114. 芽衣VSダークスライム2
「シィっ!」
ミカは、手にしていた槍をダークスライムへと向かって突き刺すと同時に、ピンポイントでコアを破壊しながら吸収し、硬直して動けないでいる芽衣をカバーした。
「ご、ごめんなさい・・・」
ミカのフォローによって助かった芽衣は、見るからに落ち込んでしまっており、顔を下へと向けて立ち尽くしていた。
「芽衣さん!謝らないでください!今はまだ戦いの最中ですよ!まだ戦いが終わっていないのに顔を下に向けてどうするんですか!僕が芽衣さんをフォローしますんで、迷わずにどんどん攻めていってください!そうすればきっとこの見えない相手にも慣れますよ!」
ミカは落ち込んでいる芽衣を叱咤し、気にせずにどんどん続ける様に先を促した。
「ごめんなーー」
芽衣は、再度謝罪の言葉を口にしようとしたが、ミカの芽衣をみる視線に気づいて言いかけた言葉を飲み込んだ。
「ーーはい!もう一度お願いします!次は手を止めません!」
芽衣はミカの言葉に何かを感じたのか、落ち込むのを止めてミカの目を力強く見つめた。
「そのイキですよ!僕が、この身に変えても必ず芽衣さんを守りますので、芽衣さんは何も考えずに攻撃だけに専念してください!」
「は、っはい!」
雄太が芽衣の様子を見るために飛ばした膨張の目に映っている芽衣は、ミカが口にした、「絶対に僕が守る」と言う言葉に対して胸を激しくキュンキュンさせて頬を赤らめており、明らかにミカを見る眼差しがキラキラとしたものへと変わっていた。
(おい・・・なんだこりゃ・・・何故かGLが始まりそうになってんぞ・・・って言うかあの変態、何、俺のスキル相手にトキメいてんだよ!?)
見た目女性のイケメンすぎる言葉を吐くミカに対し、芽衣は恋する乙女の様に心をトキメかせており、それを見た雄太は、芽衣のイカれ具合に驚愕していた。
「次来ますよ!11時の方向です!」
「はい!」
「今度はギリギリまで引き付けてから攻撃してください!タイミングは僕が合図します!」
「はい!」
芽衣はミカの槍が向いている方向へと視線を固定し、手にしている白い直刀を中段で構えながら見えないものを見る様に暗闇を凝視した。
「今です!」
「ハッ!!」
芽衣は眼前の刀を地面と平行にして前へと突き出し、直刀の半ばまでダークスライムを突き刺した手応えがあったと同時に素早く刀を引き抜き、右手一本で左から右へと水平に斬り込んだ。
「フッ!!」
芽衣が水平に斬り込んだ直刀は、運良く核に当たり、ダークスライムはベチャっと音を立てながらゲルの様な黒い水溜りの様な身体を地面へと表した。
「・・・できた・・・」
芽衣は、地面へと急に現れたゲル状の物体を直視しており、運良くもダークスライムを倒せたと言う事に対して、フツフツと喜びが湧き上がってきた。
「ミカさん!私、倒せましたっ!」
芽衣は満面の笑顔をミカへと向け、ミカもそれに答える様に芽衣へと優しく微笑んだ。
「はい!倒せましたね!この感覚を忘れないでください。敵は1撃で倒せても、必ず2撃め、3撃めと、相手が完全に沈黙するまで攻撃を続ける様に心掛けてください。芽衣さんは、良くも悪くもそのスキルのせいで、1撃で敵を倒そうとしていますので、その1撃を生かす様に攻撃を連続して続ける癖をつけていけば、攻撃へと色々な幅を出す事ができますよ」
「・・・攻撃の・・・幅ですか・・・」
芽衣は白く光る直刀を握っている手を見つめ、自分のコレからの可能性へと喜びが止まらなくなり、ギュウっと直刀の柄を力強く握りしめた。
「それでは、次に移ります。次は、僕はスライムの位置は教えません。逆に、芽衣さんが僕にスライムの位置を教えてください。それを僕が倒します」
「え!?それってミカさんが危ないのでは!?」
「大丈夫です。僕は芽衣さんを信じていますので」
「で、でもっ!?」
ミカは芽衣へと次の課題を告げると、徐に目を瞑った。
「ミっ!ミカさん!?」
「これで、僕は芽衣さんの指示だけで動きます。さぁ。僕にスライムの居場所を教えてください!」
芽衣はミカのとった行動に焦ってしまい、自分の指示一つでミカがダークスライムの攻撃を受けてしまうと言う極度の緊張と恐怖に襲われ、頭の中が真っ白になってしまった。
(アイツ、人心掌握が上手ぇな・・・木下さん、精神的にクッソ追い込まれてるぞ・・・って言うか、ミカが目を瞑ったところで、同属察知でスライムの居場所はバレバレなんだけどな・・・)
雄太はミカのスパルタっぷりに対して面白そうにモニターに映る芽衣の姿を眺めていた。
「芽衣さん。先ずは深呼吸をして心を落ち着けてください。心を落ち着かせない事には、見えるモノも見逃してしまいますよ!」
「は、はい!」
芽衣はミカに言われるがままに深く深呼吸をし、真っ白になってしまっていた頭をフルで回転させた。
「心が落ち着いたら、次は、音や空気の揺れ温度と言った僅かな違いを感じとる様に周りへと意識を広げて見てください」
「はい!」
芽衣は手にしている直刀をダランと下へと向けて鋒を地面へと着け、僅かな振動を感じとる様に極限まで集中しながら周りへと意識を広げた。
雄太がダークスライムから手に入れた【隠密】と言うスキルは、膨張が周りの景色へと溶け込み、姿だけで無く気配や匂いも周囲と同化すると言うものであるが、動いた時の空気の揺れや温度、僅かな振動は完全に消す事ができず、ダークスライムも雄太が手に入れたスキルと同じ様な感じだった。
「くっ!・・・【身体強化】!」
芽衣は何かを思いついたかの様に、五感や肉体の感覚を研ぎ澄ませる為に身体強化を発動させて更に集中し、身体強化によって身体の感覚が敏感になった状態で改めて周りへと意識を向けると、地面へと着けている鋒から僅かな振動と空気と地面が何かの抵抗を受けている感覚が伝わって来た。
「ミカさんの1時・・・いや・・・2時の方向です」
僅かな振動を感じた芽衣は、その振動を感じた方向へと身体を向け、ミカも芽衣の指示の通りに2時の方向へと身体を向けて体を低くし、左手に持っている盾を前にし、右手の槍を顔の横あたりで背後へと引き絞り、攻撃体勢をとった。
芽衣はミカが動いた振動に惑わされない様に、ミカの一挙手一投足の動きと振動を照らし合わせ、それ以外に感じるスライムの振動へと感覚を集中させた。
(分かる!地面から伝わる振動や、僅かな空気の乱れを感じられる!)
