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見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 1. 第1章 怒涛のダンジョン 編
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2. ハロワ

薄っすらと陽炎が立ち昇り太陽が照りつける真夏日の中、息苦しい程に熱気を感じながら熱く温められたアスファルトの道路を歩き、やっとの事でハロワへと辿りついた。


『ウィーン』と静かに開いた自動ドアから漏れてきた室内の冷たい風が、汗だくで火照った俺の身体を優しく包み込む。


「はぁ~・・・天国かよここは・・・」


あまりの涼しさに、つい、思った事を口走ってしまった。


たかがドアから漏れ出ただけの冷気でこの世の天国を感じてしまう程、今の俺の生活は荒みきっているのである。


身体にまとわりつく冷気によって、外で感じていた息苦しい呼吸から解放された事に幸せを感じながら自動ドアを潜った俺は、他には目もくれず真っ先に冷水器へと向かい、キンキンに冷えた水を無我夢中でがぶ飲みした。


俺の水を飲む姿があまりにも鬼気迫っている感じだったのか、周りから変な目で見られている感覚を覚えたが、今の俺には他人を気にしたり、自分を良い様に取り繕う余裕なんてものは全くない。


冷水器から供給される冷たい水をがぶ飲みし、喉の渇きと多少は空腹を紛らわす事が出来た俺は、ビチョビチョになったTシャツを乾かす為に待合席の長椅子へとまるで我が家の様にだらしなく腰を下ろした。


椅子に深く背を預けながら首だけを動かしてグルリと室内を見回すと、暑い真夏日の早朝と言う事もあってか、職を探しに来ている人はとても少ない。


椅子に座りながら視線を色々と移していると、雄太は長椅子のサイドテーブルに置かれている新聞へと目が行ったところで徐に手を伸ばし、何か目ぼしい情報が無いかと隅から隅まで新聞を読み進めた。


今の時代、新聞なんて言う紙をベースにした情報誌なんてものは時代錯誤も良いところで、90%はスマホやタブレット等でのネットを介したデータとして情報や記事を公開している。


しかし、残りの10%は未だに紙ベースであり、利用者のほとんどは現代のテクノロジーについていけない高齢者へと向けた供給となっている。



まぁ、スマホすらも持てない今の俺には、そんな事なんていちいち気にしてられないが



新聞を読み終わったタイミングで、ビチョビチョだったTシャツも乾き、雄太は長椅子から腰を持ち上げて、仕事の募集を探す為に掲示板へと足を向けた。


掲示板は利用者のプライバシーを配慮した為か、パーテーションで区切られた据え置き型でタッチ操作タイプのスクリーン端末が5台程設置されており、雄太は人がいない端末の前に立ってスクリーンを指で操作する。


雄太は端末を操作して少なくない募集要項を全て確認したのだが、ほとんどの募集内容は企業による専属ダイバーの募集が主だった。


ダイバー募集じゃない案件は、キャンギャルやテスターと言った様な女性限定と言う俺には無縁な募集内容だ。


ダイバーライセンスの無い俺にとってはそもそもの絶対条件から外れており、俺は選べる案件が全く無かった事に対して肩を落とし、『ふぅ〜』っと溜め息を吐きながら職員が居るカウンターへと向かう。


「お~い。おばちゃ~ん。 掲示板見たんだけど、いつ見てもダイバー募集の仕事しかないんだけど~。 ダイバー以外の仕事って無いの~?」


雄太は自分が選べる案件が全く無かった事に対して不満を露にしながら、カウンターの向かいに座って何かの仕事をしている職員のおばちゃんへと声をかけた。


「あんた、また来たのかい? 毎度毎度、懲りずによく来るねぇ?   ウチにはそこにあるだけしか仕事の紹介は無いよ。 もうさっさとダイバーになっちゃいな。 あんた、お金に困ってるんだろ? ウチでもダイバー登録の受け付けは出来るし、ギルド程じゃ無いけど素材の買取りも出来るから、さっさとダイバー登録してダンジョンに潜って適当に素材を取ってきな」


「何だよダイバー、ダイバーって。 下手したらモンスターに襲われて死ぬんだぞ。 命を懸けてまでやるダンジョン探索なんて、一体、どれ程の価値があるって言うんだよ?」


雄太は、ダイバーだった死んだ両親を思い出し、ダンジョンへは一人だけ残された寂しさや悲しみ、怒り等と言う負の感情しか湧かなかった。


「あんたの気持ちも分からなくはないけど、あんた、仕事を選んでいられる状態なのかい? 酷い顔してるわよ・・・  あんた、このまま仕事が見つからなければ死ぬんじゃないの? どうせ死ぬんだったら先ずはダンジョンに行ってみた後に考えな。 後になるか先になるかの違いってとこね。 でも、ダンジョンからの恩恵は計り知れないわよ。 今の暮らしの中で使われている技術は、殆どがダンジョンからもたらされた恩恵によって潤ってるのよ。 それくらいあんただって知ってるでしょ?ダンジョンは稼げるわよ」


