110. 巫山戯んなよ!?
横に並んで悠々とダンジョン内を歩いている雄太達は、通常はモンスターが溢れるダンジョンの中を歩いていると言うのに、まるで、静かな公園を散歩しているかの様にのんびりと歩いていた。
今の状況を言うなら、まるで、鍾乳洞見学ツアーの様な、のんびりとした状況だった。
「なんなんですかコレは・・・こんなに緊張感が無いダンジョンは初めてなんですけど・・・」
最初の方は、芽衣はダンジョンにいると言う事で気を張っていたのか、後ろや周りをキョロキョロと頻繁に気にしながら腰に差している刀へと常に左手をかけていたのだが、しかし、だんだんと時間が経ってくると、芽衣は手をダランとさせて刀から手を放し、散歩する様に歩き始めた。
「まぁ、アイツらが先行してモンスターを倒してますんで、そこまで気を貼らなくてもいいですよ。それと、俺の周りにはスキルを発動させて結界を張ってますんで。モンスターや何かが現れた場合は、瞬時に分かる様になってますし、多分、出て来た瞬間に瞬時に即殺なんで、楽にしていてください」
雄太は芽衣が心配している事について、自分のスキルで結界を張っているから大丈夫という事を伝えて安心させた。
実際、雄太は、雄太を中心として半径10m程の薄く伸ばした膨張を上にも下にも張り巡らせており、しかも、その結界内には、寄生変形の目に見えない膨張が常に散布されている為、雄太と芽衣がいる場所へとモンスターが到達する迄には、確実に死ぬ、若しくはタダでは済まない状態になってしまうという極悪な環境を作り出していた。
『シス。木下さんへの膨張の浸食率はどんな感じだ?』
『はい。既に100%となっております』
『分かった』
(これで、木下さんへの危険度もかなりさがったな)
雄太はシスから芽衣へと寄生変形を散布して膨張を体内へと潜伏させた浸食率を聞き、念には念を入れて安全な生存対策をとった。
『傀儡につきましては、マスターの指示でいつでも発動可能です』
『あぁ。分かった。まぁ、とりあえず、今の状況だったらこのまま膨張を潜伏させておくだけでいいや』
雄太は、まるで散歩をしている様な今の状況を考え、危険は無さそうだと判断するも、今後について考えながら、このまま芽衣の体内の膨張を潜伏させたまま傀儡を発動せずに放置した。
『それと、マスター。先行させているスキルズからモンスターのコアが届いております。如何致しましょうか?』
『おぉ!新しいモンスターのコアか!それで、どんなモンスターのコアがあるんだ?』
『スキルズによって回収されたコアは、ゴブリン、コボルト、オーク、グレイウルフのコアです』
『なんか、微妙な如何にもって感じのモンスターばかりだな・・・』
雄太は、シスから聞いた、あまり強そうではないモンスターの種類に対し、残念そうにフ〜っと鼻から息を吐き出しながら、軽く眉間にシワを寄せた。
「橘花さん?何かあったんですか?この先で問題があったとか?」
雄太から吐かれた鼻息に気付いた芽衣は、瞬時に周りを警戒しながら雄太へと声をかけた。
「いえ。問題とかそんなんじゃないので安心してください。ちょっとした、俺の個人的な事で気になった事があっただけです。何か問題があった時はすぐに教えますので、今は大丈夫ですよ」
「は、はい・・・」
芽衣は雄太が言う個人的な事と言うフレーズが気になったのだが、深く追及はせずに納得する事にした。
(なんか、微妙なコアばかりだな・・・スライムグラトニーの事もあったし、リングには、レア種とか強そうなモンスターのコアを吸収させるって感じの方がお得感ありそうだな・・・)
雄太は手に入ったコアについてどうしたら良いかを考えるも、特段、現状でも全く問題無いので、取り敢えず後程どうするか決める事にした。
『シス。俺が他のモンスターのコアを吸収した場合、スライムスーツみたいに新たなスーツもレベルが上がって行くのか?』
『マスター。申し訳ございませんが、私ではリングの性能についての知識が無く、コアを吸収する前の段階では、スーツの性能について説明をする事ができません。私が管理できているのは、スライムスーツ等と言ったリングから派生したスーツのみとなっており、コアを取り込んでみなければ判らない状態です。ただ、私が分かるのは、マスターが倒したモンスターのみ、コアの吸収が可能と言う事だけです』
『マジかぁ〜』
雄太はシスの返事を聞いて、後でじっくりと検証してみる事にしたが、1つの疑問が出た。
『んん?ちょっと待てよ・・・って言うかシス、スキルズが倒したモンスターでも俺が倒したって事で判定されるのか?』
『はい。スキルズはマスターのスキルですので、マスターが倒したと言う定義に当てはまっておりますので問題ございません』
『そうか・・・それならよかった』
雄太は、シスのスーツの発現についての情報を聞き、もしかして自分自身でモンスターを倒さなければならないのでは?と考えていた為、シスからの回答で、スキルズでも大丈夫と言う事に対して自分が手をかける面倒が無くて良かったと胸を撫で下ろして安堵した。
