。 まぁ、一発だけだったら侵食するまでに少し時間はかかるけど、何発も打ち込めば、ソレなりに即効性も出てくる。 コレだったら遠距離からの攻撃も可能だから、力のない者でも扱えるし、魔族以外を傷つける恐れもない。 要は、魔族にしか効かないウィルスみたいなもんだな」
雄太は手にしている膨張で作った赤黒い弾をエゼルリエルへと手渡した。
「お前は相変わらずエゲツないものを考えておるな」
「じゃぁ、マスターは橘花さんの補助なしで1人で魔族と戦うと言う事で」
「いえ、ありがたく使わせていただきます」
芽衣によって雄太の支援を潰されそうになった瞬間、木下は、プライドなく綺麗に頭を下げた。
「弾はあんたが用意するのよね?」
「あぁ。そうなるな。 ブレスレットよりは簡単に作れるから、ストック分も考えてもらっても大丈夫と思う」
「分かったわ。 でも、私達がソレを発射する装置を作るにしても、一つだけ厳しいものがあるは。 それは──」
エゼルリエルは手にしている膨張の弾をつまみながら雄太と木下へと視線を向けた。
「──ソレを打ち出す為の装置の材料よ」
「まぁ、そうなるわな。 って事で、なんかねぇか?」
雄太はヤリクと木下、クレシアへと視線を向ける。
「・・・ミディアであれば、色々と材料も手に入っていただろうけど、地球となるとねぇ・・・」
クレシアはヤリクへと視線を向ける。
「ってなると、ダンジョンで取れる素材って事だろ? やろうと思えばその素材が取れるモンスターを発現させる事は俺的には可能だが、ソレを使えるまでに加工する技術がなぁ」
ヤリクは木下へと視線を向ける。
「エルフ達でだけは厳しいか?」
木下がエゼルリエルへと視線を向ける。
「加工は可能だが、些かソレが可能な人物がアレだけしかいなくて・・・」
エゼルリエルはケレランディアへと視線を向ける。
「ゴールのない缶詰Deathマーチですか? 私に死ねと?」
ケレランディアは真剣なシリアスな顔つきでブリッジをクイっと押し上げ、メガネのガラスを光らせた。
「あんたの背には、この地球の全てがかかっているのよ。 今こそ漢を見せるのよ」
「須くお断り致します。 生産ロボットとして生きるくらいなら、種馬として生きた方がまだマシです。 私はスライムダンジョンにエルフの居住地を作ると言う使命があるのです」
ケレランディアは、真顔で反射する眼鏡のブリッジをクイクイさせながら、種族の王であるエゼルリエルへと向けて堂々と反発反論した。
「あんたねぇ。 ここで分かりましたって言うのが漢ってもんでしょ?」
「じゃぁ、エゼルリエル様がやってください! どう考えても私1人でなんとかできる程の仕事の量な訳がないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 確実に寝る以外の時間はソレの加工させられますよねぇぇぇぇぇぇ? ご飯を食べながらもソレをさせられますよねぇぇぇぇぇ? 生産班から遅いって文句を言われるのは私1人って事ですよねぇぇぇぇ? 無理です! 絶対に1人では無理です! 過労死する未来しか見えないです! 断固拒否です!」
ケレランディアは頑なに断固拒否した。
我が儘な駄々っ子にも思える様な態度を取っているケレランディアではあるが、流石にエルフの居住地を作りつつも全ての素材の加工を1人に任せると言うのは残酷と言う事が分かっているのか、みんなそれ以上口にする事はなかった。
そんな中、芽衣が挙手をする。
「あのぁ〜。 私、モンスターの素材を加工できそうな当てがありますけど・・・」
瞬間、ケレランディアのメガネが光る。
「是非それで」
そして、内容を聞くまでもなくケレランディアは即決賛成した。
だが、芽衣の横にいる木下が頭を抱えだした。
「私の母、モンスターの素材の加工を生業にしておりまして、事情を話せば協力してくれると思いますが、どうでしょうか?」
「え〜っと、芽衣さんでしたっけ?」
「はい。ダイバー登録は”暁”という名で登録しています」
「え? 暁?・・・ もしかして、このタイミングであの暁グループの暁って事は流石にないですよね?」
「多分、お考え頂いている、ソレであってると思います・・・」
「そうだった! 静江さんがいた!」
「エージ!あんた!ナニ露骨に嫌な顔しながら机に隠れているのよ! 静江さんがいるじゃない! なんで真っ先に静江さんの事を紹介しないのよ! 鈴木さんの怒りと悲しみを返しなさいよ! このダメマスター!」
「え? どういう事でしょうか?」
エゼルリエルは、いきなり表情を明るくさせたヤリクとクレシアを見て現状の把握が追いつかなくなり、ヤリクがニコニコと気持ち悪い笑顔で揉み手をしながらゆさゆさとマリモを揺らしながらエゼルリエルへと説明し始めた。
「いやぁ〜。 すみませんねぇ〜。 女王様ぁ〜。 そこにいる内のクソギルドマスターの奥さんで、芽衣ちゃんのお母さんは、モンスター素材を世界中で加工している、暁グループの現当主であり総帥様なんですよぉ〜」
「な!?」
「え!?」
ヤリクの説明を聞いたエゼルリエルとケレランディアは、芽衣と、机に隠れる様にして頭を隠している木下を見て驚いた。
「はい。ヤリクさんの言っている通りなので、私、母に聞いてみます。 ソコのソレが連絡を取ったところで、一蹴されて終わると思いますので、私から連絡を取ってみます。 丁度今、日本に居ますので、明日にでもアポは取れるかと」
「明日にアポ? あの、暁の総帥とアポ? ・・・嘘でしょ・・・」
「・・・おい。 ジジイ。 今、俺の中であんたの今後の使い方が決定した。 あんたはこの世界でも勇者決定だ」
「な!?」
木下は、雄太の発した言葉に対して焦燥感たっぷりの表情でガバッと顔を上げた。
「ギルフォードをこの世界の勇者に仕立て上げようとしたが、やっぱり勇者はあんただ! あっちの世界でも、こっちの世界でも、あんたには生涯勇者をロールしてもらう! こんな状況でも情報を隠そうとした罰だ! 覚悟しておけ!」
「それだけは、 それだけは本当に勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ! ワシは勇者じゃない! ワシはもう、 勇者なんていやダァァァァァぁぁぁ!!」
「ルカの呪いだな・・・」
「えぇ。 ルカの呪いね・・・ 親子二代による、執拗な呪いね・・・」
ヤリクとクレシアは雄太の木下への制裁を聞いてドン引きした。
「木下さん。 モンスター素材の加工に関して、おばちゃんと鈴木さんとで話を詰めてください。 必要であれば、俺も弾やブレスレットの基板の提供者として補助で入るので」
「分かりました。 母も橘花さんにお会いしたいと言っていたので、アポは確実に取れると思いますよ」
「え?」
雄太は自身を指差して顔全体に疑問を貼り付けた。
その横で、ヤリクとクレシアが目を瞑りながら「南無〜」と言いながら手を合わせていた。
「ま・・・まぁ、 これで、加工も生産も目処が立ちそうね。 ほら!あんたも萎縮してないでシャキっとするのよ! 暁グループの総帥に今のウチに、売れるだけ沢山の媚びを売っておくのよ! 分かったわね!」
話がさらに大きくなってしまい、両手で胃を抑える様に蹲っているケレランディアは、エゼルリエルによって後頭部をペシっと叩かれた。




