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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桜に捧げた愛

作者: 湊 紅菜

親友から指定されたお題でで書いてみました


高校 青春 恋愛 泣き 春or夏  呪いはあり 普通の家庭 納得のいくメリバ











 バタンっと重々しい音が響いた。顔を上げると、桜の花びらに包まれた辞書が見えた。

 先生が窓を開けたまま離れたらしく、花吹雪により床に落ちたようだ。

 声をかけてくれれば良かったのに。苦笑しながら自分の机を見ればメモが筆箱の下に挟まっている。


『放送で呼び出された。直ぐに戻れると思うので待っているように』


 放送の音なんて聞こえなかった。恐らく先生も声はかけてくれたのだろう。悪いのは先生では無く誤認した私と言うわけだ。


 溜息をついて背伸びをする。一度切れたスイッチは中々戻らない、諦めて気分転換と洒落込もう。


 換気のためにも窓を開けると、咲き誇る桜に喜ぶ後輩たちの声が聞こえて来る。


「先輩〜!」

『ーー!」


 こちらへ手を振る後輩の声と共に()の声が聞こえた気がした。彼女へ手を振り返し、目を瞑る。


『ーー』


 やはり彼が私を呼ぶ声が聞こえてくる。






 それは始業式の帰り。何百年以上も咲き続け、私の名前にもなっている御神木への挨拶へ向かった時だ。

 桜にもたれて座る少年を見つけた。御神木に凭れるなんて罰当たりと言う感想が浮かぶものだが、そんな感情今になっても湧き上がらない。

 それ程までに、花吹雪を身に浴びて眠りこけている少年は幻想的であった。顔立ちも派手ではないし、髪も烏の濡れ羽色であり至って日本人らしい容姿。なのに必要以上に心を惹かれた。


 彼は何者だろう。呆然としながらも、しっかりとした足取りで彼の元へ近づく。


 彼まで凡そ30センチ。私の足が止まった。これ以上近づいてはいけない、頭の中で警鐘が鳴り響く。


『どうしたの?」


 彼の目が、底見えぬ闇がこちらを見つめていた。その目に魅入られ、勝手に口が動いていた。


『何故か近づいては駄目な気がして』

『第六感が鋭いんだね」


 ふっと笑い、彼は立ち上がった。思いの外背が高くて少し見上げる形になる。


『君はいつもここに来てるの?』

『お祈りと共にご報告を』


 彼は危険だ。誰にも言わず隠していた事がスラスラと暴かれる。


『私の名前はこの桜から取られたので、もう1人の親に見守られている感じがして』

『それは当たりだと思うよ?桜の魔力が守っているみたいだ』


 柔らかな笑みを浮かべ、彼は幹へと手を触れる。それも一種の幻のようで見惚れてしまっていた。


『あなたは?』

『僕?この魔性の花に魅了されたちっぽけな人間だよ』


 こうして、桜の精のような彼との交流が始まったのである。




 彼との待ち合いは、この桜の木の下。学校帰りに訪れて気が向くままに相手を待ち続ける、予測がつかない変わったものであった。

 と言っても彼とは同じ学校。だが学校では桜の精と感じ難い彼は、私と接触する事をなぜか拒む。偶然見かけた彼に声をかけようとしたら、全力で逃げられたのはいい思い出だ。

 だから、あの桜の木の下でしか会わない。名前とクラスは知らない、桜に縁がある不思議な関係。学校で見かけた彼の襟が同じ色をしていたから彼の学年だけは知っている、浅いが深い関係。

 御神木の下では、不思議な力について話した。彼が魅了されるキッカケ、私の身の回りで起きる不思議な出来事。話の種は尽きなかった。



 花が散り葉桜へとなった頃、待ち合い場所の変更を提案された。

 御神木の近くの公園のベンチ。何かあった時にと、電話番号も渡された。


『どうして?』


 首を傾げる私に、彼は顔を真っ赤にして黙り込んだ。その表情に、ある考えが思い浮かんだ。


『もしかして、これってデートとか』


 あぁ!と顔を手で隠して叫んだ。聞いておきながら私も物凄く叫びたい!なんて恥ずかしい!!


