132. 第2形態ってありますよね?
雄太がエルダと話している最中も、大樹は溶かされながらも激しく火柱を上げて燃え上がっており、花の中の女性は激しく燃え盛る炎の中で完全に沈黙していた。
雄太が燃やした大樹は、特殊ダンジョンの最奥の特殊モンスターという事で、流石にこんな簡単にはヤラレないだろうと思っていた雄太であったが、大樹によってフロアの天井へとびっしりと生い茂っていた枝や葉も、雄太の短刀によって全て燃え尽くされ、現在、巨大な幹の大樹がそろそろ燃え尽きようとしているところだった。
「・・・テンプレで言うと、コレから真の第2形態とか、花の奴が人型で現れて強大な力でもって激しく動き回るとかってパターンだよな?」
雄太は火柱の中で炭化してボロボロになり始めていっている大樹を見て、エルダへと自分の願望的考えを確認した。
「ユータには、あの状態のアレがそんな奇跡を起こせる様に見えるのかしら?」
「いや、だって、まさか、こんな簡単には終わらないよな?なんつったって、特殊モンスターなんだぜ?しかも、オマエ、アレがエルダー種とかって言っていたよな?エルダー種で魔改造された特殊モンスターとか、流石にスライムグラトニーを凌駕するくらいのサプライズは持ってんだろ・・・」
「ユータには、あの小さな黒い塊が今からそんなサプライズを起こせる様に見えるのかしら?」
「いや、きっと、あの黒い塊の中は、それこそ堅い木の実の様になっていて、真の本体はその中に蹲っている感じで、今から解放された力と共に勢いよく飛び出して来るだろうと言う事を俺はハラハラドキドキしながら待っているんだが・・・」
「ユータには、周りを火柱に閉じ込められて、グツグツと煮えたぎっているマグマの様な地面へと沈んでいっている、あの餓鬼と同じサイズの小さな塊がコレから大きくなる様に見えるのかしら?」
「多分・・・あの小さな塊から、怪しくも美しく輝く蝶の様に羽化して、段々と巨大化して──」
「──見えるのかしら?」
「──見え、ない、です・・・すんませんでした・・・」
雄太は、エルダによって目の前の現実を優しく諭された事で、必死で逃げようとしていた願望という夢の世界から現実へと引き戻された。
「・・・コアの部屋に行くか・・・」
特殊なモンスターを倒せて嬉しい筈の雄太は、何故かあっけない幕切れに肩を落としており、いきなりやる事がなくなった鬼達は、無言の無表情で裕太へと複雑そうな感情が篭った視線を向けていた。
「なんか、色々とすまんな・・・あんだけ危機感があって緊迫した幕開けだったのに、何故かこんな煮えきれないモヤモヤした終わり方になってしまって・・・」
雄太は鬼達の視線が痛くなったのか、鬼達へと目線を合わせない様にしながらとりあえず謝った。
「いえ・・・問題ない、です・・・」
「気にしないでください。主ぃ・・・」
鬼達も、なんと言って裕太へと言葉を返したものかという感じで、単調で短い返答で会話が終わってしまった。
「シスもすまんな・・・せっかくやる気になっていたのに・・・」
『ノー。流石はマスターです、ね・・・』
シスが動かしている沢山の膨張は、フワフワと切なそうに滞空していた。
「・・・なんなのよ、この酷く最悪な雰囲気は・・・ユータのせいでみんな不完全燃焼よ・・・」
「うぅっ・・・」
別にそこまで悪いことをしていない筈の雄太は、何故かこの場にいるのが辛くなってきだし、次へ向かう様にみんなへと促した。
「と、とりあえず、コアの部屋へ行こう、な?」
「「『はい・・・』」」
雄太は短刀を腰にある鞘へと仕舞い、完全に燃え尽きた大樹があった方へと向かっていそいそと歩き始めた。
シスも膨張を解除し、鬼達とエルダは何故か早歩きになっている雄太の後を無言で追いかけた。
(何なんだよこの空気わっ!?)
雄太はみんなが無言と言う空気に耐えきれず、歩く速度を上げた。
しかし、鬼達とエルダは、無言のまま速度が上がった雄太の後を同じ様に歩く速度を上げてついていっており、「早いです」や「待って」等と言われると思っていた雄太は、続く無言に耐えきれず、さらに歩く速度を上げた。
(みんな、頼むからなんか喋ってくれよ!頼むエルダぁぁぁ!いつもみたいになんか喋ってくれぇぇぇぇ!!)
雄太は、縋ってはいけないヤツにも希望を見出し始めており、背後からチラリと見える当のエルダは、アホ面を晒しながら、何もないフロアを物珍しそうにキョロキョロと見回していた。
(ナニをキョロキョロと見てんだよオマエわっ!?もうナニもないだろここにわっ!?さっさといつもみたいに何か喋ってくれよ!!)
そんなこんなで居た堪れない空気の中、雄太は大樹が燃え尽きて地面が酷い状態になっている場所へと到着した。
大樹がいた場所は、地面が高熱で溶けた為か、先ほどまで雄太達がいた場所とは全く違い、あちこちで地面が煤焦げたりガラス状に変質したりしており、雄太の短刀から発せられた炎の凄まじさが見て取れた。
「まさか、大樹のコアって溶けたりしてないよな・・・」
「アレだけの事が起こったんだから、なきにしもあらずよ」
「・・・・・・」
やっとの事で口を開いたエルダから発せられた言葉は、雄太を突き放す様な酷く冷たい言葉であり、雄太はエルダの言葉に対して顔を引きつらせながらコアを探し始めた。
しかし、地面を向いてコアを探している雄太へとシスから声がかけられた。
『マスター。地面へと展開している膨張へとコアらしき物体が確認されました。マスターが今いる箇所から右へ5m程進んだ地面に何かが落ちておりますので、膨張から収納へと仕舞います』
「え?」
シスの言葉によって、雄太がコアを探す為に大樹があった箇所へと向かって行った意味が全くなくなっていた。
(くっそぉぉぉぉぉぉ!その手があったかぁぁぁぁぁぁぁ!って言うか何故、今、それを俺に伝えたしぃぃぃぃぃ!!)
雄太が短刀へと炎龍を込めた瞬間から、まるで、全てが空回りしているかの様に雄太1人が凄く浮いた感じとなっていた。
「・・・そ、そうか・・・じゃぁ、コアの部屋へと向かうか・・・」
『ロジャー。コアの部屋迄の経路をディスプレイへと表示させます』
雄太は、シスがディスプレイへと表示させた矢印の経路により、火柱が消えて真っ暗になったフロアの中を真っ直ぐにコアがある部屋へと向かって行き、スライムダンジョンやゴーレムダンジョンにあった様な、白く巨大な扉の前へと簡単に到着した。
雄太達が扉の前へと到着すると、鬼達が雄太を通り越して扉へと向かって行き、まるで手慣れた作業の様に巨大な岩が擦れる様な音を立てながら白く巨大な扉を押し開いた。
「ありがと。んじゃ、サキュバスの女王を解放するとしますか」
雄太達は、開いた扉から部屋の中へと入っていった。




