筆辞の群れ―ヒツジノムレ―
全ての作者さんのやる気に繋がりますように……。
永遠と砂漠が広がるこの土地には、かつて多くの人が住んでいた。
何も無いこの土地で彼らは何もせずに平和に過ごしていた。
争いもない。楽しいこともない。
本当に何もない。
彼らは空を見上げて雲を眺めた。
ある時、一人の子どもがぽつりと呟いた。
「雲を見ていると楽しいね。何かが動いて形を変えて、気が付いたらまた次の雲が来るんだよ。次から次に人が移動しているみたいだ」
大人たちは笑った。
雲を見る楽しさを――
形を変える変化を――
子どもの言葉を――
大人たちは笑った。
それでも、子どもは毎日雲を見ながら物語を紡いだ。
「トムがあの子であっちがマーク、今は二人とも喧嘩して離れ離れなんだ」
大人たちは笑った。
雲に名前を付けることを――
雲が喧嘩していることを――
離れ離れだということを――
子どもの言葉を――
大人たちは笑った。
しかし、ある時、大人たちの一部が子どもの真似をし始めた。
雲を人に例え、物に例え、感情に例え、心に例え、魂に例え……。
子どもよりも遥かに言葉を知った大人たちは、自分たちの方が上だと子どもを馬鹿にしていた。
それでも、子どもは自分の描く空を見上げ続けた。
大人たちは笑う。
子どもの言葉を――
子どもの物語を――
大人たちは笑う。
数日、数週間もすると、大人たちは物語を作ることに飽きてしまった。
大人たちは笑う。
自分達がしてきた事は無意味だったと――
大人たちは笑った……。
それでも子どもは、形を変える空に物語を描き続けた。
いつしか彼らは子どもの物語に耳を傾けていた。
純粋な物語を――
この子にしか描けない物語を――
素敵な無数の物語を――
大人たちは微笑ましく笑った――
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