善悪
私は罪人であり被害者である
私は一人の男を殺した
今、断頭台に首を固定された
あとは死ぬのみ
それまでに少しだけ
振り返る時間を
数日前の出来事
私は妻を殺された
頭部が地面を転がり
体は食卓の椅子に鎮座していた
その傍らで佇む男は
私に向かって微笑んだ
「おかえり」
血しぶきを浴びたであろう男の顔が
私の奥深くにあった怨嗟を呼び起こした
「お前が殺したのか」
私の口元は冷静に問うた
押さえきれぬ感情が目を熱くする
頬を伝う流線 悲しみの証
「そうだよ」
男は微笑んだ
「そうか」
私は男を殴り倒した
男は無抵抗のまま笑っていた
殴る度に心が抉られる
殴る度に魂が傷付いていく
拳が痛いと叫ぶが止まらない
何回も何回も
これでもかと男を殴りつけた
血塗れの男 血塗れの拳
気が付けば拳の骨が砕けていた
息絶えた男の顔は笑っていた
「満足か?」
そう言っている気がして
私は立ち上がった
妻と男の死体の横で
私は佇んだ
私は人殺しの罪で斬首の刑
理由を説明しても誰も聞いてはくれない
妻を殺された私は男の家族に恨まれた
妻の亡骸を
見届けられずに死んでしまう
砕けた拳を
絶望に打ちひしがれて握り締める
ロープを掴む執行人が私に問う
「汝の罪はなんぞや」と
私は言い返す
「人に罪は裁けない」と
執行人の手からロープが離れた
私は呟く
「善悪など、初めから人に決められるものではない」
不幸の連鎖は誰かが我慢しないと止まれない。。。哀しいです。




