125. サキュバス
雄太は最奥の部屋に囚われている者達を解放すると言う事をカミラへと伝えた。
「だから、もし、アンタが俺の邪魔をすると言うなら、俺は全力でアンタを完膚なきまでボコボコにして自力でここから出て下へと降りる。言っておくが、俺は男女平等主義なんで、俺の邪魔をするアンタをボコボコにする事に対してなんとも思わないから覚悟しろよ」
「・・・お、お主の話は本当なのか?」
雄太は酷く冷めた目つきでカミラを睨みながら頷いた。
「あぁ。俺は男女平等主義者だ」
「違うのじゃ!そこじゃのうて、下の階層へと行き、囚われた者を解放すると言う事じゃ!」
「ん?あぁ、本当だ。だから俺はここに来た。しかし、来たのは良いが、ここは普通のダンジョンとは違ってこの有様だ。1層目にはモンスターが全く見当たらず、階段を見つけて下へと降りようとしたところで、ここで初めて会ったモンスターはミノタウロスとバフォメットときた」
「だが、お主は既にアレらの対処はしたのであろう?」
「まぁな。後は、ここから出るだけなんだが、さぁ、どうしたものか?」
雄太は口を三日月に吊り上げて、ベッドの上で正座しているカミラを見下ろした。
「お主・・・本気で言うておるのか?」
「本気だ。俺はある人から依頼を受けたんでな。王国の奴らによってダンジョンに囚われた全ての人達を解放すると」
「・・・・・・」
カミラは雄太の言葉を聞き、無言になって俯いた。
「今日は色々と無駄に時間を費やしたから、さっさとここから出してもらうとするか」
雄太は言葉を発すると同時に、両腕へと赤腕を発現させながらカミラへと右手を翳した。
「部屋から出してもらうぞ」
雄太が傀儡でカミラを支配しようとした瞬間、下を向いて黙り込んでいたカミラが口を開いた。
「・・・待つのじゃ・・・お主をこの部屋から出すから、少し、ほんの少しだけ妾の話を聞いてはくれぬか・・・」
カミラは、口を開きながら雄太を見上げ、真剣な眼差しで雄太を見つめた。
「時間がないんだが・・・アンタの話を聞いたら俺をここから出してくれるんだな?」
「うむ」
「出さなかったら容赦無く無理やり出ていくぞ」
「うむ」
カミラは真剣な顔で雄太へと頷いた。
「それで、話と言うのは?」
「・・・妾には姉様がおる。いや、おったと言う方が正しいのやもしれぬ」
「なんだ?身内話か?そんな世間話だったら俺は出ていくぞ」
「そんな単純な話ではない・・・元々、妾達サキュバスは、ミディアではダンジョンの外で暮らしておったのじゃが、妾の姉、サキュバスの女王がこのダンジョンへと王国の者達によって封印されてしまい、妾達は、女王が目覚めるのを待つ為にこのダンジョンへと住み着いたのじゃ。その為、妾達サキュバスは、全員がこの世界へと転移してしまった」
「・・・マジかよ・・・」
雄太はカミラが話し始めた内容に対して眉間にシワを寄せて表情を険しくさせた。
「妾達サキュバスは、最下層にいる妾の姉、元、サキュバスの女王が復活すると信じて、姉様が封印されたその時からこのダンジョンに住みついておるのじゃ」
「・・・ヒデーな・・・って事は、この世界に来た王国の奴らはこの事を知っているって事だよな?」
「あぁ。このダンジョンがこの世界へと転移した際に、妾達は王国の奴らに外へと出て行く様に言われたが、妾達は、それを断固拒否したのじゃ。そして、この、サキュバス特有の部屋を作るスキルを使って、長い間このダンジョンへと隠れる様に生活しておったのじゃが、妾達の源でもある精力が尽き果て、妾達は部屋を作るスキルを維持することができなくなってしまったのじゃ・・・」
「自業自得の様にも聞こえるが、何故外に出なかったんだ?」
「出れる筈がなかろう。最下層には妾の姉でもある、サキュバスの女王がおるんじゃぞ。しかも王国の奴らは、このダンジョンから出ていこうとしない我らを捕まえて、奴隷の様に扱おうとしたのじゃぞ?そりゃ、隠れもするわ」
カミラは王国の奴らに捕まえられた仲間を思い出したのか、辛そうな顔を横へと背けた。
「だが、今はこうしてダンジョン内が凄い事になってんだが、これは一体どう言う事なんだ?アンタの話が本当なら、王国の奴らが黙っちゃいないだろ?」
「あぁ、奴らはまた来た・・・だが、今度はこのダンジョンの1層をこの様な装いへと変え、妾達を脅してきたのじゃ。言う事を聞かねば姉様の封印は一生解かぬとな・・・そして、下の階層へと何人たりとも通さぬ様にこのダンジョンを見張れと・・・当時、精力が突きかけた妾達は、王国の奴らを出しぬこうと最後の力を振り絞って姉様を救いに行こうとしたのじゃが、王国の奴らがこのダンジョンを去る前に配置していった、下へと続く階段を守るミノタウロスとバフォメットによって甚大な被害を出してしまったのじゃ・・・」
カミラが語るサキュバスの話はなかなか過酷なものであり、雄太は王国の奴らのゲスさに対して怒りが湧いてきた。
「彼奴らは、態と後のない妾達を下へと向かう様に嗾け、精も魂も尽き果てかけてボロボロになった妾達を一網打尽にしおったわ・・・そして、捕まった妾達は、王国の奴らによって身体へと何かを埋め込まれ、言う事を聞くしかなくなってしまい、現在の様な状態になってしまたのじゃ・・・」
「反吐がでるな・・・」
雄太はカミラの言う、身体へと何かを埋め込まれた言う言葉によって、悪魔の様に姿を変えた木下の事を思い出した。
