134. カミラ様再び
雄太がボックス席で待っていると、さっき雄太が声をかけたサキュバスが戻ってきた。
「お待たせしました〜。カミラ様がお会いになられるそうです。こちらへどうぞ〜」
「あぁ」
雄太はボックス席から立ち上がり、サキュバスの後をついて歩いて行った。
「お客様、あなた様は一体何者なんですか?カミラ様がこうも簡単にお会いになられるなんて初めてですよ。それと、聞いたところ、あなた様は本日の当選者様らしいじゃないですか?カミラ様が同じ日に同じ方と2度も会うだなんて前代未聞ですよぉ?しかも2度目はご指名で・・・」
雄太とカミラの事情を知らないサキュバスは、自分にとって雲の上の様な存在であるカミラが、雄太の伝言を伝えた瞬間、即決で会うと言い切ったり、しかも、雄太の名前を覚えてたりと、今までに見た事がないカミラの行動に対してとても驚いていた。
「ぶっちゃけ、俺としては2度と会いたくはないんですが、ちょっとした外せない野暮用ってヤツですね」
「本当にぶっちゃけてますね・・・会う理由も野暮用だなんて、あなた、ここにいるサキュバス達や世の中の男性を敵に回す事になりますよ・・・」
雄太の前を歩くサキュバスは、自身の主人をバカにされたと思い、背後の裕太へと首を捻って殺気の籠もった冷たい視線を向けており、当の雄太はサキュバスの殺気の籠もった視線を受けても全く何も感じていないかの様に、肩を竦めて鼻で笑っていた。
「そんなにピリピリするなよ。せっかくの可愛い顔が台無しになるぞ?」
雄太は、サキュバスに殺気を向けられた事で丁寧な物言いをするのをやめ、揶揄う様に心にもない事をサキュバスへと言うと、サキュバスは耳を真っ赤にしながらプイっと前を向いた。
「とっ、とりあえず、カミラ様が会うと仰られてますので、わたしはあなた様をカミラ様の御前へとお連れするだけです!」
雄太の前を歩くサキュバスは、ツンツンしながらデレており、無言で先を歩き始めた。
先ほどの様にダンジョンのどこかの壁の前へと到着した雄太だが、ここにくるまでに雄太の前を歩くサキュバスは、時折何度もチラチラと雄太を後ろ目で見ており、その度に何故か耳が真っ赤になっていた。
「つきました。カミラ様を泣かせる様な事をした場合、あなた様はサキュバス全員の敵となり、生きてここから帰れなくなると言う事をお忘れなく!」
「はいはい。泣きたいのはこっちだよ。さっさと終わらせてさっさと帰りたいわ。マジで」
「はぁ〜。あなた様は自由すぎる程に自分の思っている事を隠そうとせずに言葉にするんですね・・・逆に清々しささえ感じてきましたよ・・・」
サキュバスは雄太の感情のままに発せられている言葉に対し、ため息を吐きながら呆れた様な顔をした。
「開け!サキュバスの股ぁ!」
雄太をカミラの元へと案内したサキュバスは、本日の合言葉を唱えて壁へと手を当てた。
「何度聞いてもサイテーな合言葉だな。アンタ、自分で言ってて恥ずかしくないか?」
「うぅっ・・・」
雄太の冷たい指摘に対し、サキュバスは顔を耳まで真っ赤にして俯いた。
「こっ、こんな合言葉なんて、わたしも言ってて恥ずかしくて死にそぉですよぉ・・・合言葉は、その日の担当者が決めると言う、掟があるので・・・私はそれを言うしかないんですよぉ!!もうさっさと行ってください!」
サキュバスは、相変わらずのイカれたピンクのドアへと向かって雄太の背中を押しだした。
「なんか悪い事したな・・・確かに、今日の担当者は少し頭がアレだったからな・・・」
ふぇ っくし!
「取り次いでくれてありがとう。そんじゃ」
雄太はサキュバスへと礼を言いながら頭を撫で撫でし、ピンクのイカれたドアを開けて中へと入って行った。
「な、撫で撫でされたぁ・・・」
雄太に頭を撫でられたサキュバスは、顔を真っ赤にしながら雄太が入って行ったピンクのドアが消えるまで見つめていた。
雄太は、ピンクのドアを潜り、コレまたピンクい廊下を通り抜け、先程も来たカミラの部屋へと到着した。
「よっ。さっきブリだな」
「伝言はしかと聞いたぞ。姉様が下で待っているとは本当なのじゃな?」
カミラは先程とは違って下着だけの姿ではなく、モコモコした白いファーが首元や袖口についたスケスケのガウンを羽織っていた。
「あぁ。カリーナさんは俺が鎖の呪縛から解放したが、色々と訳があって、今はこのダンジョンのダンジョンマスターになっている。詳しい事は自分でカリーナさんから聞くと良い」
「だ、ダンジョンマスターじゃと!?姉様がダンジョンマスターじゃと!?」
「なんでダンジョンマスターを2回言った・・・って言うか、ちゃんとした服はねぇのかよ?」
雄太の話を聞いたカミラは驚愕して目を見開いており、雄太はカミラがダンジョンマスターを2回言った事に対してと、カミラが羽織っている、透けて中身を全く隠せてないガウンの事が気になってしまった。
「今のところ、お主の話は半信半疑じゃが、姉様の名前を知っている時点でお主は本当に最下層まで行き、姉様と何かしらのコンタクトが取れた様じゃな。若しくは、最初っから姉様の名前を知っていたとか・・・」
