166. さっさと気付けよ
地下駐車場へと降り立った雄太はミカを発現させた。
「ミカ。出てこい」
雄太の声と共に足元から地面へと膨張が広がっていき、広がった膨張はグググと上へと向けて蠢き始めた。
縦に伸びていく膨張は、まるで3Dプリンターで人間を造形する様に、脚、腰、胴、肩、腕と頭と言った様に人形に伸びて行き、やがてミカの姿へと変わっていった。
「流石マスター!あっという間ですね!」
「そんなことより、ドア開けてくんね。荷物が多すぎる・・・」
雄太は右に芽衣、左に日向、背中に近藤を抱えており、両手が完璧に塞がっていた。
「膨張使って開ける事もできるけど、この姿で厳ついドアマンのおっさんには声がかけずらい」
「了解です」
雄太の指示を聞いたミカが徐に右手の人差し指と中指を立てると、指と指の間から裏ギルドのカードが発現された。
カードを発現させたミカは、ドアへと翳し、裏ギルドへと続く扉を解錠し、ドアを押し開いて中へと入り、入ると同時に壁際へと身体をピタリとくっつけ、ドアが閉まらない様にドアが開いている状態で固定させた。
「マスター。どうぞー」
「わりぃな」
赤兎によって雄太は身長が高くなっており、腰を屈めてドアを潜る様な形で窮屈そうに中へと入る。
雄太が中へ入ると、ミカを先頭に通路を進み、ドアマンのおっさんが居るドアの前へと到着した。
ミカはドアをノックしてドアマンを呼び出し、ガシャっと言う音共にドアについていた小窓が開き、ギョロついた目がミカの顔を睨みつけた。
「ヒィ!?」
初めて地下駐車場の通路を通ったミカは、ドアの小窓から現れたギョロついた目に驚いて思わず声を上げてしまった。
驚いたミカを尻目に、雄太はミカの後ろからドアマンのおっさんへと声をかけた。
「俺です。橘花です。先日ぶりです。またまた急用なので、マスターのジジイとヤリクさん、クレシアさんへと至急連絡をお願いします。場所は訓練場で会う感じで」
少しも瞬きする事なく雄太が喋っている間もミカを直視し続けていた目は、ガシャンと言う音と共に締められたドアの小窓によって消えた。
「な、なんなんですかアレ!?」
「ドアマンのおっさんだ。無口だが結構優しくていい人だぞ」
「は、はぁ・・・」
ミカは雄太の要領を得ない答えに対して無理やり理解することしかできず、そのままドアと雄太に挟まれてる感じでドアが開くのを待った。
数分後、ガチャンと言うドアが解錠された音が鳴り響き、雄太は顎をシャクってミカにドアを開ける様に促した。
「お、おじゃましま〜っす」
ミカは雄太に促されるまま解錠されたドアを押し開き、恐る恐ると言った様子で中へと入った。
ミカが入ったドアの先には、鍛え抜かれた厳つい筋肉ではち切れんばかりのピチピチの黒いスーツを着た、これまた厳つい顔のおっさんが両腕を組んで立っていた。
「ヒィ!?」
「どうもで〜す」
雄太は再度身をかがめて赤兎のままドアを潜り抜けて中へと入ると、いつもは無反応なおっさんがギョロ目になってビクンと身体を震えさせた。
「あ〜。すみませんねぇ〜こんな格好で。ちょっと色々とあった上に急ぎだったもんでぇ」
雄太は、まるで宅配便が来た時にパンツ1枚で出て対応した様な感じでおっさんへと声をかけた。
おっさんは、まだ驚いているのか、目を盛大に見開いて瞬きもせずにギョロ目のままでコクリと小さく頷いた。
「ほら、オマエもビクビクしていないであの壁んとこに行け」
ミカは、ギョロリと見開かれ続けているおっさんの目にビクビクしており、雄太の声を聞いて雄太が顎で指す壁の方へと歩いて行った。
雄太とミカが壁際に立つと、おっさんはいつもの様にガシャガシャンと金網を下ろし、下へと続くボタンを押した。
ガコンと言う機械的な音と共に雄太とミカはちょっとした浮遊感に包まれて下へと降りて行った。
雄太達が下へと降りて行ったのを見届けたおっさんは、ブファァといった様に大きく息を吐き出して、ガフガフと激しく呼吸をしだした。
(一体何だったんだアレは!?)
