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施設の小さな子どもたち

 お金はあるけどなぜかホームレス生活をする、空町楓。のどかな緑の中で起きた楓は、昨日妹の莉愛から来てほしいとの連絡があり莉愛のもとに向かうと、「新しい友達を紹介する」とのこと。そのまま莉愛についていくと着いたのは莉愛の暮らす児童養護施設で…?

 とある児童養護施設の日常を描いた小説の第1部目です。

 4月も終わり5月の初め、ゴールデンウィーク真っ只中の今日この頃、皆さまどうお過ごしでしょうか?

(わたくし)空町楓(そらまちかえで)はただ今社会的に終わりを迎えるかも知れない状況に立たされています。


―第一章 女子小学生とホームレスの出会い―

 今日の天気は清々しいくらいにすっきりと晴れて1日の始まりとしてはかなりいい方だと思う。

「ふぃー、最近は晴れが多くて助かるなぁ…さてとまずは持ち物チェックをしますかな」

 ここに俺以外の人が訪れる事はまず無いとは思うがやはりチェックをしなくては気が済まない。高校を卒業した時からこの生活をしているから今で丁度2ヶ月が経つのか。

「物はちゃんとあるなよしよし。にしてもいつまでこの生活を続けるんだろうか…仕事を探さないといけないんだがこの状況で雇ってくれる所なんて無いしなぁ…」

 …どう言う事か説明しましょう。空町楓18歳、彼には()()()()()()()()。そう彼は18歳にして現役のホームレスなのです。両親が事故で亡くなり、親しい親戚もいない楓は家の家賃を払える訳もなく家の中にある物だけで無く家まで失い、今こうして新しい家(ダンボールハウス)で生活している訳なのです。

 …なんて言ってるけど実際は1人で暮らせるような安い物件なら余裕で借りられるくらいの貯金はある。前の家が一軒家だったからアルバイトだけの自分には払えなかっただけで今なら何の問題もなく暮らしていけるだけのゆとりはある。あるにもかかわらずこんな生活をしているのにはちょっとしたわけがあって…。

「貯金は本当に大変な時以外使いたく無いし、一応今までで貯めてきたバイト代でなんとかなるから大丈夫かな。とはいってもこのままホームレスはまずいよなぁ…。やっぱり家をかりたほうがいいよなぁ…」

 貯金はあまり使いたくない、今の生活なら今まで貯めたバイト代で何とかなる、これが今ホームレスをしている理由の1つでもある

 バイトは一応している。バイト先の店長に今の状況でもお前さえやる気があるなら今まで通り雇ってやると言われた。本当に感謝しても仕切れないくらい優しくしてもらっている。

「っとあまりぐだぐだしていると莉愛に怒られるな少し急ぐとしますか」

 俺には8つ歳が離れた妹がいる。名前は空町莉愛(そらまちりあ)10歳の小学5年生。俺と暮らしている訳ではなく町の児童養護施設で暮らしている。

 …余談だが児童養護施設といえば俺の中でキリスト教のイメージ強く施設は教会のような場所なのかと思っていたが、そんな事はなく逆に教会がある施設の方が珍しいぜ?と施設の院長に言われた事があった。

 莉愛がいる施設は一般的な児童養護施設では無いらしく、新しい家が見つかるまで好きに暮らしていいと言う場所だと言う。初め聞いた時この人正気か?と思ったくらいだった。というか、児童養護施設でもなかったような気がする。本当に善意で動いているだけらしい。女性の方なんだがかなり若く確か21歳って言ってたような気もする。本当かどうか知らないが。

「さて行きますかな。そいじゃ行ってきます」

 誰もいない空間にそう言って待ち合わせの場所まで向かった。


 待ち合わせ時刻の10分前に到着する事ができたこんな事なら近くのコンビニによっておにぎりでも買えばよかったな。そんな事を考えていると。

「あ!さすがお兄ちゃん早いね」

 そう言いながら俺の横まで歩いてきたのが妹の莉愛。身長的に見ると小5ではなく小2くらいに見えるくらい小さい。

「まぁほぼ毎日暇しているような人だからな仕事も探せないし」

「もうだから三田さんの所にお兄ちゃんも来ればいいんだよ」

 三田さんと言うのがさっき話した施設の院長さんの事だ。

「流石にそこまでしてもらう訳にはいかないよ莉愛の学校費用とかも払ってもらってるんだしこれ以上迷惑をかける訳にはいかないよ」

 払っているって言うのにびっくりするかも知れないが三田さんいわく『ここに住んでいる子たちはみんな私の子供みたいな訳だから学校費用くらい払うのは当たり前じゃない!』との事だ。その施設自体大きく無く、今は莉愛しかいないんじゃ無いかな?1ヶ月くらい前に1人親が見つかったとかで出て行ったって聞くし、その時点で莉愛含めて2人しかいなかったし。

「よし、そろそろ行こうかお兄ちゃん、今日は莉愛の新しい友達を紹介します!」

 友達を紹介する~なんていつぶりだろうか学校ではクラス内役員である号令係として過ごしているが、あまり周り子とは関わっていないらしく大抵1人でいることが多いらしい。完全に周りとの壁を作っているわけではなく、ただ単に1人でいる時間が多いだけみたいだ。

 現にクラス内とお隣のクラスの何人かとは友達らしいし。まだ家があるときには友達を連れてきたのを見た気がする。

「わかったじゃあそろそろ移動しようか場所はどこなの?」

「ついてきたらわかるよ」

 なんだよ教えてくれよと言おうと思ったが莉愛が楽しそうだから良しとしよう。

「りょうかい、じゃあ何も聞かずついて行きますよ」

 そう言って2人で歩き出した。思えば莉愛と会うのも1ヶ月ぶりか、別れて暮らしているとはいえ流石に合わなすぎたのかな、莉愛も寂しかったのか俺にくっついて歩いている。

「あのー、莉愛?あんまりくっつかれると歩きにくいんだけど…」

「いいじゃん別に。1ヶ月も会えなかったんだから…」

 そう言って莉愛は俺の腕を掴んでいる手に軽く力を入れた。やっぱり寂しかったんだなぁ。

「それは悪かったって。でも許してよ、本当にちょっと前までは忙しかったんだから」

「そんなのわかってるもん…」

 …やはり俺の妹は可愛い。


「ついたよ!」

「ついたって莉愛…ここは…」

 待ち合わせした場所から15分くらいだろうか歩いて着いた場所は…莉愛の住んでいる児童養護施設(仮)だった。

「そうだよ最近というか1週間前に新しく来た子がいるのその子たちがなんと私と同じ小学5年生だったの!」

 なるほどなそりゃ友達ができるならここが関係していると考えるのが妥当だったか。

「じゃあ早速入って紹介するから!」

「はいはい、言われなくても入りますよ三田さんにも挨拶しないとだしね」

 新しく入ってきた子がいつ出ていくか分からないけど俺も軽く出入りはするだろうから1度会っていた方がいいだろう。なにせ莉愛の友達なんだし、挨拶くらいしないといけないよな。

 そう思い莉愛のことを追いかけるように施設の中へ入って行った。

「そういえば莉愛?この施設ってこんなに大きかったっけ?」

 心なしかというか明らかに大きくなっていた元々施設は1階しか無かったはずなんだが外見を見て見ると2階もあるように見える。にしたって他の施設に比べたら小さいんだとは思うんだけど。…まぁ思うといっても他の施設を見た事ないからよく分からないけど。

「あー、なんか最近この場所が正式に施設として申請して通ったらしいよ~、とは言っても三田さんは今までと変わらずにやるらしいけどね。そこで今まで少しずつ貯めていたお金で増築したんだって半月くらい前に」

 いや流石としか言いようのない行動力。申請したのがいつか分からないけど半月前に増築してその1週間後くらいに新しい子を受け持つのはどうなんだろうか?まぁあの人ならやりかねないけど。

