149, 嘘だろ?
『シャァァァ──シャシャシャァァァァァァ・・・』
黄金の盾を手放したナーガは、盾で雄太の攻撃を防いだつもりであったが、盾を掻い潜って超えて来た雄太の攻撃をモロに食らってしまっていた。
そして、盾を超えて来た、灼熱に燃えたぎる10体の蠢く龍の高熱によって、身に付けていた身体中の黄金の装飾が、ジュゥジュゥと真っ赤に溶けて皮膚へベッタリとこべり着き、頭にかぶっていた黄金の冠もドロドロと溶け落ちて、左目を完全に塞いでいた。
しかも、8本あった筈の腕は、身体を守る様に顔や頭、腹を抑えてガードをしていたのだが、3本だけを残した全ての腕が炭化してダランと身体から黒い塊となってぶら下がっている状態だった。
『ぎっ、 貴様ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!』
みるも無残な姿へと変わったナーガは、雄太に対して怒り心頭であり、蛇の様に口を大きく裂き開いて憤怒を顕にし、最下層のフロアが揺れるのではないかと言う程の咆哮をあげた。
「俺が、このままオマエの反撃を待ってやるとでも思ってたのか?」
しかし、雄太はナーガが咆哮をあげている中、瞬時にナーガの顔の横へと向かって跳躍し、ナーガの冠が溶けて死角となっている左の横っ面へと【刺突】によって鋭さが、【質量追加】によって重さが加わった右の一撃を放った。
ドゴっ!
『ギャシャァァァァァァァァァァァ!?』
雄太の赤腕の重い拳がナーガへと突き刺さると同時に、雄太の腕からはソニックブームの輪が発生し、ナーガは雄太の勢いの乗った拳によって防御する暇もなく打たれ、地面に着いている蛇の下半身を軸にして直角に地面へと凄い速さでブっ倒れた。
ナーガを空中で殴り倒し、いまだに宙へと浮いている状態の雄太は、ナーガが倒れている地面へと向けてバッと右手を開いて呟いた。
「絨毯爆撃」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドっ!!
雄太が言葉を紡ぐと共に、地面へと展開させていた膨張から、巨大なナーガの身体を浮かす程の勢いの無数の火柱が上がり始め、雄太の膨張の範囲に入っているナーガの体は、まるでピアノの鍵盤によって下から突き上げられ叩かれている弦の様に、無防備の状態で身体中を爆破されながら打たれ続けていた。
『──キシャァァァ──』
地面から噴き出てくる無数の火柱によって突き上げられ続けているナーガからは、弱々しい呻き声が漏れ続けており、雄太が地面へと降り立つと同時に火柱はナーガを突き上げるのを止め、宙に浮いていた巨大なナーガの身体がドザぁっと重々しい音を立てながら重力に従って地面へと降り落ちてきた。
「「『・・・・・・』」」
雄太の、異常なまでの威力を持った連続した攻撃に対し、遠くから雄太を見ていたスキルズは、驚きのあまり完全に無言となって沈黙していた。
沈黙しているスキルズを尻目に、雄太は、自身の背後へと肉の塊が地面へと落ちる様な鈍い音を立てながら降り落ちてきたナーガへとクルリと身体を反転させて振り返った。
「これで終わりだ!熱線!」
雄太は、眼前で腕を伸ばし、左の掌と右の甲が重なる様に指を伸ばして重ね合わせ、マグマの様に赤く煮えたぎる両手の指を槍棘を利用して伸ばして格子状にし、両手の指がある程度の長さへと至ったところで両腕を勢いよく下へと振り降ろした。
斬っ!
