189. 繋がり
「・・・それで、ここまで話しを逸らしておいてなんだが・・・なんで、エルフも介入する事にしたんだよ?」
雄太は、エゼルリエルへと、イスフェルテの民、エルフ達が介入する理由を聞く。
「あぁ。それは、あんたが魔族をここへと連れて来たせいよ。あんたが魔族をここへ連れてこなければ、私たちは今まで通りに中立を保って平穏に過ごせていただろうけど、このタイミングで魔族の姿が晒されてしまえば、魔族達は、私達ハロワ職員の口封じに走るでしょうね。そうなれば、私達がエルフという事がバレ、火を見るよりも明らかに、この辺り一帯に住んでいる他のエルフ達も襲われるわね。しかも、私が襲われたとなっちゃ、里の者達は自身の命を顧みずに、最後の1人になるまで、魔族と戦うだろうね・・・」
「いや、それは流石に言い過ぎだろ?おばちゃん1人に他のエルフ皆んながソコまでする訳ないだろ・・・」
雄太は、エゼルリエルを見て、んな訳ないだろっと言った様に馬鹿にした様な顔をした。
「それが、本当なんですよ、橘花さん・・・エゼルリエル様は、こう見えてハイエルフなんですよ・・・」
「こう見えてってどう言う事だい?」
「自身でもお気づきなら、素行を改めてくださいよ・・・それはともかく、ハイエルフであるエゼルリエル様が魔族に襲われたとなれば、里のエルフ達は、人間魚雷の様に突っ込んでいくのは確実ですね・・・」
「・・・マジかよ・・・って事は、鈴、いえ、ケレランディアさんもって事ですか?」
「あ、私はコレまで通り鈴木とお呼び頂ければ・・・言いづらいでしょ?ケレランディアなんて名前?」
「わ、分かりました・・・では、これまで通り、鈴木さんとお呼びさせて頂きます・・・」
ケレランディアは、雄太の言葉にどこか嬉しそうに話を続けた。
「まあ、私もエゼルリエル様が討たれたとなった際は、この身が朽ちるまで戦うかと思います・・・あまり戦いたくはないですが・・・」
「あんた、それでも私の側近かい?私が討たれない様にするのがあんたが最優先する仕事でしょ?って言うか、なんでケレランディアと話す時はちゃんと話して、私と話す時は親戚のオバハンと話す様な感じで話してるのよあんた。前々から思っていたけど、なんかおかしいわよね?」
「いや・・・何故かは知らんが、おばちゃんと話すとなると、こうなってしまうんだよ・・・」
「だぁ かぁ らぁぁぁ! もぉ、おばちゃんって呼ぶの止めろって言ってるだろぉがぁあ?」
エゼルリエルは、雄太を射殺す勢いで下から抉り込んでくる様に睨みつけた。
エゼルリエルが暴れそうになるのをケレランディアが抑え、なんとか一触即発は未遂に終わった。
「って言うか、魔族の姿を見たからってのは分かる、それとおばちゃんが襲われたらってのも分かる、けど、なんで、他のエルフも襲われるんだよ?」
雄太はエゼルリエルの的を得ない話に疑問が湧いた。
再びおばちゃんと呼ばれたことで、エゼルリエルはピクッとコメカミをヒクつかせる。
「エルフの叡智、そして、捕らえて性奴隷にする為ですよね?」
雄太とエゼルリエルの会話へと、ギルフォードが割り込んだ。
「・・・概ね、そうね・・・」
エゼルリエルはギルフォードへとキツイ視線を向け、エゼルリエルに睨まれたギルフォードは、頬を痙攣らせながら続きを話す。
「・・・じ、実は、ミディアでもエルフの人達は、私が今言った様な扱いをされていたんだ。エルフの叡智、更にはその容姿も相まって、闇では高額でエルフが取引されてたんだ・・・その為、エルフは姿を偽る様になり、滅多に人前ではその姿を見せなくなった。私には、ミディアでの職業柄、エルフと知り合う機会があって、彼もその事に怒り嘆いていたよ」
「ふぅ〜ん。エルフは、その出来すぎた容姿がコンプレックスって事か?」