「じゃあ私の友達を紹介するね!」

 いつの間にかドアの前まで来ていたようだ。ドアを開けて勢いよく入っていった莉愛に続くように入った。


「みんなただいまー!」

「お邪魔します…え?」

 つい声が出てしまった。出迎えてくれたのは4人の女の子。1人だと思っていたから4人もいてびっくりした。

「やっと帰ってきたわね莉愛、遅すぎよ」

「りあちゃん、その人が~お兄ちゃん?」

「思ってた以上に身長高いんですねちょっとびっくりしました」

「え…えっと…その……ふぇ…やっぱり…ちょっと…怖い…」

 よしとりあえず色々整理しよう。……とりあえずみんな可愛いな、まったりしている子もいればちょっと怖がりな子もいたりと…ってなにを考えているんだ?落ち着けお前は18歳でホームレスなんだぞ?なんなら兄妹である莉愛もいるんだから本当に落ち着け。……よし落ち着いた、もう大丈夫。

「とりあえず中入ったら?三田さんがお菓子作ってくれたみたいよ」

 え?三田さんが?これは少しまずいかも知れない…。


 リビングに上がり妹と4人の女の子たちと一緒にクッキーを食べている。

 三田さんが作ったって言ったからちょっと心配だったが()()()大丈夫だったみたいだ。いつだったか砂糖と塩を間違えてお菓子を作った事がある前科持ちだからなあの人。

「じゃあ早速だけど紹介していくね」

 あぁ忘れていた。三田さんがちゃんとしたクッキーを作った事に少し驚いてしまい大事な事を忘れていた。ちなみにその三田さんはいま買い出しに行っているらしい。久しぶりに料理でも作ってあげようかな。

 …ところで莉愛の話し方が歩いているときとは違いかなり落ち着いて話しているけど、そんなに改まる事なのかな?

「まずはそこのちょっと強気な子が浅石真紀菜(あさいしまきな)

「名前で呼ぶなら真紀菜って呼ばないでよ。呼ぶならみんなみたいにまきって呼んで」

 肩まですらっと伸びたストレートヘアーが時折見せる口調と相まって少しお嬢様のように見えなくもない。強気に振る舞ってはいるけどきっと根は優しいんだろうな。

「んで次にまったりしている子が白崎歌音(しらさきかのん)

「名前は~お兄ちゃんの好きに呼んでいいよ~歌音でも~カノでも~お好きにどうぞ~」

 髪の毛は今いるこの中では1番短いけど、少しパーマがかかっているらしく、軽く髪の毛が浮き上がっている。かなりまったりとしていて少し眠そうにしているがおそらく本当に眠たいわけではないのだろう。

「次にちょっとしっかりしている子が星谷奏(ほしやかなで)

「星谷奏ですよろしくお願いします」

「カナはしっかりしてるように見えてそうでもないから、お兄さん気を付けた方がいいよ?」

「まきちゃん!そんな事言わなくていいから!お兄さんもそうなの?見たいな顔しないでください!」

 綺麗に整ったショートカットがよく似合っていると思う。まきちゃんはそんなしっかりしてないって言ったけど敬語で話しているし、何よりお辞儀までしているから、かなりしっかりしていると思う。

「最後にちょっと恥ずかしがり屋で怖がりな子が雨宮雫(あめみやしずく)

「あ…えっと…雨宮…雫です…えっと…その…よろしく…お願いします…」

 恥ずかしがり屋と言うよりは緊張しているって感じだな。仲良くなればちゃんと会話できるようになるかな?それと玄関でももちろん気づいてはいたんだけどやっぱり気になるのは後ろの方でツインテールにしている白い髪だ。アルビノか…学校とかでいじめられないといいけど…。

「んでこの人が昨日話した――」

「あー、いいよ自分でするから」

 紹介しようとして急に止められる少しふてくされたが直ぐにやめ、仕方ないなという感じでこちらを見ている。

「昨日話して貰ってはいるらしいね。改めまして空町楓です。莉愛の兄で今は18歳だからみんなの8つ上になるのかな?ときどき出入りすると思うからその時はよろしく」

 久しぶりに自己紹介なんてしたなぁ…ちょっと緊張したかも。昨日話したという事は俺がどんな生活をしているか知っているはずだから言わなくてもいいだろう。 

「さてみんななんか質問したい事ある?答えられる範囲で答えるよ」

 なんかどっかのコーチかなんか見たいな聞き方したけどまぁいいだろう。

「は…はい…」

「雫ちゃん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。俺は余程の事がない限り怒らないから」

 意外にも最初に口を開いたのは雫ちゃんだった。やはり少しおどおどとしていたので、なるべく優しくそう言うと雫ちゃんは少し安心したような表情を見せた。

「えっと…お兄さんの事どのように呼んでいいのでしょうか?」

「あーそれは私もちょっと聞きたいかもしれないわ」

「呼び方かぁ…みんなの好きなように呼んでくれればいいよ。空町でも楓でも俺だって事が分かるならあだ名でもいいよ」

 実際どう呼ばれても大丈夫な人だからみんなの呼びやすいように呼んでもらって構わない。実際俺自体が堅苦しいのはあんまり好きではないからね。

「じゃあ~かえでお兄ちゃんは~どこに住んでいるの~」

 …あれ?昨日話したんじゃ無かったのか?と思い莉愛にアイコンタクトをすると莉愛も忘れてた!みたいな反応を示した。

「はぁ…莉愛、話すなら全部伝えて欲しかったな」

「…ごめんなさい」

 4人はなにがなんだかわからないと言った感じだ。

「…すごくいいにくいが俺は家がないんだ。つまりホームレスって言うやつだね」

 4人はまたぽかんとしていたが、俺の言葉の意味が分かったらしく。驚いたようすでこちらを見た。

「えぇ!?空町さん、家がなかったんですか!?」 

「なんか~聞いちゃいけない事聞いた~?」

「莉愛はいいとしてもなんであんたまでそんな生活してるのよ!」

「か、かえでさん…だ、大丈夫…何ですか?」

 なんかすごい心配される。嬉しいんだけどその心配してくれている人が小学5年生なのが情けない。しかも女子。

「いやー家を借りようにもお金がないから借りれないし、今の生活なら贅沢しなければやっていけるしいいかなぁと…」

 小学生になにを言っているんだ。しかも普通に嘘ついてるし、お金は十分にあるし何なら少し贅沢しても問題ないくらいのお金はある。

「そ…それならかえでさん!か、かえでさんも…えっと…こここ、ここで暮らせばいいんですよ!」

「そうですよ!空町さんが莉愛ちゃんのお兄さんなら三田さんも了承する筈ですよ!」

 もう了承はされてるんだよなぁ…。「いいからあんたも来い」みたいな感じで初めはそうしようかと思ったんだけど、やっぱりいろいろあるからなぁ…。

「でも莉愛のこともあるからこれ以上迷惑はかけたくないんだよね…」

「だぁからそんなのいいって前から言ってるじゃないの。楓君が来てくれると多少家系が楽になるって言ってんじゃん」

 いつの間に帰ってきたのか三田さんがそう言って入ってきた。本名は三田穂花(みたほのか)、セミロングくらいの髪を茶色く染め軽く巻いているのが特徴だ。仕事は小学校で保健室の先生をやっている。莉愛の通っている学校で。

「あ、三田さんだおかえり、今日はなに買ってきたの」

「おう、ただいま今日の晩ご飯をカレーにしようと思ったからその材料を買ってきたんだぞ。んで?楓はどうするんだ?私はどっちでも構わないぜ」

 三田さんだけならともかく莉愛や他のみんながいるからすごく断りにくい。さてどう答えるか、そう思った時だった。

「か…かえでさん!私は…その…えっと…かえでさんが来てくれた時からかっ…家族に……家族になりたいと思いました!」

 …え?今なんて?…家族になりたいって言った?

