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見参!スライムハンター  作者: だる飯あん
Part 1. 第1章 怒涛のダンジョン 編
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11. 買い取り2

「ホラっ! あんた達! いつまでも黄昏てんじゃないよ! さっさと仕事しな! これはウチの業績を上げるチャンスよ! 今迄の分を巻き返すわよ! さっさと手を動かしな!」


おばちゃんは手をパンパンと叩きながら鈴木を含めてヘコんでいる職員達へと手を動かす様に促した。


ヘコんでいる職員達も流石に所長の指示に逆らう事が出来ず、ゾンビの様にゆっくりと動きながら査定を始める。


職員達が動き出したのを横目に、おばちゃんが真剣な表情をして俺に話しかけて来た。


「あんた、専属契約って知ってるかい?」


「え? 何それ? なんの専属契約?」


雄太は、おばちゃんの言っている言葉の意味が全く分からず、首を傾げながら返答する。


「あんたもダイバーになったんだから、今後も何かとこんな話が出てくるだろうから良く覚えておくんだよ」


おばちゃんはソファーへと腰を下ろし、雄太へと対面のソファーに座る様に目で合図する。


「専属契約ってのは、ダンジョン素材を扱う企業がフリーのダイバーと契約をし、その企業の専属として素材を提供してもらうって言う契約の事さ。 他にも色々と契約の種類はあるが、私がこれから言う契約は、あんたと此処のハロワとの契約についてだね」


雄太は企業でもないハロワが、何故俺と契約をするんだ?と言った疑問が浮かび、余計に訳が分からなくなってきた。


「あんたが今後も沢山稼ぐだろうと言う事を見込んで、私達と素材の売却の契約をして欲しいと言う訳さ」


おばちゃんから聞かされた説明は、ダンジョンで素材を採ってきた際は、出来るだけここのハロワへと販売してほしいと言う内容だった。


色々と事情もあるから絶対と言う訳ではないらしいが、此処のハロワへとダンジョン素材を販売する事で、ハロワの売り上げが上がると言う事らしい。


基本、ハロワはダンジョン素材の買い取りについてはギルドより格下の位置にいるらしく、有能なダイバーはどうしてもハロワより待遇が良いギルドへと移って行く傾向があるらしい。


その為、ハロワではモンスター討伐や素材に関しての依頼を出す事が少なく、多くが雄太も掲示板で目にしている様な職業の斡旋が主になってしまっているとの事だ。


それ故にハロワへの収益は少なく、職員の数もギリギリな為、いつ潰れてもおかしくない状態らしい。


一応、公務員な為、完全に潰れると言う事はないのだが、ギルド本部からこれ以上ここのハロワでの収益が見込めない場合は、ここを取り壊してギルドへと作り替えたいと言う申し出が出ているらしい。


そうなると、今の職員達は継続して雇ってもらう事は難しくなり、解雇され路頭に迷う可能性も無きにしもあらずらしい。


それを良しとしないおばちゃんは、俺をここのハロワの専属として素材の買い取りを行い、収益を上げる事でここの存続を図ろうと言う事らしい。


俺は、家から一番近かったハロワがここだったってだけでそれ程思い入れもないのだが、ここ1ヶ月間、職探しの為に毎日の様に通っていたので、ここが取り壊されるとなると少し寂しい気もしなくはない。


しかも、ここのハロワには、珍しくも最弱のスライムダンジョンがある為、ハロワ的には初心者用の訓練場を兼ねて業績を伸ばそうとしていたらしいのだが、そのアイディアがギルドの上層部に漏れてしまい、初心者ダイバーを呼び込む術を全て封じられ、業績を伸ばす方法が無くなってしまっている状態との事だ。


現在、ギルドの上層部はハロワの土地の所有権をギルドへと譲渡する様に国へと掛け合っており、残り3ヶ月以内にそれなりの業績を上げられなければ、国家権力の下、ここはギルドの所有物となるらしい。


「こんな事を今日ライセンスを取ったばかりの初心者のあんたに頼むのはどうかと思うけど、ここの存続の為、職員の未来の為に協力して欲しいのよ。 あんたはただ、今日と同じ様な量の素材をここに販売するだけで良いから。 あんたにはなんの恩恵も無く、全く関係のない事だとは思うけど、私達を助けると思ってお願い出来ないかしら?」


