167. やっと使える!
「あぁ〜。もうそれでいいわ・・・ってか、俺の格好はどうでも良いんだよ・・・はぁ〜」
雄太は、自身と気付いてもらえなかった事に対してどうでもよくなり、残念3人組を見てため息を吐いた。
「どうでも良いって何だよ!?何だよそのバカにする様なため息は!?頭のおかしい格好で急に現れた上に俺の睡眠を邪魔しやがって!」
ヤリクは相当に激怒しており、マリモ頭を激しくワッサワッサとさせながら雄太へと怒声を上げながら睨みつけていた。
「小僧。ヤリクに謝っておけ」
木下は怒れるヤリクを羽交締めで抑えながら雄太へとヤリクへ謝る様に促した。
「はぁ?何でだよ?自分家みたいにいつでも来いって言ったのはギルドマスターのジジイだろ?」
「言った覚えがないぞ・・・そんな事・・・」
雄太の言葉に、ヤリクとクレシアはギロリと木下を睨みつけた。
「いや、本当に言っていないから!ワシはそんな事絶対に言ってないからぁぁぁ!ぐぇぇぇぇぇぇぇ!?ぐるじぃぃぃぃぃぃぃ!グレジアぁぁぁぁぁぁ!ワジのグビをじめるなぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”」
ヤリクを羽交締めにしている木下は、クレシアによって背後からギリギリと首を締められた。
雄太が悪戯が成功した様にニヤァ〜っと薄ら笑いを浮かべていると木下と目があう。
「ご、ごぞぉぉぉぉぉぉ!?ぎざまぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」
雄太の薄ら笑いを見た木下は、雄太にハメられたと言う事に気づいて怒りのボルテージを上げ、羽交締めにしているヤリクを力一杯締め上げた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!エージぃぃぃぃぃぃぃ!俺が死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!」
雄太は共に足を引っ張りあっているこの3人は、本当に異世界で勇者として、勇者のパーティーとして活躍していたのか怪しく思えてきた。
「まぁ、楽しんでるとこ悪いんだが──」
「「「楽しんでねぇ(ない)!」」」
雄太の言葉によって、3人は一斉に声を上げながら雄太へと狂気に満ちた顔を向ける。
「おぉぉぉぉぉぉ・・・」
狂気に満ちた3人の顔を見た雄太は、あまりの気迫に慄き一歩後ろへと下がった。
「クソ!それでお前は何しにここに来たんだ。今はダンジョンの調査中じゃなかったのか?」
木下は、クレシアに締められていた首へと手を当て、コキコキと首を傾けて骨を鳴らしながら雄太へと此処へと来た目的を聞く。
「あぁ、それな」
雄太は木下の問いに対し、ミカが立っている横で地面へと寝かせられている芽衣達へと向けて指を指す。
「あっ・・・め・・・芽衣ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
木下は孟ダッシュで地面へと横たわっている芽衣の下へと駆けて行った。
「め、芽衣ちゃん!?それに日向も!?」
「ユ、ユータ君!?君!一体、彼らに何をしたの!?」
鬼の様な形相で駆けつけて来た木下の気迫に対し、ミカは「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」っと声を上げながら背後へと飛び跳ねた。
「芽衣ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
雄太は親バカな木下を気にせずにクレシアの質問へと答える。
「あぁ、ちょっとな・・・ダンジョンの調査中にギルド連中の──いや、魔族か。それの襲撃にあった」
「「魔族の襲撃!?」」
雄太がクレシアとヤリクへと状況の説明をしている間中、木下は芽衣の身体を抱き抱えながら芽衣の名前をしきりに叫んでいた。
