18. 超越と遭遇
雄太の考えでは昼までには奥に着けるかと思ったが、雄太が走る速度を上げた事によってスライムを吸収するタイミングが合わなくなる場合があり、それを修正しながら走った事で奥へと到着するのに少し時間がかかってしまった。
最奥へとあと少しと言う所で、雄太は、もし、またアーススライムがリポップしていた場合の事を考え、最奥の広場に到着する少し前で昼食をとった。
収納から昨夜余分に買っておいた弁当と飲み物を取り出して食べ、現在はタバコを吸って食休みをとっている。
ダンジョンでご飯を食べてる上に、こうして悠々と寛ぎながらタバコを吸っている俺って一体なんなんだろうな・・・
雄太は自分の行動が普通ではないと気づきつつも、できるんだから仕方ないだろ?と言った様な開き直った態度で、吸っているタバコの火を見つめながら赤腕で作ったソファーの上で寛いでいた。
「そう言えば」
無機物捕食って火や水もイケるのかな?
不意に何かを思いついた雄太は、収納からペットボトルの水とライターを取り出し、徐にその場でスキルの実験をし始めた。
まずは水からかな?
背中から発現させている膨張へと無機物捕食を追加し、そのままペットボトルの水をかける。
すると膨張はまるでスポンジの様に水を吸収していき、赤黒い色がみるみると水と同じ様な透明で水々しい見た目へと変わった。
水と同じ様な見た目になった膨張を触ってみても、雄太の手は濡れることはなく、まるで水の塊を触っている様な不思議な感触がした。
水の膨張の中へと手を突っ込んでみたところ、まるで水の中に手を入れている様な感覚がするのだが、水の膨張から手を抜いても雄太の手は全く濡れていない。
一緒に取り出したライターに火を灯し、灯された火を水の膨張で触れると、水が火を消す様にジュウと言う蒸発音と共に、ライターへと灯された火が消えた。
「何て言うか」
コレは水の塊だな・・・
この実験をしていて雄太は気づいたのだが、膨張へと無機物捕食を使って取り込んだ無機物の特性は、都度膨張へと対象の無機物を取り込まずとも発現でき、昨日の土龍もいちいち地面を取り込まずとも発現させる事が出来た。
これは、今後の為に色々と種類を増やしておくのも良いかもな。
そんじゃこのライターの火もやっておくか・・・
次の実験へと移る前に、雄太が今発現させている土龍と水の膨張 ー水龍と呼ぶ事にしたー を解除すると、昨日はあまり気にしていなかったのだが、土龍は砂埃の様に、水龍は霧の様に霧散した。
赤腕や普通の膨張は俺の中に戻っていく感じで消えるのに、無機物捕食をした膨張は消え方が違うんだな?
少し面白い発見をした雄太は、次の実験へと移る為に普通の膨張を発現させて無機物捕食を追加し、手に持っているライターの火で膨張を下から炙った。
すると膨張は、まるで火を嫌がる様にブルブルと震えながら体積を減らしてだんだんと細くなっていき、蒸発するかの様に消えてしまった。
「マジかよ!?」
膨張が消えたぞ!?
ってか、火は捕食できないのかよ!?
そう言えばスライムって火に弱そうだしな・・・
仕方ない・・・
もう一回やってダメだったら諦めるか・・・
雄太は、改めて無機物捕食を付与した膨張を発現させてライターの火で膨張を炙り出したところ、さっきと同じ様に膨張がだんだんと細くなっていく。
雄太は「やっぱりダメか?」と今にも消えそうな膨張を見て諦めかけたが、細く消えそうになっていた膨張の中が、まるでライターの火の様に少しずつ赤くなり、赤く染まりきった膨張は、グニャグニャと火が揺らめくかの様に体表の形を絶え間なく変えていき、見た目が完璧に火と同じ様になった。
「おぉ!?」
なんか知らんができたっぽいぞ!?
