130. VS大樹 1
雄太が鬼達によってSAN値をガリガリと削られている中、スライム弾を食らって幹を大きく削られた大樹へと変化があった。
地面から先を鋭利に尖らせた巨大な根がグニャグニャとうねりながら大量に姿を現し、天井からは大量の枝が大樹の前へと伸びていき、枝先に付いている葉は、まるで巨大なハエトリグサの様に変化して、ギザギザとした口を大きく広げたり閉じたりとパクパクしだした。
そして、一番の変化は、雄太によってエグられた幹の部分から巨大な蕾が発芽するかのようにゆっくりと発現し、1枚ずつ巨大な花弁を広げていった。
『マスター。楽しんでおられるところ申し訳ございませんが、大樹に大きな動きがありました』
「楽しんでねぇしっ!ーー!?」
雄太はシスの声へと突っ込みながら、視界へと入った大きく変化した大樹の姿を警戒し、瞬時に身体を向けて視線を大樹へと固定させた。
「ほぅ。これはなかなか」
「壊し甲斐がありそうだのぉ」
大きく変化した大樹の姿を見た鬼達は、口角を吊り上げて嬉しそうな笑みを溢しており、雄太は、先ほど自分がエグった箇所に現れて、だんだんと開花していく巨大なラフレシアの様な花へと何故か視線が固定された。
「なんなんだ、あのクソデカい花は・・・あそこはさっき、俺がスライム弾でエグったとこだよな・・・」
雄太が視線を固定させている大きな花弁は、1枚1枚ゆっくりと開かれていき、その中から樹液の様なもので濡れている大樹と同じ様な体表をした上半身だけの女性が現れた。
巨大な花の中から現れた女性は、自身の肩を抱いて目を閉じており、花弁が全て開ききると、閉じていた目をカッと見開き、大きく見開かれた女性の真っ赤な目は、怒りや憎しみと言った感情を剥き出しにし、殺気を含ませながら雄太達を睨みつけた。
「「「!?」」」
巨大な花の中にいる上半身だけの女性に睨まれた雄太達は、瞬時に戦闘態勢を取り、雄太を中心に右へラセツ、左へヤシャと言った様に距離を取って広がった。
「主ぃ。アレは間違いなくヤバいのぉ」
「主。アレからはスライムグラトニーの様な異質な何かを感じます」
「あぁ。アレは手抜きして倒せる様な相手じゃなさそうだな・・・最初っから仕留める気で攻撃しておけばって今更ながらに思ったわ・・・」
雄太達は視線を大樹へと固定させながら、自然と各々が口々に大樹についての感想を述べた。
「オマエら。今更だが、全力で行くぞ。膨張は腐る程あるから遠慮なく使え」
「「承知!」」
『シス。鬼達が破損した時は、速攻で復元させろ。エルダ。オマエは地面に広げてある結界で鬼達をサポートしろ』
『ロジャー』
『りょうか〜い!』
雄太はスキルズへと指示を出し、背中の膨張を全て筒状へと変形させた。
「行くぞ!」
雄太は開戦を告げるように声を出しながら地面へと展開させている膨張から爆炎を発現させウネウネとウネっている巨大な根を爆破させた。
〜〜〜〜〜〜〜〜!!
雄太が根を爆破させると、花の中にいる女性は発砲スチロールを擦った時に出る音の様な甲高い声で悲鳴を上げ、攻撃をして来た者を探し出すかの様に鬼の様な形相でキョロキョロと辺りを見回した。
花の中の女性が辺りへと意識を向けている中、鬼達はそれぞれが発現させている膨張から、大樹の前に滞空しているハエトリグサの様な葉先へと向けて、爆煙と自爆を付与したスライム弾を連射し始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜!!
