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第六話 アズーロ町 フリントキャットファミリーと謎の少女

アーテル国の『海の街』といわれる場所は、ヴィオラ町とアーテル村が管理している。

アーテル国の港がある場所が、ヴィオラ町にある。

そこはルージュ市との境目にあり、船が停泊している。

海に浮かぶ二つの島も、その二つの町村で管理している。

しかしこの度、その『海の街』に動きがあった。

アーテル村、ヴィオラ町、ルージュ市の三つの市町村の村長、町長、市長が集まり会議を開いた。

内容は、これからの街づくりに関してだ。

元々、新たな街が作られる計画はたっている。それを今回新たに進める為だ。

ルージュ市の一部が、空港のある所の人口が増え、空港で働く人も増えた事により、学校と新しい街を作る計画を本格的に始動させた事により、新たに海の方の管理もする事となった。

空がテーマの街造りと、今まで二つの島を管理していた二つの村町から、『海の街』といわれていた場所は、新たに出来上がる街の隣に作られることになった。

アーテル村は管理から外れ、町はそのまま管理していく。

アーテル村から市の方に管理が変わり、『海の街』は名称が変わる事となった。

ルージュ市とヴィオラ町の境目にあった『海の街』は規模を少し広げ、『アズーロ町』と変わった。

小さな港町、という街並みは変わらないが、町の広さはルージュ市の方まで、少しだけ広がった。

管理しているのは街並みだけではない。元々ある二つの島も今は無人島だが、アズール町となった。

そこで会議は終了、三人は各々の住んでいる場所へ帰った。

その知らせを、管理から外れたアーテル村の村長から聞いた少女は、村を離れ、一人ひっそりと、どこかへ向かった。

無人島は二つあるうち、大きい方が「くじら島」小さい方が「ペンギン島」となっている。

その大きい島「くじら島」なら、町から近い。

村から移動してきて、ようやくたどり着いた港は、船が沢山、停泊している。

少女は恐怖を感じたが、今はそれどころではない、彼女にとって一大事なのだ。

停泊している船を横目に、小さいボート乗り場へ向かった。

二人乗りのボートがあるはずと思い向かうと、あるものの…今の時間は営業時間外という事もあってボートは使えない状態になっていた。

そこへ、見覚えのある顔を見つけた。

少女は怒られる!と思ったが、その顔は酒に酔っていて、気分が良かったらしく、彼女を怒らず、話を聞いてくれた。

少女は小さな声で「…平おじさん」とつぶやいた。

彼女はその男と一緒に「くじら島」へ向かった。

くじら島は真っ暗でなにも見えないが、男は慣れた手つきでボートを岸へ付け、少女をボートから降ろすと、少女を置いてボートを再び動かした。

それから少女の過酷なサバイバル生活…というよりキャンプ生活が始まった。

無人島が、とある男に買われるまで…。



海外から大きなクルーズボートに乗ってこの国へ来た男は、港に船をつけ町に降り立った。

聞いていた港は、もう少し規模が小さいものだと思っていたが、予想外に広かった。

男がこの場所に来た理由はただ一つ。

男の姉が離婚した、という知らせから事は動いた。

「娘はあなたが育てて」というセリフを聞いた時、男は「また何か言い出した」と思った。

三人姉弟の真ん中として育った男は、わがままで自分勝手な姉と自由奔放な弟に挟まれて生きてきた。

姉の尻拭いなんてしょっちゅうだ。

さらにそこへ、弟の尻拭いが重なる事もある。

そんな家族の中で育った彼の名は、一人だけ何を思ってか、宝石の名前をそのまま付けられ、カルセドニーという。

彼の人生は宝石のような人生とは真逆のような人生だったが、今もこの土地に来ている以上、踏んだり蹴ったりな人生を歩んでいる最中だろう。

そう、母親に置いてかれた彼女を見れば分かる。

港には姉の子供が迎えに来ていた。

会えばその顔はすぐに分かる。

姉と同じ模様の顔…。

男はフリントキャットという種類の猫の獣人で、オスはだいたい石炭のような毛色をしている。

顔も体の毛も同じ毛色である。

一方メス猫は、白い毛がほとんどで、顔と耳の部分の毛に、石炭のような色の模様が丸に近い感じで入る。

模様は左右のどちらか片方に一ヵ所入る事があり、ブチネコのような顔をしている。

アーテル国では、まず見かけない種族だ。

そんな毛の色を見れば、姪っ子である事は一〇〇%である。

姉はこの国で夫と娘と三人暮らしで、ほぼ実家に顔を出さずに生きてきたが、離婚をする、と電話をかけてきた。

その時「娘はあなたが育てて、名前は“コーデリア”という名前よ」と言っていた。

その名前を思い出し、こちらを怪訝な顔で見つめる彼女に近付き「コーデリアかな?」と声をかけた。

「…そのバカで間抜けそうな顔は、カルセドニーね」

「…すまないね、こんな顔で」

「全くだわ!なぜママは、セバスチャンの方に頼まなかったのかしら?」

「…君のセリフ、君のママにそっくりだね」(全くといいたいのは、こっちの方だ!)という思いは海に投げ捨てる事にして、カルセドニーは言った。

「なによ!宝石と同じ名前の癖に、全く宝石のように輝けもしない人生送っているくせに!」

(君のママに宝石と同じが良いと言われて、名付けられたからね)という思いも、波にさらってもらう事にした。

相手は子供で、さらに姉の子となると、予想はしていたが、カルセドニーは、“やっぱりか…”と思いながらも相手が相手だからと、言い聞かせて会話した。

一旦は、自分の家へ連れて帰り、後日改めて彼女を正式に養子にする事にした。




