とある会話 50
Z「 まず、君を残したのは、君の能力を国の為に
活かしてみたいと私が思ったからだ。
ステーション滞在のなかで、そう考えるように
なった。君にチャンスを与えてみようかと」
F「 それは、どういう意味です?
さっぱりおっしゃっていることが
分かりません」
Z「 本来なら、君は前回、冬眠カプセルに
入った時に、他の者たちと一緒に消えて
いたはずだった。
だが私は、なぜか、その義務に躊躇した。
そして君をひとまず残して、真意を問い正そう
と思った。君が真実の究明に熱心なこと、
そしてもう1つ、私は君に聞いてみたくなった
んだ。優秀な君に、このステーション内の
事態をどう考え、そしてどう推理している
かを。他のメンバーとともに消えるはずの
君を、私はためらいながら、残すことにした。
君は何かの役に立つかも知れない、と。
私の好奇心を君が掻き立てたってわけだ」
F「僕をひとまず残した?消えるはずだった?」
Z「 敵を欺くには、まず味方から。このセリフの
説明から始めよう。ずいぶんと苦労したよ」
F「苦労?」
Z「ああ、ひどい苦労だったよ。私が、今回
司令部から言い伝えられた仕事内容だ。
仕事と思ってはいけないな。わが国が世界の
覇権を制する為に、私に与えられた仕事だ。
つまり私にとって崇高な使命だ」
F「覇権?崇高な使命?」
Z「そうだ。覇権を取るための、崇高な使命だ」
F「Zさんの使命?」
Z「 わが国は、世界にステーション計画を
発表した。その目的は、何だ?分かるか?」
F「 分かるも何も、26人が滞在可能な
宇宙ステーションで、3密解消をして来て
くれと国の司令部から言われました。
そして次々と仲間が消えましたがその理由は
Zさん、あなたは、この冬眠カプセルの効果
だと言いました。冬眠カプセル装置により
細胞の時間感覚に変化を与えて、仲間同士の
間に、時間や空間に対する距離感を
作り出す装置の実験じゃないかという
仮説をあなたは主張した。そしてわれわれは
それを検証するために選ばれたのだと。
あなたは仮説を立てて私たちに力説した。
だから、この壮大なカプセル装置の検証に
参加していることが、われわれの崇高な
目的であり、使命なんですよね?」
Z「違う。使命は、私にだけ与えられた。
君らを、あざむく必要があったんだよ」
F「欺く?全部、嘘だったんですか?」
Z「司令部から与えられた使命に、嘘をつくという
文字はなかった。あくまでも敵を撹乱し、
騙す為だった。君らに嘘をついたわけじゃない。
仕事なんだ。崇高な使命の中に、仲間へ嘘を
つくことは含まれていない。嘘ではなく、敵を
撹乱し、騙す為に、君らを使ったんだ。そして
本当の目的がばれないように、君らにはこの
ステーションの真の目的を、司令部から
伝えられることはなかった。君らの誰かから
情報が漏れれば、そこでこの計画は万事休すと
なり果てる可能性があったからだ」
F「Zさん、あなた以外のわれわれは、じゃあ
一体何の為にここへやって来たんですか!」
Z「オトリだよ」