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殻師―からし―

 山奥にひっそりとたたずむ小さな家屋。


 藁ぶき屋根は既にある程度剥げ落ちてしまい、屋根の表面が地表からでも見える。


 二枚で仕切られているはずの障子の玄関。片方が外から丸見えの状態で野ざらしとなり、家屋の中に障子が死んだように倒れている。

 廊下も何もなく、茶室のような狭い空間が窺えた。


 そんな山奥の人知れぬ場所にやってきたのは一人の殿様だった。

 立派な身なりに似つかわしくない疲れ切った表情を浮かべ、倒れた障子を足元に見つつ立ち止まる。


「ごめんください」

「……」


 殿様の声に反応はない。


「誰かおらぬか」

「どうなさいましたか……」

「なっ……」


 玄関を辛うじて仕切っていた障子の裏から老婆が現れた。

 どこにその身を隠していたのか、背中の曲がった老婆は顔だけを殿様に向けてニヤリと笑う。


「へっへっへ、こんな山奥に何か御用ですかい」


 皺だらけの老婆の身なりは此処の家屋と同じように荒んでいた。ズタボロの雑巾のような着物は色褪せ、元の色が何色だったのか定かではない。


「ご老人よ、其方が殻師か」

「さてさて、どうでしょうねぇ」


 真剣な眼差しで殿様は老婆を見つめるが、老婆は不敵に笑うだけではぐらかした。


「私の心を閉じて頂きたい……」


 殿様は苦悶の表情で老婆に頼み込んだ。

 地面に手をつき、頭を下げて頼み込む殿様に、老婆はただ笑っていた。


「そんなこと、やってどうするんじゃ」

「人の世は耐えられぬ……これ以上は私の心が壊れそうなのです……」

「己の保身の為、殻を纏いたいということかの」


 老婆が嫌な笑みを浮かべて殿様を見つめる。

 所詮、人の世に生きる人間など、自己保身の塊であり、己が欲の為に生きているような存在。この山奥まで来た殿様でも、結局は同一の存在でしかない。

 老婆は不敵に笑う。


「それは少しだけ否定させて頂きたい……」

「ほう……」


 殿様の言葉に老婆は片方の眉を上げて興味・関心を示した。


「私の心は脆い……。誰かに疎まれ、忌み嫌われ、陰口を叩かれれば病に伏せてしまう程に脆い生き物なのでございます……。でも、私には守るべき民がおります。ここで心を挫き折れて絶望するにはまだ早いのでございます……」


 老婆は顎に手を添えて殿様を訝しく見つめた。


「そこまでの想いがあれば、お主の力だけでも十分であろう……」

「いえ……この先の戦い……死闘の中でも挫けぬように……。最後まで民を、兵士を守り抜きたい。その想いを強く持ち続けたいのでございます……」


 老婆は不敵に笑った。


「その想い、しかと受け取ったぞ」

「ありがとうございます……では、どうすれば……」

「もう、終わっておる」


 老婆の言葉に殿様は頭を上げて疑問を投げかける。


「ですが、まだなにも……」

「お主の言葉はしっかりと包まれ、私の心に留めておいた。行くがよい」


 老婆は狭い家屋の中へと消えていく。


「ありがとうございます……」


 殿様はその後ろ姿に一礼をし、己が信念を貫くために城へと戻っていった。

この話、なんですかね(;・∀・)書いてて疑問符が……

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