144. VS魔族
雄太が膨張を発現し、鬼達が周りを警戒し始めると、シスから再度報告が来た。
『マスター。どうやらこちらへと向かって来ているのは魔族です。寄生が全く効いていないです』
「マジかよ!?寄生は魔族の体内に入ってないのかよ?」
『イエス。内側から浸食しようにも、種、デビルスライムによって全て駆逐されています』
「え?そんじゃ、このアンドロなんとかって奴はなんで?」
『それは、【縛鎖】によって直接縛り付けているからです。もし、寄生で浸食しようとしていたら、対処できていなかったと思われます』
「おうっ・・・とりあえず捕まえたのが功を奏したって訳か・・・」
『イエス。以前の裏ギルドマスターとの交戦を含め、魔族への寄生は今回が初めてですので、今後の対応へと繋げる事ができます』
「マジで厄介だな・・・ジジイん時みたいに、直接やるしかないって事なのかよ・・・はぁ〜・・・」
『イエス。現段階ではそうなるかと』
雄太は寄生が効かない受肉した魔族に対し、心底、面倒臭そうに眉間にシワを寄せてため息を吐いた。
『マスター。来ます。3層へと魔族が到着しました』
雄太は落胆している暇もなく、シスは雄太へと魔族が同じフロアに来た事を告げた。
「とりあえず、展開している膨張から槍棘を出して威嚇しろ。槍棘の中に縛鎖を混ぜて、捕まえられる様なら捕まえて動きを止めてくれ」
『ロジャー』
雄太はディスプレイに映る種、─デビルスライム─ のアイコンが現れた方へと戦闘態勢を取りながら身体を向けた。
雄太のディスプレイに映るアイコンは、今まで見たこともない様な速さでジグザグに動きながら向かって来ており、雄太はシスへとスキル発動の指示を出した。
「やれ!」
『ロジャー』
雄太の合図と共に、シスは地面へと展開している膨張から縦や斜めに無数の槍棘の枝を突き出し、静かだった研究施設内からは多くのガラスが割れる音が鳴り響き始めた。
『マスター。槍棘と縛鎖が尽く躱されたり切られたりしております。爆炎を使用し足を止めます』
「あぁ。思う存分やってくれ。っていうか、アレを躱すとかバケモノかよ・・・」
雄太の前方では無数の槍棘が瞬時に突き出しており、雄太は槍棘のトラップを躱しながら向かってくる魔族に対して信じられないモノを見る様な目を向けた。
雄太が槍棘を飛び跳ねながら躱して向かってくる2体の影を見ていると、2体の着地を狙ってシスが爆炎の火柱を上げた。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「ガハァっ!?」
「クソがっ!一体どうなってやがんだっ!?このフロア中が罠だらけになってんぞ!?」
激しく飛び跳ねていた1体はシスの効果的な爆炎をギリギリで躱しているが、もう1体の方は着地と同時にモロに爆炎の餌食となって3層の天井へと身体を激しく叩きつけられていた。
「お?1体まともに食らった様だな?」
いくら2体が化け物じみた動きをしていても、雄太にはまだまだ余裕がある様子で2体を観察する事ができており、爆炎を躱した1体は、まるで空を翔る様に槍棘と爆炎を躱しながら雄太の方へと向かって来た。
「見つけたぞぉぉぉっ!テメーがこの罠を仕掛けたクソヤローかぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄太の前へと現れた声の主は、錫杖の先が鋭利に尖った変わった槍を持ち、袈裟の様な宗教的な服装のチャラそうなスキンヘッドの若い男だった。
「テメーっ!生きてここから帰れると思うなよクソがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スキンヘッドの男は雄太と目があった瞬間からブチキレており、見た目や服装とは全く逆の荒々しい装いだった。
スキンヘッドは雄太へと視線を固定しながらも、まるで見えているかの様に軽々とシスが放つ槍棘や爆炎を躱し続けており、雄太はその光景に少し驚いていた。
「おぉ〜。アレを躱せるのかよ・・・」
「黙れカスがぁぁぁぁ!躱さなきゃ俺様が死ぬだろうがぁぁぁぁ!!常識でモノを言え常識でぇぇぇぇ!!」
シスの追撃を躱し続けているスキンヘッドは、動きながら錫杖の様な槍をグルグルと両手で回し始め、何やらブツブツと経文の様な言葉を呟き始めた。