 空町楓はこの日社会的に終わりを迎える状況に立たされました。


―第二章 突然の告白と楓の思い―

「家族になりたいと思いました!」

 そう雫が言った瞬間雫以外の人の時間が止まった。数秒経ったのちにようやくみんな少し落ち着いたのか声を発し出した。…俺は全然落ち着いてなんていないけど。

「し、シズがまさかそんな事を言うなんて…」

「しずくちゃんってもしかして~せっきょく的なの~?」

「これは…面白くなって来た…!」

 奏ちゃんってもしかしなくてもそう言う子なのか!まきちゃんが真面目じゃないって言った理由がわかった。これはちょっと気を付けなくては…。

「ちょ…ちょっと雫!?その言い方は色々と違うと思うよ!?ほらお兄ちゃん固まっちゃったじゃん!?」

 なんで莉愛が1番動揺してるんですか!?ちょ…ちょっと三田さん助けて…!

「あはは!雫よく言った!これは楓…?断れないよなぁ?」

 助けを求めたのが間違いだった!この人もかなちゃんと同じ感じの人だったか!?

「え…えっと…だめ…ですか?」

 その言い方にもだいぶドキッとしてしまった。落ち着け楓、落ち着くんだ…!だが無理だ、断れる訳ないじゃないか!反則的に可愛い…!

「は…はいここで暮らします…」

「空町さん。答え方が違うんじゃないですか?」

 奏ちゃん!?いやそれは本当に社会的に終わるからやめて下さい…。とはいえ言うまで認めませんというような笑顔で見てくる…ここは腹を括るしかない…。

「わ、わかった…。か、家族に…なります…これでいいでしょうか…奏様…」

「ふふんよろしい空町さんを()()()()として認めます」

 奏恐ろしい子だ…!人をからかうのがおそらく好きなんだろう、とはいっても本当にからかうだけって感じみたいだな。さっき敬語ではにしていたのを見ると、ただませているわけではないだろう。

「………あ!」

 雫ちゃんはみんなの言っている意味に気付いたようだかなり赤面している。

「い、いえかえでさん!…私はそんなつもりでは…!…はぅぅ…」

「だ、大丈夫分かってるから…大丈夫だから顔上げて…ね?」

 大体この子達の性格が読めて来たぞ…。とりあえず雫ちゃんはおそらく天然だ。自分の言っていることや行動に少しの間気づかないんだろう。結局そのあと気づいて自滅するタイプだな!?

「は、はい…かえでさんありがとうございます…」

「しずくちゃんの家族って事は~かえでお兄ちゃんは~しずくちゃんのお父さん~?」

 歌音ちゃんまでなにを言っているんだ!?

「違うぞ~歌音、楓は雫の夫だ」

「待ってくださいよ!?何を言ってるんですか三田さん!?」

「あはは!冗談だって!楓と雫は面白いなぁ」

 こっちからしたらたまったもんじゃないんですけど。今の一瞬で最悪の場合警察沙汰でしたけど…。…ここにいる大人が三田さんでよかった

「そ、そうだみんなそろそろお腹空かないか?みんなが空いているなら何か作ってくるけど」

 今の時間は12時半、三田さんが買い出しに行っていたとなるとまだ昼は食べていないのだろう。

「お、なんだ楓?作ってくれんのか?」

「元々何かは作ってあげようとは思ってました。昼じゃなくて夜の話ですけど。作れって言われたら夜も作りますけど?」

「そりゃ助かるな楓の飯普通に旨いからな」

 昔から料理は得意な方だからそれくらいならお安い御用だ。

「じゃあ何か作るか。何食べたい?今作れそうなのだと……うんホットケーキかパスタかな」

 夜なら作れそうな料理はあるが流石に昼からは重たいメニューしか無いからこの2択にしてみた。

「うーん…その2択ならホットケーキがいいわ」

「そうねホットケーキがいいです」

「パスタも食べたいけど~今は甘いものが食べたいから~ホットケーキ~」

「私はみんなに合わせるかな、お兄ちゃんの料理ならどっちでも美味しいだろうし」

 雫ちゃんはさっきのこともあり落ち着かない様子だからそっとしておこう。

「わ、私もかえでさんの料理ならどちらでもいいです…」

 あ、答えるんだ。流石に答えないのかと思った。言葉の最後に向かうにつれてデクレッシェンドしている所を見るとやはりまだ落ち着いていないようだ。

「了解。三田さん冷蔵庫の中の物は自由に使って大丈夫ですか?」

「おう良いぞ、好きに使ってくれ」

 三田さんの許可も貰ったし早速作るとしますか。


「よし、ようやく出来た」

 久しぶりだったからか15分ほどかかってしまった。昔なら10分未満で作れたんだがなぁ。

「みんなお待たせ、悪いね時間かかっちゃった」

 雫ちゃんはだいぶ落ち着いたみたいだな。良かった、まだ落ち着いてなかったらどうしようかと思った。

「大丈夫よ、シズもやっと落ち着いたとこだから」

「あの、かえでさん。さっきは本当にすいませんでした…」

「謝らなくていいよ俺は気にしてないから」

 まぁ嘘なんだけどね、気にしていない訳がない。

「さぁそろそろ食べようかみんな。それじゃあ莉愛よろしくぅ」

 三田さんがそう言うと莉愛が小さく頷き――

「それじゃあみんな、手を合わせて…」

『『いただきます!』』

 莉愛の一言に続いてみんなで言い、前に出されたホットケーキを切ったり、かぶりついたりして食べ始めた。

「…え?うそすごく美味しい…」

「ほんとうに~美味しい~かえでお兄ちゃん料理上手~」

「これ本当にいつものホットケーキミックス何ですか…」

「かえでさんとても美味しいです!」

「やっぱりお兄ちゃんには勝てないなぁ…女子力高すぎ」

 久々に女子力高いって言われたな前言われたのは高1の時だったかな?ただのホットケーキでも焼き方1つで結構変わるから味って変わるんだよね。奏ちゃんが言っていることも理解できるけどね。

「良かったみんなの口にあって」

 自分の作った物が美味しいと言われるとやっぱり嬉しいなここ2ヵ月1人で食事してたせいか誰かと食事するのも久しぶりに感じる。やはりみんなで食事した方が楽しいな。


 みんなホットケーキを食べ終わり昼ご飯もひと段落しみんなと交流を深めた後に、使っていいと言う部屋に案内された。

「ここが空町さんの部屋です」

 奏に案内されついた部屋はこじんまりとしているがしっかりとベットや机があり生活する分には全然問題ないレベルというかホームレスをしていたからベットがなくても風が入らないだけで充分すぎるくらいだ。ちなみに5人は隣の部屋でまとまって寝ているらしい。仲が良さそうで何よりだ。

「うん全然問題ないむしろベットがあって嬉しいくらいだ」

「私たちはベットじゃなくて布団なんですけどね。まぁ文句はないですけど」

「そうなんだじゃあなんでこの部屋にベットがあるんだ…?」

 三田さんが使っていた…?いやにしては新し過ぎる気がする。

「ふふん、それはだな楓。その内、楓がここで暮らす事になりそうだなと思い買っておいたのだ。莉愛が暮らすようになってからね」

「…本当になって良かったですね」

 なんでもお見通し感があって少し嫌だな。どこまで周りを予測しているか分からなすぎる。

「では私はみんなのところに戻りますね」

 笑顔でそう言った奏と三田さんは部屋を後にした。

 ちなみにまき以外あだ名で呼んだりちゃん付けしたりするのをやめる事にした。…流石に18歳の男が小学5年生に対しちゃんづけしたりあだ名で呼んだりするのは気持ち悪いだろう、…すごい今更感あるけど。