それからカルセドニーは再びアーテル国へ向けて、クルーザーに乗って移動している。

その理由は、移住を考えているからだ。

姪っ子がいた場所に、無人島がある、という情報を手に入れたカルセドニーは、調べてみると、二つの島が無人島であると知った。

一つは大きな島で、そこは元々、何かの施設の一部だった、という事で、昔から無人島だった訳ではないらしい。

それならと、許可を得れば、自分が島に住めるかもしれない、と、またこの国へ来たのだ。

カルセドニーは、いつか無人島で生活するのを夢見ていた。

家族…といっても両親と弟だが、その三人と離れたいと思っていた。

今現在、弟は自分より早く結婚し、双子の娘がいる。

自分も結婚し、妻と三つ子との五人家族だが、

妻もどこか弟家族とは合わないらしく、この生活に賛成してくれている。

コーデリアは、家に連れてきて以来、無口になった。

あれだけ姉に似ている娘だったのに、急に無口になってしまい、少々心配している。

そんな所に、無人島へ移住、しかも元居た国と聞き、「仕方なく賛成するわ」と口をとがらせていた。

それは嬉しいけど…という時にする姉の表情と一緒だったので、なんとなく喜んでいるのでは?と、カルセドニーは思った。

そこからカルセドニーだけ、アーテル国へ行く事が決まり、現在、彼はアーテル国の地に降り立った。




市街地らしい場所へ行くと、とても華やいだ街並みが広がっていた。

ここが【ルージュ市】またの名を【ルージュシティ】であると確認した。

アローズ町と書いてある看板は、やけに新しく、隣の町は町自体はあるものの、町の名前は書いていなかった。

その辺の人に聞くと、町は新しい名前がついて、色々と変わった、隣は現在、また新たな街が開発される途中、と教えてくれた。

再開発してるんだとも付け加えてくれた。

ここは今、外国から来た人が、外国語で話かけても、共通語で返ってくる。

もちろん全ての人がそういう訳ではないが、カルセドニーが話しかけた人は、運よく言葉が分かる人だったらしい。

それならとさらにその人に、分からない事を聞くと、親切に教えてくれた。

おかげで、目的地までちゃんと到達できた。

施設に入り、案内板を確認し、カルセドニーは目的地へ向かった。




島の事について、色々と話を聞き、移住するにはとの質問や、その他、必要な事は全て聞き、施設を出てきた。

この国に移住をし、住民になって何年か経てば、島の所有者になっても構わない、との事だったが元々施設の所有物だった為、ここではなくアーテル村でも、村長に会って、話をしてくれ、と言われた。

その施設は、アーテル村という所に住む者が、だいぶ昔に建てた施設だったらしい。

今、その施設で働いていた者はいないが、村長が今までその施設の跡地を管理していたらしい。

それでアーテル村の村長と話をしてくれ、との事だったが、まずは市内の移住者、移住予定者の専用施設へ行き、寝泊まりする為の契約をする事にした。

その後、市内を観光したり、出来れば仕事も見つけたいと思っていた。

いっぺんに片付ける訳ではないが、こっちには一週間くらい滞在予定である。

その間に出来る事はしておきたかった。

カルセドニーはまず、施設を利用する為の書類に必要事項を記入し、職員に案内され、独身者男性用フロアを案内された。

「一室があなたの専用の部屋です」と説明を受け、「ここです」と部屋の前で職員が止まった。

カルセドニーは、職員から鍵を受け取り、ドアを開け、中に入って行った。

ビジネスホテルのような造りの部屋に、荷物を置き、貴重品だけ持って、部屋を出た。

鍵を閉め、辺りを見渡し、出入り口方面へ向かった。

この建物は、結構大きな建物で、独身者の男性フロアと独身者の女性フロアがあり、その二つのフロアは、A棟B棟と別れている。

ファミリーフロアは敷地内に別の建物があり、そこで夫婦二人から子連れが入る事になっているらしい。

祖父母連れでも、利用できるがそれはまた別の場所に建てられている施設に行かなければならないらしい。

この国に移住しようとする希望者は、大体が独身者か子連れで利用する人が多い為、そのような建て方になっているだけである。

カルセドニーは、一旦はこのファミリー向けにしようかと思ったが、姪っ子(といっても養子にする手続きはしたが。)が良いと言わないだろう。

となると、家も探さなくてはならない。

島に住めれば一番良いのだが…。

まぁとにかく今は仕事だ。

カルセドニーは、職業安定所を目指した。




「全く、ひどい話だ、宝石商かデパートの宝石売り場はどうですか?なんて。」

カルセドニーは思わず独り言をつぶやいた。

今現在彼は、公園にいる。

周りはほとんど人がいない。

ので彼の独り言を聞いた者はいないだろう。

デパートで働く事は別に悪くない、しかし宝石売り場とはいかに…。

宝石というか、パワーストーンの方の名前に近いが、カルセドニーと書いた紙を見て、宝石やパワーストーンの店の従業員を沢山紹介されたのだ。

ただでさえこの名前で、ひそひそされる事が多かったというのに。

まぁ悪い事だらけではなく、妻とも出会えたのはこの名前のおかげだった。

妻も宝石やパワーストーンの名前だった。

だから縁がある、といえばあるのだが。

実子の名前も宝石から取ってしまったし…。

確かにそうなんだが…。

思い出したくはないが、そういう時に限って、色々と思い出してしまう。

姉の事、子供だった頃の事、そして今の事。

「…姉と同じ血が流れてるんだよなー?俺は。」

本当に流れているのだろうか?

もしかしたら自分だけ違うのでは?

