133. 女王様、ハンパネェ
コアの部屋へと入っていった雄太達は、白い通路を抜けて台座の間へと歩を進めた。
しかし、コアがある箇所には1m四方の台座があるだけで、その上には特殊なコアは既に無かった。
そして、いつもの様に台座の裏へと回ると、そこにはこめかみの箇所に立派な巻き角がある、腰まではあろうかと言う長い赤髪の綺麗な女性が白い袈裟の様な服を纏って横たわっていた。
角を持つ女性の身体中には、これ迄の特殊ダンジョンに縛られていた者達と同じ様に、無数の鎖が巻きついており、雄太は赤腕を発現させて【暴食】で一つ残らず鎖を捕食して解除した。
「やっぱ、いつ見てもこの光景は胸糞が悪くなるよな・・・」
「本当に酷いよねコレ・・・この人もクサリちゃんだね・・・」
雄太とエルダは王国の所業に対しての怒りを思い出し、悲しそうな目で赤髪の女性を眺めていた。
「これで後4人か・・・」
「ユータは全員を解放したらどうするの?」
「・・・そうだな・・・王国の奴らにこれと同じ事をしに行くか?」
雄太は床で横たわる赤髪の女性を見つつ、酷く悪そうな顔をしていた。
「ユータ・・・とても悪そうな顔してるよ・・・って言うか、これと同じ事って・・・王国に乗り込むって事? わたしはしっかりと自宅を警備してお留守番しているから、絶対にわたしをユータの計画の頭数に入れないでね」
悪そうな顔をしている雄太を見ているエルダは、雄太の発言に対して嫌な予感しかしておらず、極力関わりたくないという気持ちで一杯だった。
「マジで最低だなオマエ・・・オマエはクサリちゃんの友達じゃなかったのかよ?」
雄太は、エルダの相変わらずの屑っぷりに対して呆れ果てた様な顔を向けた。
「く、クサリちゃんはあたしの友達だしっ!その友達をあんな酷い目に合わせた王国の奴らなんて絶対に許せないし!」
「そんじゃ、オマエも行くって事で決定な」
「え?」
雄太の誘導尋問にまんまと引っかかってしまったエルダは、マヌケな顔を雄太へと向けた。
「あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
数秒遅れて雄太が言った言葉を理解したエルダは、叫びながら側にあったコアの台座へと頭をぶつけ始めた。
ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!・・・
「バカバカバカバカ わたしのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!キィィィィィィィィぃ!ユータめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
エルダはいとも簡単に雄太の誘導に引っかかってしまい、台座へと何度も頭をぶつけながら自分のバカさ加減を盛大に悔やんでいた。
「おまえ、絶対にソレ壊すなよ・・・地上に帰れなくなるぞ・・・ラセツ、そいつを抑えておけ」
「はっ!」
雄太の指示を受けたラセツは、コアの台座へと何度も頭突きをしているエルダを後ろか羽交い絞めで取り押さえた。
「な!?何すんのよこのゴリラぁぁぁ!わたしに気安く触ってんじゃないわよぉぉぉぉ!」
ブチ!
メキっ!
「グハァっ」
エルダにゴリラ呼ばわりされたラセツは、後ろから羽交い絞めにしているエルダの身体を力一杯締め上げ、エルダはラセツへと抵抗する間も無く深い闇の中へと意識を手放した。
ラセツによって締め落とされたエルダの両腕は、あらぬ方向へと曲がっており、エルダは白目を向いてビクンビクンと痙攣しながら、尻を持ち上げたうつ伏せの状態で地面へと転がっていた。
「・・・・・・」
雄太がラセツによって落とされて、無様な姿で地面へとキスをしているエルダへと道端の石ころを見る様な視線を向けていると、横たわっていた赤髪の女性の方から寝起きの様な声が聞こえてきた。
「んっ・・・ん〜〜ん」
雄太の耳へと聞こえてきた声は、何故か色っぽく艶のある寝声であり、瞬間、雄太はここで倒れている女性がサキュバスの女王だったと言う事を思いだした。
「やべぇ・・・忘れてたわ・・・」
クサリから解放された赤髪の女性は、身体の自由が利く様になった為か、モゾモゾと身体を動かし始めているのだが、何故か動く度に着ている白い袈裟の様な服の足元や胸元が肌蹴だしており、その一挙手一投足がいちいちエロい動き方をしていた。
「無意識でエロいとかどんだけだよ・・・」
雄太は、色々と肌蹴だしてきている女性の身体へと視線が右往左往していた。
「女王、ハンパねぇな・・・」
雄太が手を合わせて拝みながら眼福を楽しんでいると、赤髪の女性は意識が戻ってきたのか、ゆっくりと目を開き始めた。
「・・・ここ、は・・・」
目を開けた女性は、ゆっくりと自身の上体を起こして周りをキョロキョロと見回しているのだが、女性が着ている服が色々と淫らに肌蹴まくっている為、もし、今の状況を第3者に見られた場合、雄太は確実に通報されるであろう事は間違いなかった。
「ここはダンジョンの中です。貴女はどこまで覚えていますか?」
雄太は視線が足や胸へと行くのを必死で堪え、あたかも紳士の様な振る舞いで女性へと声をかけた。
「・・・貴方は?」
「はい。俺は橘花 雄太と言います。鎖に囚われていた貴女を永久の呪縛から解放しました」
雄太の声に反応する様に女性が顔を向けた先にいた雄太は、キラリと歯を光らせながら似非爽やかな笑みを浮かべており、何故か腰を引いて中腰で立っていた。
「貴方が私を?」
「はい。これで、貴女の意識は戻りましたので、これから色々と説明させて頂ければと思います」
女性は周りをキョロキョロしながら立ち上がりだした。