「さていろんな片付けは明日から本格的にやるとして。大雑把な物を片付けるか。とは言ってもそんな数はないけど」

 家から離れる時は邪魔じゃないもの以外は持ち歩くようにしている。…肩掛け鞄に収まる程度の物しかないけど。

「うんやっぱり一回帰る事にしよう。明日からここに住まわしてもらう事にするかな」

 いつもながら独り言が多いな、ずっと1人でいると独り言が増えると言われていたが全くその通りだったな。

「…よしとりあえずこんなものか。お金に余裕があれば家具とか買ってもいいかもな」

 ベットと机はあるがそれ以外がないからな。一応クローゼットはあるけど時計や棚などがないから少し不便だ。

「さて、今の時間はっと6時か…そろそろ夜作り始めますかな」

 作るって言ってもカレーだからすぐに出来るんだけどね。昼みたいに特別な事をやる予定もないし。流石に大丈夫だろう。


 結局、カレーに入れる肉を鳥肉にするか豚肉にするかや、野菜の入れる順番どうだったけ?など考えすぎて時間がかかってしまった。これが少しの間自炊をほぼして来なかった弊害か。まぁここで暮らしていたらまたちゃんと作れるようにはなると思うけど。

「あ、ご飯炊くの忘れてた。今から炊くと7時過ぎるなぁやってしまった」

 カレーを作る上で2番目に大事な米の事を忘れるとは。流石に物忘れがって言うレベルじゃないな…かなり重症だなこりゃ…。

「なんて考えてる場合じゃないな、さっさと炊かなくては。早炊きで間に合うか?」

 調べると早炊きで25分らしい。今が18時25分だから大丈夫そうだ、早炊きでも時間がかかるやつはかかるから良かった。

「何合炊けばいいんだろうか?4合だと少ないと思うから5合でいいか」

 今思い出してよかったあと少し思い出すのが遅かったら7時過ぎたかもしれなかったな。

「お~おいしそうな~匂いがする~今日はカレー?」

 昼に三田さんカレーだって言ったことを忘れてるみたいだ。

「昼に三田さん言ってたじゃないか今日はカレーだって」

「お~そうでした~すっかり忘れてました~」

 大事な事はしっかりと覚えてはいるらしいから安心…なのかな?あとちゃんと思い出せるのは偉い所ではある。

「そういえばみんなは?」

「もうすぐ降りてくるよ~」

 ご飯が炊けるまで時間があるから風呂でも沸かそうかな?俺は今日入る予定はないけど。

「かえでお兄ちゃん~?」

「んー?どうしたの?」

「かえでお兄ちゃんは~みんなこと~どう思う~?」

 みんな、と言うのはおそらく莉愛を抜いた4人のことだろう。忘れそうになるがここは児童養護施設だから身寄りのない子供たちが集まってくる、そこそこの家庭で何があったかはもちろん聞かない。でももし、昔大人から嫌なことをされていたんだとしたら…歌音みたいに聞きたくなるのは無理もないだろう。

「えっと自己紹介された順番でいいかな。…まきは強気に振る舞っているけど本当は優しくてみんなの事を元気付けたりしてるんじゃないかなと思う」

 なぜ強気に振る舞っているかは分からないけど別に聞くことではないと思う。おそらく照れ隠しではあると思うんだけどそこら辺を聞くと怒られそうだから黙っておこう。

「歌音はまったりしているけどみんなが困った時にみんなの助けになれる存在だと思う」

 他の子たちよりはっきりと物事を言える子だとさっき話していて思った。特にここまで落ち着いているなら施設内でトラブルが起きた時も冷静に判断できるだろう。

「奏はときどき怖いことを言うけど、しっかりしているからみんなを引っ張るリーダーになると思う」

 昼の時はびっくりしたけどちゃんと話してみるとやはりしっかりとしていてみんなより頭が回るみたいだ。でもそんな奏も小学生らしい行動も見えるから少し安心した。

「雫は莉愛も言っていた通りちょっと怖がりで寂しがり屋だとは思う。でもみんなが出来ないような事もできるように俺は思う。もちろん雫が勇気を出せれば、だけどね」

 雫とは今日1日でかなり話せるようになったと思う。初め話した時とは違い今は結構はっきりと話してくれるようになった。

「まぁ、今日1日みんなと交流してみて思った事だから間違ってるかもしれないけどね」

 歌音は静かに聞いていたけど俺が話し終わると安心したのか笑顔になった。意外とどう思われているか不安だったのかも知れない。

「えへへ~、かえでお兄ちゃんに~きたい~?されてる~」

「うん、みんなに何かあったらみんなを元気にしてあげてね」

 そう言って頭を軽く撫でてやると、歌音は嬉しそうに目を細めた。

「えへへ、うん、歌音に~お任せあれ~」

 なんだこの小動物みたいな生き物は…可愛すぎる…!もちろん歌音だけでなくみんな可愛いけどね。

 …もしかして俺って「ロリコン」だったりするんだろうか。いやいや可愛いものを可愛いと言って何が悪いんだ。可愛いは正義!異論は認めない!

「あー!かのちゃんがかなでさんに頭なでてもらってる!」

「空町さん、あんまり他の子といると雫ちゃんがうるさくなるからやめたらいいですよ~?」

「かなちゃん!そんな事無いからかえでさんに変なこと言うのやめて!?」

「えーだって本当のことじゃん」

「ち、違うからぁ!」

 あの様子だと冗談に聞こえないんだよなぁ…いやでは無いけど。それにしても雫かなり元気になったなさっきとは打って変わってかなり明るくなってる気がする。表情もそうだし語気に関しても。

「おー、みんな元気だねぇこれも楓のおかげかな?昨日より元気な気がするよ」

 それが本当ならすごい嬉しいな。

「割と本当だよ、お兄ちゃん。特にまきちゃんと雫ちゃんは」

「ちょ!私はあんまり変わらないでしょ!?」

「いや~まきちゃん昨日より~とっても元気~」

「ち、違う!久しぶりにお客さんが来たから張り切っていただけよ!」

 いやいや、あえて口には出さないけどまきがここに来たのって1週間くらい前だよね?だったら久しぶりも何もお客さんなんて来ないんじゃ…。

「あれ?私たちがここに来てからお客さん来たことあったけ?」

「いや?来て無いよ。なにせ私たちが来てまだ1週間だし」

 あぁ、雫ってもしかして以外とズバズバ言うタイプなのか。奏は元々だろうけど。

「そ、そんな事どうでもいいじゃない!ほら早くカレー食べましょうよ!」

「あー…その事なんだけどご飯炊くの遅れちゃって…。まだ炊けないからもうちょっと待ってね」

「あれ?お兄ちゃん珍しいねご飯炊くの忘れるなんて。いつも大体同時に出来上がるからちょっとびっくりかも」

 確かに俺らがまだちゃんとした家に暮らしていた時は出来たら直ぐ食べれるようにしてたからそう思うのが普通か。

「久しぶりにご飯を作ったからつい忘れちゃったんだよね」

「なるほどね、お兄ちゃんほぼ買い食いしてるって言ってたもんね~」

 栄養的にあまり良く無いから本当は自炊したかったんだけど、自炊できるような物を全部捨てちゃったから渋々買い食いしていたんだよなぁ。新しい器具買うにもお金かかるし、火を焚いて何かあったらいやだったから自炊してなかったんだよな。

「じゃあ俺暇になったし風呂でも沸かしてくるよ」

「あ、いえ今日は私がお風呂当番なので空町さんは休んでいて下さい!」

「いや、今日はやらしてくれるかな。こういう場所にいると何かしていないと落ち着かないんだ。今日だけでいいからお願い出来ないかな?」

 普通に暮らしていた時はほぼ全ての事をやっていたからなんかしてないと落ち着かないというのは嘘では無い。慣れれば大丈夫だとは思うけど。

「じゃあ…甘えさしてもらって大丈夫ですか?」

「なんで私に聞くんだ?まぁ楓がそう言うならいいんじゃない?」

「ではささっと洗ってきますねご飯が炊けるまでには戻ってきます」

「あいよー、んじゃ任せた。悪いね~飯だけじゃなく風呂までやってもらって」

 別に感謝されるようなことではないと思うんだけど。でもいつもやっている事をやってくれるのは確かに嬉しい事だから感謝されてもおかしくはないか。

「いえ、大丈夫です」

 そう言って風呂掃除に向かった。


「うわ、意外と広いんだな…」

 子供たちだけなら余裕で入れるくらい広い。なんなら追加であと3~5人くらいなら同時でも入れるだろう。これがちゃんとした施設というやつか。

「これは少し急がないと間に合わないな…」

 そう呟いて風呂掃除を初め丁度ご飯が炊き上がった時に戻ることが出来た。昼と同じようにみんなで挨拶をし、カレーを食べたんだが…今日1日みんなと過ごして気付いた事があった。