いや、それは昔からよく考えていた事だ。

考えれば考えるほど、嫌になるくらい、家族と血が繋がってると思い知らされた。

「はぁ、腹をくくるか」

カルセドニーはデパートで宝石店の店員になる事を決めた。

“他の仕事だって山ほどあったのになぁ。”

『それは、別の方が合ってるかと…』

職員のそのセリフは、何度も聞いた。

聞いた結果が宝石店だ。

カルセドニーは、ベンチに座りながら、その場でうなだれた。




翌日

職場となるかも知れない店へ行くと、やはり名前の事を言われた。

それでも、「人手不足だから来てくれるならありがたい」と言われ、カルセドニーは「分かりました」と答えた。

家も探さなければならないが、まずは店などはどのような店があるのか、住居地区はどんな感じなのか、見て回ることにした。

子供を抱え、姪っ子を抱えて暮らしていくべき所はあるのか。

カルセドニーは、隅々まで見て回った。

次の日になっても、仕事はまだ行かなくて良かった。

移住先がみつからなければ、ここで働くのは困難である。

だからこそ、移住したら働きたい、という意思を伝え、店側もそれで構わない。という事だった。

本当なら今すぐ働いてもらっても構わないが、「それならしょうがないですね。」との事で、少々、眉間に皺を寄せているのが気になったが、カルセドニーは頭を下げて、面接を終わらせたのだ。