受け付けのおばちゃんは、雄太の酷くヤツれた顔を見ながらスッと一枚の用紙を雄太へと差し出した。


「とりあえず、登録しておきな。 本来は10万円のダイバー登録料があるんだけど、登録料は私が貸して立て替えておくから、金に余裕ができた時にでも返しな」


「・・・・・・」


「ほら、ボサッとしてないでさっさと記入しな。 今記入すれば30分もかからないでダイバーのライセンスが発行出来るわよ。 それ持ってとっととダンジョンへ行ってモンスターの素材を取ってきな。 ほらコレ。ボロボロだけど、私のダイバーのガイドブックをあげるから。 それを読んで少しでもダイバーのルールについて理解しておきな。 それでも分からなければ後から自腹で講習を受けな。本当はこの本もタダじゃ無いんだよ。   ったく・・・」


おばちゃんはカウンターの下から漫画の単行本サイズの薄いガイドブックを取り出して雄太へと手渡した。


雄太が受け取ったガイドブックの表紙には、『ダンジョン探索のすすめ』と言うタイトルと、どこかのゲームの主人公と仲間みたいなキャラをパクった様な絵が描かれていて、裏には3,000円と言う本の金額が記載されていた。


「ありがとう・・・  ってか、こんなんで3,000円もすんのかよ!? クッソ高ぇなこれ・・・」


そうこうしている間にも雄太の腹は盛大に音をたてて自己主張しており、雄太は腹を摩りながら覚悟を決め、今は背に腹は変えられないとダンジョンへの負の感情を押し殺して申込用紙へと必要事項を記載し、おばちゃんへと渡した。


「記載漏れはないね。 それじゃ、ここに母印を押しな。 カードの登録にも使うからしっかりと指を押し付けるんだよ」


雄太はおばちゃんの指示に従って自分のサインの横にある枠へと母印を押した。


「そんじゃライセンスができるまで30分くらいかかるから、そこに座ってガイドブックでも読んで待ってな」


おばちゃんは雄太の書いた書類をもってのっそりと席を立つと、カウンターの奥へと消えて行った。


雄太はおばちゃんに言われるままにカウンターの前にある長椅子へと座り、手にしているガイドブックの表紙を胡乱な表情で眺めた。


「ひでぇ表紙だな・・・」


ライセンスが発行されるまで30分もある為、手持ち無沙汰になった雄太は、暇つぶしを兼ねてガイドブックを読み始めた。


ガイドブックによると、ダイバーはライセンスによって個人の情報を管理され、ダンジョンへの出入りはゲートにライセンスを翳して、名前、時間、出入りしたダンジョンの場所を記録される。


この記録は、ダンジョン内での遭難時やダイバーによる犯罪に対応するもので、ライセンスがない者はダンジョンへは入れず、ライセンス無しでダンジョンへと入った者は罰金や懲役が課せられる。


ライセンスには、ダイバーの登録料を払った後に無料で得られるカード型、有料で購入可能なリストバンド型やスマホと連動している端末型があり、各種紛失時は紛失ペナルティの代金が発生する。


カード型はIDとデビッドとしての機能しか無く、リストバンド型、端末型は電話やメールは勿論、ダンジョン内でのマッピング機能、ダンジョン内で連絡を取り合う事が出来る無線機能等と言った色々と便利な機能が搭載されている。


「金の無い俺はカード一択だな・・・」


って言うか、俺の銀行口座は凍結されていて、口座とか無いんだけど、素材の買い取りん時ってどうなるんだろう?