 誰かと食事をしたり会話したりするの楽しかったな少し強引だったけどここで暮らすと決めてよかったかも知れない。1人でいても寂しくはないと思っていたが本当は寂しかったのかも知れないな。

 そんな事を思いながら、子供たち…いや()()()と会話を交わしながらカレーを食べた。


―第三章 雫の思いと楓の決断―

「んじゃ、明日には戻って来ますので妹たちにはバイト行ってるって言っておいて下さい」

「はいよ、あんたも優しいねぇ。みんなが心配しないようにみんなが寝てから出て行くなんてさ」

「みんなに嘘をついてるんですから優しくはないですよ」

 今の時間は22時、みんなは就寝の時間だ。とは言っても1人寝てない人がいるみたいだけど。気づいているけど気づいていない振りをしよう。

「それじゃあ行ってきます」

 今回は誰もいない空間ではない、それだけなのにすごく懐かしい感じがする。

「はいよ、行ってらっしゃい」

 これまた懐かしい感じだ。というかちょっと泣きそうになってしまった。明日からここで暮らす事になるのかぁ…楽しみだな。さて行きますか、お世話になったあの家へ。

「…雫、本当に行って来るのかい?まぁ、私は止めないけど気をつけるんだよ」

「はい、三田さんありがとうございます!」

 そう言って雫は楓を追いかけるように施設を出た。

「雫も変わったね…ここに来た時は何も話さずただ黙り込んでいただけだったのに…。莉愛たちが何とか心を開いてくれたけどここまで心を開いていたわけじゃないからね…これも楓のおかげかね。やはり楓を暮らすように説得してよかった。雫をよろしくね、楓…」


 しばらくしていつも帰ってくる家だった場所に帰ってきた。

「…ただいま。明日から施設で暮らす事になったからここともお別れだね」

 誰に言ったわけでも無いが、そう言葉に出すとちょっと寂しくなった。でも寂しくはなったがここから出て行く事に後悔はない。

 よしじゃあそろそろ小さなお客様を呼びますかな。

「雫、いるんだろう?怒らないから出ておいで」

「ふぇ!?気づいてたんですか…」

「施設を出る前から気づいていたよ」

「かえでさんが何するか気になって…三田さんに許可をもらってついて来ちゃいました…」

 なるほどね、心配してくれたのかな。きっと俺がいなくなっちゃうように感じたんだろう。

「にしたってこんな時間に1人で出るのはだめだろ~、雫は可愛いんだから誘拐されても知らないぞ~」

 雫の頭をわしゃわしゃとなで、優しく笑いながらそう言った。

「ふぇ…すいませんでした」

「いや、気にしなくても大丈夫だよ」

 本当は怒るべきなんだろうけど何か意図があってついたきたんだろうし、そもそも三田さんが許したんだから俺が怒る理由なんてどこにもないだろう。

「それでどうしたの?」

「えっと…かえでさんに話したい事があって…みんなの前では話しにくいので…」

「なるほどね…とりあえずこっちおいで。普段火は焚かないんだけど今日は特別。小さなお客様が来てくれたからね」

 そう言って小枝などを集めライターで火をつけた。


「かえでさん……かえでさんはここで1人で生活していて……その…さみしくなかったんですか…?」

「寂しくなかった。…そう思っていたんだけど、実際は寂しかったみたいなんだ。みんなと会ってお喋りをしたりするのがすごい楽しかったし、誰かと食事をする事がこんなに嬉しい事だったのか、とも思ってしまった。自分では寂しくないと思っていても本当は1人でいるのが寂しかったんだと思う」

 ここまで1人でいる事が辛い事だったんだとは思っていなかったし、少しずつ自分の心を蝕んでいってるということにすら気付けなかった。

「そうですよね…寂しいですよね…」

 ちょっと引っかかる言い方をしたが静かに聞く事にした。

「実は私…捨てられたんです…生まれた時に…今の施設に来る前に別の施設で暮らしていたんです…。前の施設では誰とも話していませんでした…自分から話しかけれないのに話しかけられても答える事が出来なかったんです…」

「なるほど…それで?なんで俺にそれを話そうと思ったの?」

 大体答えは予想出来るけど聞いてみた。最初寂しくなかったかどうか質問してきたからね。

「私も寂しかったんです。誰にも話しかけられず、愛されてもらえなかった…。1人でいるのが怖かったんです…」

「………」

 とりあえず黙って聞こう。今口を挟むべきではないだろう。

「わたし、かえでさんがホームレスをしていて1人でくらしているって聞いてびっくりしたんです。なんでこんなに明るく話せるんだろうって…それでかえでさんと一緒にくらせば何かわかるんじゃないかって…そう思ったんです」

 明るく話せるんだろう…か。そんなのは自分でも分からない。…でも

「莉愛やみんなに心配して欲しくなかったんだと思う。実際1人の時はあんな風に笑ったり話したりしないからね。隠してたんだと思う。でも…」

 一旦言葉を切り1度間を作った。特に意味は無いがあまり長く話し過ぎても疲れるだろうと思ったからだ。…本当にそう思ったのだろうか?何か別の意味があったのではないのか?実際のところは自分でも分からない。

 ―――もしかすると俺の心は自分が思っているより壊れていたのかも知れない。

「でも、もう隠す必要はない。だって今は1人じゃないから。雫が、みんながいるからね。もし雫が今まで愛されていなかったのなら俺がその分愛してやる、だから安心していいよ。雫も俺も、()()()()()()()()

「……ほんとう…ですか…?こんなわたしと…いっしょにいてくれますか?」

 今にも泣きそうなというか半分泣いている顔でそう言った。

「あぁ、いてあげるさ。絶対に雫のことを守ってやる」

 そう言うとついに泣きだしてしまい、抱きついてきた。もちろん雫だけでなく実の妹である莉愛やまき、歌音に奏のことも全力で守っていくつもりだ。

「わたしは……かえでさんに…たくさん…たくさん…甘えても…いいんですか…?」

 途切れ途切れに雫はそう言った。

 こんな可愛い子が俺よりも辛く重い人生を送っていたとは…。俺はこの子に壊れかけていた心を治してもらった。なら次は俺がこの子の壊れた心を治す番だ。

「あぁ好きなだけ甘えていいよ…」

 こんなことになるなら最初からあの施設で暮らしておけばよかった。莉愛を面倒見てもらってるからとかっこつけないで。

「ほら雫いつまでも泣いてないで空を見てご覧、この場所、綺麗に星が見えるからここを拠点にしようと思っていたんだ。あんまり泣いていると可愛い顔が台無しになるぞ」

 雫は目を擦りながら体を起こし空を見つめた。

「本当に…綺麗ですね…こんな綺麗な星初めて見ました」

 今日は特に綺麗に光っていた。雲ひとつない満天の夜空が見ることができた。この空なら明日もきっと晴れるだろう。


 しばらく雫と2人で星を眺めていると、雫が少しうとうとしているのに気が付いた。さっき泣いていたし、泣き疲れたのかな。

「そうだ、今日はここで寝ていきなよ。夜も遅いし今から帰るとなるとさらに遅くなっちゃうからね」

「ふぇ!?でもベット1つしかないですよね!?かえでさんはどうするんですか!?」

 当然の反応だ、ベットと言うとなんか恥ずかしくなるが確かに今目の前には1つのダンボールハウスしかない。

「一応雨とかで濡れた時用にもうひとつ作ってあるんだ、だからそっちで寝るよ。それとも一緒に寝るかい?」

 ちょっと冗談で言ってみた。

「な…ならぜひ…いっしょに…寝たいです…外で寝るとなるとかえでさんが横にいると分かっていてもちょっと怖いので…」

 まじか…冗談のつもりだったんだけど本気にされるとは思ってもみなかった。

「じゃあちょっとだけ待ってね改造するから」

 改造と言っても2個をくっつけるだけだからすぐ終わるとは思うけど。


 予想通りものの数分で出来上がった。ダンボールハウスはその人の身長ぴったりで作るから、雫に身長を聞いてその身長通りにダンボールハウスを作ったから形が歪にはなったけど問題はないだろう。