住みたいと思える場所は、見当たらなかった。

わがままを言わなければ、いくらでもあるのだが、最低限の希望は叶えたかった。そうなるとすごく難しいのだ。

自分や妻は、希望が一致しているのだが、厄介なのが一人いる。

「あれが良い、これが良い、それじゃなきゃ嫌」とカルセドニーに対してだけ、わがままを言ってくるのだ。

全ては無理だと言っても、聞き入れてはもらえず、ふてくされ、ひどい時には物を壊そうとしてくる。

大事な物を一番に狙うから質が悪い。

自分の思い通りに出来ないと分かると、物を壊そうとする行為は姉と同じ手口で、昔からカルセドニーの頭を悩ませている。

仕方なくカルセドニーは、トラムやバスを乗り継いで、アーテル村まで行く事にした。

まずは島がどうなのか知りたい。

今まで管理していた村長の話を聞いて、また新たに計画を練る事にした。




アーテル村の村長は、カルセドニーと会うと、島の話をしてくれた。

全てはルージュ市で聞いた事と同じだった。

ただし、こちらは少しだけ違った対応をしてくれた。

その対応とは、市の方で出された契約内容より優しくなっていた。

今すぐ買うのも、家を建てるのも構わない。

ただし一つだけ条件がある。

それはあなた次第で解決できる。

島にいる妖精の女の子に気に入られれば、条件を緩める事は出来ると言われた。

カルセドニーは頭が真っ白になってしまった。

何事かと思い悩んだが、メルヘンな世界に生きている人なのかと思う事で、納得することにした。

「今すぐ妖精に会いに行きますか?」と言われて、思わず「はい」と答えてしまった。




隣町に移動して、村長の船でくじら島へ行くと、そこは何も無かった。

ただし、キャンプ道具を広げ、キャンプを楽しむ少女ならそこにいた。

「村長さん、なぜここが分かったんですか?」

「お客さんがきて、この島を買って住みたいんだとおっしゃって…」

「この島は…」

「あぁ、妖精ちゃん、分かってる、君の物だね…という事なんですよ」

という会話をしてから村長はカルセドニーの方を見た。

やはり二人の会話にはついていけない、と、カルセドニーは思った。

「だれですか?」と、妖精ちゃんと呼ばれた白い毛の短毛種の猫の少女が尋ねた。

「外国からきたお客さんだよ」

「…くろねこさんです」

正式にはチャコールに近い毛色なんだが…まぁ黒猫であながち間違いではない。

「私はしろねこさんみたいな毛のネコさんです、はじめまして」

「あー」

カルセドニーが困っていると助け舟が口を開いた。

「妖精ちゃん、外国の方にはこちらの言葉は、分からない場合もあるから、えっと…」

「共通語はむずかしいです。国語もむずかしいです」

「はいはい」

村長は妖精ちゃんと、めんどくさそうに会話しながら、カルセドニーに共通語で説明してくれた。

「その、あなたの後ろにいる少女が、いわゆる妖精ちゃんなんですね、で、この島は彼女の物と…」

「えぇ」

「それで、妖精ちゃんに気に入られる必要があると…」

「そうなんです、市や町の方にも伝えてません。内緒ですよ」

「…はあ。」

「まぁ、この島は元々、アーテル村の土地ですから、私が最終的に決める立場にあります。

市や町は、港を管轄として管理しているのですよ」

「あぁ、なるほど」

「だからこちらへ来てくれと、言われたのだと思います。」

「そうか、そうなんですね」

「はい」

「妖精ちゃん…と仲良くなるのって、やはり難しいですよね?」

「どうでしょう?私も対応に困る事があって…常にその」

「どうかされました?」

「あっ、いや、あの、そうですね、扱いが難しいので、ほったらかしにしてる所がありまして…」

「そういえば、彼女のご家族は?見た感じ、まだ幼いような…」

「いません、まぁその辺は、ちょっと、あまり話せる内容ではないので、あの、私どもが面倒を見てきました。」

「そうですか」

「はい、申し訳ありません」

「いえ、事情は人それぞれですから」

「…。」

村長はそれ以来何も言わず、ただ、突っ立っていた。

妖精ちゃんはいつの間しかどこかへ消えていた。

カルセドニーは、だいぶ困ってしまったが、とりあえず彼女を探すことにした。




少女は釣りをしていた。

島の端で、少々危なっかしい場所に見えたが、慣れた手つきで釣りを楽しんでいる。

ピンクと白のギンガムチェックのフード付きジャンパーにオレンジのズボンを履いている少女は、鼻歌交じりに釣りを楽しんでいる。

言葉を交わすのは難しいが、一人で両親もいない状態で、この島でキャンプしている彼女は、どこか寂し気に見えた。

「なんだか、コーデリアみたいだな」

両親は離婚、母は行方不明、一人この国に取り残されたコーデリア。

最初彼女を見つけた時の事を思い出すと、姉と同じような言葉使いで、腹が立つような事を言われたが、それは寂しさの裏返しなんだと気付いた。

カルセドニーのクルーザーボートの中で、一人泣いている彼女を思い出す…。

カルセドニーはその時、あえて声をかけなかった。

その方が良いと思ったからだ。

「妖精ちゃん…ねえ、確かに白い毛は透き通るような白さだな、まるで絹の被り物をしているようだ」




島から帰ってくると、カルセドニーはその日、ルージュ市に戻って、家族と電話で話をした。

まだ数日あるが、早くそちらへ帰りたいと伝えた。

島は時間かかりそうだとも伝え、電話を切った。

彼女をどうにか説得できるのだろうか?

難題に挑戦しようとしているように思えた。

コーデリアの時は、姉の子として、それなりに扱い方が分かったから、まだ良かったが、他人のしかも言葉が通じない相手の心をどう掴めば良いのか、カルセドニーには分からない。

まだ、コーデリアか妻がいれば、話は変わってくるのかも知れないが…。




久しぶりに帰ってくると、一週間だけしかたってないのに、妙に懐かしく思える。

カルセドニーは妻と再会の挨拶を簡単に済ませ、本題に入る事にした。

カルセドニーの妻、エレスチャルは「その、簡易宿泊施設?でも良いんじゃないの?私はこの家を離れられるなら、どこでも良いわ、いちいちあなたの家族に色々言われなくて済むから」と言ったが、カルセドニーが「コーデリアが…」というと、本人が登場した。

「おじさん、アーテル国へ行ってたんでしょ?」

「そうだが、なにか?」

「別にー!お土産の一つくらいあっても困らないのになーって思っただけ」

「あぁ、すまない、今回は旅行が目当てじゃないから、そういうのは、かっ」

「これだからカルセドニーはダメなのよねー、セバスチャンなら、ちゃんと…」

そこで言葉が途切れた。

エレスチャルの視線に気が付いたようだ。

「あなたも、良いのよ?わざわざ家で過ごさなくても、セバスチャンに頼んであげるわ」

「分かったよ、ママがそうしろって言ったんだから、ここに居るよ」

頬を膨らませて、眉間に皺を寄せた顔で、コーデリアはその場を離れた。

「…ずいぶん、あなたのお姉さんの血が濃くて、大変ね」

「エレスチャル、すまない」

「それで、あの子がどうだって?」

「その、嫌なんじゃないかと…」

「じゃあ、養子縁組を辞めて、セバスチャンに託す?」

「あいつがコーデリアの面倒見てくれるとでも?」

「無理な話ね、で、それで?」

「…連れていくしかないか。はぁー。」




その日の夜、くじら島で一人、少女は星空を見上げていた。

「くろねこさんはいいました。ぼくはほしぞらとともにある。しろねこさんはそんなくろねこさんをみつめ、ほしぞらをみつめました。そして、くろねこさんにいいました。このからだでは、ほしぞらのしたでは、とてもめだってってしまうわ。くろねこさんはいいました。だったらきみはぼくののおほしさまになってくれと。しろねこさんは、おどろききましたが、くろねこさんといっしょににいることにきめました。それがふたりのしあわせだったからです。ふたりはそれから、ずっといっしょにいることにしました。いまはとてもしあわせです。」

少女は幼い日を思い出していた。

母が読んでくれた絵本の内容を思い出し、声に出して言ってみたが、絵本の内容は、色あせずに彼女の思い出と共にある。

「今日は“くろねこさんとしろねこさん”のような事が起きました。今日、島に来たおじさんは、なんというネコでしょうか。また学校へ通わないと、共通語が分かりません。でも、また怖い思いをするかもしれませんね、それはイヤです。」




カルセドニーは、一週間の旅の疲れも癒せないまま、コーデリアと向き合っていた。

「そんなわけで、アーテル国で再び生活するには、一旦、簡易宿泊施設みたいな所で生活しなきゃならないんだ。」

「ルージュ市にある、外人向けアパートメントでしょ?詳しくは知らないけど、ママは昔そこに居たって言ってたから、話には聞いてる。」

「それで、コーデリアはどうしたい?」

「…ヴィオラ町での生活じゃなくなるなら、別にどこでも良いわ、それにあそこは市街地でしょ?家はあまり良くないみたいだけど、島に移住するまでの間でしょ?島に移住したら、住所とか学校とかどうなるの?」