雄太は、イケメンすぎるケレランディアと、地は整っているが、ファンキーに、そしてヤンキーに装っているエゼルリエルの姿を見てギルフォードの言葉をなんとなく理解した。
「ふん。まぁ、その事がエルフに取ってはコンプレックスと言うか、恐怖の対象となってしまっていて、隠れ里などに引き籠もっていたってわけさね・・・しかし、あんたの話を聞く限り、もし、魔族にエルフが見つかった場合、私達は、確実に魔道具開発の為の道具にされるでしょうね・・・まぁ、確実にそれだけでは収まらないでしょうけど・・・」
「故に、私達エルフは、捕まるよりは真っ先に死を選ぶ様になったんですよ・・・敵に見つかった地雷は、処理される前に爆発したいって言う感じで、ですね・・・」
ケレランディアは、エゼルリエルの言葉を補足するかの様に付け足した。
「それくらい、ミディアでのエルフ達の扱いには悪意しかなかったんだよ。私は、エルフ達がこの世界に来れて良かったとさえ思っているよ」
ギルフォードは、過去に見て来たエルフの扱われ方を思い出したのか、悲し気な表情を作った。
・・・・・・
エゼルリエルの言葉に数秒の沈黙が流れたが、エゼルリエルが口を開く。
「まぁ、あんたの気持ちはありがたく受け取っておくよ。私たちも、ミディアよりはこの世界の方が過ごしやすいと言うのは感じているわ。 それで、私たちが姿を曝け出してまでも介入する理由だったね?」
「・・・あぁ」
雄太はエゼルリエルへと頷く。
「あんたが、魔族を連れて来たってのもあるけど、ルカとの約束さ」
!?
エゼルリエルの言葉に、雄太、日向、芽衣、そしてギルフォードが驚いた。
「おばちゃん!?お袋を知ってるのか!?」
「おば・・・もういいや。好きに呼びな・・・ あぁ。あんたの母親、”大賢者”ルカとの約束だよ」
エゼルリエルは雄太におばちゃんと呼ばれることを諦め、ため息を吐きながら話を続けた。
「私達がこの世界へ転移された時、ここに隠れ住んでいた私達にこの指輪を人数分用意してくれたのさ」
エゼルリエルは机の上にある指輪を手に取って眺めた。
「当時、いきなり異世界へと転移させられた私達は、必要な物など何ももたずに、ほぼ手ぶらで来た状態で、普段から指輪を所持していた者達の分だけでは些か不便極まりなくてねぇ・・・そんな折、偶々ルカが1人でそこのスライムダンジョンを探索していた時に、私達エルフと遭遇したって訳さね」
「お袋が、スライムダンジョンの探索?何故だ?」
雄太はエゼルリエルの言葉を聞いて疑問を感じた。
「ルカが言うには、1層しかないスライムダンジョンを不思議に思っていたらしく、隙を見つけてはよく1人で来ていたわ。そんな時に指輪をしていないエルフと遭遇し、相談に乗ってもらったという訳さ。おかげで、今ではエルフ全員に指輪が行き渡り、しかも、魔力の少ないこの世界でも使える様にと、調整までしてくれて、大助かりだったよ」
「えぇ。あの時の皆の顔は、正体がバレる恐怖から解放され、安堵に満ちていましたね」
ケレランディアは、その時の光景を思い出したのか、優しく微笑んだ。
「それで、お礼に何かをという事になったんだが、ルカは平然とこう言ったのさ。”困っている者がいたからただ助けただけだ。それ以上でも、それ以下でもない”ってね。そして、こうも言っていた。”あなた達の異世界転移の責任は全て私にある。だから、コレぐらいの手助け等、何十回でも何百回でも無償でやらせてくれ”ってね」
エゼルリエルと雄太の視線が交差した。
「転移の事情を聞いた私達は誰もが思ったよ。ルカに責任はないと、責任は全て王国にあると、ね。 そして、ルカは私達エルフの事は、誰にも言わないと言ってくれた。例え仲間であっても、誰にもエルフについては口外しないと・・・ ミディアでは、ルカが勇者と一緒に何度もエルフを助け出したという報告は、私の耳にもよく入っていたわ。それが、そんな噂のエルフの恩人でもある人物とこんな異世界で初めて会うなんて、本当、運命ってのは、一体どうなってるんだろうねぇ」