「よしじゃあそろそろ寝ようか」

 作り終え、火を近くの川の水で後始末をしながらそう言った。

「は…はい!」

 何故か緊張している様子の雫だったが大丈夫だろうか。にしてもまさかダンボールハウスの中で2人で寝る事になるとは…しかも相手が小学5年生女子。警察に見つかったら一発アウトだろうな。まぁこの場所は人はおろか動物すら寄り付かないような場所だから大丈夫だけど。

 2人で横になって少しした後にふと聞きたいと思ったから雫に声をかけた。

「…ねぇ雫」

「は…はい…なんでしょうか?」

「施設のみんなは好き?」

「……はい、大好きです。こんな私でも優しく話しかけてくれるので…。もちろん…かえでさんのことも…大好きです…!」

 多分みんな根気強く話しかけたんだろうな…三田さんだけじゃなく莉愛や奏たちも。

「そう…ならよかった…じゃあお休み。雫」

「はい…おやすみなさいです。かえでさん…」

 なんか今の夫婦みたいだなって思った時点でようやく雫が緊張している理由がわかった。なるほどそう言うことだったのか…!やばい気づかなきゃよかったぁ!?

「あの…かえでさん…」

「ど、どうしたの?」

 雫は最初こそ緊張したようすだったがいつの間にか落ち着いたようだ。まぁいつ思い出して恥ずかしい思いをするかは知らないけど。

「わたし、ほんとうは怖かったんです…。かえでさんが夜出ていくって聞いたときかえでさんがどこかとおくに消えちゃうんじゃないかって…だから…」

 …やっぱりそうだよね。初め考えていたことが正しかったんだな。俺は体を半回転させて雫の方に向き直し、頭をなでた。

「やっぱり怖かったんだね。なんとなくそんな気はしていたよ。大丈夫莉愛もいるんだから絶対にどっかに行ったりなんてしないよ。だってみんな俺の可愛い妹たちなんだから…。だから安心して寝ていいよ…」

「……はい」

 雫は小さく微笑み頷いて目を閉じた。まだまだ小さな手で俺の手を握りながら眠りについた。


 雫と話した次の日、時間にしては7時頃。俺と雫はある音を聞き目を覚ました。

「…嘘だろ昨日あんなに晴れていたのに今日は雨かよ」

「本当ですね…昨日の天気予報では晴れるって言ってたんですけど…」

 幸いな事に家は濡れていなく俺も雫もびしょびしょって訳ではなかった。

「ぼろぼろですけど屋根のある場所でよかったですね」

「そうだな、ほぼ屋根しか残ってないけどしっかりはしているからな」

 昔誰かが使っていたのか、この場所には小屋があった。壁はほぼほぼ壊れていたから風避けには全く役に立たないけど屋根はギリギリ残っていたため、軽く補強しておいて正解だったようだ。

「さて、どうするかなあまり遅くならない内に帰った方がいいよね。三田さんはともかく他のみんなが心配する」

「そうですね…かえでさん、傘は持っていますか?」

 そりゃあ持ってはいるんだけど…。

「持ってはいるんだけど…1本しかないんだよね…」

 ()()()()使()()()()()()なんだけども…。今使えるやつは大きいやつだから大抵の人となら一緒に入れるけど。

「なら…一緒に刺して帰りましょう!かえでさんさえ良ければ…ですけど…」

「まぁそれしかないよな…大きい傘だし入れると思うんだけど…」

 そう言って荷物の方を見た。俺が昨日ここに戻って来たのは最後にここで寝ようと思っただけではない。

「あそこにある荷物持たないといけないんだよね…あそこに服とか入っているから。ついでにダンボールも」

 ダンボールはリサイクルのためだ、流石にここに不法投棄するのはどうかと思う。

「でしたら、私がかえでさんの荷物を持ちます。なのでかえでさんはダンボールを持ってください」

「お、じゃあお願いしようかな。俺の荷物そんなに重い訳じゃないから雫でも持てると思うし」

 実際服と小物しか入っていないから本当に軽い。中身もスカスカだし。こんな事なら鍋の1つや2つ持ってくればよかったと今になって後悔。

「じゃあダンボール解体するからちょっと待ってね。あ、鞄から紐取って貰えるかな」

「わかりました、紐ですね!」

 手際良くダンボールを解体し紐で持ちやすいように結び持ち運べるようになった。…意外と重い。

「また夏や冬に星を見に戻って来るよ、今度は施設のみんなとね。それじゃ行ってきます」

 いつもの癖でそう言ってしまったが、雫は静かに聞き、くるりと体を180度回転させた。

「あの…えっと…おじゃましました。次はもっとにぎやかになると思います」

「ふふ、よしじゃあいきますか俺たちの新しい家へ」

「はい!」

 俺はお世話になった場所に別れを告げ、雨の中雫と2人で新しい家へと歩き始めた。


―第四章 尋問―

 雨も途中で上がり日が覗くようになった時に俺たちは家につき「ただいま」と告げたかと思うと、施設のみんな(三田さんも含む)にちょっとリビングにこいと言われ、ただ今雫と2人でみんなの前で正座させられております。

「まず雫~?私たちに黙って夜に出ていくなんて。どう言うつもりかしら?」

「えっとみんなに心配かけたくなかったから…だよ」

「馬鹿ね、雫ちゃんは。言ったからって誰も止めないよ。だからせめて何か言って欲しかったな」

 あ、言ってなかったんだ…。流石にみんなには言っていると思っていたんだけど。実際言っといたほうが良かったと思うけど…。おそらく心配かけたくなかったのもあるんだろうが本音は恥ずかしかったんだろう。雫の性格的に。

「はい、ごめんなさい…」

「うん、雫は許そう。元はといえば私が許可した事だしみんなこう言ってるしね。問題は…」

 だよなぁ俺だよなぁ…三田さんだって昨日の内に帰って来ると思っていただろうし、それで何かあったら俺の責任だからな…。

「っと、楓にいろいろ聞く前に。歌音とまきは雫のこと押さえといてね。逃げられるかも知れないから」

「任された~」

「任せなさい絶対に逃さないから」

 三田さん許そうって言っていたくせに全然許してなくないか!?というか汚な!安心させてから叩き落すんなんて…。流石三田さん…やる事が大人げないを通り越して汚い…。

「ふぇ!?私は許されたんじゃないの!?」

「雫ちゃん、お兄ちゃん…。ドンマイ!私には止められないのと、私もちょっと気になるから…ごめんね?」

 何がどうなってるんだ…というか莉愛は味方だと思っていたが…そうだこいつ俺にだけ奏と同じような性格持ってんだった!これはまずいことになっているのではないか…?

「大丈夫だ楓。私は雫が朝帰って来たことには怒ってはいない。というか私は楓にも雫にも怒ってはいないから安心してくれ」

「お兄ちゃん、これは本当よ、怒ってるように見えるけどお兄ちゃんと雫って言う、餌を見つけただけだから。ついでに奏ちゃんも」

「そうですよ空町さん!私たちは餌を見つけただけです!今からいろいろ聞きますけど嘘ついたらだめですからね?」

 餌って堂々と言ったよこの子!?そして嘘なんかつけるか!?そっちには三田さんと莉愛がいるんだぞ、嘘なんかすぐバレるわ!?