「そうなんだよ・・・アイツら、急に俺を殺しにかかって来やがった。って言うか、それより、ギルドのトップの近藤が重症なんだよ」
「「こ、近藤ぉぉぉぉぉ!?」」
ヤリクとクレシアは、首がネジ切れるのではと言う速さと勢いで、木下の足元でグッタリと横たわっているフルプレートの装備に身を包んで一際目立つ格好をしている近藤へと視線を向けた。
「あの人、どうやら種を植え付けられても魔族になっていなかったらしく、それを知った魔族によって始末?殺されそうになったんだよ」
「そ、そんなまさか!?」
「近藤ってアレよね!?」
「あぁ・・・ミディアで俺達と一緒に魔王を退けた王国所属の聖騎士──ギルフォードだ」
どうやら、ヤリクとクレシアは近藤が転生する前の姿を知っていたらしく、お互いに確認する様に情報をすり合わせていた。
「あいつは魔族側にいたんじゃなかったのか?」
「俺が近藤から直接聞いた話だと、何でも、その聖騎士って言う体質のおかげで、魔族に植え付けられた種を浄化しちまったらしい。それで、その事を隠し続けて魔族側に居続けて、ダンジョンに縛られた婚約者のアリアさんをずっと探していたらしい」
「アリアって、あのアリアの事か!?」
「多分そうよ。ギルフォードの婚約者って言ったら、孤児院の聖女アリアよ」
「まぁ、向こうで2人が何と呼ばれて何をやっていたかは分からないが、そう言う事らしい」
雄太は頬をボリボリかきながら、どうでも良いと言う様な顔で話を続ける。
「そんで、近藤に魔族の種が無いと言う事がバレていたらしく、この度、俺達と一緒に消されようとしてたって訳だ」
「え、でも──ギルフォードから近藤に替わってるじゃない!?それなのに魔族じゃないって言うの!?」
「あぁ、それも近藤から聞いた話なんだけど、植え付けられた種、自分の中にいる魔族を浄化した後に、種の性質?能力?の転生だけは使える様になっていたらしい。知らんけど」
雄太は近藤から聞いた話をそのままヤリクとクレシアに伝えるも、2人は要領を得ないと言った何かを考えている様な顔で眉間にシワを寄せた。
「それでも、彼は、この世界の人へと乗り移ったんだろ?」
「あぁ。らしいな。近藤が言うにはアリアさんを探し出す為に悪魔へと魂を売ったとか何とか言っていたが、実際、あいつがやった事は魔族と一緒だな」
雄太はヤリクとクレシアの背中越しに倒れている近藤へと視線を向けた。
「確かに・・・聖騎士ギルフォードと聖女アリアの事はミディアでもそう言う仲だったって事は知っていたけど・・・で、でも!実は魔族に乗っ取られていてユータ君に嘘をついているかもしれないよ!」
クレシアは、今まで敵であったはずの男を雄太が裏ギルドまで連れて来た事に対して焦りを覚えた。
「あぁ、その事についてだが、俺がスキルで見た限り、近藤からは種──スライムの気配は全く感じない。それに、もし、近藤が魔族に乗っ取られていたとしたら、いくら不意打ちとは言え、魔族の攻撃を簡単に食らうはずも、アレくらいの怪我であそこまで弱ったりはしないと思う」
「私たちを欺くための演技かも・・・」
「いや、もし俺が近藤だったら、いくら死ににくい身体になるとは言え、そんな事の為に不意打ちで背後から胸を刺されて剣が飛び出したり、背中からドテッパラに穴を開けられて地面に貼り付けにされるとか、マジでゴメンなんだが・・・」
「うう!?」
「え!?」
雄太から近藤が魔族にされた事を聞いたクレシアとヤリクは、目をギョっとさせて驚いた。
「って事で、それも含めて丸投げしようと此処に近藤を運んで来たって訳だ。って事で重症っポイんで、早いとこ直してやってくれ」
「またしても俺の睡眠が・・・クレシア・・・とりあえず頼めるか?」
「私は大丈夫だけど、直した後はどうするのよ?」
ヤリクとクレシアはどうしたものかと言った具合にお互いの顔を見つめあった。
「とりあえず、俺も今日は戦い過ぎて疲れたし、今晩と明日、1日は近藤の様子を見るために此処に泊めてくれ。明後日の早朝、日が上る前にはダンジョンへと戻る」
