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見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 1. 第4章 動き出す歯車 編
178/290

178. 最悪な結果

シスは雄太の横へと立ち、グルリと室内にいる面々へと視線を移して全員の顔を確認した後、平坦なイントネーションで口を開く。


「真っ先にマスターが望んでいました、このプレハブの増改築についてお話しをしたいのですが、私の独自の判断により、ソレとは別のお話からさせていただければと思います。申し訳ございません。マスター」


「はぇ?」


雄太は、いきなりのシスからの謝罪へと素っ頓狂な声をあげながら自身へと頭を下げているシスを見る。


いつもであれば、シスを発現させた雄太の要望を満たす様な情報を真っ先に出すシスなのだが、今回は何故か雄太の要望よりも先に伝えたい事があると言った様子で少し畏っていた。


「この話はマスターだけでなく、ここに居る皆様にも関わるお話となります」




!?




対象が雄太だけでないと告げたシスは、いきなり身体がモゴモゴと蠢き出し、左右で半々の黒と白の長い髪の毛のエルダを知的にした様な神秘的な女性へと姿を変えた。


シスの服装は真ん中から綺麗に右側が白、左側が黒と言う髪の色とは逆の色合いの和服姿となっており、いきなりのシスの変化に対し、雄太やスキルズも含めて一同が驚き息を呑んだ。


「ここからはシロシスも合流してお話を進めさせて頂きます」


シスからは、”この話は一言一句聞き逃さずに耳を傾けなければならない”と錯覚させられる様な重たい空気が放たれており、一同はシスの声へと集中する。


「皆様、ご存知の通り、現在この地球は、異世界の王国を乗っ取り、ダンジョン転移に乗じてこの世界へとやって来た、魔族達によってギルドを介して牛耳られています。私が尋問しておりました魔族の1人、アンドロマリウスは、ミディアとの門が未だに開かないこの地球へと、魔族を転生と言う形でスライムを元にした種へと召喚しておりました。この方法により、魔族は片道切符ではございますが、ミディアよりこちらの世界へと来る事ができておりました」


この話は、ここにいる者達、ギルフォードも含めて周知の事実であり、全員がシスの話に驚く事なく続きへと耳を傾ける。


「現在、この世界にいる魔族は、ギルフォードへと植え付けられた魔族も含めて10体がいました。マスターが捕えたり倒した魔族は6体、無害となったギルフォードを入れると7体の魔族が無力化されております。従って、残りは3体のみの計算となります。ここまでは宜しいでしょうか?」


全員が無言で頷く。


「そして、昨夜、マスターの部屋へと奇襲をかけようとした軍団の指揮を取っていた魔族は3体、そうすると、アンドロマリウスが言う様に、合計10体の魔族の存在を確認できた事になります」


シスの報告に対し、ギルフォードが待ったをかける。


「そんな筈はない。ギルドの最高司令である片桐、いや、マルバスが数に入っていないぞ!?」


ギルフォードは、シスの報告の中で、最重要人物が抜けている事に対して焦りを覚えた。


「そうです。 ギルフォードが言う様に、アンドロマリウスから聞き出した情報の中には、マルバスなるダンジョン転移と同時にやって来た、5大魔族の1人であるマルバスが、現在確認されている魔族達の中に入っていないのです」


「え?なんで?」


雄太は何故と言う様な疑問を浮かべた表情でシスへと視線を向けているが、木下、ヤリク、クレシアは、シスの報告に嫌な予感を感じたのか、眉間にシワを寄せて険しい表情となった。


「イエス。マスター。その通りです。この、魔族の数が合っていない状況について、私も何故と言う疑問が浮かびました。 そこで、更にアンドロマリウスへと尋問を続けたところ、この地球の危機的状況を知りました」


「なんだそりゃ?」


「それは・・・ ミディアの地球への転移です」




!?