網の目の格子状になった雄太の長く伸びている指は、まるで鞭の様にしなりながら地面で無残に倒れているナーガの身体へと食い込んでいき、巨大な身体をいとも簡単にサイコロ状に焼き切ってバラバラにした。
雄太の伸びる指によってカクカクのバラバラにされたナーガの身体は、斬られた端から燃え盛っていく粘つく炎によって捕食され、塵一つ残さずその身を消滅させた。
雄太は、ナーガの攻撃を一撃も受ける事もカスる事もなく、亜神である筈のナーガをあっさりと倒しきった。
──ガランガラン──
ナーガが肉体を消滅させたその後には、バスケットボール程の大きさの、歪な形をした青黒いコアが地面へと転がっており、雄太は残心させていた構えを解いて地面へと展開している膨張でナーガのコアを暴食した。
「ふぅ〜。亜神って言われていた割りには、あまり大した事なかったな・・・俺的に、まだまだ実験し足りねぇんだけど・・・エルダ。もう出てきていいぞ。ってか、オマエ。アレ、絶対亜神じゃねぇだろ?」
雄太はナーガのコアを暴食したと同時に鬼達の横へとエルダを発現させた。
しかし、エルダと鬼達は未だに動けずに目を見開いて驚きながら立ちすくんでいる状態で、雄太は赤兎を解除しながらスキルズの元へと向けてゆっくりと歩いて行った。
「オマエが亜神とか言うから少しは期待したのに・・・ホント、全然手応え無かったぞ・・・あれじゃ、亜神も魔族も俺にとっちゃ全く同じくらいの弱さだったぞ!」
雄太は色々と物足りなさそうな顔でボリボリとイラつく様に頭をかいており、エルダは雄太に声をかけられた事で思考がやっと動き始めた。
「・・・な、なんなのよアレ・・・あんな技、ユータは、一体、いつ、覚えたのよ・・・」
思考がやっと動き始め、辿々しく雄太へと答えたものの、エルダの視線は、未だにさっきまでナーガが居た虚空を見つめていた。
「あぁん?そんなの動きながら考えてたに決まってんだろ?オマエらと四六時中一緒に居て、俺のどこにそんな時間があると思ってんだよ?ってか、なんなんだよあの弱さは!図体がデカいだけだったじゃねぇか!」
雄太の言葉を聞いたエルダと鬼達は、ビクンと更に目を見開いて驚き、ゆっくりと首を捻って雄太を見つめた。
「あ、主ぃ・・・ワシ達が主と一緒にいる意味って、一体なんなのだ・・・」
「んん?そんなの旅のお供にきまってんだろ」
「主。我は、主と同じ事をやれと言われても流石に無理です」
「いや、オマエらもアレくらいやればできるって」
「で、できる訳ないわよ・・・いくらユータのスキルが進化して強化されたからって、わたし達には絶対にユータと同じ事は真似できないわよ・・・」
エルダと鬼達は、進化した雄太の凄まじさを目の当たりにし、雄太のスキルの異常さを身を持って知った。
「オマエらを発現させた俺ができるって言ってんだから、オマエらにもできるっつうの!って事で、今から急いで囚われている人を解放して、裏ギルドの練習場に行くぞ!ってか、何が亜神だよ!?俺が新しく考えていた技を出す前に死んでしまいやがったじゃねぇか!全然物足りなさすぎだわっ!全く持ってけしからん!」
雄太は自身の身体が想像通りに動き、自身で想像した通りにスキルを使う事ができていた為か、気持ちが高揚し、アドレナリンがでまくっていた。
「そ、そうだのぉ。ワシもアレを見た後では、気持ちが昂ってしょうがないわい」
「我も、主に当てられました。どこまでもお供いたします」
雄太の戦いに当てられた鬼達も、雄太と同様に気持ちが昂っており、両拳を力強く握り締めながら目をキラキラと輝かせていた。
「ユータ・・・あんた、やっぱりおかしくなってるわよ・・・確実に、ユータ1人だけでこの世界もミディアも滅ぼせるわよ・・・なんなのよアレ・・・亜神が何もできずに瞬殺じゃないのよ・・・」
「オマエは俺を一体なんだと思ってるんだよ!?なんなのその物騒な考えは!?ってか、あんな弱っちい奴が神な訳ねぇだろ!嘘つくならもっとマシな嘘をつけ!」
「いや・・・物騒なのはユータのその異常なスキルだから・・・アレは、何もできなかったけど、本当に亜神だったから・・・って言うかもぉ、ユータは人間なんて小指の先だけで瞬殺できるわよね・・・」
「いや・・・流石に人相手にコレはないだろ・・・そんくらい俺でも分かってるわ」
雄太はどこか気まずそうに目を泳がせながらエルダへと答えた。
「と、とにかく!さっさと解放しに行くぞ!シス!コアの部屋までの順路を出せ!」
『ロジャー』
シスは雄太のディスプレイへとコアの部屋までの順路を出し、雄太は、これ以上エルダに何かを言われる前にと足早にコアの部屋へと向かって歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!?」
エルダは、薄暗い中を足早に先へと進んでいく雄太と、3体の魔族がグルグル巻きにされている鎖を引きずって歩く鬼達を追いかける様に走り出した。