「まぁ、嘘なんてついても三田さんと莉愛ちゃんがいるから大丈夫でしょうけど」

 知ってるなら言うな!?この子もしかして軽くSっ気ある?もしくは人の心読む能力が高い可能性も…?いやいや、流石に考えすぎか…嘘が通じないのは莉愛たちに聞いたんだろう

「…はぁ、それで?なんなんでしょうか。もちろん嘘なんて言える訳ないので俺…いや私は正直に答えます」

 何を聞かれるんだろうか。さっぱり分からん。だって昨日はただ雫の胸の内を聞いて、雫の相談相手になっただけだし…。そのあと隣で寝たくらいだ…ぞ…?

「歌音ちゃん、まきちゃん逃げないから離して~!」

 雫も諦めたようだ。なんか軽く嫌な感じしたけどまさかそこまで昨日の俺たちの行動を読んではこないだろう。てか読んできたら昨日ついて来ました?って聞きたくなるわ。

「分かったわ。でも少しでも逃げようとしたら捕まえるからね」

 歌音もこくこくとうなずいている様子から見ても2人とも本気だろう。

「さて、2人とも諦めたところで…三田さん始めますか」

「そうだな始めるか、奏」  

「「尋問を」」


 じ…尋問!?やっぱ怒ってんじゃないの!?これで怒ってないなら余計怖いわ!?

「さて、まず空町さん昨日の夜なにをしていたんですか?」

「き、昨日は雫に話したいことがあるって言われてそれを聞いていただけだよ」

「そ、そうだよ?わたし、話したいことがあったんだけど、みんなの前だと話しにくいから、夜ついて行っただけだよ…?」

 う、嘘はついてないはず。ってやっぱりみんなの前で話すのが恥ずかしかったんだね。

「はあ、あのねぇ空町さん、雫ちゃん…そんな事はわかっているのよ。多分だけど雫が前に施設にいた時の話でもしてたんでしょ?」

 な、何故わかるんだこの子!?本当についてきてたんじゃないか?この子?

「それについては言及しないよ。なにせ楓は期間が短かったとはいえ雫と同じような心境だっただろうからな」

 だからなんでわかるんだ…。じゃなくて、もう三田さんの中では過去の話をしていたのは確定してるんだね…。悔しいけど大正解だよ…。

「でも今私たちが聞きたいのはそんな事じゃあない。2人が過去の話以外でなにをしていたか、だ。なんかしてたんだろう?じゃなきゃ2人同じ傘で帰ってこないだろう」

「いや、傘は1本しか持ってないから同じ傘で帰って来るのはいいじゃないですか。1本しかないんだから」

 嘘だけど嘘じゃない。実際まともに使えるのは1本しかない。まぁ今日は風が強いわけではないから今日1日使ってずぶ濡れになって帰ってくる。なんてことはないと思うけど。

「そうか?ふむ莉愛、鞄の中なんかあった?」

「壊れてるけど折り畳み傘があったよ。確かに何回も使えそうにないけど、1日くらい使う分には大丈夫じゃないかな」

 莉愛まで悪い顔してるよ…というかいつの間に漁っていたんだよ…。わざわざ鞄の奥の方に入れていたものを引っ張り出すんだ?そんなことはあんまり気にしてないんだけど、問題はどうやって音もなく鞄を漁れるかなんだけどね…。

「だってよ。さぁどう言う事かな楓君?」

 うわぁ…こりゃだめだ…。完全に悪役の顔をしてるもん、写真に収めたいくらいの迫真のにやけ顔だもん。撮ったら間違いなく怒られるだろうけど。

「こ、壊れかけの傘なんか出したら、雫が『私そっちで大丈夫です』とかいいそうだったからですよ。もしそれで風邪とか引かれても困りますし」

「かえでさん…わたしを心配してくれたんですね…。あの…こんな状況ですけど…あ、ありがとうございます…。」

「うん、雫?今そう言う反応するとまたややこしくなるからやめて…」

 あ、いま口滑らした可能性が高いんだけど大丈夫かな…。

「ふぅん?まぁいいや。それで空町さん他になにをしていたんですか?」

 うわぁ、絶対さっきの俺のミス気付いてるよあれ。「今」なんて言わなきゃよかった、そんなこと言ったら()()()()()()()()()みたいな意味合いになってしまった。

「昨日の夜は星が綺麗だったから2人で眺めたの。次はみんなで観に来ようってかえでさんと話したの」

 これは嘘ではない。実際に見たし言ったからな。

「過去の話をした後に星をねぇ…本当にそれだけなの?雫のことだから泣いて抱きつくくらいしそうなんだけど」

「ふぇ!?そ、そんなことしないよ!?ま、まきちゃん変なこと言わないで!?」

 雫…その反応の仕方アウトだと思うよ…。今のこの2人にその反応はヒントどころか、もはや答えを差し出しているのも同然だよ?

「ふぅん…三田さん、奏、これビンゴじゃない?」

「ナイスだ、まき。どう見てもビンゴだ」

 そう言ってまきの方にぐっと親指を立てている。雫は顔を押さえて俯いてしまった。

 …久しぶりに誘導尋問を見た。

「それで空町さんはなんて言い返したんですか?まさかなにも言ってない訳じゃないですよね?」

「……」

 今になって考えるとなかなかにやばいことしか言ってなくないか?甘えていいとか、愛してやるとか。…発言がアウト寄りに近すぎて色々とまずいんですけど…。と、とりあえず黙っているのはまずいから…。

「…雫が独り立ちするまでは一緒にいてやるとは言った」

 いろいろ言った中で1番大丈夫そうな言葉を選んでみた。多分これが正解だと思う。

「お兄ちゃん…他にも言ったことあるでしょ。少なくとも3つか4つは」

「な、なんでわかるん…!あ…やべ…」

 やってしまった今のは完全にミスだ。的を得た質問過ぎてつい反論してしまった。

「流石莉愛ちゃん、全然気がつかなかった」

「私も、やっぱり兄弟なんだねぇ莉愛と楓は」

「いやいや~、今のは簡単だったよ~。だってお兄ちゃんが黙るときは大体なんか隠している時だからね。みんなも覚えておくといいよ?」

 うわぁ最悪だ、本当に最悪だ。というか相手が強すぎる、三田さん、奏、莉愛、最初から勝てる訳なかったんだ。なんならまきもいるし…歌音は今のところ頷いたりしてるだけだけどいつ牙を剥くかわからない。

