181. 暴走
大泣きしているアリアは、今の状況に対して怒り、悲しみ、全てを呪うかの様に声をあげており、そのアリアの感情へと呼応するかの様にスライムダンジョン全体が揺れ始めた。
「キャっ!?」
スライムダンジョンの揺れはだんだんと強くなり、芽衣は横で寝ていた日向の腹を思いっきり踏んでしまい、日向は「ぐぅ〜」っと唸りながら気絶から覚醒を始めた。
激しい揺れの中、芽衣に思いっきり踏まれた事でモゾモゾと起き上がった日向は、未だに夢の中なのか、揺れを気にする様子もなくフラフラと立ち上がった。
「・・・あ、橘花君・・・もうスライムダンジョンに─」
起き上がった日向は、雄太の姿を認識したと同時に、自身が激しい揺れの中にいると言うことに気づき、ガバっと目を見開きながら激しく首を振って辺りをキョロキョロし始めた。
「─ゆ、揺れてる!?こ、コレは!?」
「ダンジョンマスター様のお怒りだ・・・」
感情が昂っているアリアは、雄太や芽衣、日向を気にする様子もなく感情を剥き出しにしており、身体の周りへと赤、青、黄、緑の雷の様な線を発現させながら宙へと浮き上がる。
アリアの周りで激しく飛び交う色とりどりの雷は、違う色の雷同士が激しくぶつかり合う毎に大爆発を起こしており、宙に浮いているアリアの周りでは色とりどりの衝撃波が咲き乱れた。
「・・・ちょっとヤバくないかアレ・・・」
雄太でも認識できるほどの負の感情に呑まれたアリアは、自身の周りで咲き乱れている衝撃波を乱雑にばら撒き始め、せっかく直った2層の景色が壊れ始めた。
地面や壁では、衝撃波によってできた巨大なクレーターが何度も何度も生まれては消えを繰り返し、芽衣と日向とミカは、自身の身を案じるかの様に1層へと続く階段へと避難する為に走り出した。
「橘花さんも早く逃げてください!あの爆発は元素爆発です!あんな爆発に巻き込まれれば、怪我どころじゃすまないですよ!」
芽衣は途中で足を止めて雄太へも早く逃げる様に伝えるが、雄太は暴れ狂うアリアから一切視線を外そうとはせずに、暴れ回るアリアを視線で追い続けた。
「俺は大丈夫です。木下さんは早く避難してください。それと、ミカにギルフォードを早く来させる様に伝えてください」
「分かりました!無茶はしないでください!」
雄太は今すぐにでもこの場へとギルフォードを発現しようかとも思ったが、今のギルフォードでは荒れ狂うアリアをどうこうできないと思い、先ずは自身でアリアの怒りを鎮める事にした。
「まぁ、話を振った俺の責任でもあるわな・・・」
雄太は自身の間違いを認め、申し訳なさそうな顔をしながら赤兎を発現させ、大爆発や衝撃波が飛び交う嵐の中へと飛ぶ様に向かって行った。
雄太が入って行った嵐の中は、爆発や衝撃波がぶつかり合いながら相乗効果まで出ている始末で、少しでも気を抜けば連鎖的に衝撃波に襲われてしまいそうな過酷な状況だった。
もし、雄太がギルフォードを発現していれば、ギルフォードはこの嵐の中をアリアへと向かって愚直に進んでいただろうと言うことが容易に想像できた。
(とりあえず、この煩い爆発とウザい衝撃波をなんとかする必要があるな・・・)
雄太は自身のスキルを思い浮かべながら色々と方法を考えるが、流石はダンジョンマスターとでも言うべきか、最近ダンジョンマスターへとなったばかりのアリアであるが、先日戦ったザガン以上の力が見て取れた。
(確か、木下さんが元素爆発って言っていたっけ?ってか、元素ってなんだ?)
