150. 怪しい罠ともっと怪しい罠
10分後、雄太達はお決まりの様に真っ白で巨大な扉の前へとやって来た。
鬼達は、鎖を引きずりながらも扉の前へと歩を進め、白い巨大な扉を押し開いた。
いつもの様に大きな岩が動く様な音を立てながら開いた扉の中へと雄太達は我が家の様に堂々と入って行き、白い廊下を足早に歩いてコアがある台座の下へと到着した。
案の定、このダンジョンのコアも持ち去られており、持ち去ったのは王国軍 ─魔族─ と言う事が安易に想像できた。
「ここもダンジョンのコアはねぇな・・・って言うか・・・コレって絶対罠だよな・・・」
台座の上を見て、いつもの様に台座の後ろにいるであろうダンジョンへと囚われているものを見ている雄太は、表情を固めて真顔で鎖に囚われている者を見つめていた。
「絶対に罠よね・・・こんなのがアリだったら、もう、なんでもアリよね・・・」
「いや、実際は、見た目と違って穏やかな性格の持ち主かもしれないぞ?」
「そんな訳ないでしょ。どう見てもコレは罠よ。こんなのを解放したら、このダンジョンが地獄になる事は分かりきっているわよ。コレは、絶対に解放しちゃダメよ」
雄太達の視線の先には、額から厳つい2本の角を生やし、太い爪が鋭く伸び、鎖の間からは、何やら訳の分からない刺青の様なものが全身に見られ、今までのダンジョンに囚われていた者達とは違って、腕を胸の前でクロスさせ、身体を直立にして綺麗に仰向けで横たわっている魔族の様な者が居た。
「いや、そうは言ってもな・・・そういや、このままダンジョンに囚われている者を解放しなかったらどうなるのかって事、誰にも聞いていなかったな」
「多分、問題ないんじゃないの?1箇所くらい?って言うか、絶対にダメでしょコレは」
雄太は腕を組んで、地面で綺麗に横たわっている魔族の様な男を見下ろしており、エルダは何があっても大丈夫な様に、雄太の背後に隠れて顔を半分だけ出し、雄太と同じ様に魔族の様な男を睨んでいた。
「一旦、ジジイかアリアさんにここの状況を話して、後日対応って事でもいいんだが、そうしたら、マジでこのダンジョンに来るのが面倒臭いんだよな・・・位置的にもダンジョンの中身的にも・・・」
雄太は、眉間に皴を寄せて心底面倒臭そうな顔をし、どうした方が良いのかと考えながら天井を見上げた。
「じゃぁ、聞いてくればいいじゃない?スライムダンジョンの鎖ちゃんの下には置いて来た餓鬼がいるし、裏ギルドにはミカがいるじゃない」
「オマエ・・・天才かよ・・・」
雄太は上を見ていた顔を下ろし、驚いた様な顔でエルダを見つめた。
「普通・・・それくらい簡単に思いつくわよね・・・」
エルダは馬鹿を見る様に目を細めながら雄太をジーっと見つめた。
「そんじゃ、オマエはアリアさんのとこにいる餓鬼から発現して話を聞いてこい。俺はミカのとこでジジイから話を聞いてくるわ」
「りょうか〜い」
「そんじゃ、一旦、発現解除。 ──そんでもって、アリアさんとこの餓鬼の膨張を広げて・・・エルダ発現!」
雄太はエルダを解除した後に、アリアの側にいる餓鬼へと干渉して膨張を地面へと広げ、エルダをスライムダンジョンのコアの部屋へと発現させた。
「そんじゃ、シス。ミカに繋いでくれ」
『ロジャー』
雄太がシスへと指示を出して数十秒後、意思疎通でミカから声をかけられた。
『マスター。ご用ですか〜・・・』
「んん?」
聞こえて来たミカの声は、何故か酷く疲れた様なトーンであり、雄太はミカのトーンに疑問を持った。
「なんでオマエの声は疲れている感じなんだ?ってか、オマエはスキルだから疲れない筈だろ?」
『それよりちょっと聞いてくださいよ〜』
ミカはどこかのストレスが溜まったOLの様にいきなり愚痴り始めた。
『今日、明日のスライムダンジョンの調査の為の会議がギルド本部であったんですよ〜。それだけでも居づらいって言うのに、芽衣さんのお母さんや、ギルドの偉い人まで会議に参加して、スっごく緊張したんですよ〜』
「マジかよ・・・」
『しかもぉ、ギルドの偉い人は、終始、僕やコピーの事を殺気を込めて見まくっているし、芽衣さんのお母さんはコピーを強引に何処かへと連れて行こうとするし、それを僕と芽衣さんが止めたら、今度、正式に実家に連れて来いって言い出すしで、ドキドキしぱなっしでしたよぉ〜・・・』
「うわぁ〜」
雄太はミカの愚痴の様な報告を聞いてドン引きした。
『しかもぉ、ギルドの偉い人、え〜っと、なんて人だったっけ・・・あぁ〜・・・そうそう!近藤って人だ! とにかくその近藤って人が、会議の後に僕とコピーに別室まで来いって殺気をダダ漏れにさせながら言い出して、それを芽衣さんに相談したら、コレまた芽衣さんのお母さんが出て来て、まぁ、一応、そのおかげで近藤って人と別室には行かずに済んだんですが・・・』