しかし、女性が立ち上がったにも関わらず、何故か雄太は両膝に両手をついて中腰のままであり、雄太は立ち上がった女性を見上げる様にして女性と視線を合わせていた。
「私は、カリーナと申します・・・ここは、本当にダンジョンなのですね・・・」
「はい。ダンジョンのコアがある部屋です。貴女は、王国の者達によってその、か、身体 (ゴクリっ) へとコアを埋め込まれ、ダンジョンを異世界へと転移する為の動力へとされてしまいました」
中腰の雄太は、カリーナと名乗る女性へと説明している最中に、一瞬、視線がカリーナの身体へと移ってしまい、しかも視線が移った先がカリーナの胸で、しかもノーブラの為か乳首が服から浮きでている箇所へと目が釘付けになってしまった。
「・・・やはり、あの出来事は夢ではなかったのですね・・・」
「残念ですが、貴女がミディアで体験した事は全てが事実です。今は、ダンジョンが転移した先の (ゴクリっ)、地球と言う異世界にいます」
カリーナは雄太へと背を向けて、囚われてダンジョンへと連れてこられた時の事を思い出す様に壁へと背を向け出したのだが、着ている服の布が薄い為か、服がカリーナの身体へと纏わり付くかの様にピッチリと張り付き、カリーナのスタイルの良いボディーラインが服越しにくっきりと確認できた。
そして、雄太は、カリーナが雄太へと背を向けている事を良い事に、カリーナの小さくも形の良い臀部を眼前で直視しながら今の状況を説明した。
「地球ですか・・・」
カリーナは何かを考えているかの様に目線を上げながら振り返ったのだが、雄太は依然中腰のままであり、それに気づいたカリーナは雄太へと質問した。
「あ、あのぉ・・・何故、先程からずっと中腰のままなのでしょうか?」
「あ、これですか?貴女が目を覚ますまでに色々と由々しき問題があったもので・・・」
「まぁ、大変!お腰を痛められたのですか!?」
「間接的に言えばそうですが、有り体に言えばヤラレタと言う感じですね。しばらくすれば治ると思いますので、お気になさらずとも大丈夫ですよ」
「そ、そうなんですか?では、その格好でお顔を上げてお話しされるのはお辛いと思いますので、私も貴方と同じ目線でお話し致しますね。失礼します」
雄太の糞っぷりに気づけていないカリーナは、雄太の顔を見上げる様な形で中腰の雄太の前へと座り始めた。
その為、雄太の視線は、上から覗き込む様な形になっているカリーナの胸元と顔をせわしなく行ったり来たりを繰り返していた。
「ありがとうございます」
雄太はカリーナへと心から色々な意味でお礼を言った。
「それで、貴女の現状についてお話しさせていただきます」
雄太はアリアから聞いた事や、上の階層にいるサキュバス達の事を話し始めた。
「・・・そうなんですね・・・あの時、私が囚われたのは、こう言う事だったのですね・・・そして、私は今、貴女に解放された為、ダンジョンマスターとなっていると・・・」
「そうです。俺の力では、貴女の意識と精神、魂を鎖の呪縛から解き放つのだけで精一杯でした。上手い事できず、すみません・・・」
「いいえ。それだけでも十分に救われました。こうして意識が戻ったのであれば、上で私の帰りを待つあの子とも、もう一度会って会話をする事ができますので・・・私こそ、鎖の呪縛から解放して頂きありがとうございます」
カリーナはゲスな雄太へと向かって深々と頭を下げた。
「そう言って頂け幸いです。これからはダンジョンマスターとして妹さんを助けてあげてください。妹さんも、また、貴女と一緒に居る事ができて嬉しいと思いますよ」
「そうですね・・・皆んなを長く待たせた分は、ダンジョンマスターとして皆へと新たに貢献していきたいです」
「俺も、これから貴女が楽しくなれる様、陰ながら応援していますので。って事で、俺はそろそろお暇します」
「はい。色々とありがとうございます。このご恩は一生忘れません。この様な状態となってしまい、貴方へと何もお返しができず、本当に申し訳ございません。このダンジョンマスターと言う力を勉強し、いつか、我らサキュバス一同で恩返しをさせていただければと思います。ですので、他の方々の解放が終わりました際は、ここへと遊びに来てください。いつまでも心よりお待ちしております」
「はい。全てが終わったらまた遊びに来ます。では、また」
雄太は中腰のままスキルズを解除して代わりに【隠密】を発動させ、台座の中心部分へと手を触れた。
雄太は、一瞬にしてダンジョンの入り口へと転移したのだが、事前に【隠密】を発動させていた事によりダンジョンへと入ってくる多くの者達に気づかれる事なく上へと帰ってきた。
入り口から見える1層は、相変わらずサキュバスとダイバー達で賑わいを見せており、雄太は隠密の状態で下半身の血流がまともになるのを待った後に、ダンジョンへと入ってくる者達に紛れながら1層内で隠密を解除し、近くにいたサキュバスへと声をかけた。
「ちょっと伝言いいですか?」
「は〜い。喜んでぇ〜。どなたへの伝言でしょうかぁ〜?」
「カミラ様に橘花 雄太が戻ってきた。カリーナは下で待ってると伝えてください」
「カミラ様へですかぁ〜?」
雄太の話を聞いているサキュバスは、胡乱な目つきで雄太を見ており、しかも、使いっ走りの者なのか、雄太がカリーナの名前を出しても、反応したのはカミラの名前だけであった。
「お手数ですがお願いします。カミラ様との約束でもあるので」
「んん〜・・・約束ですかぁ?・・・では、ここで少々お待ちくださ〜い」
サキュバスは、雄太を近くのボックス席へと座って待っている様に案内し、納得がいっていないのか、小首を傾げながら人の群れの中へと姿を消した。




