142. 種
シスの報告と鬼達が持って来た罠を見た雄太は、急いで下の階層へと向かう事にした。
「このダンジョン、何かがおかしい。急いで下へ向かうぞ」
「「はっ!」」
「シス。下までの経路を」
『ロジャー』
雄太のディスプレイへとシスが経路を指し示す矢印を表すと、雄太は矢印に沿って木が鬱蒼と生え茂っているジャングルを進み出した。
「主ぃ。まだ罠があるかもしれませんので、ワシ達が前を進んだ方が良いのでは?」
「ん〜・・・問題ない。膨張で先に罠をぶっ壊した方が早い。シス。膨張を展開させて先に罠を潰しておけ」
『ロジャー』
雄太の指示により、シスは雄太の足元から大量の膨張を発現させ、下へと続く経路上の罠を捕食していった。
膨張によって雄太の経路上の罠は全て捕食され、雄太達は速度を落とさずに下へと続く階段へと辿り着いた。
雄太達が降りていく階段は、いつも通りの静かで薄暗い螺旋型の階段であり、それと言った罠などもなく、足早に階段を降りて行った。
「なんだこりゃ!?」
「な、何よコレ!?」
何事もなく2層へと着いた雄太達の目には、先程のシスの報告の様に夥しい数のスライムが居たが、シスが言うように牧場と言った様子ではなく、まるで巨大なガラスのプールへとパンパンに詰め込まれた状態の沢山スライムが目についた。
ガラスのプールの中にいるスライムは、スライムダンジョンの1層にいた、至って普通のスライムであり、ガラスのプールの中にはスライムの核が無数に蠢いている事から、この巨大なガラスのプールには多くのスライムがいる事が窺い知れた。
ガラスのプールの中にいるスライムは、隙間なく詰め込まれている為か、まるで無数のコアを持った1体のスライムの様に見え、青い粘液の中をコアが泳ぎ回っている様にも見えた。
そして、無数にある巨大なガラスのプールの一角には、まるで、ウォーターサーバーの様な大きめの蛇口の様なダクトが付いており、そこからスライムを抽出できる様になっているのか、ダクトの口の周りには、青い粘液がベトベトとへばりついていた。
「・・・牧場じゃなくて、スライムタンクだろこれは・・・」
「なんなのよコレ!? 一体、誰がなんの目的でこんなにスライムを集めてるのよ!? しかも、コレじゃまるで、スライムを養殖している感じじゃないのよ!?」
元々スライムだったエルダは、この異常な光景を見て驚いており、雄太も同様に、ダンジョンの中にある、人工的な沢山の巨大なガラスのプールが設置されている光景に言葉が出てこなかった。
「シス。餓鬼を発現させてこのスライムを全て吸収させろ。 ラセツとヤシャは、餓鬼達が吸収した後にコレらを全て破壊しろ」
『ロジャー』
「「はっ!」」
雄太の指示によって、シスは雄太の足元から地面へと向けて膨張を広げ、地面へと広がった膨張から100体の餓鬼がムクムクと身体を持ち上げる様にして現れた。
膨張から現れた餓鬼達は、4体1組となってガラスのプールへと向かって行き、ガラスの頂上まで登ると、そのままスライムのプールへとだいぶして行った。
青いスライムのプールへと飛び込んだ餓鬼達は、まるでスライムのプールを泳ぐ様にしてどんどんとプールの中のスライムを吸収して行き、プールの中のスライムを吸収し終えると次のプールへと向かって走り出した。
餓鬼達がスライムを吸収し終えたタイミングで、ラセツとヤシャは、ガラスの様なもので出来ている透明なプールを拳で殴ったり金棒で叩いたりと盛大にぶち壊し始めた。
餓鬼達が吸収したスライムは、普通のスライムだった為か、雄太へと新たなスキルの獲得は見られず、膨張が増えたりスーツのレベルが上がるだけとなっていた。
1時間後、全てのスライムを吸収し終えた餓鬼達は、シスによって発現を解除され、赤黒い身体が粒子となって消えて行き、鬼達も全てのガラスのプールを壊し、雄太の下へと戻って来た。
「そんじゃ、次いくぞ。シス。経路の発現を頼む」
『ロジャー』
プールの残骸だらけとなった2層を後に、雄太達は3層へと続く階段へと向かい、鬼達を前にして3層へと降りて行った。
降りている3層へと続く階段には、歩くのを邪魔しない程度に下へと向かって2本のダクトが伸びており、ダクトは先程雄太達が潰した2層のプールと繋がっていた。
「あのスライムを下へと送っているのか?」
