168. シス x シス
膨張に指示を出して近藤をベッドへと運ばせていると、芽衣を抱き抱えた木下を先頭にして、クレシアとミカが追随する様に雄太達の下へと歩いて来た。
「小僧。何故うちの芽衣はこうなったんだ?何故意識が無い様な容体なんだ?」
木下の質問に対し、雄太は寄生を使って芽衣の意識を飛ばした事を思い出した。
「あ、あれだ・・・日向さんと同じ様に、魔族の気に当てられて気絶したんだよ・・・多分・・・」
スライムダンジョン内で雄太が芽衣へとした事の全てを見ていたミカは、目を細め、鬼畜を見る様な目で自身のマスターへと白い視線を向けていた。
「ワシも元は勇者で、今も戦いに身を置いている者の端くれだが、魔族との戦いは、ワシよりも強い芽衣がこんなにもあっさりと気絶する様な程激しいものなのか?」
「激しいってモンじゃねぇなアレは・・・なんせ、ダンジョンの地形が変わる程の攻撃力で攻撃して来るんだぞ?俺もアレには何とか勝てたって感じだな・・・」
雄太はザガンとの戦闘で、自身の攻撃が尽く効かず、短刀を使ってやっと勝てたと言う事を思い出した。
「小僧がそこまで追い込まれるとは・・・相当激しい戦いだったんだな・・・」
「アレは、激しいなんて一言で終わらせられる様な戦いではなかったです。僕、芽衣さん、日向さんが無事に帰ってこれたのが奇跡だったかと・・・マスターがアレに勝てなければ、僕達は確実に終わっていました」
雄太の戦闘を離れて見ていたミカは、雄太の説明へと付け加える様に木下へとザガンとの戦いについて説明する。
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ミカが魔族との戦いを3人へと伝え終わると、3人は眉間にシワを寄せて険しい表情へとなっていた
「まぁ、ミカが言っている事は戦っていた当事者である俺とは違った感じ方だとは思うが、概ねそんな感じだな。ってか、信じられるか?いきなり怪獣映画みたいに巨大化したんだぜ?しかも、食らえば即死確実なドデカいビームまで放って来るときた。近づけば巨体に叩き潰され、離れたらドデカいビーム。しかも逃げればそのドデカい巨体が執拗に追いかけて来る。攻撃をしてもあの巨体の内側へは全く通らない。今回は本当に詰んだって思ったわ」
雄太はザガンと戦った感想を木下へと愚痴る様に伝えた。
「だが、小僧はその巨大な魔族を倒したと」
「あぁ。偶々、攻撃を通せられる手段があったから、何とか倒せたって感じだけどな」
「僕は、あの魔族も怪物だけど、それを倒したマスターもそれ以上に感じましたよ?」
「オマっ!?巫山戯んなよ!?あんなヤツと俺を一緒にすんじゃねぇよ!!」
「ミカ君の話を聞く限りではユータ君はその怪物以上だろ?なんせ、その怪物に君は勝ったんだろ?」
ヤリクは顎に手を当てながら、正確に魔族と雄太の力量を分析して回答する。
「だよねぇ?そんな怪物に勝ったんだったら、ユータ君の方が上ってことになるよねぇ?」
クレシアもヤリクの言葉に納得し、ミカと同じ事を感じたのか、ウンウンと目を瞑って頷き始めた。
「いや・・・人を何だと思ってるんだアンタらは」
「最強」
「化物」
「モンスター」
「魔王?」
雄太が呟いた一言へと、ミカ、木下、ヤリク、クレシアと、それぞれが雄太に感じた事を同時に口にする。
「オイ!?誰だ!今、魔王って言ったヤツは!?」
みんなが感じている雄太について、微塵も納得がいかない当人は、話を変える為にこれからの事について話始めた。