「ルージュ市の住所になる、学校も市の小学校だよ、その、簡易施設でも同じ学校だよ。」

「じゃあ、行くわ。都会に住めるなんて、夢みたいだもの」

「そうか、わかった。じゃあ、もう少し話を進めてみるよ」

「島に移住したら、プライベートビーチとか、あるのかしら?」

「あーどうだろうなぁ、まだじっくり見てないから分からないけど、釣りは出来るみたいだな」

「釣り?見てきたんじゃないの?全く、役立たず!」

「ごめんよ、その、色々あってね」

「もういい!カルセドニーとは話も出来ないわ」

「ごめんよ、コーデリア」

“あぁ、また機嫌が悪くなったんだな。”とカルセドニーは思った。

“気分屋だからしょうがない”と自分に言い聞かせて、コーデリアの元を去る事にした。




寝室に行き、部屋に入ると、妻はもうベットで横たわっていた。

隣の自分の場所に腰掛け、妻にコーデリアと話をしてきたことを伝えた。

カルセドニーのすることは、後は島を買うために、あの少女の心を掴まなくてはならない。

しかし、今のカルセドニーはそんなことを知らないが、少女の頭の中には、なにか思惑があるようだ。




再びカルセドニーは、暇を作ってアーテル国へ来ていた。

村長と話をしたいと、アーテル村へ行き、村長の家を探すことにした。

ふと、誰かがカルセドニーの服を引っ張った。

「もしかして、えーっと…」

振り向くと白い毛の顔をもつ猫が立っていた。

カルセドニーもその顔を見た事がある気がした。

そこへ、また別の獣人が現れた。

「ホワイトキャットちゃん、どうした?」

ホワイトキャットと呼ばれた子は、その新たに現れた獣人の事を知っているようで、「コアラさん、助けて下さい」と言った。

その言葉に、「コアラさん」と呼ばれた男は、カルセドニーの方を見た。

「…失礼ですが、どちら様で?」

「あぁ、私、村長に用があってここを訪れたんですが…」

「あぁ、旅人さんでしたか、えー、後ろの少女と面識は?」

「どこかで会った気はしますが、なんせ、こちらに来たのは、前回が初めてで、ほとんどこちらの国に対しては知らなくて…だからその、定かではないのですが」

「そうでしたか、彼女は村長と私が、一緒に面倒を見ている子で、名無しちゃんなんです。親がその、居なくて…。」

「そうですか、実は、この間も、彼女に似ている子で、親がいない子で「妖精ちゃん」と呼ばれている子に会いました。真っ白な毛並みの顔をした子で…今、ここにいる彼女のようなお顔です。」

「…もしかして島で見つけた…とかは?」

「はい、ご存じなんですか?」

「だったら、島で会ったという子と、同一人物です。」

そこでカルセドニーはもう一度彼女の顔を見た。

透き通るような白い顔に、ピンクのギンガムチェックの服、オレンジのズボン。

たしかにこの間見た子と、特徴が一致している。

「妖精ちゃんだったのか」

「えぇ、たぶん」

「えっと、それで、あの村長を探して…」

「あぁ、私が案内します、私、申し遅れました、ウィリアム・ウィルソンと申します。村長とは古い友人で、良く見知っていますよ」

「そうでしたか」

「えぇ…ホワイトキャットちゃんも一緒においで、村長さん宅に行くよ」

「はい、そうします」

三人で村長宅へ行き、カルセドニーは彼女との不思議な縁を感じていた。




村長宅につき、三人は村長がいる所まで案内された。

村長室と書かれた部屋に入ると、この間話をしていた村長が机に向かい、作業していた。

話かけられるとこちらに気付き、一礼した。

応接室も兼ねているのか、ソファーとテーブルも置かれていた。

カルセドニーはソファーに座らされ、横にちょこんと、白猫の獣人の少女が座った。

村長とウィリアムと名乗った男性は、向かい側のソファーに座り、何やら話をしている。

村長は改めて、カルセドニーの横に座っている少女の説明をしてくれた。

その説明の内容は、彼女は「キヌネコ」という種族でそのまま「絹」のような毛の色だから「キヌネコ」らしい。

白猫とは少し毛色が違うのだが、ほとんど見分けつかないと説明してくれた。

口元にふんわりと少し色味の違う白の毛が覆っているが、キスでもするような距離でないと良く見えない。との事だった。

カルセドニーも珍しい種族かと聞かれた為、自分も黒猫と間違えられるが、チャコールに近い色味だと説明した。

ウィリアムと名乗った男性は、優しく少女に語りかけている。

「くろねこさんではないのですね」という言葉が耳に入ってきたが、カルセドニーには意味が伝わらなかった。

その後、カルセドニーの今後について話す事となった。

カルセドニーは今現在家族と話し合い、移住を考え、島が買えるようになるまで、ルージュ市の移住者施設で暮らすと説明した。

そこで、「島」という単語を聞いた村長とウィリアムは、お互いの目を見つめ合ってしまった。

口を開いたのは村長だった。

「そういう事だ、ウィリアム」

「彼女の存在か…それにしても、なぜ彼女はここへ?島の話をした夜、行方不明だったのでは?」

「彼と一緒に島へ行ったら、偶然見かけたんだ、それで、その後、彼が帰っていった翌日にもう一度、俺だけ島へ行って彼女に会ったら、怖いが学校へもう一度通うと言い出して、それで連れてきたんだ。それで、どうやって島へ行ったのかと聞いたら、「酔っぱらった翔平おじさんが、ボートを動かしてくれたと言ってたんだ、翔平には、一応注意はしといたけど、あれはもう再起不能だからな、まともじゃないから、無理だろう」

「翔平か、まぁ酒に酔うとあいつはダメだからな」

なぜか二人は、共通語で話していた。

一人は名前から外国から来たのが分かるが、村長は自己紹介でアーテル国で使われる名前を名乗っていた。

という事は、村長は生まれも育ちもアーテル国の者だろう。

それでも流暢に共通語を喋る彼は、村長という立場上のものから来るのが自然と、カルセドニーは考えた。

古い友人と言っていた事から、共通語で話をしているうちに、二人で話す時の癖なのかも知れないなとも思い、両方の言葉を喋れるというのは、非常に便利そうだという感想を抱き始めた。

