129. トレント?
雄太の眼前へと現れた樹は、まるで御伽噺や伝説で語られる様な、ユグドラシルや世界樹と言った様な姿を彷彿とさせる程の大樹であり、天井が高く、広々とした神殿の様な柱が乱立している空間の天井を青々とした緑の葉を茂らせた枝で埋め尽くしていた。
この、あまりにも巨大な樹へと、雄太だけでなく鬼達も息を飲んで樹の全体を見ようと忙しなく首を動かしており、眼前にある太い幹を始め、天井へとびっしりと広がっている枝や葉、地面へと広がっている根を見ながらこの樹の大きさを確認していた。
雄太と鬼達がマジマジと樹を観察する様に見ていると、不意にエルダが雄太へと声をかけてきた。
『ユータ。コレってトレントだよ・・・』
エルダは何かを知っているかの様に雄太へと声をかけてくるが、最近ダンジョンへと潜り始めたばかりの雄太はエルダが伝えて来たトレントと言うモンスターを見たことがなく、以前、務めていた会社でトレントの枝なるものを扱った記憶はあったのだが、ここまで巨大なモノではなかったと昔の記憶を辿っていた。
「んなわけねぇだろ。トレントの枝なんて、そこにあるヤツの数十倍は細かったぞ。昔働いていた会社でトレントの枝を見たことがあるが、こんな馬鹿でかい規模じゃなかったぞ。コレの枝なんて、マジで丸太じゃねぇか。こんなバカデカいトレントなんていてたまるか」
『でも、ホントにコレはトレントだよ』
「昔働いていた会社で聞いた事があるが、トレントって木が生い茂るダンジョンに生息してんじゃねぇのか?このダンジョンにそんな様子は全く無かったぞ・・・洞窟の様なダンジョンだぞここは」
『でも、アレってアレでしょ?王国のヤツらがこのダンジョンに投げ入れた改造されたモンスターだよねきっと?』
「あ・・・すっかり忘れてたわ・・・あのデカい樹はてっきりダンジョンの一部だと思っていたわ・・・まぁ、どう見てもあのデカいのがここに1本だけ生えているってのもかなり不自然だよな・・・って事は、アレはオマエが言う様にトレントって事なのか?って言うかどんだけデカいんだよ・・・」
雄太は、エルダの言葉にここが5階層めで、王国のヤツらがモンスターを放った場所と言う事を思い出しながら、目の前の大樹をモンスターとして認識した。
『う〜ん。でも、こんな大きいトレントなんて、わたしも見た事がないよ・・・もしかしたらエルダー種の可能性があるよ・・・ちょっと攻撃してみてよ』
「オマエはバカなのか?攻撃してみてよとか簡単に言うなよ。だったらオマエが攻撃して真相を確かめて来いよ」
『無茶言わないでよ!わたしは非戦闘員って何度も何度も言っているでしょ!わたしじゃなくて、餓鬼とか鬼達にでも攻撃させればいいじゃないのよ!』
「オマエなぁ・・・」
雄太は軽く溜息を吐きながら、エルダの言い分に対して呆れ、やっぱ、ダメだコイツはと言う事を再認識した。
「仕方ねぇ。とりあえず様子見と確認といくか」
雄太はエルダが言っている事を確認する様に、背中から出現させている赤腕の一つを筒状へと形を変えて大樹へと照準を合わせた。
「オマエら。いつでも動ける様にしておけよ」
「「はっ!」」
「シス」
『イエス。マスター』
「ばら撒いている寄生はどう言う感じだ?」
『木と言う種属性と、体積が巨大と言う事もあり、進行速度はかなり遅いです。毒や溶解、炎龍で直接叩いた方が早いかと』
「マジかよ・・・そんじゃ、スライム弾に爆炎と自爆をつけろ。それの反応を見て攻撃の方法を立てるぞ」
『ロジャー』
「んじゃいくぞ!」
雄太はディスプレイに映る赤く丸い照準を大樹の幹へと合わせ、背中から伸びる筒からスライム弾を発射した。
パスっ!
