182. 玄武
4色の光による爆発は、モクモクと煙をあげて雄太を包み込んでおり、4色の光は標的を殲滅し終えたかの様に、再度錯乱しているアリアの周りでグルグルと対空しながらバチバチと雷の様に弾けていた。
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雄太が爆発した事など気にも止めないと言ったアリアは、声にならない声を上げながら見境なく爆発と衝撃波を振りまきながら暴れている。
周囲の衝撃波により、雄太を包み込んでいる煙が徐々に晴れてきた。
晴れた煙の中から、先程までそこにいた赤兎を纏った雄太の姿はなく、代わりに雄太の姿がスッポリと隠れる程の大きな岩の塊が空中へと浮いていた。
大きな岩は、ビキビキと小さな音を立てながら数本の罅を岩の様な表面へと発現させ、次第にバキバキと大きく裂けだす。
裂けた岩の塊はだんだんと形を現し始め、巨大な手を広げる様に2つの巨大な手の形となって開き始めた。
そこにはまるで、巨大な岩の両手によって雄太が覆われている様な形となっており、巨大な手がゆっくりと開き、その中から雄太が姿を現した。
巨大な岩の手の中にいる雄太の姿は、先ほどまでの赤兎とは全く違った格好をしており、黒い服装をベースとして、腕には肘まであるガントレット、足には爪先から太腿まで伸びている足鎧、胴には胸部を守るチェストプレートと言った姿へと変わっており、身に纏っているそれぞれが土龍を思わせる様な黒っぽい黄色の装いとなっていた。
そして、完全に開かれた巨大な2つの手は、ゆっくりと雄太の両手の先へと移動し、雄太の両手と連動するかの様に雄太の手と同じ形で滞空している。
雄太が手を動かすと、雄太の手の先にある巨大な手も一緒に動き、それはまるで、雄太の身体の一部であると言わんばかりにタイムラグなくスッと動く。
雄太は数秒の間自身の格好を見回した後、前方で未だに暴走しているアリアへと視線を向けて睨みつけた。
「さっきのはマジでやり過ぎだろ・・・本当に死ぬかと思ったわ・・・」
雄太の目には怒りが見えており、雄太は両拳のガントレットを激しく胸の前で打ち付けた。
雄太の胸の前で、「ガイン!」という金属の様な音を立てたガントレットに連動するかの様に、滞空している巨大な岩の手も拳を作って雄太の眼前で拳同士がぶつかり合って「ドゴン!」という重い音が鳴り響く。
「これで、もう、あの変な光と爆発は怖くねぇぞ。思いっきり引っ叩いてスッキリ目を覚まさせてやる!」
両拳を打ち付けた雄太は、巨大な両手を従えながらアリアへと向かって空を翔る。
雄太は、今も尚、激しく爆発し続けているている領域を、まるで、その辺の草でも掻き分けるかの様な仕草で、巨大な両手を使って次々と軽く払い退けながら進み、再度アリアの前へと肉薄した。
「悲しくて辛いのは分かるが、アンタは少々やりすぎだよ。アンタのそんな姿をギルフォードが見たら、なんて言うだろうな」
今まで雄太の言葉には何一つ反応しなかったアリアだが、ギルフォードという名前が出た瞬間、ピタっと動きを止めた。
そして、動きを止めたアリアは、首だけを動かして雄太へと顔を向ける。
「・・・あなだ、に・・・ あなたに何が分かるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アリアが一際甲高い声で叫びだすと、アリアの周りでグルグルと動き回っていた4色の光が雄太へと向かって襲いかかって来た。
雄太へと向かってくる4色の光は、アリアの感情に呼応しているかの様に、激しくバチバチと帯電し、速度も先ほどとは比べものにならないくらいに上がっている。
だが、雄太は迫りくる4色の光を、まるでハエでも叩くかの様に滞空している巨大な手で叩き落とす。
「どっっっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!そいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
4色の光を叩いている雄太の姿は、まるでラケットでボールを打ち返している様であり、思考を持って動いている4色の光は、雄太に遠くへと撃ち返される度に再度雄太の下へと凄まじい速さで戻って来た。