「こうなってしまったのに、君はダンジョンに戻って何をするつもりなんだ?」
「俺達がダンジョンにいないってなるとギルドに怪しまれるし、それに、1体、拘束したままの魔族をダンジョンに忘れて来た」
「今更だなぁ・・・君はもう十分に色々とギルドにバレてると思うんだけどなぁ」
「俺の気持ちの問題だよ。まぁ、俺にも色々と考えがあるんだよ」
「って言うか、魔族を捉えたまま放置してきたのかよ!?」
「あぁ。まぁ、その事については、スライムダンジョンのダンジョンマスターになっているアリアさんに言えば何とでもなるだろう。それに、あいつは餌だ。もっと魔族をおびき寄せるためのな」
雄太は、これからメインディッシュが運ばれて来るのを待っている時の様な顔をし、ニヤリと口角を吊り上げた。
「君は母親似の性格だな・・・」
「ホント、ルカそっくりだね・・・ショーゴは優しい性格だったのにね・・・」
ヤリクとクレシアは、同情と共に、雄太へと心底残念そうな視線を向けた。
「まぁ、とりあえず、近藤の治療を頼む。それと、俺に考えがあるから、ヤリクさんにはこれ以上迷惑はかからない筈だ」
「魔族の監視と尋問って言う理不尽な仕事を押し付けて僕の睡眠を奪っておいて、どの口が今更そんな事を言えるんだよ・・・」
「分かったわ。私がギルフォードを治すわ。その後はユータ君に任せて良いのよね?」
ヤリクは呆れた様に雄太を睨み、クレシアは近藤について雄太へと確認をした。
「あぁ。俺達はこの訓練場で寝泊りするからヤリクさんもクレシアさんも気にしないでくれ」
「・・・って言うか、君はあの魔道具を使いたいだけじゃないのか?」
「一体何を言っているんだヤリクさん」
雄太はヤリクに図星を突かれ、抑揚のない棒読みで平坦な口調で答えた。
「まぁ、僕の睡眠を邪魔しなければ何でも良いさ。って事でギルフォードは君に預けるよ?ちゃんと君が責任を取ってくれよ?」
「あぁ。連れて来たのは俺だから、その事については俺が責任を持って近藤を監視して対応する」
「ついでに、今いる3体の魔族に対しても同じ事を言ってくれないかい?」
ヤリクは訓練場の壁へと視線を向けながら雄太へと食いかかった。
「いや、アレについてもちゃんと1体付けただろ?」
「いや、君のコピー君なんだけど・・・ビーチで優雅にくつろいでいる時間の方が長かったよ?コピー君はただ鎖の先を握りながらビーチチェアで寝転がってただけで、尋問はほとんど俺がしてたんだけど・・・」
ヤリクからコピーの報告を聞いた雄太は、ビーチチェアで寛いでいたと言うコピーとは反対に、自身がスライムダンジョンで苦労しながら魔族と戦っていた事を思い返し、一瞬にしてコピーへと殺意が湧いた。
「あんのヤロぉぉぉぉ!!この事が終わったらガチでボッコボコにした後に、駄犬の姿へと変えてやる!」
ブぅえっくショイっ!?
「誰だ?俺の噂をしている奴は?」
雄太がヤリクからコピーの事を聞いている間、クレシアは近藤の下へと行って治療を終え、離れている雄太へと声をかけて来た。
「ユータく〜ん!ギルフォードの治療終わったよ〜!傷は全部塞いだけど、血が流れ過ぎていたから、安静にさせて起きたら何か食べさせて〜」
「了解で〜す」
「それと〜、日向は何で白目向いて泡吹いてるの〜?」
「あぁ〜っと、日向さんはそのまま放置で〜。ただ気絶しているだけで〜す」
「そうなんだ〜。じゃぁ、このまま此処に置いておくねぇ〜」
「いや、ちゃんとしたところで寝かせてやれよお前ら・・・」
雄太とクレシアの日向の雑な扱いに対し、ヤリクは真顔で突っ込んだ。
「そんじゃ、今日の宿を発現!っと」
雄太は治療を終えた近藤を寝かせる為に、寝室があるプレハブを2棟と、お風呂があるプレハブ1棟を収納から発現させた。
音もなく現れた3棟のプレハブを見たヤリクは、雄太のスキルを何度見ても慣れないのか、少し頬を引きつらせて呆れていた。
雄太はプレハブを発現させると、足元からスライムの様な膨張を発現させ、治療を終えた日向ををベットへと運ぶ様に指示を出した。