本によると素材の販売や買い取りはお金ではなくポイント(電子マネー)で支払われる。


素材販売のポイントは電子マネーとしてギルドやハロワ以外でも色々なところで利用できる。


素材の買い取りはギルドかハロワのみで可能であり、買い取り時は素材毎に税と手数料を含んだ10%が引かれる。


もし、ダンジョンの素材をギルドやハロワ以外へと販売した場合や素材の窃盗や恐喝は、見つかり次第、即逮捕となり、ダイバーライセンスも永久失効である。


素材の販売は、IDを掲示すれば世界中何処のギルドやハロワ、それに準じた場所へと販売する事が可能であり、ポイントの受け取りも同じ様に世界中で可能である。


ダイバーが販売した素材の合計ポイントは、ギルドによって随時記録、更新され、各個人の合計販売ポイントに応じて世界中で統一してランク付けされる。


世界ランクの100位以内に入っている人達はランカーと呼ばれ、ランクに応じて減税や、素材買い取り時の優遇措置、企業によるスポンサー契約等があり、まるでアイドルやスターの様な憧れ的存在となっている。



ランカーか・・・俺は、普通に生活できれば良いや・・・




素材の販売や買い取りは、マネーロンダリングや横領等の不正を防ぐ為にポイントの出入金額を随時記録し、ランクとポイントは個人へと紐づけられている。


しかしこの制度は、ある特定の人物のランクを上げやすくする事も可能であり、チームで動いて多くのモンスターを狩り、代表の一人が纏めて素材等を販売すれば、その一人にポイントがカウントされてランクが上がりやすくなってしまう。


しかしランクが上がれば上がる程、有事の際や定期的なダンジョン掃討へと真っ先に政府からランクの高いダイバーへと召集がかかり、最前線へと赴かなければならない。


この召集を無視した場合、今まで販売してきた合計ポイント数(電子マネー金額換算)分の3分の2の罰金が発生し、併せてライセンスの永久取り消しになる。


個人でランクを上げれば自己責任となるが、周りから祭り上げられたり、不正の為に利用されたりとなった場合は、ランクと実力が伴わないまま強いモンスターがいる最前線に行かなければならなくなるので、最悪な結果しか待っていない。


複数人でチームやパーティー、クランを組む場合は、カウンターへの書類提出が必要となる。


そして個人とは別で複数人制の世界共通のランク付けがあり、個人で取り引きされるポイントとは別に共通のポイントアカウントを作り、そのアカウントへとポイントが加算されていく。


共通ポイントは、共通のアカウントから個人のアカウントへと移行した際にポイントの種類が変わる。


例えるなら個人はお金で、共通はゲームセンターのコインみたいな感じだ。


街中で共通のポイントを使っても売り買いはできない。


共通アカウントのポイントを利用したり、メンバーへと分配する際は、カウンターへと利用理由とポイント数を提出しなければならない。


書類が認められれば、申請したポイントは通常のポイントへと変換され、申請したポイント数が入っている使い捨てのカードを渡される。


使い捨てカードにあるポイントや、共通のポイントを一個人へと移行させる際は、ギルドやハロワへと移行に関する書類を提出し、移行についての手続きをしなければならない。


共通のアカウントは個人以上に政府やギルドによってポイントの出入金の流れを管理、監視され、確定申告の様に年次で所定の書類を提出する事が義務付けられている。


パーティーやクランで獲得したポイントをメンバーへと分配するのは書類作業が多くなり面倒になる為、分配する際はポイント量に応じた分配手数料を職員へと払えば、職員が書類作業や申請代行し、手軽に分配する事ができる。


また、パーティーやクランを組まず、ダンジョン内で協力してモンスターを倒して得られた素材を販売する場合は、販売時にギルドやハロワの職員が立ち会い、専用の書類を作成しながら買い取りが行われる。


これも素材の横流しを防ぐ為の処置となっていて、買い取りで得られたポイントを100%丸ごと相手へと分配や譲渡することはできない。


ポイントの割り振り上限は7:3が最高:最低という比率でしか認められていない。


ダンジョン素材を扱う企業が雇っている社員ダイバーが取ってきた素材は、ギルドやハロワのカウンターにて企業が取得しているライセンスを掲示し、職員によって一度回収され、後日、掲示されたライセンスの情報にある企業へと送られる。


社員ダイバーは基本、所属している企業からの月給制であり、給料に見合う仕事もあれば見合わない仕事もあり、フリーとどちらが良いのかは一概には言えないらしい。



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[良い点] ギルド以外の行政機関が生きているのは珍しいですね。 それにしても、罰則がエグい。 〉もし、ダンジョンの素材をギルドやハロワ以外へと販売した場合や素材の窃盗や恐喝は、見つかり次第、即逮捕とな…
[気になる点] 最初に電子機器全滅したらしいけど、この話で出てくる冷房、自動ドア、スマホタブレットの類もダンジョンからのテクノロジーで作られたってことであってる?
[一言] コメントに従順になりすぎて、説明や設定で話がおわってるやん。コメントなんて斜め読みぐらいにして書いた方がエエで。作者が書きたいモンは六法全書やないやろ?
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