とある会話 47
Z「F君」
F「 はい? Zさん、僕は正直に、あなたの
仮説が正しかったことを認めたいだけ
なんです。アキレスと亀状態など、今まで
僕が生じるはずないと思っていたことに対して
怒っていらっしゃるなら、再度謝ります」
Z「F君」
F「 はい? Zさん、何ですか?
もったいつけずに、
はっきり言って下さい!」
Z「 君は、今までどう思っていたのか?
君の仮説を聞かせてくれよ。わたしの、亀に
つまずいて負傷したアキレスの仮説ではなく
君自身の考えていた推理、仮説を教えてくれ
ないか?知りたいんだよ、わたしは。
ぜひ教えてくれ」
F「僕の推理?仮説ですか?」
Z「 そうだ。君は、メンバーの間でも、とりわけ
真実の追求に熱心な人物として有名だった
からね。真実を探究する者から、その仮説を
ぜひ聞いてみたいんだ。わたしの、アキレスと
亀状態の話など、絶対に起こりうるはずが
ないと思っていたじゃないか?
なぜだ?なぜ、今になって自分の考えを
変更した?教えてくれ」
F「 Zさん、だから先ほど申し上げたとおりです
僕は、あなたが主張したゼノンの
パラドックスではなく、フッサールの
現象学的アプローチの観点から判断して
しまったんです」
Z「 何だ?そのフットサルの伝書鳩的アプローチ
とは?」
F「 いえ、フットサルではありません。伝書鳩でも
ありません。フッサールという哲学者が主張
した現象学というアプローチです」
Z「 その現象学から考えると何が違うんだ?
冬眠カプセルから消えた者たちの真実が
どう解釈されるのだ?」
F「 いえ。解釈という大げさなものでは
ないんです。僕は、ただ昔、少し本をかじった
だけなんです。間違っていたら申し訳ありませ
ん。ただ、その哲学によると、観察すること、
客観的に見つめること、そしてそこから
沸き上がる物事の真実について自分の
本質的直感を大事にしながら
他者と共通の了解を把握しようとすることで
しだいに見えて来る共通認識がある
らしいんです。すみません。僕も理解不足
でして。簡単に言いますと
つまり
仲間たちが消えました。理由は分かりません。
仲間たちが消えたことにみんな驚きました。
そしてみんな心の底から動揺しました。
かなり不安になりました。
みんな必死に仲間を探して、仲間を案じました
その原因を一生懸命みんなで考えました。
でもさっぱり分かりませんでした。
Zさんのアキレスと亀状態説が、そこで披露
されました。それでもみんな、各々が、
各々の直感から、それは嘘じゃないかと
共通の認識を持ったんです。その直感は、
僕と全く同じ感覚でした。つまり、原因は
分かりませんが、消えた仲間たちの身に起きた
出来事は、原因が不明であるけども
少なくとも消えたことだけは認識されており
それ以外のことは、まだ何も言えないん
じゃないかと思う方が正しいと、
みんなが感じていたんです。
仲間たちが消えたこと。それだけが
大事な事実であり、Zさんが主張した
アキレスと亀の話は、何とでも言えてしまう、
事実とは全く無関係な異論で、僕はどうしても
直感的に真実だとは思えない感覚になりました
その仮説は、完全に荒唐無稽な作り話にしか
聞こえなかった。みんなの認識も同じでした。
そして僕が少しだけかじった理解不足で
誤解だらけのフッサールの現象学は、
出来事をしっかり冷静に観察しているならば
気持ちの中で自然に湧いて来る物事の
真実に対する判断は、本質的直感として
ある程度は自信を持って正しいと思って
良いのだとの見解を、フッサールが
提示していたような気がしたんです。
だから、自分の直感が他の仲間たちの直感と
全く同じ見解だったと知った時、正直、僕は
ほっと安心しました。そして自信を持って
みんなと一緒に、Zさん、あなたが主張する
アキレスと亀状態説を否定してしまいました。
地球のテクノロジーがこんなにも優れている
とは直感的にどうしても思えなかったことも
その一因です。リーダーを信じられず
本当にどうもすみませんでした」
Z「 なぜだ?それほど君に優れた本質的直感が
あるならば、なぜ、最後まで君は
自分自身の考えを、その見解を信じようとは
しなかったんだ?なぜ、今になって突然
アキレスと亀状態説に変更したんだ?
君は自分の感じた真実を信じて、それを
決して捨てるべきではなかったんだ!
現象学的アプローチとやらを信じていれば
良かったんだよ!なぜ土壇場で意見を変えた?
君がわたしに謝る必要など全くないんだ。
いいか?もう1回聞くぞ?
F君、君は本当に、今の人類のテクノロジーで
冬眠カプセル装置がアキレスと亀状態を
生じさせて、3密解消に成功したと
思うのか?F君、いいか?もし銀河系の中心
辺りに非常に優秀なエイリアンがいたとしよう
彼らのそのテクノロジーならどうだろうか?
以前も同じことを話した気がするが。
わたしは銀河系のエイリアンならば
冬眠カプセル装置により、アキレスと
亀状態を作り出すことは充分に可能だと思う。
わたしはそう思っている。
だが!
われわれは銀河系から来たエイリアン
ではない!果たして、われわれにそんな
高度なテクノロジーがあるだろうか?」
F「 Zさん、それは一体どういう意味ですか?
あなたは、まさかご自分の
アキレスと亀状態説を
今
僕に否定しようとしているんですか?
僕には、そう聞こえるんですが・・・」
Z「 F君、今、わたしが君に語ったことこそが
【真実だ】
われわれの国のレベルでは
そのような高度な冬眠カプセル装置を
作り出す技術はないんだよ」
F「えっ・・・?」