「さっき、ヤリクさんにも言ったんだけど、今夜と明日は此処に泊まって身を隠しながら近藤さんの回復を待つ。そんで、明後日の陽が昇らない内に、俺も含めた調査メンバー全員でスライムダンジョンへと戻る。多分これくらいがスライムダンジョン2層の調査にかかる時間と同じくらいになるだろう。戻ったら適当に少しだけ時間を潰した後にダンジョンを出る。今もスライムダンジョンに放置している捉えた魔族を生かした状態で連れてな」
「小僧。此処に身を隠して時間を潰す事については分かったが、何故、折角捉えた魔族を連れて行く必要があるんだ?」
木下は怪訝な顔で、雄太へと魔族を生かして連れて行く理由を尋ねる。
「1つ目は、魔族がこの世界に居ると言う事を世界へと周知する」
雄太は語りながら右の人差し指を立てる。
「ふむ。それについてはワシも賛成だな。奴らはこれまで自由に行って来た悪事と共に、その存在と実体を白日の下に晒されるべきだ」
「あぁ。そうだな。 それで、2つ目は・・・魔族の存在を白日の下に晒した俺を餌にして魔族共を煽って焙り出す──これは、俺が1体ずつ探しに行くのがかなり面倒臭いって事と、俺の平穏な日常を奪った恨みを晴らす為だ」
雄太は少し殺気を込めながら、追加で中指を立てた。
「「「「・・・・・・」」」」
雄太のイカれた恨みの晴らし方に対し、一同は言葉を失った。
「・・・ユータ君・・・君は相当狂っているよ」
「ルカ以上に狂っておるわ・・・」
「なんか、ルカが可愛く見えてくるね・・・」
「マスター!僕も戦うよ!」
雄太の話を聞いた木下は、とりあえず納得したのか、地面で無造作に放置されている日向と、自身の腕の中にいる芽衣へと視線を向けた。
「小僧の考えは分かった。 貴様とギルフォードは良いとして、共にダンジョンから出て来た力を持たぬ日向や芽衣も魔族によって粛清の対象として目を向けられるぞ」
木下は娘が可愛いのか、そんな危険な目には合わせられないと言った様な様子で雄太へとキツイ視線を向ける。
「まぁ、そこは何とかなるだろ。アンタの娘にはミカを常に付けているし、日向さんも男だから、魔族の襲撃くらい根性で何とかするだろうさ」
「雄太君はさっきから日向の扱いが雑だよね・・・今時根性とか、目に見えない何かすぎて、何の指標にもなってないんだが・・・」
ヤリクは、さっきから雄太に雑な扱いをされている日向が可哀想に思えてきた。
「適当な事を言うな・・・根性で魔族を倒せれば、世の中此処まで変わってなかったぞ・・・」
木下も雄太の適当な根性論に対して思うところがあった様だ。
「まぁ、とりあえず、俺の平穏を壊した魔族のヤツらは根絶やしにするって事は俺の中で決定済みだから。それと、近藤さんが起きたら色々と魔族について話を聞いてみるわ」
「貴様の気持ちも分からんでもないが、貴様の勝手に芽衣を巻き込むな。魔族を捉えたと言うのは、貴様とギルフォードと言う事だけにしておけ。それと、ギルフォードからできるだけ情報を聞き出すんだ」
「あぁ。それなら俺に分があるから楽勝だと思う」
「情報もいいけど、俺はまだギルフォードが魔族じゃないと言う事はあまり信じてないからな。ユータ君がしっかりと監視してくれよ。でないと俺の睡眠がまた・・・」
木下は芽衣を、ヤリクは自身の睡眠を心配しており、雄太の考えと近藤の監視についてしっかりと念を押す。
「それじゃ、ワシらはもう行くぞ。小僧も腹が減ったら下に降りてこい。飯くらいは出してやる」
「あぁ。ありがたい。一息ついたら顔を出すわ」
「それじゃまたねユータ君」
「何かあったら俺を呼ぶんだぞ、ユータ君」
「あぁ」
「マスター・・・僕は・・・」
「そうだな・・・此処はいいから木下さんの側にいて護衛でもしてろ」
「ハイ!ありがとうございます!」
ミカは嬉しそうに笑顔で雄太へと頭を下げてお礼をした。
ミカは木下に抱き抱えられている芽衣を追う様に走っていき、木下達と訓練場を一緒に去って行った。