『桜に魅了された僕が、桜に守られている君に惹かれ出した。けど、君自身にも魅了されている事は確か。それをハッキリさせる為にも、一年付き合ってくれませんか?」

『はい!』



 歪な関係に恋人と言う名前がついたが、お互いの名前を知らないままだった。一年後、この気持ちがハッキリした時に教え合おうと約束したのだ。

 名前がない関係から始まった私たちにとって、名前と言うのはそこまで重大では無かったからだ。


 学校では会わないながらも、それ以外の場では毎日のようにあっていた。御神木へお祈りした後、様々な所へと足を運んだ。夏は海へ、秋は森へ、冬は山へ、四季折々の風景を楽しめる場所に。



 春は桜を見に行き、もっと幸せになるのだと楽しみにしていた。




 桜が満開となり、あちこちで花見が行われ出す。あのご神体でも、貢物を捧げ花見が行われていた。


『明日、ここで一緒に桜を祝おう』

『どうして、明日なの?』

『ん?明日は、君の誕生日だろう?』


 確かに明日は私の誕生日だ。しかし、その話題が出たのは彼の誕生が終わった頃。5月の頭当たりだった筈だ。そんな前のこと彼が覚えているなんて思わなかった。


『覚えてるの?』

『君に惹かれている自覚はあったんだ。それぐらい覚えているよ』


 ぶわっと顔に血が集まる感覚がした。この顔を見せないように彼から離れるも、彼から笑い声が聞こえる。


『ーーさんちの嬢ちゃん!彼氏が居たんだな!』

『お父さんが泣くぞ!』


 周りの酒呑みから冷やかしの声が飛んでくる。よく見ればご近所さんだ!この人たち平日の昼間から飲んだくれて良いのか!?


『僕たちが春休みみたいに、お花見の休暇があるんだよ』

『会社ぐるみでお花見してるの?なら、納得』

『仕事だ!仕事!』

『そうだ!学生が青春を楽しむのと一緒だ!』


 学生の本分は勉強って言わない辺りが、酒呑みらしい。彼らにしてみれば友達が居ないと思っていた私に、友達どころか彼氏(らしき人物)がいた事が嬉しいらしい。


『明日、良い場所とっておいてやるからな!』

『ジュースや食べ物は任せろ!』

『さぁ!帰った帰った!』


 そうおじさんたちに声をかけられ、おばさん達がニマニマしながら寄ってきたので急いで逃げ出した。あの年代の人は、自分たちが納得いくまで根掘り葉掘り聞いてくる。一度捕まれば夕暮れまで解放される事はないだろう。



 その日の夕食。お母さんにお赤飯を炊かれ、お父さんが飲みすぎて酔い潰れたのは言うまでもない。




 次の日、私は早く家を出る準備をしていた。お母さんの笑顔が面倒だったのもあるが、こう言い表せない予感があったからだ。第六感と呼ばれるそれは彼の言うように鋭く、お母さんに言えば即座に笑みが消えるほどに不吉なものしか当たらない。

 真っ青な顔をしたお母さんに見送られ外を出た時、私は自分の力を恨んだ。遠くから聞こえるのは私を呼ぶ声。よく声が通るその人は、昨日桜の下で飲んだくれていたおじさんの1人だ。


 間違いであって欲しい。そう願いながらも足の震えは止まらない。何故か見つからなかったサンダルの代わりのスニーカーでどうにか走る。

 後、少し。とても大きい御神木が見えてきた時、此方に走ってくる真っ青なおじさんを見つけた


『ーーちゃん!』

『彼は!?』

『急いで!』


 急がないと間に合わない!その叫び声に一瞬足が止まった。


『ありがとう!おじさん』


 深呼吸をして声を絞り出し、足を動かす。足を止めてしまえば、彼に会えなくなってしまう。そんなこと認められない!