「ユータぁ。わたし、暇すぎて飽きてきたんですけどぉ」
雄太が新たなスーツの事を考えていると、不意に雄太と芽衣の背後をついて来る様に歩いていたエルダから声をかけられた。
「・・・じゃぁ、オマエもアイツらと一緒に行けば良かったじゃねぇか・・・って言うか、飽きたってなんだよ?ホント腐ってんなオマエ・・・マジで使えねぇな・・・」
雄太はゴミを見る様な目でエルダを見つめた。
「ちょっ!?腐ってるって何よ!?使えないって何よ!?わたしが非戦闘員って事はユータも分かってるでしょ!?」
エルダは雄太の言葉に食い付き、必死に言葉を撤回する様に求めた。
「非戦闘員ってオマエ・・・全く支援も何もしないクセに何言ってんだオマエは?できるのは肉壁だけか?もうそれ以外にオマエが役に立つ場面は殆どねぇよな?」
「ひっどぉ〜い!!そんな言い方ないでしょぉ!?わたしはその娘がユータに襲われない様に見張っていたのよ!」
「お、オマっ!?何て事言いやがんだっ!?巫山戯んなよっ!?なんで木下さんがモンスターじゃなくて俺に襲われるんだよ!?一体どう言う意味だよそりゃ!?」
「そのまんまのそう言う意味よ!ユータがその娘と2人っきりなったら、誰がその娘の貞操を守ってあげられるのよ!」
「オマっ!?マジで巫山戯んなよ!?俺にもTPOくらい分かってるわ!なんで俺がこんな場所でそう言う考えを起こさなきゃならねぇんだよっ!?馬鹿かオマエはっ!!」
雄太はエルダの言葉に対して何故か盛大に動揺して焦りだし、変な空気を感じてしまったので芽衣へと視線を移した。
しかし、雄太が視線を移した先にいた芽衣は、何故か恥ずかしがる事なく、まるで何かの覚悟を決めている戦国武将の様にドンと胸を張って漢らしく構えており、雄太と視線が合うと、コクリと無言で頷いた。
「オイ!?アンタは一体なんなんだよ!?なんで今、頷いた!?意味分かんねぇよ!?って言うか、普通は恥ずかしがったり、引くトコだろソコはっ!?しかも、なんだよっ!?そのボールが飛んでくるのを待っている野球の守備の様な格好は!?色んな意味で怖すぎるわっ!!」
雄太の横にいる芽衣は、中腰になってバチンバチンと左手に右の拳をぶつけながら、獲物を狙う獣の様な目で雄太を見ていた。
「アレ?その娘、別にユータに襲われても良かったんだ?・・・って事は、わたしは邪魔者って事なのね・・・気づかなくてゴメンゴメン!って事で、ユータ。わたしもミカ達のところに行って来るね!それじゃ、ごゆっくり!」
エルダは芽衣の行動の意味を察したのか、「邪魔者はさっさと消えますよ」と言った様な感じでスキルズの元へと向かおうとしだした。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!?ごゆっくりってなんだよっ!?巫山戯んなよオマエっ!なんなんだよその変な気遣いはぁぁぁぁ!?オマエは絶対ここから動くなぁぁぁぁ!」
「え?だって、今からおっ始めちゃんうんでしょ?ここで?激しく?淫らに?」
「オイ!?言い方ぁぁぁぁ!?オマエっ!マジで巫山戯んなよっ!やる訳ねぇだろっ!馬鹿かっ!?」
エルダの卑猥な言葉に対して雄太は盛大に焦りだし、この場の変な空気にとても気不味くなってしまい、横目で再度助けを求める様に芽衣へと視線を移した。
だが、雄太が助けを求めた筈の芽衣は、何故か「え?ここで?今から?激しく?しかも淫らに?えーもぉ、仕方ないなぁー」と言った満更でもない様な顔をしてモジモジと身体を動かしながら、装備している防具の留め具へとゆっくりと手をかけ始めた。
「オイぃぃぃ!?一体ナニやってんだアンタはぁぁぁぁ!?今すぐその防具の留め具から手を離せぇぇぇぇ!!ってか何考えてんだよっ!?その表情は絶対におかしいだろっ!?この状況でする表情じゃねぇだろっ!?」
雄太の指摘によって防具を外す手を止めた芽衣は、「え?マジで?やんないの?ウソでしょ?」と言った様にドン引きしながら驚いている表情をしていた。
「ナニその顔っ!?なんでそこでドン引きしてんだよっ!?俺の方がマジでアンタに引いてるわっ!!こんな状況でどんだけやる気出してんだよアンタはっ!?」
エルダと芽衣は、慌てふためいて叫ぶ雄太へと、ヘタレを見る様な冷たい視線を向けていた。
「えっ!?ナニその目っ!?オマエら一体なんなんだよ!?俺が一体なにしたってんだよっ!?巫山戯んなよっ!!って言うか、ここはダンジョンの中なんだぞっ!?オマエらマジで頭おかしいだろっ!?もっと違うベクトルに緊張感を持てよっ!!」
雄太は新たな厄介者に対して酷く疲れ果て、 ダンジョンの壁へと頭をつけて何やらブツブツと呟きだした。
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