138. 無形の王
雄太の両手の指先は、第一関節から爪先にかけて真っ青なターコイズブルーに染まっており、まるで、どこかの民族の様な見た目になっていた。
「指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!俺の指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雄太は両手を眼前で広げて凝視しながら叫び出した。
「どうしたのよユータっ!?何をそんなに叫んでるのよ!近所迷惑じゃない!」
「指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!俺の指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雄太はキッチンから駆け寄ってきたエルダへと自身の掌を見せた。
「ちょっ!な、何なのよ一体っ!? 指がどうし── うわぁ〜・・・」
雄太がエルダの眼前へと差し出した雄太の両手の指先を見たエルダは、可哀想な、気の毒そうな者を見る様な目で雄太の指先をマジマジと眺めた。
「俺の指先が全て青くなってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!一体何なんだよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雄太の指先の青は、まるでスライムの様な青さであり、爪や爪の中までもが青くなっていた。
『マスター・・・多分、コレが進化した副作用かと・・・』
「え?」
シスの声を聞いた雄太は、驚愕した表情のまま動きが固まった。
「なんか、スライムみたいな青だね?」
「え?」
「ヒィィィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
エルダのスライムみたいだねと言う言葉を聞いた雄太は、ギギギギギと音がなっているのではと錯覚させられる程、まるで古くなったロボットの様にゆっくりとエルダへと顔を向けた。
「マスター。なんか、その指先、少し透けてね?」
エルダと一緒にキッチンからやって来たコピーは、雄太の指先をマジマジと見て思った事を口にした。
「え?」
再度、古くなったロボットの様に自身の指先へと向けて顔を向けた雄太は、コピーが言う様に、自身の指先がまるでスライムの様に少し透明になっている事に気付いた。
「グハァぁぁぁ!?」
触感は人間の指そのものだが、見た目がスライムの様に半透明になってしまっている指を見た雄太は、両手両膝をフロアへとつけて崩れ落ちた。
「え?ユータ。スライム化したの?プっ!プププププっ! あれぇ?ユータぁ?スライム化しちゃったのぉぉぉ?プププププププププっ!ブフぅっ!プププププっ!」
エルダは両手で口を抑えてフロアへと崩れ落ちている雄太を見下ろして笑いを必死に堪えていたが、雄太がヘコんでいる姿を見て色々と耐えきれなくなったのか、笑いを堪えるのを止めた。
「ブプぅっ! 罰よ!やっと雄太に天罰が降ったのよ! コレを機に色々アレコレ、わたしへとしてきた今までの悪行を悔い改めるがいいわっ! ギャぁぁっハッハッハッハッハッハッハッ! ザマァ!まさしく、ザマァミロだわ! ギャぁぁっハッハッハッハッハッハッハッ!アラアラ?ユータさん?良い気味ザマスわね? ギャぁぁっハッハッハッハッハッハッハッ!」
エルダはフロアへと崩れ落ちて意気消沈している雄太を見て、まるでマウントを取って勝ち誇ったかの様に、左手で腹を押さえ、右手でビシッと指を指しながら腹の底から盛大に笑っていた。
下を向いている雄太の目には、否が応でも自身の両手が視界に入っており、指先が視界に入る度に、雄太は何か失ってはいけないモノを失った気持ちになってしまった。
「・・・最悪だ・・・こんなのマジで最悪だ・・・スキルを喰われるわ、指を喰われるわで、マジで最悪だよちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
雄太は悲しみが一周してしまったのか、泣きたくても涙が出ない状態になっており、立ち上がって吠え出した。
「吠えたっ!ユータが吠えたぁぁぁぁぁ!!ヒャッハァァァー!!」
エルダのテンションはダダ上がりしており、奇行を取り出した雄太に合わせ、まるでどこかの民族の踊りを踊る様に雄太の周りを飛び跳ねていた。
冤罪にもかかわらず、不当に会社を辞めさせられた時以上にヘコんでいる雄太は、自身の周りをチョロチョロと変な踊りを踊りながらウザく飛び跳ねているエルダに対して段々と怒りが込み上げ、変質した指の怒りの矛先がエルダへと牙を向いた。
ガシっ!