 どうにか辿り着いた御神木が咲き誇る広場の前、そこには多くの人が集まっていた。よく見れば、昨日のご近所さんの姿が見える。


『ーーちゃん!はやく!』


 彼女を通してあげて!おばさんの声で人垣がわれた。皆が皆、悲痛な顔立ちで此方を見つめていて体から血の気が引き始める。

 入り口にたどり着くと彼の姿が見えた。花吹雪を身に浴びて桜にもたれて座る姿は、去年と変わらない。一つ違うとすれば、彼のシャツが……紅白の模様になっているところ。


『どうして!?』


 血だらけの男性を押さえつけた、血だらけのおじさんたち。近くに転がっているのは、赤黒く染まった大振りのナイフ。


『なんで!』


 彼から凡そ10センチ、また警鐘が鳴り響く。見えない壁があるように彼には近づく事ができなかった。


『ダメだよ、近づいては』

『ヤダ!』


 どうにか近づこうと、足を踏み出せば。


『ダメだ!』


 彼とは思えない力強い声に足が止まる。彼の最期の時かもしれないのに、彼に近づくことを許されないのか。受け入れ難い()()にその場に崩れ落ちる。


『抜けちゃったからね、血がとまらない』

『まだわからないよ!』


 力ない声に涙が溢れてくる。冷静な部分では分かっているのだ。

 根元まで染まったナイフ。このナイフが抜けていなければ栓の役割を果たし、血が止められていたかもしれない。栓は外れて服を染め上げ、地ですら色を変えている状況はどう考えても望みはない。


『でも、最後に君に会えて良かったよ』

『嫌だ!まだ気持ちを聞いてない!!』


 湧き上がる怒りを地面を殴る事で紛らわす。自分が情けない、なんでもっとはやく気づかなかった!もっとはやく来ていれば彼は助かったかも知れないのに!


『君の第六感が僕の事を知らせたんだろう?なら、僕の運命は変えられなかったよ』

『そ、そんなこと!』

『君の口から名前が聞きたいな』


 此方に向かって手が伸ばされた。血に染まった手を握りしめて、私は笑顔を作り上げる。


『えぇ、愛しい人。私の名はーー』

『ありがとう。ーー』


 口元が笑みの形を作り上げ、目が閉じられる。握りしめた手からも、ゆっくり力が抜けていった。力が抜けた腕を彼の元に戻し、言葉を紡ぐ事が無くなった場所へ口付けを落とす。



 救急車の音に立ち上がると、世界が回った。






 目を開ければ白い天井が見えた。顔を動かせば真っ青な顔をしたお母さんと、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたお父さん。

 2人の話を要約すると。

 私は立ち上がった瞬間倒れて、近くのおばさんが受け止めてくれたそうだ。血だらけの私に疑惑の目が向いたものの、最期の話をしていたと説明して納得してもらえたよう。全力で現場に向かう私を目撃されたこともあり、彼が刺された件とは無関係となったらしい。……後日、事情聴取をされるらしいが当たり前であろう。


『彼を刺した犯人は?』


 2人の表情が強張った。これは私が聞いてはいけない話らしい。と言っても、少しの心当たりはある。


『桜の魔力を信じる?』


 消え去った表情が答えを示している。これ以上両親を困らせるわけにはいかない、眠くなったと言ってもう一度眠りについた。






『さて、お話を伺っても良いかい?』

『はい、なんでも』


 目の前に座っているのは、彼の事件を担当した刑事さんだ。私が退院して二週間後、家まで話を聞きに来たのだ。


『まず、君はあの少年の名前を知らないんだね?』

『はい。彼と会ったのはあの桜の下でした。お互いが桜に魅了されたと意気投合し、歪な関係からいつしか恋人という関係になりました。お互いの名前を知る必要性は感じられませんが、お互いの為にもあの日に名前を教える予定でした』

『そうか』


 刑事さんが目頭を押さえる。説明しておきながら、変な関係だなって思う。それでも、私と彼には名前なんて必要なかったと思うのだ。


『実はね?驚くべき事に、彼の詳しい経歴が判明しなかった』

『なんで!?』


 思わず椅子から立ち上がった。彼は学校に通っていた筈だ!戸籍と言う概念が存在するこの世で、経歴が遡れるなんてあり得ない!