凄まじい速さで向かってくる4色の光を叩いている雄太は、叩くという動作に無駄があるのを感じ、光を叩くのではなく、巨大な岩の拳で正面から殴り始めた。
「全然きかねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!アンタの賢者タイムはとっくに終了してんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
4色の光を巨大な岩の手でパンチングボールの様に繰り返し殴り返していた雄太だが、4色の光を巨大な岩の手でそのまま自動で殴らせ続け、雄太自身は殴る動作を止めてアリアへと肉薄した。
肉薄した雄太は、アリアを捕える為に腕を掴もうとするが、アリアの透けている身体は雄太では掴むことができず、雄太の手はそのままアリアの腕をすり抜けた。
「クソ!」
雄太は悪態を吐きながら必死になんとかアリアの体を捉えようとするも、雄太の繰り出す手は尽くすり抜けて行き、アリアは動き回る雄太を気にする様子もなくゆっくりと右腕を動かし、掌を天へと翳した。
すると、何処からともなく雄太を取り囲む様に無数の4色の光が現れ、アリアは天へと掲げている掌をクイっと手首を捻って雄太へと指先を向けた。
瞬間、滞空していた4色の無数の光が一斉に雄太へと襲い掛かった。
「舐めるなよ!伊達に防御に極振りしてる訳じゃねぇんだぞ!玄っっ!武ぅぅぅぅぅぅぅ!」
雄太が吠えたと同時に、巨大な両手はボロボロと細かい小石となって崩れ始め、崩れた端から雄太を包みこむ様に雄太の周りへと散開し、散開したと同時にギュッと圧縮しながら雄太を包み込んだ。
圧縮されたその姿は、まるで巨大な手がおにぎりを握っている様な形となって雄太を包み、アリアによって放たれた無数の光は、雄太を護る玄武の防壁によって全て遮断し弾き返された。
雄太を包み込んでいる玄武が全ての光を弾き返すと同時に、再度玄武はボロボロと崩れていき、今度はその崩れた無数の小石がアリアへと向かって動き出した。
アリアを360°から囲む様に滞空している小石の姿になっている玄武は、姿を現した雄太の突き出している腕と連動し、雄太が両手を握りしめる様な動きをしたと同時に、滞空している小石は、巨大な手の形を作りながらアリアの身体を握りしめた。
「【縛鎖】ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄太が手を握りしめながらスキルを唱えると、アリアを左右から握りしめていた岩の様な手は、一瞬にして鎖の塊でできた巨大な手へと姿を変えた。
「アリア!獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
雄太は、元々アリアをダンジョンへと縛っていた鎖によって再度アリアを捕獲し、縛鎖の巨大な手によってその身を握られているアリアは、なす術なく捕まって沈黙した。
アリアが沈黙したと同時に、激しく揺れていたダンジョンの揺れが治り、崩れていた壁や青空もピタリと動きを止めた。
周りが落ち着いたのを確認した雄太は、スゥ〜っと大きく息を吸った後にふぅ〜っと鼻から息を抜きながら沈黙したアリアへと顔を向けた。
鎖の手に握られているアリアは、目を瞑って無表情になっており、それを見た雄太はシスへと意識を繋いだ。
「シス。アリアさんもいけそうか?」
『イエス。マスター。スライムではない為少々時間がかかりますが、吸収可能です』
「その後は?」
『一旦、縛鎖の中へと意思を閉じ込め、それを徐々に偽核作成へと変質させてコアを作れば種と同じ構造が造れるかと』
「そうか・・・成功する確率はどれくらいなんだ?」
『肉体を持たない精神体の状態ですので、8割かと』
「・・・なんかこのまま続けて失敗しても嫌だから、ギルフォードが到着次第、どうするか聞いてみるわ。実行する時は、悪いが一旦お前は解除してこっちに来てもらうぞ」
『ロジャー』
雄太はアリアの全てをギルフォードへと委ねることにした。
「ってか、どうすんだよコレ・・・絶対ぇリソース足んねぇんじゃねぇかコレ?・・・」
シスと話終えた雄太は、ザガンとの戦い以上に荒れ果てているダンジョンを見て眉を顰めた。