雄太が発現させている膨張の筒から気の抜けた音と共に発射されたスライム弾は、真っ直ぐに大樹の幹の真ん中へと着弾し、着弾と同時にスライム弾が一際燃え盛った後に盛大な音を上げながら大爆発した。
ボォゥ
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
雄太は、盛大な音を立てながら大爆発したスライム弾を見て、口角をヒクつかせながら驚愕した。
「ナニコレ・・・前より威力が上がってねぇかコレ・・・」
『マスター。大量の膨張を保有し、且つ、スライムスーツのレベルが上限突破している今のマスターにとっては、コレでも最小に抑えている状態です』
「・・・・・・」
シスからの衝撃的な報告を聞いた雄太は更に驚愕しながら額へと右掌を当てて俯いた。
「そういやその事すっかり忘れてたわ・・・身体能力が上がっていた時点で気付くべきだったわ・・・どんだけヤバくなっていくんだよ俺・・・」
雄太は自身の能力について再認識し、今後のスキルの使い所について真剣に考える事にした。
雄太が爆破した大樹は、巨大な幹の真ん中が抉れながら燃えており、大樹はまるで炎を嫌がる様にユラユラとその巨体をゆらし、多方面に伸ばしている枝についている大量の葉が擦れあい、ザワザワと音を立てていた。
「って言うか、アレを食らっても抉れるだけで済むとか、なかなか頑丈な樹だな・・・」
あれだけの大爆発を受けてなお原型を留めている大樹に対し、雄太は感嘆の声をあげながら大樹を見つめていた。
「主ぃ。もっと大量にスライム弾を撃ち込みましょうぜぇ」
「左様。スライム弾の威力を上げ、文字通り木っ端微塵にするのが宜しいかと」
交戦的な鬼達は、壊し甲斐のありそうな大樹へと視線を向けて、嬉しそうに顔をニヤつかせていた。
「・・・相変わらず好戦的だなオマエらは・・・まぁ、そうだな・・・オマエらが言う様に、さっさと片付けてしまうか」
「「承知っ!」」
雄太の言葉を聞いた鬼達は、嬉しそうに笑顔を作って雄太と同じように膨張を発現させ、スライム弾を撃ち出す為に筒状へと膨張の形を変えた。
ラセツの両腕は、キャノン砲の様なデカい筒となり、ヤシャは背中からガトリングガンの様に多数の筒を纏めたモノを両肩へと発現させた。
「・・・オマエら・・・なんか、スライム弾を発射する膨張の形が変わってないか?・・・」
雄太は、明らかに装いが全く変わっている鬼達の膨張を見て呆れた様に無表情となった。
「主ぃ。デカいは漢のロマンだァ!」
「数の暴力こそが力です!」
「・・・・・・」
雄太は、鬼達のイカれた発言に対してどう返答して良いのか分からず、とりあえず、何故その様な事に思い至り、どこでそんな情報を知って来たのかと言う事を質問してみることにした。
「・・・オマエら・・・どこでそんな事を覚えてきたんだ?・・・何情報だソレは・・・」
「「勿論! (アニメじゃ!) (ゲーム です!)」」
「・・・・・・」
鬼達は雄太へと即答し、雄太は無言の無表情となった。
「主より頂きました”ゲーム”で、我は数の暴力と言うものを学びました!」
「ワシは、主より頂いた”てれび”でやっていた”アニメ”というヤツで、真の漢のロマンと言うものを知りました。アレにワシは強く心を打たれました!」
雄太は、目の前の大樹より、鬼達の学習の仕方と、それから得た知識の方が危険な様に思えて来た。
「オマエら・・・ゲームやアニメは現実じゃないからな・・・”数の暴力”も”漢のロマン”ってヤツも公で言ったり使ったりしたら、社会的に抹殺されるからな・・・程々にしろよ」
「「はっ!」」
雄太は諭す様に鬼達へと伝えるが、このタイミングでエルダが話へと入り込んできた。
『アルェェェ〜?ユータもスライムダンジョンでそう言うこと言ったりやったりしてなかったっけぇ〜?しかも満面の笑顔で嬉しそうにぃ〜?』
「・・・・・・」
雄太が鬼達へと放った言葉は、エルダの一言で盛大なブーメランとして雄太の身へと深々と突き刺さった。
「流石は主っ!」
「主はやはり男の中の漢じゃのぉ!」
瞬間、雄太はまるで可憐な少女の様に両手で顔を隠し、逃げる様に鬼達へと背を向けた。
(エルダめぇぇぇぇぇぇ!このタイミングでなんて事を言いやがるんだぁぁぁぁぁ!!死ぬぅぅぅぅぅ!恥ずかしさが半端ねぇぇぇぇぇ!今すぐ家に帰って枕に顔を埋めて大声を上げてぇぇぇぇぇ!!)
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
両手で顔を隠している雄太は、声を最大限まで押し殺して叫び、この悶え死ねる状況から全力で逃避しようとしていた。
「主ぃ。急にどうしたんじゃぁ?」
「主。具合でも悪いのでしょうか?」
(やめてぇぇぇぇ!もうこれ以上俺に構うのはやめてぇぇぇぇ!!お願いだから今はそっとしておいてあげてぇぇぇぇ!)
必死に今の状況から現実逃避をしようとしている雄太へと、鬼達は尚も真剣に食い下がって来ており、雄太のSAN値は凄い速度でガリガリと削られていった。
エルダはエルダで、先ほどのスライムマンドレイクの仕返しとばかりに雄太が急速に弱っていく姿を見てゲラゲラと笑いながら楽しんでいた。
(誰か俺を今すぐお家へ帰してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!)
すいませんでしたぁぁぁぁ!!_| ̄|○
投稿が遅れましたぁぁぁぁぁ!
朝起きたら、知らない駅のベンチで知らない人と寝てましたぁぁぁぁ!
もう、一生お酒は飲まないです!
本日中にもう1話投稿しますです!