雄太達はダクトを追う様に下へと降りて行き、3層へ到着した所で自身の目を疑う様な光景が現れた。
「マジかよ・・・」
「嘘でしょ!?」
3層へと降り立った雄太達の目には、直径、高さが共に30cm程の無数の筒が並んでおり、筒の中には、透明な培養液の様な中を、1つの黒いオタマジャクシの様な何かがゆらゆらと泳いでいた。
「これって、デビルスライムだよな・・・」
『イエス。マスター。同属察知でもデビルスライムと確認出来ております』
雄太達はこの異様な光景のフロアの中へと歩を進めて行くと、何かの魔法陣の様なものが地面に描かれている、一際異質な開けた場所が現れた。
「なんだコレ・・・」
「どう見ても何かの魔法陣よねコレ・・・一体何の為に・・・」
雄太達が足元に広がる直径1m程の魔法陣を眺めていると、奥の方から人の声が聞こえて来た。
「一旦隠れて様子を見るぞ【隠密】」
雄太は自身の身体とスキルズの身体を隠密で隠し、物陰へと隠れた。
「一体どう言う事なんだ!スライムタンクからの供給が止まっているぞ!誰か上の階を見て来い!」
「は、はいっ!」
「クソ!やっとこの世界でも大量生産が出来る様になったと言うのに!このままでは多くの同胞達を召喚できなくなるではないか!急いで上を確認して来るんだ!」
「はいっ!」
白衣を着た神経質そうな40代に見える男は、若い白衣を着た男へと指示を出しながら、先程迄雄太達が眺めていた魔法陣の方へと向かって歩いて行き、若い白衣を着た男は走って2層へと続く階段を駆け上がって行った。
「よし。ここは何事も無さそうだな・・・一体、急にどうしたと言うんだ・・・まさか、何者かが侵入したのでは!?・・・いや・・・2層迄来るには、アレを植え付けられたモンスターと罠を突破する必要がある。モンスターにも人間は捕まえる様に指示しているから、そう簡単に下層へと降りて来れる筈がない」
白衣の男は、腕を組み、顎に手を当てて何かをブツブツと呟き始めた。
『おい。どう思う?アイツ、ここの責任者っぽいぞ』
『捕まえて尋問するのが宜しいかと』
『ヤシャの言う様に、尋問にはワシも賛成です』
『そんじゃ、取り敢えず、縛鎖で縛っちゃおうよ』
『マスター。縛鎖を発現させますか?』
『そうだな。そんじゃ、アイツを捕まえてくれ』
『ロジャー』
雄太とスキルズ達が意思疎通で脳内作戦会議を終えると、雄太の足元から隠密で不可視となった膨張の鎖が、白衣の男へと伸びて行った。
「あがっ!?」
縛鎖が伸びて白衣の男の身体へと纏わり付くと、男は軽く呻き声を上げた瞬間、意識が飛んだ様に目から輝きを失い、両手を下げて棒立ちになった。
『マスター。捕縛完了です』
シスの合図と共に、雄太達は隠密で姿を消したまま白衣の男へと近寄って声を潜めて質問し始めた。
「オマエは誰だ」
「私は 葛西 修」
「オマエはここで何をしている?」
「ここで種を製造している」
「種とはなんだ?」
「種とは、ミディアから召喚した同胞、魔族達の受け口だ」
!?
雄太達は、この葛西 修と言う男の話を聞いて驚き、瞬時に木下の事を思い出した。
「同胞と言う事はオマエも魔族なのか?」
「あぁ。私も種を人の身体へと植え、芽吹いた者だ」
「オマエの魔族名はなんだ?」
「私の名はアンドロマリウス」
「以前、勇者へと種を植え付けたのもオマエ達か?」
「あぁ。 あれは実験段階の種だ」
「勇者に植え付けた種にもオマエの様な悪魔が入っていたのか?」
「あれは、実験的に使い魔を入れた種だ。私達、名のある魔族の種ではない」
「あれが使い魔!?ってか、名のある魔族ってなんだよ!?」
雄太は異形になり、力が増していた木下を思い出し、アンドロマリウスが言う実験的な使い魔と言う言葉に驚いた。
「あの力で使い魔って言うのかよ!?そもそも、勇者の肉体を使い魔へと与えても良かったのか?」
「問題ない。 種が芽吹き、受肉をする事ができれば、器がなんであろうが然程問題ではない。 重要なのは短時間でタネが芽吹き、肉体を得られるかどうかだ。 肉体のポテンシャルやスキルに関しては良い受肉先ではあったが、あの勇者は失敗作だ。種と肉体があっておらず、勇者のスキルしか使えなかった」
「マジかよ・・・」
雄太は、爆発的に能力が上がっていた、あの木下ですら失敗作として扱っているアンドロマリウスの物言いに対し、背中から嫌な汗が流れて来た。




