階段
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
声が聞こえて目を覚ます。
薄暗い空間、周りを見渡しても誰も居ない。
目の前には段差の大きい巨大な階段が積み上げられていた。
「ここは……」
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
先程の声が再び響いた。
人の声にしては機械的、機械の声にしては生の声に近い。
階段は一つひとつが腰の高さまである。
果てしなく遠く見える天上には丸い大きな蛍光灯が一つだけ。
逃げようにも周囲には扉が見当たらない。
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
再び聞こえる声。
「罪の数ってなんだ……」
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
私の罪……。
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
私の罪は……。
「一つ、家族に嘘をついたこと……」
私は、辛いことを辛いと言わずに微笑み続けた。
階段を上がる。
「二つ、友人を傷付けたこと……」
私は、苦しいと泣く友人に何も出来なかった。
階段を上がる。
「三つ、自分を偽ったこと……」
私は、生きる為に臆病者の私を隠した。
階段を上がる。
「四つ、同僚に隠し事をしたこと……」
私が、同僚が恨まれている事を知りながら黙っていた。
階段を上がる。
「五つ、私は欲深い人間であること……」
私は、家族と仕事の両方に手を伸ばし家族を悲しませた。
階段を上がる。
「六つ、見て見ぬ振りをしたこと……」
私は、道端で苦しんでいた人を臆病風に吹かれて無視をした。
階段を上がる。
「…………」
私の足は止まった。
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
「もう思いつかない……」
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
「分からない……」
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
「なんなんだ……」
「貴方の罪の数だけ、一つずつ階段を上がりなさい」
「もう無いって言ってるだろう!」
しんと静まり返る。
先程の声も聞こえない。
「えっ」
ふっと消える階段に、足場を失った私の身体が落ちていく。
「――ハッ……!」
六畳一間のいつもの部屋。
窓からは太陽の光が差し込んでいた。




