欺瞞
夜の駅、曲線を描いたホームに電車が停まる
ホーム中央にある椅子に腰かけていた私は横目で電車を確認した
電車の扉が開く 閉まる 発進する
過ぎ去った後には微かに風が吹きつける
今日一日で通り過ぎた電車の数 百十二本
「大丈夫ですか?」
不意に聞こえた言葉に振り返る
駅員が酔っぱらいに声をかけていた
時刻は夜中の十二時
駅員はズタボロの服を着た私に視線を向けた
目が合ったが逸らされた
整髪されていない伸び切った髪の毛
排気ガスや土埃にまみれた作業服
穴だらけの汚れたズボン
こんな人間に声をかける奴は居ない
「……」
駅員は酔っぱらいを連れてどこかへ行ってしまった。
終電のアナウンスが流れる。
駅のホームはもぬけの殻。
朝から晩まで座っているというのも考え物かもしれない。
「今日もやはり駄目だったか……」
不意に漏れた言葉に不敵に笑みが零れた
「――社長」
「うん?」
聞き覚えのある声に振り向く
眼鏡が良く似合う女性秘書が呆れた顔で立っていた
「会議すっぽかして何してるんですか……」
「ああ、いやいや、はっはっは」
「帰りますよ」
「はいはい」
私はそうして重い腰を持ち上げた――
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