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勇気

 地下にあるバー、薄明かりの店内のカウンターにスーツを着た男が一人――


「水割りをください」


 男は頬杖をついて俯きながらバーテンダーの男性に声をかけた。


「かしこまりました」


 白髪の短髪が良く似合うバーテンダーは手慣れたように手を伸ばす。


「私も水割りをください」

「かしこまりました」


 男の席から右側、一つ離れた位置に座る赤いドレス姿の女性。


 男がここに通うようになって数ヶ月、女性は度々男と鉢合わせをしていた。


「お待たせしました」


 二人の前にグラスが置かれ、同時に「ありがとう」と発した。


 バーテンダーは細いキリっとした目で男を見つめる。


 一気に飲み干す男。

 バーテンダーはカウンター越しでもう一杯、男が呟く前に用意を進める。


「マスター、もう一杯」

「かしこまりました」


 コトン、とバーテンダーの置いたグラスが音を鳴らす。


「失礼しました」


 男はバーテンダーの言葉に疑問符を浮かべたが、それよりも右側に座る女性に視線を流す。

 グラスを傾けながら水面を見つめる鼻筋の通った綺麗な顔立ち。西洋の出身だろうか。美しく長い金色の髪が赤いドレスとよく似合っている。


 女性の視線が男と交わった。

 バーテンダーは静かに目を閉じる。

 交わした視線を外し、二人はグラスに入った水割りを口にした。


 グラスが再びカウンターテーブルに置かれた音と共に、バーテンダーは目を開けた。

 静かなクラシックが店内に優しく響いている。


「マスター、今日はもう帰るよ」

「さようでございますか」

「ああ、ありがとう。お代はここに」

「……」


 バーテンダーは置かれた金額を見て心の中で溜め息を漏らした。

 男はスーツを整え歩き出す。


「では、また来ます」

「ありがとうございました」


 カランカランとバーの入り口の扉が開き男が出て行った。

 バーテンダーはテーブルに置かれた金銭に目を向ける。

 女性はその姿を気付かれないように目線だけを動かして見つめた。


「今日も奢りだそうです」

「……そう」




 男の勇気はいつもそこ止まりだった。

メモリーグラス……ちょっと思い出しちゃって……。

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