「雫、もう諦めよう…無理だ…これ」

「そうですね…私もそう思ってました…」

 観念した俺たちは昨日何をしたか、何を話したかを全て話した。


「……そんな…感じ…です」

 お互い今になって恥ずかしさがこみ上げて来た。昨日は特になにも思わなかったのに…。

「お~、かえでお兄ちゃんも~しずくちゃんと一緒で~せっきょく的~?」

「空町さん、流石です。もちろん雫ちゃんも流石ね」

「2人ともいいカップルじゃない?シズがかえでお兄さんにねぇ…」

「お兄ちゃん流石ね、出会って1日目で口説くなんて」

「あはは!いつまでも泣いていると可愛い顔が台無しになるねぇ?まじで夫婦見たいじゃん!私も言われてみたいわ、そんなセリフ!」

 やめてくれ正直俺も昨日の時点で気付いたから。それと歌音の中での雫の印象は積極的なんだね、恥ずかしがり屋じゃなくて…。

「しかも一緒に寝たんだろう?ダンボールハウスって、体ぴったりで作るからかなり密着して寝たんじゃないの~?」

 なにも言えねぇ…。完全にくっついていたわけではないけど、確かにかなり近かったのは認めざるを得ない

「か、かえでさん…」

 半分以上泣いてる顔でこちらを見ている。恥ずかしすぎて泣きそうになっているんだろう…まぁ俺も穴があったら入りたい気持ちだけど。

「しかも雫ちゃん、空町さんに大好きですって言ったんだもんね。本当、流石としか言えないわ」

 あー、これ以上は雫が限界だな、俺は…まぁ、まだ大丈夫だけど。

「み、みんな誤解だからね?確かにそうは言ったけど誤解だからね?」

「はぅぅ…みんなひどいよう…」

「あはは、すまんすまん、ちょっとからかいすぎたな。大丈夫冗談だから安心しな。でも雫、告白するなら16歳になってからな?」

「こ、告白なんてしてないですよ!?たしかにだ、大好きとは言いましたけど…」

「そ、そうですよあまり雫のことからかうと怒りますよ」

 なんだかんだ言って仲良いんだろうなみんなは。俺は昨日この空間を守ると決めたからな、頑張らなくては。

「そうだかえでお兄さん、今日のお昼ご飯はなににするか決めてるの?」

「あー、どうするか何も考えてなかったなぁ…というかまきから昼について聞かれるとはな」

「べ、別にいいでしょお腹が空いただけよ!」

「そういえば~2人は朝何食べたの~?」

「朝は近くにあったコンビニでパンを買ってもらったの」

 雫もようやくいつもの感じに戻ったようだ。ちょっと安心した。

「買ったって言っても安いパンだからなあれくらいならどうって事はないよ」

「ふふ、ありがとうございます」

「本当に雫と楓は仲がいいんだなちょっと私も安心したよ、ここに来た時はずっと黙っていたからさ、まぁ何とか莉愛やまきたちが心開かしたけど。楓が来たらまた黙っちゃうって思ったけど、…取り越し苦労だったみたいだな」

 そんなこと思っていたのか、やっぱり三田さんって根は優しい人なんだな。

「その調子で学校の子たちとも仲良くなれると私は嬉しいぞ」

「あ、そういえばみんな学校はどこなの?」

 ここら辺の学校だと莉愛の通っている虹丘小学校くらいしかないけど一応聞いてみた。

「莉愛ちゃんと~同じ学校~明日から入るの~」

「先生に聞いたら全員私と同じクラスみたいだよ。あの学校何故か人少ないからねぇ。4人が入ってようやく隣のクラスと同じくらいって感じ」

 そんなことあるんだな大体バランスよくクラス分けされるはずなのに昔から変わらんなぁあの学校はちょっと雑って言うかなんというか。

「そうなんだ、莉愛と一緒って言うと虹丘小学校か今の学校ってどんな感じ?」

「どうもこうも変わらないよ?お兄ちゃんのころからね」

 やっぱりそうか。まぁ学校が変わるなんて余程のことがない限りないか。

「え?楓お兄さんも虹丘小学校だったの?」

「そうだよ、あそこは俺の母校なんだ」

「へぇそうだったのか。まぁ確かにこの辺に住んでたらあそこの学校にはなるか」

 俺も引っ越して来たからみんなと同じ2年しか通ってないんだけどね。

「よしそろそろ何か作りますか。じゃあ…今日はパスタにしようかな」

 本当はソースも作りたいんだけど時間がないのと、そもそも材料がないから諦めてレトルトにしよう。次作るときはソースから作ることにするか。

「じゃあみんな10分ほど待っていてね」

「「はーい!」」


 まだこの施設で暮らすと決めて1日しか経っていないけどなかなか楽しめそうだ。いろんなハプニングがあったけどね…。いつまでここで暮らしていくかまだ分からないけど、それは今考えることではないな。

「あ、そうだ楓、お前学校の教師になってみたら?」

「急に変なこと言わないでくださいよ。そもそも教師免許持ってませんし、そういう学校行ってないので受けたとしても落ちますよ」

 免許の試験自体は専門的な学校に行ってなくても受けることが出来るみたいだし、受かっている人もいるらしいけど俺には無理だろう。

 「まぁまぁ、やるだけやってみなって住所ならここ使っていいからさ」

 これは引かないだろうな。

「はぁ、分かりました。でも1回だけですからね、もし落ちたらもうやりませんからね」

「分かってるって、はいこれ資料ね」

 なんで持ってるんだ。元から受けさせる気満々じゃないか。

「はぁ、まぁやるからには本気でやりますけどね」

「かえでさん、先生になりたかったんですか?」

「いやいや、考えたことなかったよ?でもみんな本気でやってるのに俺だけ本気でやらないのは失礼だろ?」

 周りの空気に流される訳ではないけど、渋々試験を受けたとしても真面目にやらないと試験を受けに来た人にも試験官の人にも失礼だろう。

「よし出来た、みんなお待たせパスタ出来たぞー」

 皿に適当に盛り付けて机の上に運ぶ。

「うし、じゃあみんな食べるか。朝は莉愛にやってもらったけど本当は雫だから雫よろしく」

「ふぇ…今日私だったんですか莉愛ちゃんごめんなさい…」

「いいよいいよ、早く挨拶しちゃいましょ冷めちゃうよ?」

「そうだね、莉愛ちゃんありがとう。えっと…ではみなさん手を合わせて…」

『『いただきます!』』

 今日も、とある児童養護施設では元気な声が聞こえてきます。みんないろいろな事情を抱えているけれどそんな事は関係ない。今みんなで仲良く過ごせているのなら俺はそれだけで満足しているから。


 私、空町楓は、今日から新しい日常が始まろうとしています。


「そうだかえでお兄ちゃん~?けっきょく~しずくちゃんと~けっこん?するの~?」

 歌音の急な質問に思わずむせかえってしまったが、一度落ち着いてから質問の返しをすることにした。

「けほ、けほ…。歌音、まだ言うの?もしするとしても今はしないよ!?」

「今は、ね。空町さんもなかなか言いますね~。」

「う、うるさいよ!」

 …今日も施設のみんなは元気です。


―おまけ―

名前     年齢   身長    誕生日    楓の呼び方


空町楓    18歳  176cm  12月20日

空町莉愛   10歳  126cm  9月7日   お兄ちゃん

浅石真紀菜  10歳  143cm  7月21日  かえでお兄さん

白崎歌音   11歳  137cm  4月14日  かえでお兄ちゃん

星谷奏    10歳  139cm  5月30日  空町さん

雨宮雫    10歳  132cm  8月12日  かえでさん

三田穂花   21歳  168cm  8月25日  楓、楓君

皆さまはじめまして、Ariaと申します。まずここまで見にくい小説を読んでいただきありがとうございました!初めて書くのでストーリー展開やどんな感じで書いたら良いかよくわかっておらず本当に読みにくい小説だったと思います。


今回初めて小説を書かせてもらったんですけども…正直なめてました。

キャラ名や生活、喋り方などいろいろ考えながら書かないといけなく、自分が思っている以上に時間がかかってしまいました。いやー、これを仕事にしている人たちはすごいなぁとしみじみ思ってしまいました。…あとサブタイトルってどうしたらいいんだ?分からなかったからタイトルそのまま入れてみたけど大丈夫なんでしょうか…?


今回、ホームレスである主人公と児童養護施設で暮らす5人の女子小学生との日常(?)を書きたくてこのような形で書くことにしました。本音はロリ小説を書きたいだけなんですけども。ホームレス、児童養護施設の設定についてはいまここで書くと長くなってしまうので、続きを出すときのあとがきに回す事にします。そんなに面白い物でもありませんし。それと登場キャラは今後確実に増えます少なくとも5人は。一応混乱しないように書くつもりですがもし今後の作品で分かりにくい!ってなったら気軽に駄目だししてください!


最後になりますが本当にここまで読んでいただきありがとうございました!もしかするとあとがきから読む人もいるかもしれませんがその方も私の作品の中身を見てないとしても開いてくれただけで私は嬉しいです!この作品の続きは多分書きます。それではまた次の投稿でお会いしましょう!

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