とある会話 54
Z「The Addicted Brain・・・」
F「ブレイン?脳?」
Z「ああ、薬物と脳に関する本だ。
そんなタイトルの古典的名著を、以前読んだ
ことがあってな。それに似た作用を、君らの
入眠時と起床時に作り出した」
F「どういうことだ?」
Z「 冬眠カプセルを作る技術はない。だが、
わが国は、薬物の開発には、多少は、時代の
先端を行ってるんだよ。分かるか?」
F「薬物の開発?」
Z「 薬物の力を利用して、脳に中毒性の
幻覚症状を引き起こすことで、300日間の
擬似的な冬眠体験をでっち上げたってことだ
冬眠してると思い込ませることに成功したんだ
薬の力で。入眠剤と幻覚作用を混ぜ合わせて
君らの思考回路を、私が300日後に会おうと
嘘の呼びかけをしても、本当にそうなっている
と信じさせる作用を及ぼす、言語誘導により
幻覚を与えることが可能な薬なんだ。それ
くらいは、製造する技術を持っている」
F「薬の力で、僕たちは、あんたに言語的に
誘導され、300日間冬眠していたと
思い込まされて幻覚を見せられて、それを
現実だと錯覚していたってことか?」
Z「まあ、簡単に言えば、その通りだ。フッ(笑)
だが、きみ、F君よ。さすがに副作用がある
んだよ。何せ、寝る前と起きる時に、強引に
入眠前幻覚剤と、起床前幻覚剤を噴霧するわけ
だからね。副作用の1つが、過剰なまでの不安
心理の増大だ。帰らせてくれ、帰らせてくれ、
ここは、おかしいと、みんなが感情的になり
大騒ぎしていただろう?あれも副作用なんだよ。
で、私が、冬眠カプセルに入るように、何度も
君らに、言葉で働きかけただろう?君らは、
自分の意志で、私の説得を受け入れたつもりで
いやいやながらもカプセルに入った。あれは、
君らの意志なんかじゃないんだ。薬による影響
なんだよ」
F「まさか、アキレスと亀状態の話も?」
Z「そう。君らは、否定しているようでいて、
最終的に、私が偽装した虚偽の仮説を受け
入れた。あきらめたり、妥協したりしたつもり
だったかもしれない。でも、それは違うんだ。
君たちには、私が話すこと以外に違う行動をする
選択肢がなかったんだよ。薬が脳に与える
中毒症状によって、私が語る言語的誘導に抗う
ことができなくなるんだ。やがて仲間が1人、
また1人、あるいは数人一気に消えたことも
相まって、現実を理解できずパニックになって
行ったんだ。それは極めて正常な反応だった。
君らは、精一杯頑張って薬の力に逆らおうと
した。素晴らしかったよ。フッ(笑)
君たちは、自らの脳内に生じている薬物の
作用から生じた不安心理を、地球への帰還願望
に変えることしかできなかったんだ」
F「ふざけるな! みんなは、どこにいるんだ!」