そのうちカルセドニーや妻も、アーテル語を理解しなくてはならない。

そう思うと、新たに言葉を覚えるのは大変だな…と思うようになった。

しかし、難題はすぐ近くに存在している事を、カルセドニーは思い出した。

自分の隣で、出された菓子を楽しそうに食べている少女を見つめた。

言葉よりもこちらの方が、攻略が難しそうだ。

そうだった、彼女を攻略しないと、念願だった島が買えないのだ。

カルセドニーはため息をついた。

「それで、ホワイトキャットちゃん、どうだろう、共通語を学びたいなら、うちに来ないか?それなら学校より安全だと思うけど」

「コアラさんチですか?」

「そうだよ。」

「しーちゃんはまだいる?」

「しーちゃんは、今はあまり来ないよ」

「そうですか、翔平おじさんもしーちゃんも、ちょっと怖いです」

「んーまぁ、そうだね、ちょっとお口がね、達者だからね」

「しーちゃんは、うささんなのに優しくないですから、しーちゃんがいないなら、行きます」

そこへ、村長が会話に加わった。

「妖精ちゃん、島は君の隣にいるお兄さんが欲しいんだ、譲ってくれないか?」

「あの島は私のものです。」

「そこをなんとか…」

「じょーけんがあります。」

「ん?」

「お母さんに読んでもらった絵本の中では、【くろねことしろねこ】という絵本が大好きです。

十一歳になってしまった今でも、大好きなお話です。そこでは、『くろねこさん』と『しろねこさん』は一緒に住んで、幸せに暮らすんです。『ほしぞらのおうこく』という場所で暮らすんです、『くろねこさん』は“王子様”だったのです。」そこで、少女はカルセドニーを見た。

「おじさんは王子様とかですか?」

その質問には、ウィリアムが答えてくれた。

「王子様ではないと思うよ」

「じゃあ、ダメです」

男性三人は、黙ってしまった。

カルセドニーは通訳をお願いしたが、村長が通訳してくれた内容を聞いて、聞かなきゃ良かったと思った。

「なんか、申し訳ない、たびたび…」

「いえ、お気になさらず」

その時、少女はカルセドニーの服をつまみ、少しだけ引っ張った。

「おじさんは、なんていうお名前ですか?」

「あぁ、あなたの名前を聞いていますよ」と、村長。

「私の名ですか、お恥ずかしいのですが、カルセドニーです」

「…ん?珍しいお名前ですね」と、ウィリアム。

「なんですか?アーテル語で教えて下さい」と、少女。

「カルセドニー、確か宝石か、パワーストーンの名前か色の名称だったはず」と、ウィリアムがカルセドニーに聞くと、「えぇ、全くその通りです、自由奔放でわがまま言い放題の姉が「宝石のような名前が良い」と、言ったのを、両親はそのまま姉に任せたようで、彼女が「カルセドニー」という名前を付けてくれました。」と答えた。

「そうでしたか」と、ウィリアム。

そのままウィリアムは、少女に「カルセドニーという名前らしい、カルセドニーさんと呼んであげて」と言った。

「かるせどにーさん、で、いいですか」

「うん、大丈夫」

少女は改めて、カルセドニーの方を向くと、「かるせどにーさん」と呼んだ。

「はい?」

「かるせどにーさんは、なぜ島が欲しいのですか?」

村長が訳してくれる言葉を聞いて、カルセドニーは、少々悩んだ末、「昔から無人島に住むのが夢だったんだ、冒険島に憧れてね」と答えた。

直ぐに村長が訳してくれた。

「ぼうけん島…魅力的な言葉です。あの島はぼうけん島なのですか?」

村長の言葉を聞いて、これは…と思った。

「そう、私にはあの島は冒険島に見えたんだ!君はすごいね、あの島で生きれるなんて!羨ましいよ」

村長はカルセドニーの言葉を訳し、少女に伝え、ウィリアムもノリノリで話し始めた。

ウィリアムが「男のロマンだ」と言うと、「分かってくれますか?」とカルセドニー。

村長も加わり、少女を取り残したまま、男三人は、男のロマンである、「冒険島、当てもない旅、宝箱!」と話し始め、「秘密基地、海外ではツリーハウスという物がある」と話し、「それだ!ツリーハウス!建てられるなら、どんだけ嬉しいか!」と、盛り上がった。

「おじさん達だけでずるいです、何を話してるんですか?」との少女の言葉で男達は、夢の世界から現実世界へ引きずり込まれた。

「あぁ、すまない」と村長。

「とにかく、ホワイトキャットちゃんの島、どうしますか」

「現実、難しいのでしょか?」とカルセドニーが聞くと、村長は「移住して何年か経てば、そこまでではないのですが、やはり彼女が「うん」と言わないと…。」と言った。

カルセドニーは「島の管理者だった人はもう居ないと聞いていますが、彼女はなぜ、島にこだわるのでしょうか?」

「それは、我々にも話をしてくれなくて…とにかく喋らない事だらけで、保護したものの、まだちゃんと、分かってない部分が多くて困っている所で…」

ウィリアムは「彼女はシークレットキャットとも呼ばれています、なにせ口癖が「ヒミツはヒミツです」で、喋ってくれないんですよ、無理に喋らせるのもね、良くないし」

「なるほど、大変なのですね」

「はい」

ウィリアムは一瞬、過去の出来事を思い出したが、今は関係ないと目をつぶった。

「とにかく、今は彼女ですね」と言い、ウィリアムは記憶を奥の方にしまった。

「妖精ちゃん、君はこれからどううするんだ?決められるか?」

「はい、共通語のお勉強をします。それから…」とそこで言葉を区切り、カルセドニーを見つめた。

「くろねこのおうじさまという方を待ちます。絵本の【くろねことしろねこ】のように。でも、かるせどにーさんは、私にとって「くろねこさん」に見えました。だから、王子様じゃなかったのが、とても残念です。」