シスが言葉を続けると、全員の思考がフリーズし無言となった。


「アンドロマリウスが言うには、魔族の転生、所謂、この世界への召喚は、異世界、ミディアをこの地球へと召喚、転移させる為の実験に過ぎなかったと言う事です」


「ま、待って!?そんなの無理でしょ!?異世界を別の世界へと召喚させるとか、一体、どれだけの魔力と場所が必要になると思っているのよ!私がこの世界を見て回った限りでは、この地球はミディアより小さいはずよ!そんなのが丸ごとこの地球へと召喚されれば、この世界は確実に崩壊するわよ!?」


クレシアがシスの報告へと反論するが、シスはソレへと答える。


「イエス。アンドロマリウスも同じ様な事を言っておりました。この世界を支配する為に、この世界を破壊しては本末転倒であると。なので──」 


シスは再度全員の顔を見回す。


「──異世界の一部を再度転移させる事にした──と」


「な!?」


「嘘だろ!?」


「そんな!?」


「外道が!!」


「はぁ?」


木下、ヤリク、クレシア、ギルフォードは、驚きと怒りが混ざり合っている様なドス黒い感情を剥き出しにしてシスを睨み、いまいちどう言う事なのか理解ができていない雄太は首を傾げながら横にいるシスへと説明を求める様な視線を向けた。


「木下様、ヤリク様、クレシア様、ギルフォードは、この言葉の意味をご存知かと。マスター。これは、50年前のダンジョン転移と同じです」


「え?」


「ですが、今回、異世界から転移して来るのは、ダンジョンではなく、異世界の一部です」


「そんな事ができる訳ないじゃないのよ!ダンジョン転移って言うのは、ダンジョンのコアを利用して、転移対象がダンジョンコアと密接に結びついているダンジョンだったからできていたのよ!ソレがどうやったらミディアの一部を転移させられるって言うのよ!そんなの、ソレこそ、そのミディアの一部がダンジョンの様にコアがないと!?──まさか!?──」


ダンジョン転移の被害者でもあるエルダは、シスの報告内容へと噛みつく様に反論するが、とある可能性が頭を過ぎった。


「──イエス。エルダ。ミディアにいる魔族達は、ミディアの一部をダンジョン化させました」


「うそ────でしょ?」


エルダの頭を過った可能性は、シスが口にした答えと全く一緒であり、エルダはその場へとヘナヘナと力なく崩れ、部屋のフロアへと腰を落とした。


「魔族は、ミディアにあるダンジョンのコアを全て持ち去り、ダンジョンを壊滅させました。そして、そのコアをミディアの一部地域へと再配置し、巨大なダンジョンへと変貌させました。アンドロマリウスはこの情報の経緯について、魔族をこの世界へと召喚する度に、種から転生させて口を聞ける様になった魔族から情報を得ていたそうです」


「最悪だな・・・これが意味する事は──」


「──魔族によるミディアの完全支配」


木下の言葉にヤリクが続く。


「イエス。アンドロマリウスもそう言っておりました」


「それで、その転移はいつなの?」


クレシアは最悪に備える為の情報を求める。


「次の満月の夜になると、アンドロマリウスは言っていました」


「え?それってそろそろなんじゃねぇか?」


昨日、スライムダンジョンから裏ギルドへと闇夜を駆け抜けて来た雄太は、夜空に浮かぶ月が半円になっていた事を覚えていた。


「って言うか、一気に話が飛躍したけど、その、ミディアの転移と、魔族が増えた事とどう関係があるんだよ?アンドロマリウスが俺に捕まった時は、この世界にいる魔族は10体って言っていたけど、今はソレより増えているって事だろ?」


「イエス。マスター。魔族の召喚はマスターが潰しました研究所で行われていましたが、使い魔以外の種は片桐へと渡していたとの事です。アンドロマリウスがマスターへと捕縛される前に片桐へと渡した種は、3つ。マスターが研究所を潰したあの日、1人の白衣の者とダンジョンの1層で会ったのを覚えていますか?」