「いい加減ウゼェーんだよっ!!【黒眼】っ!!」
スキンヘッドがスキルを発現させると、グルグルと回している錫杖の外側へと、まるで時計の数字の位置と同じ様に12個の黒い目が現れた。
突如として現れた黒い目は、まるで実態がないかの様に偶にノイズが走って実態がブレており、ジジジジっとノイズを走らせながらゆっくりと目を開き始めた。
「コレでテメーは死んだからなっ!って言うか、俺様に向かってこんなクソみてぇな事している時点で、テメーの死は決まってんだよぉぉぉ!!」
開眼した黒い12個の目は、まるで曼陀羅の様にスキンヘッドの背後へと移動し、何かの模様を描く様にカクカクと動き始めた。
『シス。アイツが何か始める前にもっと手数を増やせ。スライム弾も使って効果的にアイツを狙撃しろ』
『ロジャー』
雄太の指示の通り、シスは更に槍棘と爆炎の数を増やしてスキンヘッドへと嗾けるが、スキンヘッドは、まるでシスの突発的な攻撃が見えているかの様に全てを躱していた。
「いくら手数を増やしてもテメーの攻撃は見えてんだよぉぉぉぉ!!」
『シス。今だ』
シスは雄太の合図と同時に、スキンヘッドの左側の死角からスライム弾へと刺突を付与した弾でヘッドショットを放つも、スキンヘッドは、シスが放ったスライム弾をノールックで後ろへと顎を引いてスウェーで躱した。
「アレも躱すのかよ!?」
「だからっ!当たったら俺様が死ぬっつってんだろぉがぁぁぁぁ!!そんなモン、躱すに決まってんだろぉがっ!クソがぁぁぁぁぁ!」
スキンヘッドはシスの攻撃を躱しながら段々と雄太へと接近して来ており、雄太まであと4mと言う所で、錫杖を右手で矢を引く様に引き絞り、鋭利な先端を雄太へと向けて構えた。
「って事でテメーは死んでろっ!【葬送】っ!」
スキンヘッドがスキルを称えると、錫杖の先から12個の黒い点の様なものがコレまた時計の数字の位置で現れ、錫杖に付いている丸い輪がチャリンと鳴ったのを合図に、12個の黒い点から、まるでレーザービームの様な黒い線が雄太へと向かって一斉に放たれた。
「げっ!?土龍!3重!」
雄太は、黒い線を全て躱すのは無理と悟り、咄嗟に地面へと展開させている膨張から土龍の大盾を3重にして発現させた。
黒い12のレーザービームは、雄太が発現させた分厚い土龍の盾を2枚まで貫き、最後の1枚でギリギリその姿を消滅させた。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁ!?巫山戯んなよ、こんクソがぁぁぁぁ!!テメーは黙って大人しく逝っとけやぁぁぁぁ!」
雄太が土龍を発現させている間もシスの猛攻は手を止めておらず、スキンヘッドは全ての攻撃を躱しながらも、雄太が発現させた土龍の盾によって自身の攻撃を塞がれた事に腹を立てていた。
「あっぶねぇなオイっ!あんなん食らったらマジで即死じゃねぇかっ!」
「殺す気で撃ってんだからテメーは大人しく死んどけやっ!」
「俺に殺す気の攻撃をしたって事は、オマエも同じ事をされても文句はねぇはずだよなぁ!」
「俺様がテメーごときにやられる訳ねぇだろボケェ!ナニ夢見てんだよてめぇわっ!キモい指しやがって!さっさと死ねやキモ指ぃぃっ!」
「てんめぇ・・・」
雄太はスキンヘッドによって真っ青になっている指を指摘され、腰の横で両拳を握りしめて、フルフルと身体を震わせて飛び回っているスキンヘッドを睨みつけた。
「指は・・・指は関係ぇねぇだろうぉがぁぁぁ!!」
雄太が大声をあげると共に、地面へと展開させている膨張から無数の赤腕が、グネグネグニョグニョと蠢きながら発現し、飛び跳ねているスキンヘッドへと向かって、スキンヘッドを取り囲む様に一斉に襲いかかって行った。
「ふっ!?──」
スキンヘッドは、雄太が発現させた無数の赤腕が縦横無尽に隙間なく自身の周りへと展開している異様な光景に対し、迂闊にも一瞬動きを止めてしまった。
「──巫山戯んなよテメェー!?なんじゃそりゃぁぁぁぁ!!」
「あのツルッツルの毛一つ残さず喰らい尽くせ」
雄太は殺気の篭った射殺す様な目つきでスキンヘッドを睨みながら、スキンヘッドを逃さない様に360度包む様な形で展開している赤腕へと向けて指示を出した。