「王子様ではなくても、名前が宝石のような人だよ、カッコイイと思わないか?」と、ウィリアムが聞くと、「コアラさん、それ本当ですか?」

と、少女は聞き、目を輝かせた。

「かるせどにーって宝石のような、名前なのですか?カッコイイです。王子様みたいです。」

「じゃあ、君にとっての『ほしぞらのくに』はどこだろう?」

「もちろんくじら島です!」

「くじら島にカルセドニーさんは住みたいらしい、君はどうする?」

「くじら島は私の島です、でも、ちょっとだけなら貸してあげます」

「いいのかい?」

「はい、かるせどにーさんは特別なお方みたいだから、特別に扱わなければなりません」

「じゃあ、良いんだね、わかった、ありがとう」

ウィリアムは、そのままカルセドニーに通訳し、状況を説明した。

随分あっさりと決まった事に拍子抜けしたが、カルセドニーは無事に島を買う条件がそろった。

これで家族を呼べる。

まずはルージュ市の方へ行き、移住者として登録したり手続きを取らなくてはいけない。

村長とウィリアムに礼を良い、村長宅を出た。

ウィリアムがルージュ市まで行くなら、案内すると言い出してくれて、二人は村長宅を出た。

少女はそのまま残ったが、少し寂しそうな顔で、カルセドニーに手を振った。




話はまとまり、カルセドニーは心が軽かった。

なぜ少女はあの土地にこだわるのかは、分からなかったが、本人にしか分からない事情は誰の力を借りても分からない。

いつか事情を話してくれたら良いと思っていた。

カルセドニーは、島が自分の元になる、という事にしか、頭が回らず、見落とした部分があったが、彼がその事に気付くのは、まだ先の話らしい。




 仮住まいで、こちらの生活に安定を持たせ、カルセドニーはようやく夢であった念願の島を手に入れた。

意外に早い段階で手に入る事となったが、そんな事どうでも良かった。

島を買い、家を建て、家族で移住することが決まり、全員喜んでいた。

まだ住むには時間がかかるが、とりあえず目標は少しづつ片付き始めている。

あと一歩だ。

あと一歩で、夢の“島暮らし”である。

冒険島ではないが、理想に近い島である事は確かだ。

元、何かの施設が立っていたという事もあり、住むには問題ないという。

確かに前回行ったときは、更地ではあったが、建物を建てられないほど荒地ではない。

キャンプして生活している少女がいたくらいだ。

仮住まいで暮らしていると、頻繁に客が来ていた。

元々、脱走癖がある子だった為、彼女を知る人物は、誰も驚かなかったったが、カルセドニーの妻と姪っ子は正直驚いていた。

その客人とはまぎれもなく「妖精ホワイトキャットちゃん」である。

名前は「妖精ちゃん」と「ホワイトキャット」の両方をくっつけた。

初めは、説明がすごく難しかったが、本人も意味不明な事ばかり言う為、そういう子なんだとほっとかれるようになった。

妻のエレスチャルは、「またカルセドニーの病気が始まったのね『かわいそうなものを拾ってきちゃう癖』がね」と、コーデリアの前で大きな声で言っていた。

もちろん口論となったが…。

コーデリアは、この客人が気に入ったらしく、来るたびに暖かく歓迎している。

子供達は、新しいお姉ちゃんが来たと言い、それなりに仲良く遊んでくれている。

コーデリアにはあまり懐かなかったのが心配だったが、こうして客人が来る度びに子供たちが喜んでくれるなら、それで良いと思っていた。

エレスチャルは特に何も言わなかった。

歓迎とも、心配とも、村に帰らせた方が良いとも、何も言わなかった。

来る頻度も、まだ常識の範囲内だったからだろう。

エレスチャルは、勝手にすれば?という態度だった。

自分の子には、ちゃんとした教育の範囲で叱ったり誉めたりと、ちゃんと親としての役割はこなしてくれていた為、カルセドニーは誰に対しても口出しはしなかった。




ようやく準備が整い、カルセドニーの家族は、島に移住した。

やっとの思いで手に入れた島は、くじら島だけでカルセドニーの島となった。

ある程度管理もする事となったが、それは別に構わない。

元々、こちらに来て仮住まいの施設の住所で、学校に通っていたコーデリアは、ちゃんとした住所になった事を喜んでいた。

今まではどこか“よそ者感”を感じていたらしい。

やっとちゃんとした家で、ちゃんとした生活に戻れた。だいぶ嬉しそうだった。

エレスチャルもそれは、コーデリアと同じ気持ちらしい、ただし、一つの問題を除いて…。

「彼女は、遊びに来ていただけじゃ、物足りないのかしら?」

「元々は、彼女が先にこの島にいたんだ。話し合いの結果、この島を俺に渡してくれると…」

「言ってたはずだけど、話が違うって?子供相手に何をしてたの?」

「…事情は話しただろう、彼女の親はいない、脱走が大好き、そしてこの島が好き。」

「彼女の両親はどうしていなくなってしまったの?」

「だから、全くもって話しをしてくれないと」

「もう、なんでなんだか。」

「とりあえず、根気よく彼女を説得してみるよ」

「本当に、何なのかしら?あの子…」

カルセドニーだって分かれば苦労はしない。

島に来てみれば、先客がいた。

キャンプ道具を広げて、キャンプをしている女の子。

まぎれもなく「妖精ホワイトキャットちゃん」だ。

彼女はカルセドニーが島を買い、家を建て、引っ越してきても、キャンプしながらの生活は続けている。

彼女は「半分だけ…貸してあげるつもりでしたが、予想外に陣地を取られてしまいました。かるせどにーさんも、家族がいました。だけど、良い人達だったので、このまま住まわせてあげます。」と言っていた。

さらに「私はキャンプ出来れば良いです、アーテル村には戻りません。でも、言葉がまだ、分かりません、コーデリアちゃんはどちらの言葉でも喋れたので、良かったのですが…」と言っていた。