エゼルリエルはルカを思い出しているのか、顔を上げて天井を眺めていた。
「ルカは、それからもずっと私達との約束を守り続け、家族ができ、子供が生まれ、自身が死ぬ時までずっと私達の事を、存在を守り続けてくれていたわ。 そんな、何もルカへと返せない私達は、せめてもという事で、ルカが死んだ後に、ルカの子供のあんたをずっと見守り続けたわ」
「え?」
雄太はエゼルリエルの言葉に驚いた。
「先に言っておくけど、ストーカーじゃないからね。私達は、陰ながらあんたを支える事にしたのよ。ルカへの恩返しという事で。幸い、エルフの寿命は長く、あんたが死ぬ時まで支える事ができるわ。フフフフフ」
「・・・それは、冗談だよな?」
「フフっ。まぁ、私の気分次第ってところかしらね?」
エゼルリエルは楽しげに笑顔を見せた。
「お金のないあんたに部屋を貸した老夫婦、あの人達もエルフよ」
「マジかよ・・・」
「お金のないあんたが、毎日ここに来て冷水機の水をたらふくがぶ飲みして、お腹を満たしていた事も知っているわ。自販機があるのに、今時あんなの飲むのあんたくらいよ。って事で、あんたが空腹で死なない様に、あの冷水機にはエルフの秘薬を混ぜているんだけどね」
「エゼルリエル様の意向によって、橘花さんの為だけにあの冷水機を作ったのですが・・・あれは、実に贅沢且つ、知識と技術の無駄遣いの塊ですよ・・・」
ケレランディアは、苦笑しながら雄太へと視線を向ける。
「嘘だろ?」
雄太は、今まで毎日の様に飲んでいた、飲んだ瞬間に生き返る様なキンキンに冷えた冷水機を思い出した。
「こんな事で嘘ついて何の得があるのよ?」
「むしろ、損失の方が大きいですよアレは・・・」
「俺に、ダンジョンに潜る様にダイバーを薦めたのも──」
「──恩人の子である、あんたに死なれちゃ困るからよ」
おばちゃんは、雄太の言葉を断ち切った。
「もし、ダイバーになっても稼げない様だったら、私達の中から誰かをサポートに付け、あんたとパーティーを組ませるという計画もあった程よ。それが、こんな規格外な化物になってしまうなんて、正直びっくりよ」
おばちゃんは、雄太の青くなっている指先へと視線を移した。
「いや・・・まだ、人間だから・・・」
「まだって何よ、まだって?あんた自身もちゃんと自覚してるじゃないの」
「ぐぬぬぬぬぬぬ──」
「まぁ、あんたとパーティーを組むって計画が出た時には、大勢のエルフが我先にと挙手していたわ。それ程エルフの皆んなは、ルカには色々と助けられていたのよ」
雄太は、自身の母親の、偉大さ、優しさ、責任の強さへと感嘆しており、ボーッと机の上を眺めていた。
「という事で、あんたから持ち込まれたこの話は、私達エルフ、イスフェルテの全員で全面的に支援し、この世界へと介入する事にするわ」
「いいのかよ・・・そんな重大な事をおばちゃんと鈴木さんだけで決めてしまって」
雄太はボーッと見ていた机から顔を上げ、確認する様にエゼルリエルとケレランディアへと視線を向けた。
「フフフフフフ。私はエルフの女王よ?女王が決めた事に誰が文句を言うのよ?フフフ」
「いえ、こんな女王が決めたとか関係なく、橘花さんだからこそですよ」
「ケレランディア?何故、そこで私をディスるの?こんなってどう言う事かしら?」
「いえ・・・ディスってないですよ・・・エゼルリエル様をディスる訳ないじゃないですか・・・」
目の前で言い合いをし出したエゼルリエルとケレランディアを見ている雄太は、微笑ましくも頼もしくも見えるエルフという存在と繋がりを持たせてくれた事に対し、死んで行った自分の母親へと心の中で深く感謝した。




