妬み
太陽が天井で神々しく光を放つ。
多少の雲が漂う空、清々しい天気。
路地裏のカフェテラスに友人と共にコーヒーを口にする。
私は友人に突拍子もない話を持ち掛けた。
「君は誰かを恨んだことがあるのかい?」
「あるけどないね」
友人はふっと笑いながら答えた。
「君は誰かを妬んだりしないのかい?」
「あるけどないね」
友人は鼻で笑った。
私はコーヒーを一口飲んでからテーブルに置いた。
「君は感情が乏しいように思う」
「なぜそう思うんだい?」
友人に問われた私はありのままを説明する。
「君は喜怒哀楽の表現がない。君と居ても楽しいと思えるのは私くらいしか居ないだろう?」
「そうかもしれないね」
友人は淡々と答える。不敵に笑いながらコーヒーを飲む。
「周りに関心はないのかい?」
「ないね」
私は首を横に振った。
「もう少し周りを見るべきだ」
「いいや、見なくていいよ」
友人の鋭い視線がこちらへと向く。
「どうしてそう言い切れるのか教えてくれ」
「そうだね……。なら、仮にもう一人ここに誰かが居たとしよう。君は私ともう一人と会話をするかもしれない。でも、私はもう一人の人とは会話をしない。そうすることでどうなるか分かるかい?」
私は友人の問いかけに悩んだが、答えは出なかった。
「分からないな」
「君にとって話し相手として存在する彼は、私にとっては居ないも同然なんだよ」
「言っている意味が分からない」
「まぁ、そういうことさ」
友人は目を瞑って腕を組んだ。
私はもやもやした気分のまま、友人へ再度問いかける。
「仮にそうだとして、何故『見なくていい』という結論になるんだい?」
「……見ればそこには感情が生まれる。無意味な思考回路が形成され、他者の為に脳が使用される。赤の他人の為に喜怒哀楽をいちいち使うのは非効率的だよ。ただでさえ、視界の情報量は常に脳内に記録されていくっていうのに……。脳内データに見知らぬ人物の情報を入れたくはないだろう?」
私は唖然としていた。友人がここまで饒舌に話す事を知らなかった。
「君は今、私が一気に話した事に驚いているみたいだけど、こういう話はしたことがなかったからね。しょうがないさ」
「よ、よく分かったね……。あと、恨みと妬みのことも聞いてもいいかい?」
友人は少し驚いたのか、閉じていた目を開いた。
「ここまで話せば分かったと思うけど?」
「まぁ、念のため、一応って奴かな。問題の答え合わせはしておきたいだろう?」
「なるほどね」
友人は残りのコーヒーを飲み干した。
「さっきも言ったように、無関係の人達を覚えるのは実に非効率だ。自分の為にもならない。相手の為にもならない」
「ああ、確かにそうだね」
「人を恨んでも、妬んでも、それは同じで非効率的だ」
友人は目を閉じて瞑想するように指先を組み膝の上に乗せた。
私は友人に話しかける。
「でも、人は嫉妬する、誰かを恨んでは呪言を口にする生き物だよ」
「そこが非効率だと言っているんだよ」
「どういうことだい?」
「正のエネルギーと負のエネルギー、どちらも行動するための原動力になる。コレを感情に置き換えてみよう。喜びと楽しみを正のエネルギーとするなら、妬みや恨みは負のエネルギーになる。理解できるかな?」
「ああ、分かりやすい」
「ふふっ、ありがとう」
友人は初めて声に出して笑った。
そして、言葉を続ける。
「正のエネルギー、つまり喜びや楽しみが生きる原動力になるように、負のエネルギーも同じ原動力にすればいいんだよ」
「ん? 別のエネルギーなのに一緒には出来ないだろう?」
「薪はくべられた、なんて言うだろう。負のエネルギーを燃やして正のエネルギーに転換してあげるのさ」
「……」
つまり友人は……。
「どうしたんだい?」
友人の問いかけに私は問い返す。
「君は負の感情を全て正のエネルギーに変えて生きていると?」
「まぁ、そういうことかな」
喜怒哀楽の乏しい友人。
感情表現の薄い友人。
誰も責めたことのない友人は、自分を貫いていた。
ちょっと題名と逸れている気もしますが、、、これで大丈夫でしょう!




