地球儀
「今度はどこに行くの?」
私はつまらなさそうに尋ねた
特に興味があるわけではない
必要最低限の会話
今この状況で必要な会話――
「さて、どこが良いと思いますか?」
事務所の応接室、フワフワの赤茶色のソファに腰掛けて
黒縁メガネをかけた男が笑顔で言い返してきた
「アメリカとかタイとか、その辺りが無難じゃないですかね……」
必要最低限を順守する
相手が不快にならないように――
「それも良いね、でもなぁ……」
あごに少しだけ髭が生えた男は手元の地球儀を回しながら楽しそうに悩む
「……」
ああ、今のには返事をした方が良かったかもしれない
「んじゃ、僕が回すから君が指で止めてくれないかい?」
「はぁ……、いいですけど」
嫌味な返事が漏れてしまって私は少しだけ姿勢を正した
男は特に気にしていない様子で地球儀を私の前に差し出す
「んじゃ、回すよ」
私がこの男の人の行き先を決める?
私が誰とも知らない人の命を握らされた気がして
私は地球儀の土台を男の人へと突き返した
「どうしたの?」
「いえ、私が決めるよりも自身で決めた方がいいのではと」
「ふむ……」
男はあごに手をついて悩み始める
出来ればこの場を離れたいけれど、今はまだその時ではない……
回る地球儀を二人で静かに見つめた
勢いよく回る地球儀が次第に速度を落としていく
十、九、八、七、六、五、四――
三、二、一――――――
「さてと」
男の人は立ち上がってうんと伸びをした
「どうしましたか?」
「うんや、君の見る地球儀と僕の見る地球儀ってさ」
なんだろう?
「今向かい合うこの状況みたいに反対なんだよね」
「……」
ニコッと笑う男の人に、私は心の中まで見られたような気がして――
その場で小さく丸くなっていた