下へと着いた雄太は、身体から膨張を伸ばして金網を持ち上げて開き、前に続く通路へと向かって歩き出した。
数分歩いたところで大きく開けた訓練場へと到着し、辺りをキョロキョロと見回した。
「おーい。ヤリクさーん。俺の声聞こえてんだろぉ?」
雄太は徐に何もない虚空へと向かって声をあげた。
すると、今まで何も無かった虚空へと、全身白尽くめのヤリクが引き攣った顔で姿を現した。
「ど、どうしたんだい・・・その格好・・・」
「いや、今日は此処を潰──」
雄太が何かを伝え終える前に、ヤリクはその場で膝を屈めて飛び上がろうとしたところ、雄太は身体から発現させた膨張の大きな手でもって、まるで子供の人形を掴む様にヤリクの胴体をムンズと掴んだ。
「!?は、離せぇぇぇぇぇぇ!!頼むから俺を離してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!俺は何も聞いてないし見てないぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ヤリクは雄太の言葉に対して嫌な予感を感じて逃げ出そうとしており、雄太に胴体を掴まれて宙に浮いている足をバタバタとさせた。
「他の2人と同じ様に、アンタも大概だな・・・」
雄太は目を細め、酷いものを見る様に呆れた様子でバタバタと暴れているヤリクへと視線を向けた。
「頼む!!頼むから今日は本当に俺に関わらないでくれぇぇぇぇぇぇ!!君が連れて来た魔族の監視のせいで、全く寝れてないんだよぉぉぉぉぉ!!」
雄太は、目の前で暴れながら己の欲望をだだ漏れで叫びまくっている、フワフワマリモの緑の髪のヤリクを捕まえている膨張の腕を手繰り寄せた。
「離せぇぇぇぇぇぇぇ!!離してくれぇぇぇぇぇぇ!!頼むから俺を静かに寝かせてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!俺の安眠を返せぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「「・・・・・・」」
雄太とミカが暴れるマリモにシラけていると、雄太達が入って来た通路とは違う、訓練場を挟んだ向かい側の通路から木下とクレシアが現れた。
「そんなに騒いでどうしたんだヤリク?一体何がふぁぁぁぁぁぁ!?」
訓練場へと現れた木下は、直立している赤いウサギの様なモンスターの様な何かに捕まって、ジタバタと暴れて喚き散らしているヤリクを見て盛大に驚き、
「ももももももも、モンスターが此処にぃぃぃぃ!?」
同じく雄太の姿を見たクレシアも盛大に動揺しだし、急な状況に何をして良いのか分からないのか、逃げるでもなく向かって行くでもなく、何故か両手を上げて同じところをグルグルと走り始めた。
「お、ジジイ。やっと来たか。クレシアさん。どもです」
「「しゃしゃしゃしゃしゃしゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
雄太が口を開いたことで、木下とクレシアは更に焦りだし、木下は何かを探す様にイソイソと自身の着ている服のポケットをパンパンと何度も叩き始め、クレシアは熊と遭遇したかの様にバタリとその場で酷い格好で死んだフリをし始めた。
「・・・異世界の勇者パーティー・・・ヒデー有様だな・・・」
雄太は木下達へと、まるで道端のゴミを見る様な視線を向けた。
木下達のあまりにも酷い有様を見た雄太は、残念な奴らを見る様にフぅ〜っと長い溜息を吐き出した。
「まぁ、皆んな来たし、もう、ここでもいいか・・・」
雄太は色々と考えるのを止めて、両腕で抱えていた日向と芽衣、背中の近藤をそっと地面へと下ろし、赤兎を解除した。
「な”ぁ!?」
「え”え”!?」
「イダぁっ!?」
木下はパンパンとポケットを叩いているのを止め、死んでいた筈のクレシアは、片目をこっそり開けていたのか、身体を盛大にビクンとさせ、膨張に掴まれていたヤリクは、雄太が急に赤兎を解除した事によって、地面へと尻で思いっきり着地した。
「こ、小僧?」
「ゆ、ユータ君?」
「急に離すなぁぁぁぁぁぁ!」
赤兎を解除した事によっていつもの姿を現した雄太の姿を見た木下とクレシアは盛大に驚いており、急に拘束を解かれて尻を強打したヤリクは何故か怒り狂っていた。
「俺だよ。さっさと気付けよ」
「「「気付くかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
残念極まりない異世界勇者パーティーの3人組は、綺麗に声を揃えて雄太へと声を上げた。