花の中にいる女性は、怒り狂うかの様に悲鳴を上げながら、天井からハエトリグサを、地面からは鋭利に尖った巨大な根を絶え間なく雄太達へと向けてけしかけて来た。
「クソがっ!!」
上と下から挟み撃ちとなり、動こうにも動けない状況となってしまった最悪な状況に対し、雄太は悪態を突きながらも背中の膨張からスライム弾を雨霰の様に放って上下から来るハエトリグサと根の接近を食い止めており、鬼達も雄太と同様にスライム弾を放って必死にハエトリグサと根の接近を食い止めていた。
だが、大樹からの奇襲を許してしまった雄太達を補助するかの様に、エルダは地面を盛大に爆破させたり炎龍を発現させたりして後続から来るハエトリグサや根を攻撃し始め、エルダの補助のおかげか、雄太と鬼達に大樹まで接近することができる隙間が生まれ始めた。
大樹からの攻撃に隙間ができた雄太は、大樹へと向かって走り出し、雄太へと大樹までの道を作るかの様に、エルダは雄太へと向かってくるハエトリグサや根の梅雨払いをした。
『ホラっ!今の内よユータ!他は気にしないでいいからさっさとあの気味の悪いビッチを仕留めてきなさいよ!あのビッチ、声のトーンが高すぎて本当イライラするのよっ!』
「珍しく戦闘に積極的かと思ったら、オマエが怒っているツボはソコかよっ!?」
雄太は戦闘へと積極的になっているエルダを珍しく思ったが、エルダは雄太が思っていた事とは全く違ったベクトルで怒りを顕にしながら大樹を狩る気になっていた。
大樹は今もなお甲高い声で喚き散らしており、ソレに合わせるかの様に、エルダは地面を盛大に爆破させていた。
『ユータっ!早くアレの口を潰して!全くもって耳障りだわっ!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!・・・・・・』
エルダは、怒り心頭で雄太の頭の中で呪詛の様に同じ言葉をブツブツとずっと呟いており、雄太はエルダの呟きに対して発狂寸前になった。
「ウルセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!オマエが真っ先に死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!俺の頭の中でブツブツと同じ言葉を繰り返すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!アレを殺る前に俺の精神の方が先に殺られるわっ!!」
雄太は、大樹の攻撃よりも、頭の中に響き渡るエルダの呪詛の様な呟きに対して怒りが湧いており、その怒りを発散させるかの様に、溶解を付与させた両腕の赤腕でもって向かって来るハエトリグサや根を力一杯殴り飛ばしながら大樹へと向かって行った。
『マスター。一つ提案があります』
雄太がエルダの呟きを聴きながら怒り狂っていると、エルダの呟きをBGMにシスの声が重なって聞こえて来た。
「んだよシスっ!って言うかエルダぁぁぁぁぁ!オマエが死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『アレへの攻撃へマスターの短刀の利用をお勧めいたします。スライムスーツのレベルが上がった事で短刀へと膨張を込める事が可能となり、短刀の大きさや形をマスター自身でカスタマイズできる様になりました』
「あんだってぇっ!?だからウッセーっつてんだろオメーわっ!!マジでいい加減にしろよっ!エルダ発現っ!」
雄太はエルダがエンドレスに呟く呪詛の様な声によってシスの声が聞き取りにくくなっており、雄太はエルダを発現させて頭の中をスッキリさせた。
「死ね!死ね!死ね!死ね!?・・・・・・え?・・・ちょっ!ちょっとユータぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?なんて事してくれてんのよぉぉぉぉぉぉぉ!?なんでわたしを発現してるのよぉぉぉぉぉぉ!?」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!オマエこそなんて事してくれてんだよ!!オマエは俺を内側から殺す気なのかよっ!!終いにゃシスの声も聞こえねぇわでマジで迷惑だわっ!そんだけやれりゃ発現されててもなんとかやれるだろ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ヒィィィィィィィィィィィィ!?こっち来るなぁぁぁぁぁぁ!!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!・・・・・・」
雄太によって頭の中から追い出される様に戦場のど真ん中へと発現されたエルダは、恐怖で顔を青冷めさせて、容赦無く襲いかかって来るハエトリグサと根へと執拗に容赦無く自身の周りへと展開されている膨張を爆破させたり、自爆が付与されているスライム弾を乱射し始めた。
「すまんシス。もう一回言ってくれ。アイツのせいで全く聞こえなかった」
雄太は迫りくるハエトリグサと根を殴って捌きながらシスへと話しかけた。
『ロジャー。マスターの短刀は、スライムスーツのレベルが上がった事により、短刀へと膨張を込める事ができる様になり、マスターが思い描く形や大きさへと変形させる事が可能となっております。ですので、この様な対物理戦には有効になるかと思います』
「え?・・・」
『マスター。危険です』
「オォっぷっ!あぶねっ!?ってかマジかよ!?」
雄太はシスの提案で一瞬思考がフリーズし、その隙にハエトリグサによってその身を食べられそうになったが、シスによって雄太の背中にある膨張からスライム弾を発射した事で、迫って来るハエトリグサをギリギリのところで爆破して粉砕させた。
『イエス。今の様に爆破させるよりは、マスターの短刀で斬った方が次への対応も早くなり、この手のモンスターには効果的かと思われます。私がマスターの周りの膨張を操作してマスターの死角を補助して援護をいたしますので、マスターは短刀でどんどん目の前のモノを切り伏せて行ってください。それに、このモンスターは、今後、スライム以外のモンスターを相手にする時の為の良い練習台になるかと思われます』
「・・・・・・」
雄太はハエトリグサや根を対処しながらシスの提案に対して考えた。
「・・・そうだな。さっきも上の階層でスライム以外のモンスターを倒す練習をしようと思っていたとこだったし、この状況は練習するにはもってこいかもだな・・・分かった。シス、俺の援護を頼む」
『ロジャー。では、私はマスターの周りに展開させている膨張を操作し、マスターの補助と援護をいたします』
雄太がシスの提案に乗った瞬間、雄太の背中からは伸びていた膨張が消え、代わりに雄太の周りを取り囲む様に30個程の円錐状の膨張が結界の様に発現されて滞空し、滞空している円錐状の膨張は、雄太の意思とは別にハエトリグサや根へと攻撃をし始めた。
「・・・ファン○ルじゃねぇか・・・」
雄太は、シスが操る円錐状の膨張によって作られた結界の中心で今の状況に対してツッコミ、自身の腰にある短刀へと手を伸ばしたまま固まってしまった。
シス参戦!