「あぁ」


「あの日、マスターが会ったあの白衣の者が種を片桐へと届けたとの事です。なので、あの日、あの場には使い魔以外の種が無かったと言う訳です」


「マジかよ・・・」


雄太はシスの言葉を聞き、顔を上げ、何かを考える様に天井を見上げ、他のもの達も無言となり、全員が部屋の空気が重くなったのを感じた。


「どうにかして転移は止められないの?って言うか、魔族はどうやって巨大なダンジョンになったミディアの一部を転移させるの?」


しかし、その重い空気を破る様にミカが口を開く。


「ダンジョン転移の時と同じだろうな・・・」


「だろうね・・・アイツらがこの転移でどれだけの人間を犠牲にしたのか想像がつかないわ・・・」


ダンジョンの転移に深く関わり、自身もダンジョン内へと潜って転移を経験したヤリクとクレシアは、まるで、今度の転移の犠牲者を数える様に遠くを見つめ、互いの顔を見ずに言葉を紡ぐ。


「最悪だな・・・まだダンジョンに囚われている者全ての解放が終わってないって言うのに、更にどんだけの追加が来んだよ・・・」


雄太はアリアさんやダンジョンに囚われていた者達を思い出し、顔を歪める。


「多分、今回は囚われてる人は少ないと思うよ」


「なんでだよ?」


「そのままコアの栄養にした方が手取り早いからさ」


自身もコアを持っているダンジョンマスターであるヤリクは、効率についてを雄太へと淡々と告げる。


「それって・・・そうか・・・そう言う事か・・・」


雄太は舌打ちをして再度天井を仰ぎ見る。


「僕、思ったんだけど、あっちの世界からこっちの世界にダンジョンを転移させられるって事は、逆も可能なんじゃないの?」


ミカの質問にヤリクがため息を吐きながら答えた


「だな。普通はそう考えるよな?ダンジョンは異世界間を行き来できる乗り物ってさ」


「うん」


「ソレができないんだよ。こっちの世界からミディアへと転移する事が」


「なんで?」


「ダンジョンを向こうの世界へと転移させる為には、転移陣の作成と、莫大な魔力の確保が必要になる。ルカがいない今、転移陣の作成は不可能。それに、ダンジョンは、その存在を維持するだけでも多くの魔力、魔素を吸収しなければならない。しかし、この地球には魔素が少ない為、基本、ダンジョン内でモンスターに殺された者達をダンジョンへと吸収し、魔素へと還元させて魔素を確保している。逆に、ダンジョンでモンスターを倒したダイバー達は、その身へとモンスターの魔素を吸収して強くなっていく。だから、俺のリソースはかなり少ない状態だ。そんな中、どこかの馬鹿がガリガリと俺のリソースを削りやがったしな」


ヤリクは雄太を睨みつけ、雄太はサッと顔を背け、ヤリクから視線をずらした。


「じゃぁ、魔族はどうやって再度ダンジョン化させたミディアの一部をこの世界へと転移させる事ができるの?」


「ルカが宮廷魔導士達と作ったオリジナルの転移陣が向こうにはあるわ。魔族はソレを利用して、再度一方通行の道を開くつもりなのよ。そして、この世界で門の鍵を探し出すつもりなんだわ」


クレシアも雄太へと視線を移すが、雄太も再度違う方向へと顔を逸らす。


「この状態で魔族が鍵を手に入れたら、魔族はミディアの一部と言う巨大要塞で自由に異世界間を行き来できる様になってしまうわ・・・」


「まぁ、なんの犠牲もなく異世界間を行き来できれば、それは異世界間の交流って形で良い結果になるんだが、ダンジョンを転移させる為には沢山の魔力を必要とし、確実に犠牲が出るのは分かりきったことだ。しかも、魔族はこの地球を支配する気満々だしな。人間なんて、魔力と言う卵を産む鶏の様に家畜みたいに利用されるだろうな」


「って言うか、魔族の転移を食い止める方法を探さないと、次の満月以降、この地球や人類はどうなるのか想像もつかないわ。今は新たなダンジョン技術で生活が成り立っているから、最初のダンジョン転移の様に文明の崩壊って事にはならないとは思うけど、更なるダンジョンの転移によって、地球がどの様な状態になるのか、全く想像がつかないわ・・・」


クレシアは、何かを考え込む様に両手で口を隠して壁へと凭れかかった。



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