「・・・さてと・・・先ずはアイツらか・・・」
雄太はプレハブの前へと水龍でのソファーを発現させて座り、収納から炭酸水を取り出して飲み始めた。
「一息ついたらタバコ吸いたくなったわ・・・此処って禁煙か?まぁ、怒られたら吸い止めりゃいいか」
雄太は収納からタバコを取り出して吸い始め、片手間と言った具合に地面へと膨張を発現させた。
雄太が発現させた膨張は、だんだんと人の形を作り出し、洋人形の様な黒いメイド服を着た、右側が黒、左側が白髪のエルダの様な女性を発現させた。
「シス。これ使っていいぞ」
『ロジャー。ありがたき幸せです』
雄太は、発現させた女性をシスへと与え、シスは雄太の頭の中から女性へと意識を移した。
雄太の前で目を瞑っていた左右の色が違う髪の色をしたメイド服の女性は、シスの意識が移った瞬間にビクンと一瞬身体を震わせた後にゆっくりと目を開けた。
女性の目は、髪と同じ様に右が漆黒、左が銀色のオッドアイであり、目を開いた女性はサッと雄太の前で片膝をついた。
「マスター。この度は肉体を頂きありがとうございます」
雄太の目の前にいる女性の格好をしたしたシスは、抑揚の無いか細い声で肉体を与えられたことに対して雄太へと礼を述べた。
「それで。このタイミングで私へと肉体を与えたのは何故でしょうか?」
シスは、片膝を突きながら顔を俯かせて下へと向け、雄太へと肉体を与えられたことに対し、淡々と思った事を質問する。
「オマエにやって欲しい事がある」
「ロジャー。何なりと」
「一つ目は近藤さんの見張りだ。いつ目覚めるかわからないから起きるまで見ていてくれ」
「ロジャー」
シスは、抑揚のない真っ直ぐなイントネーションの声でもって雄太の指示へと肯定する。
「それと、もう一つは、此処に捉えた3体の魔族の尋問だ。洗いざらいアイツらが知っている事を全て吐かせろ」
「ロジャー」
「オマエには膨張間を自由に移動できる権利を与える。それを利用してコピーの下へと発現しろ。俺もヤリクさんが何処に部屋を作ったのかが分からん」
「ロジャー。それでは行動を開始します」
シスはそう言うとスッと隙のない所作で立ち上がった。
しかし、立ち上がったシスの姿は、2体に分かれており、1体は黒髪の少女となってプレハブへと向かい、もう1体は白髪の少女となって雄太の前へと残った。
シスは、雄太が発現させた女性とは違い、まるで双子の幼い少女の様になっており、まるで雄太が作った左右の髪色が違う女性がそのまま分裂した様であった。
「それとシス」
「イエス。マスター」
「一つ聞きたい事がある」
「イエス」
「スライムダンジョンであのデカくなった魔族を喰った時にスキルを覚えたんだが、何か分かるか?」
雄太は、目の前の白髪で銀色の瞳の黒いメイド服を着た少女の姿をしたシスへと質問した。
「イエス。魔族はデビルスライムが基になっている為、デビルスライムの派生スキルとして新たなスキルを獲得された模様です」
「あのアンドロ何とかって魔族が言うには、色々な魔族がデビルスライムを基にして人体に召喚されてるんだろ?って事は、デビルスライムに召喚された魔族の種類だけ、俺が違う魔族のデビルスライムを吸収すれば、色々な違ったスキルが獲得できるって事か?」
「イエス。解釈としてはそうなります。実際、マスターも同じ種類のスライムから別々でスキルを獲得されております。スライムグラトニーも良い例かと」
「マジか!?」
シスは雄太の考えを肯定する様にコクリと首を縦に振った。
「では、私はコピーの下へと参ります」
「あぁ。頼んだ」
シスは雄太へと一礼した後、ズブズブと雄太が地面に展開させていた膨張の中へと沈んでいった。