火の様にグニャグニャと揺らめく細い膨張は、火がついたり消えたりする様に体積を激しく増減させており、薄暗いダンジョンは、増減しながら光る膨張によって明るくなったり暗くなったりを繰り返す。
増減が収まって少し落ち着いたかと思った瞬間、目の前で揺らめいる膨張がいきなり爆発して燃え盛る様に膨れ上がり、その突然の光景に雄太は思わず驚いてしまった。
「うわ!?」
『スキルヲ獲得シマシタ』
「え?」
膨張を実験の為にライターで炙っていただけで1匹もスライムを吸収してない筈なのに、いきなり聞こえて来たスキル獲得の声に、雄太は思考が止まったかの様に固まった。
「・・・一体何が起きたんだ・・・」
雄太はいきなりの出来事で訳が分からないと言った思考の中、追加されたと言うスキルを確認する。
─────
橘花 雄太(25)
ユニークスキル:
【擬装】 (アクティブ)
-【収納】 (アクティブ)
-【超越】 (パッシブ) NEW
-【スライムスーツ】 (アクティブ) LV 3
<スライムグラトニーベース>
・身体強化 (パッシブ)
・同属察知 (パッシブ)
・同属捕食 (パッシブ)
・スライムナイト:硬化変形 (パッシブ) 衝撃吸収 (パッシブ)
・スライムソルジャー:斬撃変形 (パッシブ)
・スライムメイジ:膨張変形 (アクティブ)
・スライムスナイプ:狙撃変形 (アクティブ)
・スライムジェネラル:統率変形 (パッシブ)
・アーススライム:アースエンチャント (パッシブ) 土属性耐性 (パッシブ) 質量追加 (アクティブ) 無機物捕食 (アクティブ)
─────
スキルボードには、擬装へと新しく【超越】と言うスキルが増えていた。
なんだよこの【超越】って!?
言葉の響き的にこんな初期段階で獲得していいものじゃないだろコレ!?
色々とカンストした時に出るやつなんじゃねぇのコレ!?
雄太は超越と言う明らかに今獲得する感じでは無いスキルに吃驚しつつも、概要を確認する為にスキルについての説明をポップアップさせる。
─────
【超越】 (パッシブ)
獲得したスーツの種族弱点を克服する。
─────
「・・・・・・マジかよ・・・」
超越は雄太が思っていた内容とは違っていたが、同じくらいのヘビーな内容だった。
「・・・もしかして」
アレか?
俺が膨張に無機物捕食を使って炙ったからこうなってしまったのか?
って言うか、スライムって火に弱かったのかよ・・・
初めて知ったわ・・・
グラトニーは俺がゴミ捨て場で調合したケミカル爆弾で死んだしな・・・
アレも弱点って事になるのかな?
火を完璧に克服し捕食した膨張は、まるで炎の様にグニャグニャと揺らめいており、見た目はすごく熱そうな見た目へと変わっているのだが、雄太の横で大きくゆらゆらと揺らいでいる膨張は、雄太へと全く熱を感じさせる事がなかった。
こんな近くで炎みたいにゆらゆらしてるけど、全く熱く無いのなコレ?
と言って雄太は膨張の近くへと手を翳してみるが全く熱を感じなかったので、炎の様に揺れている膨張を触ってみたところ、何事もなく触る事ができた。
「なんだよ・・・見た目だけが変わったのかよコレ?」
と言って収納からタバコを取り出して口へと咥え、火を着ける様に膨張をタバコの先へと持っていくと、タバコはガスバーナーで火を着けたかの様に激しく燃えだし、一瞬で黒焦げとなった。
「ぶほぁっ!? 熱っ!? 熱っつぅ!?」
タバコを吸うと同時に尋常では無い熱さが口の中へと入ってくるのを感じた雄太は、熱さに耐えきれずタバコを勢いよく口から吹き出した。
どうなってんだコレ!?
想像以上に熱かったぞ!?
膨張で燃え盛ったタバコに吃驚した雄太は、炎を捕食した膨張の検証をする為に、収納からティッシュや弁当のゴミを取り出し、炎の様な膨張へと触れさせたところ、膨張が触れた物は全てが本物の炎で燃やされた様に燃えていく。
この実験から雄太は、膨張の炎は発現させている雄太自身への影響は全く無いが、雄太以外の物へは実物と全く同じ様に燃やして燃える、と言う事が分かった。
「ヤベーなコレ・・・」
弱点がなくなったどころじゃ無く、余計凶暴になってしまっているぞ・・・
これが超越って事か・・・
とりあえず、コレは炎龍って呼ぶ事にするか・・・
実験を終了させた雄太は、満足したかの様に再度収納からタバコを取り出し、ゆらゆらと蠢く膨張を使って火を着けてタバコを吸う。
「!?」
雄太がゆっくりとタバコを吸っていると、不意にダンジョンの奥の方から此方へと向かって来る足音が聞こえてきた。
足音は段々と近づいてきており、雄太は急いで膨張を隠す様に解除し、腰から短刀を抜いて向かってくる足音へと警戒をとる。
やがて足音の主の影が見え、雄太の前には、胸までありそうな銀髪ストレートを靡かせている、見目麗しく幼さが残る女性が現れた。
現れた女性は顔もさることながら、身体の線が細くも、出るところは出ていると言う完璧に整ったスタイルをしている。
その姿は、非の打ちどころがない誰もが美しいと思う様な容姿をした女性であり、雄太と視線が合うや否や、まるで鈴の音の様な凛として透き通る様な声で、笑みを浮かべながら積極的に挨拶をしてきた。
「こんにちは」