実際、芽衣は、ランカー陣の上位ランクへと食い込むくらいの実力を有しており、しかも木下やクレシアによって幼少の頃より戦いについての英才教育を受け続けていた為、ミカのちょっとしたアドバイスだけで何をすれば良いのかと言う最適解を感覚的に導き出す事ができていた。
芽衣は極度に気を張って集中しまくっている為か、額からは大粒の汗が吹き出てており、大粒の汗が、額から目尻、目尻から頬、頬から顎先、顎先から地面へと向かって落ちたと同時にミカへと攻撃の指示を出した。
「今です!」
ミカは芽衣の指示通りに暗闇へと向けて真っ直ぐに槍を突いた。
ミカが突き刺した槍の先端にはダークスライムを突き刺した手応えがあり、ミカはそのままダークスライムのコアを吸収し、コアを失ったゲル状の水溜りの様な物体がベチャっと地面へと現れた。
「やりましたね芽衣さん!」
「ふぅ〜・・・なんとかミカさんをスライムの餌食とせずにすみましーー!?」
芽衣は額の汗を拭ってダークスライムを倒したミカを見て安堵したところで、背後から迫って来たダークスライムの触手によって身体を拘束されてしまった。
(ミカの奴、なんで木下さんの背後から迫って来ていたのを教えなかったんだ?ミカが教えなかったせいで、木下さんが逆にスライムの餌食になってんぞ・・・)
芽衣は、スライムのグニュグニュと蠢く触手によって両腕を拘束されながら身体を持ち上げられており、蠢く触手は芽衣の肉を喰らう為に、身体をキツく締め付けながら防具や服、ズボンの隙間へと入り込んでいった。
「ヤっっっっ!んんっっっ!」
スライムダンジョンの階層主とまではいかないが、通常のモンスターよりは強い力を持っているダークスライムの拘束は、芽衣が発現している身体強化をもってしても抜け出す事ができず、ダークスライムから伸びている触手は、侵入した服の内側から芽衣の肉体を直に締め付けていくかの様にモゾモゾと蠢きながら防具や服を脱がし始めた。
「んっ!あぁっっっっ!」
服やズボンの隙間から侵入して来た触手によって直に素肌を弄られている芽衣は、締め付けられる強さと、抵抗できないままに体を好き勝手に弄られている為か、顔と耳を真っ赤にしながら艶めかしい声が漏れていた。
(・・・ミカさんや・・・早く助けてやれよ・・・)
吊り上げられている芽衣を見ているミカは、芽衣へと向けて言葉を発した。
「敵は、1方向から来るとは限りません。今回の事で、常に周りへと気を張る様に心がけてください。これから、芽衣さんがマスターと行動を共にするのであれば、常に色々なスライムや特別なモンスターと対峙する事になるでしょう。今回のスライムは、隠密性が高いだけで、そこまで攻撃力があると言う訳ではなかったので即死には至っていませんが、もし、これが毒を持っていたり溶かす速度が早かったりしていたら、芽衣さんは確実に亡き者となっていましたよ・・・」
「んぁっっっ!んんっ!もがっ!?」
(おォォォォい!!御宅はいいからさっさと解放してやれよ!口の中に触手が入り始めてんぞ!?)
ミカはとことんスパルタらしく、エッロエロな姿になっている芽衣を気にする様子もなく、芽衣へと今回の不注意についてを悟らせる様に淡々と話を続けた。
「とりあえず、今回の戦いで、芽衣さんは自分の欠点や伸び代、これからの課題について色々と分かったと思います。この後、マスターからお許しをいただければ、僕が芽衣さんを鍛えていきたいとも思っています。芽衣さんにはまだまだ伸ばせる要素がいっぱいありますので、僕としても教えるのがとても楽しいです」
ミカは胸を触手で鷲掴みにされながら口から触手を生やしている芽衣へと向けて、最高に眩しい素敵な笑顔で優しく微笑んだ。
(オイっ!?こんな状況で口にする言葉じゃねぇだろソレっ!?ってか、なんで満面の笑顔なんだよ!?こんな状況でそんな笑顔を向けられてもマジで恐怖しかねぇわっ!!ってか、真面だと思っていたミカが一番立ち悪ぃわっ!!スキルズはマジで根本的にイカれたヤツしかいねぇのかよっ!!・・・ってか、何でもいいから早く彼女を助けてあげてぇぇぇぇ!!木下さんスライムの体液でグッチョグチョになってんぞ!!)
雄太は、改めて、誰1人として真面なのがいないスキルズのイカれ具合を思い知った。
「あぁぁぁんっっっっっ!!」