『まぁまぁ』と落ち着かせた刑事さんは、目の前に出された紅茶を一口含んだ。


『住居は何年以上も無人で、彼の両親と呼ばれる人物は見つからない。学校に探りを入れると1人の人物浮かび上がった』

『それは?』


 手帳を閉じた刑事さんが複雑そうな表情を浮かべる。


『学校へ()()()()()()()人物だ』

『彼の詳しい事情を知ることは許されないんですね?』


 私の問いに刑事さんは曖昧な笑みを浮かべた。頷く事も許されない、つまり沈黙は正解。彼の素性はこの世に公表できない、隠し通さなければならないものなのだ。


『そうですか』

『しかし、彼の事は大切に思っていたようでね。所持品確認にも応じてくれたよ。ただ一つを然るべき人物に渡して欲しいと我が儘を仰ったけどね』

『……それが私?だからお越しになられたと?』


 あぁ、と頷いて刑事さんは懐からあるものを取り出した。どう考えても、高校生である彼が持つにはあり得ないケース。

 引きつった顔を刑事さんに向ける。


『試験の証拠品は、解決まで安全に管理されるものではないのですか!?』

『彼の事件は解決せざるを得なかった。君だって気付いているだろう?』

『昔、女子生徒が亡くなったと聞きましたから。あの桜は御神木でもありますし』

『そう言う事だ。受け取ってくれるね』


 スッとケースが此方へ動かされた。事件を穏便に解決する条件が、私がこの中身を受け取ると言う事なのだろう。

 深呼吸をして革張りのケースを開ける。ビロードの上に鎮座するのはプラチナの指輪だ。ダイヤ(クリスタルであってほしい)で象られた桜にルビー(らしき石)がはめ込まれている。儚く見えるのに、豪華であるのは使われている宝石のせいか。


『鑑定書見たい?』

『えっ!?本物!?』

『彼がバイトして貯めてお金で買ったらしいよ?取り敢えず、押し付けて帰るけど』


 良さそうな布から、テレビで見たことがある紙が見えた。布ごとくれるらしいので、もう一度包み直す。……なんて心臓に悪い。


『美しい桜だ。裏に彼の名前も刻まれている』

『えっ?』


 素手で触るのを戸惑う私に刑事さんが手袋を差し出す。これも良さそうな手袋だ。首を傾げると、目が死んだ刑事さんが言う。


『押し付けられてね』

『その、申し訳ありません』


 有り難く頂き指輪を裏返す。そこに刻まれたのは、私と愛した人の名前。愛した人の名前を知るきっかけが、まさか指輪の裏だなんて。この指輪も重いが、彼の感情も重い。


 だが、私は思うのだ。彼以上に愛する人が現れないと。






『ーー』

「ーー!!」

「はい!」


 戸惑った声に振り返れば、複雑そうな顔をした先生が立っていた。


「忘れられないのかい?

「はい。ですが先生も同じでしょう?」


 スッと表情が消え去った。彼としても、誰かに指摘されるなんで思わなかったのだろう。


「いつ、気がついたんだ?」

「学年主任が愚痴っていましたよ?先生は、桜の季節になるとよく所在が掴めなくなるって」

「それだけではない筈だ」


 賢い君は、確たる証拠が無いと本人に伝えないだろう?右手を口元に当て笑う先生のポケットに仕舞われた左手を見る。


「先生って本当は左利きですよね?以前、左手に携帯を持って電話をなさっている先生を見たことがあります」

「それが?」

「光っておりましたよ?あの角度から言って……」

「皆まで言わないでくれ!」


 ハァーと溜息をつきながら髪をかき乱す左手には、キラキラとした指輪が嵌められている。近くで見ればダイヤがでかい。私のモノとどっこいどっこいだが、此方の方が本気度が高い。どうしてだろう、シンプルな指輪の方が重さを感じる。