雄太はおばちゃんの話を聞いてどうしようかと悩んでいると、作業をしていた筈の鈴木や他の職員達がおばちゃんの横へと並び立ち、一斉に頭を下げた。


「「「お願いします!」」」


職員達がいきなり一斉に頭を下げたのを見たおばちゃんは、少し驚いた様な嬉しい様な複雑な表情をしながら雄太へと視線を合わせた。


「所長の私が一番最後なんてカッコ悪いわね・・・ どうかあなたの力を私達に貸して頂戴」


おばちゃんは雄太から視線を外し、周りの職員達と同じ様にゆっくりと雄太へと向けて頭を下げた。


雄太は、いきなりハロワの所長を初め、職員達に頭を下げられて吃驚し、何故かあたふたしてしまった。


「ちょ、ちょっと!? 皆さん頭を上げて下さいよ! 俺に皆さんが頭を下げる価値なんて全くないですよ! それに此処には明日も来ますし、明後日も来るから! 取り敢えず頭はあげましょ?ね?  こんなんじゃ話しづらいって!」


雄太の言葉に一同は頭を上げて、期待と不安が入り混じった目線を雄太へと向けて来た。


「あぁぁぁぁ!? なんでそんな目で見るかなもうっ! 分かった! 分かりましたよ! 俺が採って来たモンスター素材は此処だけで買い取ってもらうから! 契約なんてしなくても俺は此処で買い取ってもらうから! だからそんな目で俺を見るな!」


雄太は一同の視線に居た堪れなくなり、これからも此処で素材を買い取ってもらうと言う事を告げる。


雄太の言葉を聞いた一同は、静かに涙する者もいれば再度頭を下げる者もおり、おばちゃんは「ありがとう」と言って手を差し出して来た。


雄太は照れながらもおばちゃんの手を握り返し、一同へと向かって告げた。


「そんじゃ、明日はもっと素材を狩ってくるんで、ちゃんと買い取りお願いします!」


「「「・・・・・・」」」


雄太の言葉を聞いた職員達は、それぞれが其々の格好で意識を飛ばされたかの様に固まってしまった。


それから査定が終わったのは1時間後の7時過ぎになり、明日もこれだとキツイと言う職員からの必死の嘆願があり、それではと言う事で、素材は夕方に持ち込んで、査定は次の日の夕方迄には終わらせ、次の素材が持ち込まれたタイミングで前日の支払いをする事になった。


本日の査定の結果、素材は全て最高級と言う事で、スライムゼリー1個につき250円の値段が付いた。


それが226個もあり、手数料の10%を引いた価格、50,850円が今日の釣果となった。


その内、40,000円をおばちゃんへと返し、雄太のおばちゃんへの借金は、残り60,000円となった。



このままいけば後3日以内で返せそうだな。



俺は10,850円をポイントとしてカードに入れて貰い、ハロワの帰りに牛丼のチェーン店へと行って大盛りを3つ頼んだ。


支払いは、券売機へとダイバーのカードを起動させて翳すだけですんなりと精算が終わり、大盛りの券が3つ落ちて来た。


俺は頼んだ牛丼が運ばれて来たと同時に肉と米を掻き込む様に一心不乱で食べ、久しぶりに食事らしい食事を取った事で嬉しさの余りに涙が溢れ出てしまい、カウンターの中にいる店員や他の客に変な目で見られた。


「うっうっ・・・ 美味いな、 ちくしょう・・・」


店を出る前に牛丼を追加で2つ持ち帰り用で頼み、店を出た後に電柱の影でこっそりと収納の中へと牛丼を仕舞った。


これは収納の中の時間経過を見る為の実験でもある。


腹が満たされて満足した俺は、銭湯へと行って今日の汚れを洗い落とした。


銭湯の帰りがけに1ヶ月ぶりのコンビニへと足を運び、コーヒーや炭酸飲料と言った色々な飲み物と一緒にタバコを買い、コンビニの前にあるガードレールへと腰を下ろして久しぶりのタバコを吸った。


「この1ヶ月近くで酒は飲もうと思わなくなったけど、こればかりは止められないな・・・」


俺は久しぶりのタバコに満足しながら、ボロアパートの我が家へと足を向けた。


「良し!金貯めて原チャ買うぞ!」


こうして俺の長い1日が終わった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 極貧生活のなか手にしたお金で食べた牛丼旨かったろうなぁ~(今まではハロワの冷水だった様子)。 長い1日を終えてタバコで一息ついての一言に親近感を感じてしまいました。 〉「良し!金貯めて原チ…
[気になる点] 専属契約の旨みないんかい 手数料5%にするとか色々あるでしょうに
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