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哀愁
もみじが赤、緑、黄色と色を付ける山の中
着物を着た女性が一人
整備されていない道を歩いて何処へ行く
赤い和服に緑の刺繍を施して
描かれているのは舞い散るもみじ
黄色の帯が赤へと装飾を施して
漂う雰囲気は今居る山そのものである
「一輪咲いては散っていく」
「花が開けば人が死ぬ」
「魅惑の蜜は甘美かな」
伏し目がちな目で女性は歌う
それが何を意味しているのかは分からない
彼女はもみじの山を丁寧に歩いていく
「儚く咲けば脆く散る」
「強く咲けば引きちぎられる」
「無難に歩めば崩れ去る」
彼女の表情は楽しそうには見えない
無表情、無感情、なんと言えばいいのだろうか
「人の世を、離れて知ったこの小道」
「死んでもなお未練あり」
「咲き乱れようかこの山で」
言葉の勢いとは違って女性は淡々と歌う
その雰囲気を言葉にすればなんと言うのだろうか