「君が首からぶら下げているのと変わらないだろう?」

「え?なんで知っているの?」

「同性の先生が気付いたんだよ。君の苦しみを考えて黙認しているだけだ」

「ありがとうございます?」

「素直に感謝してくれよ」


 少し不貞腐れる先生を少し笑うと、真剣な眼差しでこちらを見てきた。


「君は桜の魔力を信じるか?」

「彼に言われましたが、私の第六感は桜のおかげらしいので」

「なるほど。桜が選んだのは君と言うことか」

「はい?」


 桜が選んだ?それは一体どう言うことだ。もし選ばれたのが私なら、彼があんな目に合う必要性は無かったのではないか。


「あの桜は御神木だろう?一種の神と捉えて良い筈だ」

「神が巫女を選んだと?」

「いいや。単にもっと人を魅了したかっただけだ」


 何が言いたのかよくわからない。首を傾げる私に、先生は桜を指さした。


「桜の木の下には何が埋まっている?」

「屍体でしょうか?」

「そう言うことだ」


 この先生は数学の先生だった筈だが、梶井基次郎を知っているなんて変わった先生だ。いや、冒頭だけは有名な作品であるからおかしくないのか。


「魅了されるほど美しく妖しい花は、死という存在から養分を得ている」

「まさか!彼が!?」

「あぁ」


 そう一言答えた先生が、此方に歩いてくる。同じように窓から桜を眺める先生の瞳は、どこか遠くを見つめていた。


「彼女とは、あの御神木の下で知り合った。桜に魅了されたと微笑む姿に惚れ付き合い始めた。

 その後、色々あってあの日が訪れた」


 その色々が大事だと思うのだが、藪蛇になりそうなので黙り込む。頭の片隅で警鐘が鳴り響くのもいい判断基準だ。


「夜桜の下に彼女が立っていた姿が余りにも幻想的で見惚れていたんだ。気がつけば花吹雪に包まれ、彼女は消えていた。探しまわっても彼女は見つからず、その日は大人しく帰った。

 次の日、近所の人が呼びに来た」


 これ以上先生の悲しみに触れる資格はないと言うのに、先生の口は止まらない。止めるべき私の口も動かない。


「急いで行けば、血塗れになった彼女が横たわっていた。刺されたのは正午。犯人は、悲鳴を聞きつけ駆けつけたおじさん達を振り切って逃げたらしい」

「その犯人は……」

「先日捕まったのと一緒だ。宴会の最中だったせいか、酔っぱらったおじさん達が捕まえたらしいな。本当に血の気が多いおじさんたちだよ」

「何故、刺したのですか?」


 瞬きをし、ゆっくりと表情が作り上げられた。この先生は理由を教えられたのだ。だから、私にヒントを出したのだろう。


「聞きたいか?」

「いいえ、確認です」

「想像の通りだ。桜の美しさが認められない、この美しさは何かを糧にしているに違いない。ならその美しさをもっと素晴らしいものにしよう」


 あぁ!なんて残酷な話だろう!桜の魔力で魅了した人物を己の養分とさせたのだ。同じく魅了されながらも狂ってしまった人の手で!


「あの神様()は、自分の気に入った人物を側に置きたがる。その人物を逃さぬように、愛する人を殺して縛りつける」


 湧き上がる嘔吐感をどうにか抑え込んだ。なら彼が死んだのは……。


「と言っても、相手が人間かどうか怪しいぞ」

「やはりそうですか」


 彼が学校では私を避けたのも、人間に擬態していたからと仮定すれば納得する。名前を告げなかったのも、私の名前を知っていたのも人では無かったからだ。桜そのものであったからこそ、桜にもたれる彼に近づけなかったのだ。

 どうやってお偉いさんを協力させたか分からないが、それは私が知る資格にない事だ。


「先生は彼女さんを探しまわったんですよね。あの広場なら、良い感じで足跡が残るはずです」

「彼女は見つからず、翌日には足跡なんて形跡は存在しなかった。俺の関与は認められ無かったわけだ」

「私も、酒呑みのおかげで関与を否定されましたね」


 常人にはなし得ない行為に、2人揃って笑いが起きる。真実を告げられても尚、私たちの感情は変わらないのだ。


「先生、離れられますか?」

「無理だろうな、それは君も一緒だろう?」

「その為に勉強をしているのですから」

「それなりの大学に行けると言うのに、わざわざ最高峰の大学に挑戦するとはな」


 私が、春休みだと言うのに学校に来ていたのは進路変更のせいだ。隣の県にある大学を目指していたのだが、あの一件によりこの街の大学に変更した。否定はされない判定だが、受かると言われたらイマイチ。しかし、あと半年でどうにかできる程度の実力はあったらしい。張り切る先生方に勧められ、桜を見ながら勉強していたと言うわけだ。


「そんな泣きそうな感情じゃ、勉強できないだろう?思う存分泣いてスッキリしたら呼んでくれ」


 じゃあな、と手を振る先生にハッと息を呑む。私が第六感と言うのなら、この先生は……。


「ありがとうございます!」


 振り返る事なく手を振る先生の左手薬指には指輪が煌き、その頼もしい背中には儚い花が咲き乱れていた。









書いた感想

 何故かホラー風味に。普通の恋愛で終わらない

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