ミカとコピーは、雄太の想像以上の修羅場に身を置いていた様だった。
『とりあえず、僕とコピーの正体はバレずに──って言うか、近藤って人に見られた瞬間バレてたと思いますが、とりあえず、あの場から無事に帰ってくることが出来ましたよ・・・』
「なんか、色々と酷いな・・・」
『酷いのはマスターだよ!俺、あの近藤って人に別室に来いって言われた瞬間、死を覚悟したんだからなっ!』
ここで、いきなり雄太とミカの話へと割り込む様にコピーが入って来た。
『何度マスターに声をかけようと思ったことか!でも、声をかけようとした瞬間に、俺が能力を使おうとしているのがバレてるんじゃねぇのってくらいに、いっつもあの近藤って人が睨んでくんだよ!ホント、どんだけあの場から逃げ出したかったか・・・うっ・・・うぅっ・・・』
コピーもコピーでストレスが溜まっているかの様に鬱憤を吐き出し、終いには泣き出した。
「泣くなよ!オマエは俺のコピーだろうがっ!一々そんな事で泣いてんじゃねぇよ!」
『泣きたくもなるわぁ!会議が終わった後の帰り際、近藤って人が俺とすれ違った時に何て言ったと思う!「明日は生きてダンジョンから帰れると思うなよ」って言いやがったんだぞぉっ!?俺、明日でみんなとお別れだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!なんで俺だけなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!チクショぉぉぉぉぉぉぉっ!! エグっ。グスっ』
「マジかよ・・・」
雄太はコピーからの報告を聞いて驚いた。
『マスター。明日はマスターが行かないと本当にヤバいっぽいよ・・・明日は、3人のランカー達と一緒に、その近藤って人も参加するんだよ・・・僕やコピーは、またマスターに発現してもらえばいいけど、芽衣さんや日向さんが本当に危ないんだよ・・・こちら側の陣営は、日向さん、芽衣さん、僕、コピーの4人。あちら側の陣営は、ランカーが3人とその近藤って人。何かあったら、明らかに戦力が足りないんだよ・・・芽衣さんも少しは強くはなったとは言え、僕とコピーで2人を守りながらあの戦力と戦うのは無理だよ。だって、近藤って人とランカーの3人から、スライムの反応がしていたんだよ・・・絶対にヤバイって・・・』
「あいつら、マジで殺る気満々じゃねぇか・・・」
ミカは雄太へと近藤達3人の事を伝えると、声がだんだんと小さくなっていった。
「シス、アンドロなんとかは、ギルドの責任者、近藤の序列は何位って言っていたっけ?」
『7位です』
「う〜ん・・・ミカとコピーだけでは厳しいと思うか?」
『イエス。芽衣さんと日向さんを守りながらでは、ミカとコピーが身体を張ったとしても、ダンジョンからお二人を逃す事は些か厳しいかと』
「ミカとコピーにスキルを全て付与し、全力で戦ったとしてもか?」
『イエス。スキルズの使うスキルは、オリジナルであるマスターが使うスキルより威力が落ちます。合わせて、魔族の7位がどれほどの力を持っているのか未知である為、ミカとコピーだけで芽衣さん達を守りながら戦うのは厳しいかと思います』
「うわぁ〜・・・なんだよそれ・・・」
雄太は新たなスキルに関しての性能を知り、心底面倒臭そうに顔を顰めた。
「そんで、今、オマエはどこに居るんだ?」
『・・・コピーと一緒にマスターの家にいます・・・』
「え?」
『だってさぁ、俺とミカ、ギルドの帰りからずっと跡をつけられてんだぜ。だから、ミカは裏ギルドには帰れねぇよ』
「え?木下さんや日向さんは?」
『木下さんはお母さんと一緒にどこかのホテルに行きました。日向さんは、このままスライムダンジョンに向かって、ベースバスに泊まるそうです』
「オ、 オマエらなにやってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!? ギルドの奴らに俺の部屋がバレてんじゃねぇかぁぁぁぁ!! 折角の俺の部屋がぁぁぁぁぁぁ!! ってか、今日はどこに帰ればいいんだよぉぉぉぉぉぉ!! こんなんじゃ今夜は部屋に帰れねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雄太は地面で横たわる魔族の様な男とエルダの事を完全に忘れており、ミカとコピーの報告に対して頭を抱えて泣き叫びながら地面へと膝をついた。