「いだっ!」
「おい。ウルセェーぞ」
雄太は、自身の周りで雄叫びを上げながら飛び跳ねているエルダの頭を鷲掴みにし、トーンが低い酷く冷めた声でエルダへと口を開きながら殺気を込めて睨み付けた。
雄太によって睨まれながら頭を鷲掴みにされているエルダは、雄太のあまりにも強い握力でもって、まるで頭を万力で締め上げられているかの様な状態になっており、そのまま頭を掴まれたまま身体が上へと向かって浮き出した。
「いだいでずユーダざま・・・」
「スキルが進化したせいか知らんが、スライムスーツを発現させていない素の状態なのに、まるでスーツを発現している時みたいに力が溢れ出てくる様だ・・・コレも進化の影響なのか?」
雄太は、怒りに任せた勢いのまま、エルダの頭を鷲掴みにして軽々と持ち上げた事で、自身の素の身体能力が上がっている事が感じ取れ、エルダの頭を鷲掴みにしながら左右へブランブランと振り始めた。
「わだじのグビが捥げぞうでずユーダざま・・・」
エルダは、まるで首の後ろを掴まれた猫の様に、身体をダランと脱力して大人しく雄太にされるがままとなっており、右へ左へとブランブランと振り子の様に身体を揺らしていた。
『マスター。早急にスキルの概要をご確認する事をお勧めします』
雄太がみなぎる力を使ってエルダをブランブランさせていると、シスが雄太へと急かす様にスキルを確認する様に伝えてきた。
「ん?どうしたんだ?」
雄太はエルダの頭を鷲掴みにしたまま、再度ステータスを開き、変化したスキルの概要をポップアップさせた。
—————
【無形の王】 (パッシブ)
暴食転換の発現がなくとも、暴食転換を除くスキルを使える様になる。
【門】 (アクティブ)
膨張を使用し、異世界へと続く門を開く。
<ミディア⇔地球>
開通時間:3分
クールタイム:168時間
【暴食転換】 (アクティブ)
スライムを吸収し、スキルを獲得する。
スライム以外のモンスター、理、事象を吸収した場合、膨張の糧とする。
—————
「は?・・・」
雄太の変化したスキルは、今までのスキル以上にぶっ壊れたモノとなっていた。
「おい・・・巫山戯るなよ・・・マジで人間辞めてるぞコレ・・・ってか、【無形の王】がパッシブとか、私生活でスキルがダダ漏れじゃねぇか・・・こんなのマジで頭おかしいだろ・・・震えるわ・・・」
雄太は、ポップアップさせた【無形の王】の概要を見て驚愕した。
「【門】はリングを喰われたんだから何となく分かるが、クールタイムを気にしなければ、マジで異世界に行き放題じゃねぇか・・・ってか、シス。これは、スライムスーツが【暴食転換】に変わったって事で良いんだよな?」
『イエス。マスター』
「ってか、【暴食転換】もなんか壊れてるぞ?スライムを喰うってだけでもイカれてたのに、こんなのもう、好き嫌いなく何でも食べられる様になってんじゃねぇか・・・マジでグラトニーそのものじゃねぇかコレ・・・」
雄太は、スキルの概要を見て頬を引きつらせながらドン引きし、エルダの頭を握っていた手の力が抜けてしまった。
「ぐぇっ!?」
雄太によって急に手を離されたエルダは、重力に従ってフロアへと尻から落ちてしまい、見た目からは想像もできない様な人生にササクレたおっさんの様な声を上げた。
『マスターの変質しました指先は、スキルが【無形の王】となった事で、身体がスキルへと順応する為に起こった副作用かと思われます』
「順応って何だよ・・・俺、スキルに喰われてんじゃねぇかコレ・・・」
『指先を対価に強力なスキルを従えている感じかと』
「イヤイヤイヤ!大家さんが賃貸者に何かを払うとかマジでおかしいだろ!?普通逆だろ!?──ってか、明日からどうすりゃ良いんだよ。マジかよ、この指・・・はぁ〜・・・」
雄太は、理不尽で我儘すぎる自身のスキルに対して意味が分からなくなっており、変質した自身の指先を眺めながら明日からの外での生活について考えるも、厨二全開な指先のせいで、確実に世間の目に殺されてしまう未来しか思い浮かばなかった。