雄太は芽衣から得た情報を元に何かしらの方法を考えようとしたが、ダイバーになって日が浅い雄太には色々と分からない事だらけだった。
(とりあえず、飛ばすか・・・)
雄太は爆発と衝撃波を避けながらアリアへと向かって進みながら、腰にある短刀を抜き、自身の右手の膨張へと移動させた。
そして、短刀へと込めるのは、ザガンと戦った時と同じ様にスキルを付与しまくった炎龍。
炎龍を付与された短刀はみるみると形を変えていき、轟々と燃え盛る真っ赤な刀身の薙刀、朱雀が姿を現した。
薙刀が発現されると同時に雄太の眼前へと襲いかかってきた爆発へ向けて、雄太は右から左へ薙刀を振るい、眼前の爆発を切り裂いて薙払った。
(これは問題なくイケそうだな・・・)
薙刀で爆発を切り裂いた雄太は、長刀を右下へと構えながらアリアがいる宙へと向かって宙を翔けた。
空中は地面以上に爆発と衝撃波で荒れまくっており、雄太は瞬時に手にしている薙刀の刀身へと膨張を込め、鳳凰の方翼の様な姿の巨大で燃え盛る刀身を発現させた。
燃え盛る巨大な刀身を発現させた雄太は、右下で絞る様に構え、そのまま薙刀を右から左へと思いっきり薙払った。
雄太によって振られた薙刀の刀身から、まるで鳳凰の様な巨大な炎の斬撃が飛んで行き、雄太の眼前の爆発や衝撃波は一瞬にしてその身を散らしながら1筋の静かな道を作った。
朱雀の斬撃は、道を作りながら怒り狂っているアリアの元へと届くが、アリアの周りをグルグルと飛び回っている4色の光によって弾かれ軌道を逸らされた。
しかし、雄太は瞬時に朱雀で作った道を翔け抜け、アリアへと肉薄する。
「アリアさん!落ち着いてくれ!このままじゃアリアさんのリソースが枯渇するぞ!」
雄太はアリアを沈めようと声をかけるが、アリアは完璧に自我を失っているのか、声にならない声をあげながら、自身の周りを飛び回っている4色の光を雄太へと向かって放った。
雄太は手にしている朱雀で4色の光を切り裂こうと薙刀を振るうも、4色の光はその柔らかそうな見た目に反し、膨大な質量を持っているかの様に雄太の薙刀を弾くほどの硬さを持っていた。
「ぐぅぅぅぅぅ!」
雄太の薙刀とぶつかり合う4色の光は、まるで金属同士がぶつかる様な硬質な音を立てながら雄太の薙刀を怯む事なく打ち合っており、人を超越しているダンジョンマスターの全力は、雄太が赤兎を最大限に利用しても防ぐだけで精一杯であった。
「ぐぅっ!アリアさんっ!頼むから目を覚ましてくれっ!」
雄太と打ち合っている4色の光は、まるで雄太の命を刈り取ろうとするかの様に次第に威力と速度が上がっていっており、それに比例するかの様にスライムダンジョンの2層の天井を覆っていた爽やかな青空へと罅が入り出した。
暴走しているアリアは、スライムダンジョンのリソースをガリガリと削り取る様に4色の光へと使用している様であり、リソースを4色の光へと持っていかれたダンジョンの内装がボロボロと崩れ始めていた。
「クソぉぉぉぉぉぉぉ!このままじゃこのダンジョンが持たないぞぉぉぉぉぉぉぉ!いい加減!目を覚ませよアリアさん!このままじゃアンタが消滅してしまうぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
雄太は4色の光を朱雀で打ち返して抵抗しているが、4色の光は更に威力と速度を上げて雄太へと襲いかかり、雄太の赤兎へと徐々に被弾し始めた。
(ヤバイ!赤兎で防ぎきれねぇ!)
雄太は、4色の光によって削られまくっている赤兎へと瞬時に膨張を追加していくが、スキルを付与させまくっている赤兎は膨張の追加が追いつかなくなり、徐々にその身をすり減らしていった。
(なんて重い攻撃してくんだよ!?元素って一体なんなんだよ!?この件が納ったら木下さんに真っ先に問い質してやる!)
雄太は4色の光と打ち合うのを止め、朱雀を盾の様に扱いながら必死で襲いかかってくる4色の光を躱し始めた。
(このままじゃマジでジリ貧だぞ!?)
必死で4色の光を躱し続けている雄太だが、4色の光は更に加速して雄太へと襲い掛かる。
「クソ!こうなりゃヤケだ!」
雄太は4色の光から逃げる様に宙を蹴って上昇し、手にしている朱雀を横にして両手で柄を掴んで集中し、徐に手にしている朱雀を解除した。
雄太の手からは朱雀が消えて右手へと短刀を出現させて逆手で握り、左手の平を短刀の頭へと押し当てて再度集中し始めた。
「発現!土龍!【硬化】付与!【衝撃吸収】付与!【質量追加】付与!【全耐性】付与!【身体強化】付与!【分離】付与!【浮遊】付与!【超越】付与!」
集中している雄太の腕には、発現された土龍がグルグルと巻きついており、発現させた土龍へと次々とスキルの付与をする。
「膨張っ!追加ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、開いていた左手でギュウっと短刀を逆手に持っている右手を包み込むと、雄太の腕に巻きつく様に発現されていた土龍は、雄太の左手に握られた右手の中にある短刀へと吸収された。
「【造形変形】!鎧ぃぃぃぃ!玄っ武ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううう!!」
雄太が叫びながら短刀へと膨張を込めたのと同時に、雄太へと追いついたアリアの4色の光が、爆発と共に雄太の身体を包み込んだ。




