天邪鬼―あまのじゃく―
私はただ……誰かの手助けがしたかった。
ある日、道端で泣いている少女の匂いがした。
独りで泣いている少女に「どうしたの?」と問いかける。
「お母さんとはぐれたの……」
少女は泣いていた。
親との別離は子どもの心には辛く、独りきりになった心への重圧は計り知れないものだと私は知っている。
「一緒に探そうか」
「いいの?」
「もちろん」
私は少女に手を差し伸べた。だが、私の手は横から現れた者の手によって払い落とされた。
「うちの子に何してるんですか」
「私はただ……」
「お母さん……」
女の子の泣き声に私の言葉はかき消された。
微笑ましい親子の姿、人はどうしてこうも美しいのか。
母親が私を睨みつけた。
「うちの子に近付かないでください」
私はただ……独りきりの少女を助けようとしただけなのに……。
――私は少し億劫になった。
ある日の夜、私は石造りの町を独りで歩いていた。
左右に建てられた家の中からはそれぞれの家の香りが外へと手を伸ばしていた。
人の世界はなぜこんなにも美しいのだろう。
石を敷き詰めた道をしっかりと足で踏みしめて歩く。
大通りから枝分かれした細道から変わった匂いがした。
一人の男が壁にもたれて苦しそうにしているようだった。
私は声をかけた。
「どうしましたか?」
「……」
男はこちらを見つめるが答えない。力強い目つきに、なぜか私は心を刺されたような感覚を覚えた。
「ど、どうなさいましたか?」
「……」
ボロボロの汚れた衣服、砂や埃を身に纏った男のスーツは薄黒い灰色のようなものに変色していた。
男の目は何かを決心していた。でも、私にはその目の意味が分からない。
「苦しいのですか?」
「黙れ……近寄るな……!」
「苦しそうなのに放ってはおけません」
私は男に近付いた。
そして蹴り飛ばされた。
「気持ち悪い……俺に構うな……!」
「ど、うして……」
腹部を蹴られた痛みに蹲るしか出来なかった。
「目も見えない鬼の子がなんでここに居るんだ!」
男はそう吐き捨ててどこかへと消えていった。
腹部の痛みと家の中から漂う優しい香りだけが、最後に感じた私の匂いだった。
人は表面上だけで中身まで見ることは中々出来ませんよね……難しいです。
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