「そして、妾達は、多くの冒険者達を下へと行かさぬ様、ここで足止めをする様にこうして接待をしだす様になった。姉様を人質として取られ、身体に得体の知れぬモノを埋め込まれた妾達は、王国の奴らに従うしかなかったのじゃ・・・」
「でも、アンタらも精気を吸えて、一応はWin Winな感じに見えるが・・・」
「妾達サキュバスは、精気を得られれば誰でも良いと言う訳ではない!妾達にも選ぶ権利はある!妾達がこうしておるのは、精気を溜めて、いつか来るその時に備える為じゃ!この、身体へと埋め込まれた何かの正体を探って取り除き、姉様を救い出して必ず王国の奴らへと復讐してやるのじゃっ!」
王国の仕打ちを思い出しているかの様に、カミラの顔は怒りに満ち溢れており、殺気を放っていた。
「アンタの話は分かった。アンタの話を聞いて、俺から2つある」
雄太は2本指を立てた。
「1つ、アンタ達に埋め込まれたモノを俺は知っているかも知れん。この前、それと似た様な事があって、もし、それと同じモノが埋め込まれているんだったら、俺が取り除いてやる」
「ほっ、本当かっ!?」
「同じだった場合はだがな・・・それと、2つ目。アンタの姉は、救えん」
「な、なんじゃとっ!?」
カミラは雄太の姉は救えないと言う言葉に対して雄太を睨みつけた。
「正確には、封印を解いてアンタの姉の魂の解放はできるが、元の様な生活はできん。正確に言うとだな・・・アンタの姉は、俺によって封印から魂が解放されたと同時にこのダンジョンのマスターとなり、このダンジョンから離れられなくなる。それと、肉体は既に消滅しており、魂だけの存在となってしまう。それが、元の様な生活はできない理由で、救えるが救えないって理由だ」
「そ、そんな・・・」
「ぶっちゃけ、アンタ達は最初っから王国の奴らに騙され続けてたんだよ。アンタの姉は、奴らに捕まって、身体へとダンジョンコアを植え付けられた時点で救う事はできなかったんだよ」
「騙、されて、いた・・・」
カミラは雄太の言葉を聞いて、ショックで焦点が合わなくなった目を見開いており、怒りや悲しみ、絶望と言った感情がゴチャゴチャになっている様な、なんとも言えない表情となった。
「とりあえず、1つ目の埋め込まれたモノってのを確かめてみるわ。こんな話の後でなんだが、この前俺が見たモノと同じヤツである事を祈っておけ」
そう言うと、雄太は頭へとディスプレイを発現させ、正座しているカミラへと同族察知をかけた。
(やっぱりコレか・・・ジジイの事やサキュバスの事を考えると、もしかしたら、ギルドのダイバーの奴らも寄生させられている可能性が高くなってきたな・・・)
雄太のディスプレイに映るカミラの心臓部分には、木下を見た時と同じ様に小さなスライムの反応が見て取れた。
「良いのか悪いのか分からんが、とりあえず良かったな。アンタに埋め込まれているモノは、俺の知っているヤツだったぞ」
『シス、アイツの身体に寄生しているデビルスライムを俺の浸食を使って口から吐き出させる事は可能か?』
『イエス。マスター。可能ですが、浸食でそのまま捕食した方が手っ取り早いのでは?』
『いや、埋め込まれていたものの正体をアイツに見せてやる。俺が消し去ったと言うよりは、実物を見せた方が信じるだろう』
『ロジャー。では、マスターの合図でデビルスライムを体外へと排除させます』
『頼む』
雄太はシスへとカミラに寄生しているデビルスライムを体外へと排除させる様に指示した。
「そんじゃ、手っ取り早くアンタの中のヤツを取り出すぞ」
「・・・あぁ・・・」
カミラは雄太から聞いた姉の状況を知って、いまだに放心しているかの様に下を俯きながら空返事をした。
「そんじゃ、いくぞ!シス!」
雄太の合図と共に、シスはカミラの中に侵食している膨張を操作して、デビルスライムをカミラの口から吐き出させた。
「う、うごっ!?お、おぇぇぇぇぇぇ!がはぁぁぁぁ!!」
下を俯いているカミラは、シスが操作した膨張によって口から5cm程の黒い物体を吐き出した。
カミラがデビルスライムを吐き出したと同時に、雄太は槍棘を伸ばして、デビルスライムが逃げない様に串刺しにした。
「がはっ!?なっ!?」
「コレがアンタに植え付けられたヤツの正体だ。コレはデビルスライムって言って、寄生した宿主が弱ってくると、宿主を内側から喰らい、モンスター、いや、魔族へと宿主を変貌させる。アンタなら知っていると思うが、ミディアの勇者を知ってるか?」
口元を唾液まみれにし、雄太によって串刺しにされているデビルスライムを見ているカミラへと、ミディアの勇者である木下についてを尋ねた。
「知っているも何も、エージ様と賢者様には妾達サキュバスも魔族から助けられたことがある」
「そそ。エージな。あのクソジジイも王国の奴らに捕まって、ソレを植え付けられていたんだよ。そんで、あのジジイは、魔族化一歩手前までソレに乗っ取られやがって、ソレを俺が排除してジジイを助けた」
「ほ、本当か!?エージ様もこの世界に来ていたのか!?」
「あぁ。あのクソジジイの故郷はこの世界だ。その話はまた今度機会があった時って事で。って言うか、これで納得したか?俺は下に行くからさっさと部屋を解除してくれ」
雄太は、カミラの眼前で槍棘によって刺さっているデビルスライムを吸収して消滅させた。