「服は完璧スルーかよ・・・ってか、別に疑ってくれても構わないが、俺は、自分のやる事は綺麗さっぱりスッキリと済ませたとだけ言っておこうか」
雄太は、冷めた目で自身を疑っているカミラを見た。
「お主、姉様でスッキリと済ませたとは一体どう言う事なのじゃ・・・お主、まさか──姉様に!?」
「おい。それ以上変な想像すると、俺がオマエを永遠に封印するぞ。さっきみたいに身体の動きを封じて、追加で声を出させなくしてやる。意識はハッキリしている分、マジで地獄だろうな」
雄太は指をゴキリゴキリと慣らしながらカミラへと近寄って行った。
「やめるのじゃ!それだけは本当にやめるのじゃぁぁぁぁぁ!妾は何も聞かなかった!あぁ!確かに何も聞かなかったのじゃ!お主が姉様に手を出した等と言う事は何も聞いてはおらぬのじャァァァァ!!」
「手ぇだしてねぇしっ!?ちょっと見ただ──俺は何もしてねぇ!」
「ん?見ただ?」
「ん?」
「ん?」
「「ん?」ってなんだ?」
「「ん?」は「ん?」じゃろ?」
「そうだな。「ん?」は「ん?」だな」
危うく雄太はカリーナの四肢を見まくっていた事を自分で暴露しそうになり、何も分からないと言う様に疑問を疑問で返し、話をあやふやにさせて論点をすり替えた。
「と、とりあえず、カリーナさんは最下層の奥の部屋にいる・・・急いで会いに行ってやれ。オマエやサキュバス達の事をかなり心配していたぞ」
「そうか・・・姉様は相変わらずじゃな・・・そんなんだから王国に良い様に利用されるのじゃよ・・・だが、その優しさがあるからこそ、サキュバスの女王は姉様にしか務まらぬのじゃよ・・・」
カミラは雄太の言葉を聞いて、涙を堪える様に天井を向いた。
「ってかおい、今、王国に利用されるって聞こえたが、どう言う事だ?」
雄太は耳に入ったカミラの言葉に対して疑問が湧き、すかさず聞き返した。
「あぁ、そうじゃったな。まだ姉様が何故ここに閉じ込められたか言っておらんかったな。姉様は、妾達サキュバスを助ける為に自ら王国へと捕まったのじゃ。王国の奴らは、姉様へと反吐が出る選択をさせたのじゃ。言う事を聞かずにサキュバスを根絶やしにされて滅ぼされるか、大人しく言う事を聞いてサキュバス達の為にダンジョンへと繋がれるかと言う事をな」
「マジかよ・・・王国ってのはマジで腐ってやがんだな・・・」
カリーナがダンジョンへと繋がれた理由を聞いた雄太は、王国のやり方へと怒りが湧き上がり、雄太の中で王国の奴らはさらにランクが下がり、絶対に容赦しないと言う事に決めた。
「エージ様や賢者様によって魔王軍の奴らを王国から退けはしたが、妾が聞いた話によると、王国は裏では魔王と繋がっていると言う噂があるのじゃ」
「こんだけクソみたいな事をやってんだから、ソレって案外マジな話なんじゃねぇか?ってか、今頃、ミディアは魔王が支配してんじゃねぇのか?」
「無きにしも有らずじゃ。妾達は、皆で地球へと転移してきて正解だったやも知れぬ。ミディアにいるよりはマシな可能性があるのじゃ」
「コレまた面倒な事になってきそうな感じだな・・・とりあえず、引き続きダンジョンに繋がれている人達は解放していくか・・・」
雄太はカミラの話を聞くんじゃなかったと右手で顔の右半面を隠して項垂れた。
「そんじゃ、俺はもう帰るわ。ドアを出してくれ」
「もう帰ってしまうのか?妾と少し遊んで行かぬか?姉様や妾、皆を助けてくれた礼をしたい」
「すまんが、オマエじゃ無理だ」
「流石にその言いようは傷つくぞ・・・一応、今のサキュバスの女王は妾なんじゃぞ・・・」
「まぁ、無理ではないが、気持ちだけ受け取っておく。今からやりたい事があるから俺はさっさと家に帰るわ。って事でコレは1つ貸しって事で、何かあったときはよろしく頼む!」
「はぁ〜。お主と言うヤツは・・・」
カミラは雄太を見てため息をはきながらもほっこりとした顔で微笑んでおり、ゆっくりと手を動かして虚空へと向かって手を翳した。
「開け!サキュバスの股!」
カミラが唱えた合言葉によって雄太の背後へとピンクのドアが現れた。
「あ、そうそう。コレ置いておくの忘れたわ」
雄太は現れたドアへと手をかけようとしたところで、カミラへと振り返った。
すると、雄太の足元から1体の餓鬼が姿を現した。
「な、なんじゃソレは!?一体どこから現れたのじゃ!?」
カミラは急に雄太の足元から現れた餓鬼に対して驚愕しており、雄太から少しずつ後ずさって距離を開けようとした。
「コレは俺のスキルの1つで、まぁ、なんて言うか、俺の眷属とでも思っていてくれ。こいつをここに置いていくから、何かあればコイツに伝えてくれ」
「お主のスキルで眷属じゃと!?ますます意味が分からんぞ!?」
さらに驚愕しているカミラを尻目に、雄太はドアを開いて歩を進めた。
「そんじゃ!」
「ちょ、ちょっと待つのじゃぁぁぁぁぁぁ──」
バタン
雄太はカミラの制止を無視してドアから出て行った。
「こ、こんなのどうすれば良いのじゃ・・・と言うか、コレは生き物なのか?・・・」
カミラは、雄太が置いていった、赤黒くプニョプニョとしている餓鬼を見下ろし、どうしたものかとため息をはいた。




