これは、僕と彼女の愛の行方。
彼女に告白された。珍しく学校で話しかけられたと思ったら、好きです。付き合ってと言われたのだ。彼女らしいシンプルでストレートな告白にクスッときた。
実はなんとなく分かってはいた。前に好きな人について相談されたからだ。馴れ初めが悲しい時に慰められて、そこから話すようになって、好きになった、だとかいつも真剣に話を聞いてくれる。だとかで、これでその気持ちに気づかないようなら僕はラブコメディの男主人公だろう。
気持ちを伝えられても彼女に好きだとか愛だとかの感情は浮かばない。あくまで自分の中で彼女は性欲処理の為の道具なのか、と自分の下半身に嫌気が指す。
彼女には、返事は少し待っていてとお願いした。彼女はいい返事を待っていますと残して走っていった。
赤い顔を抑えて走っていく姿には、純粋な彼女の気持ちが伝わって少し心が痛い。
僕に彼女を幸せには出来ない。なぜなら知っての通り僕は彼女の泣き顔に興奮するからだ。彼女は本当に純粋だった。彼氏が出来たら手を繋いで水族館に行きたい。とか、初めてのキスは3回目のデートの終わりがいいとか、砂糖のように甘い妄想を聞かされたことがある。それよりもっと先、端的に言えばセックスなどのことについては、さすがに知ってはいたようだが自分がそれをするとなると想像がつかないようだった。
そんな彼女はまさか自分の泣き顔を使って電話相手が自分を慰めているなんて夢にも思わなかっただろう。
僕は彼女を好きではない。だけど僕は彼女に対して劣情とはまた違う感情も芽生えていた。この気持ちは親心というのだろうか。僕は彼女が人間的に好きで、彼女に幸せになって欲しかった。僕以外の人と幸せになって欲しかった。
僕が見たいのは泣き顔だけど、彼女に幸せになって欲しい。矛盾した感情がふつふつ湧いて自分でも自分の本心が分からなくなる。
僕には予感があった。僕の運命の人は彼女だと。僕の欲情を満たしてくれるのは彼女しかいないと。もし彼女との関わりを断てば、僕の世界は急速に色褪せるだろう。
今までの、彼女の知らなかった頃の自分にはもう戻れない。彼女と話していたい。彼女の気持ちを知りたい。彼女の悩みを聞きたい。彼女の幸せを願いたい。…君の、泣き顔が見たい。
だから、僕は…
夏の暑い日。少し涼しくなった夕暮れ時。まだ空は明るくて、心地いい。少女は好いた少年に呼び出されてここに来た。誰もいなくて静かな校庭。でも彼女の心臓はうるさかった。彼女は少しの不安と期待を胸に少年が現れるのを待っていた。
どこからか少女の名前を呼ぶ声がする、少女は周りを見渡すが人はいない。また名前を呼ぶ声がする。今度ははっきり聞こえた。愛する人の自分を呼ぶ声。彼女が笑顔で上を向こうとした時、落ちてくる愛する人と目が合った。
体に強い衝撃が走る。上手く落ちることが出来たようだ。強い痛みが走るが、彼女の姿は見える。呆然としている彼女の顔が。僕はもうじきに死ぬだろう。
彼女はハッと気がついたように、倒れそうになりながら近づいてくる。大粒の涙を流して、僕の名前を呼びながら。赤くなって朦朧のなった視界でしかその姿を見れないのが残念でしかない。
彼女が泣き叫んだ。嫌だ、嫌だ!どうして! 真ん丸な目から流れるように出た涙、頭を突き刺すような叫び声、悲痛に歪む彼女の顔。…完璧じゃないか!これこそ僕の求めた彼女だ!
あぁ、やっぱり君は僕の運命の人。あぁ、やっぱり君は僕の理想の人。あぁやっぱり…
…君が好きだ
僕の目から涙が落ちて、僕の瞼は重たくなって、僕の意識は消えていった。
…ただ普通に愛せたらよかったのに…
…ここは少女の部屋。少女はベットで呆然と座っている。少女の目にはもう誰も映らず、少女の耳にはもう誰の声も届かない。何がうつっているかも分からない彼女の目には、絶え間なく涙が溢れる。
…それを見て、いつもそばに居る少年の霊は、これ以上なくいやらしく笑うのだ。