コーデリアも「彼女だってここに居させれば?なんなら、私と一緒に学校通ったりしても良いじゃない?」と言っていた。

カルセドニーが島に移り住むことになったと伝えた為、初日はアーテル村の村長とウィリアムにも来てもらった。

その時に通訳も兼ねて来てくれたのだが、カルセドニーは、村長の言葉を聞いて、あぜんとするするしかなかった。

折角のカルセドニーの夢は、こぶ付きで始まったのだった。

「はぁ、会話がスムーズにいくようにしないとなぁ」

カルセドニーは、一人、海を見つめてため息をついた。




しばらくの間、会話は難しかったが、意外にもコーデリアがちゃんと間に立って喋ってくれた。

学校も通いたいと言われた為、今まで面倒を見ていたアーテル村の村長に相談し、ルージュ市の学校へ通わせてもらえるようになった。

島の住所はアズーロ町になるが、学校はルージュ市の学校と同じである。

少女の学校側の扱いは、カルセドニーの所にいる養子扱いになってしまった。

コーデリアは、一人も二人も同じでしょ?と言っていたが、養子にして育てるのは、とても大変だった。

金銭面の事もある、色々な手続きだって必要である。

表向きはカルセドニーが保護者になっているが、今の時点で養子が増えるのは、勘弁してほしかった。

それ以外にも、名前はどうしているんだろう、という疑問が浮かんできたが、適当にアーテル語の名前で通っているらしい。

ある程度、「自由な国」とは聞いてたが、ここまで自由なのか…と思った。

姉が気に入って住んでいた国である以上、それなりの魅力があるのだろう、とは思ってたのが、なるほど、と思えるようになった。

エレスチャルの方は不満は抱えていそうだが、それなりに過ごしている。

パートをしたいという事で、カルセドニーもいるデパートの地下にあるスーパーで働くようになった。

「あなただけが働いて稼ぐのは大変でしょ?急に子供が増えて、家計的にも影響が出たりするのイヤだから。」

「ありがとう、助かるよ。」

エレスチャルは今まで、自分の子供達はしっかり育てていたが、コーデリアにはどこか距離を置いていたが、この島に来てからは、少しづつ実子のように扱うようになった。

口論はしていたが、今は少し、別の会話も増えた。

妖精ホワイトキャットちゃんの事があるからだろうが…。

コーデリアも「おばさん」と呼ぶようになった。

今までは「ねえ」や「ちょっと」と呼んでいたが、どんな意味の“おばさん”なのかは分からないが、「おばさん」でも今までに比べて、良い方に転がっていると、カルセドニーは思っている。

カルセドニーには、相変わらず呼び捨てだが…。

妖精ホワイトキャットちゃんについても、呼ばれる名前が多少変わり、扱いも変わってきた。

一緒の場所で暮らしているからか、天気により、家の中で過ごさせたり、ご飯を食べさせたりすることが増えた。

学校はカルセドニーがコーデリアと一緒にクルーザーボートで送り迎えしている。

保護者の方が…という場合はカルセドニーが学校に顔を出している。

この国では、養子だったり親の居ない子がいても、あまり気にしない。

大人がすでに自由奔放に生きている人が多いからだ。

海外からの移住者の中には、色々な問題を抱えている人も沢山いる。

それでカルセドニーが血の繋がらない子の面倒を見ていても、誰も何も思わないのだ。

学校で使っている名前は、コーデリアから聞き出して「白井しろい 音子ねこ」という名前らしく、あだ名が『しろねこちゃん』らしい。

そんな単純な名前…と思ったが名前についてはカルセドニーもあまり口出しが出来ない。

コーデリアが『しろねこちゃん』と呼んでいる為、家族全員『しろねこちゃん』と呼ぶようになった。

島で生活して、毎日忙しく過ごしていると、あっという間に日々が過ぎ去って行った。

カルセドニーの家族は妻と三つ子の子供と、姪っ子が養子になり、居候少女が増えた。

それでも何とか生活出来ているのが、不思議だが、この国だからこそ、ここまで出来たのかもしれない。

最初はどうなるか分からず、不安だらけだったが、今はそれなりに幸せに暮らせている。

カルセドニーは何とかなって良かった、と思えるようになっていた。

このまま何事も起こらなければ良いな、と思ったカルセドニーだったが、人生とは、そんな時は、だいたい何か起こる前兆である。




カルセドニーとエレスチャルは、二人の休日を合わせて、ルージュ市にある、とあるビルを訪ねた。

塾や教室が集まっているカルチャービルらしく、出入り口にある案内板には、沢山の教室案内が書いてあった。

一階と二階が子供の為の塾、三階は料理教室、パッチワーク教室、英会話教室など、大人の為の趣味などを広げる為のフロアとなっていた。

その上の階である四階は、全てがダンスフロアで、五階、六階が事務所などとなっているらしい。

カルセドニー達は、中に入り、エレベータを探し、奥まで入って行った。

エレベーターが見つかり、二機のエレベーターがある場所まで来た、階をもう一度確認し、一階に止まっているエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターの中で、足音なのど心配を二人で話したが、それなりに対策は取っているのでは?という話でまとまった。

目的の階でエレベーターが止まり、ドアが開いた。

二人はエレベーターの外に出て、再びその階の案内板を探し、自分の目的の部屋がどこにあるのか、確認した。

「へぇ、ヒップホップダンス、バレエ教室、本当にダンスフロアというだけあって、色んなダンス教室があるんだなー」とカルセドニーが言うと、「あったわよ、ここ、社交ダンス教室」と言った。

二人の目的地は「社交ダンス教室」らしい。

二人は元々、社交ダンスを趣味にしていた。

結婚前からパートナーで、出会いは社交ダンス教室で、パートナーに選ばれた時、二人は運命を感じていた。

それからというもの、恋人期間を得て夫婦になった今でも、趣味として社交ダンスをしている。

最初はカルセドニーの両親がやっていたのだが、それが姉弟三人もやらされる事となり、幼い時は姉と組まされていた。

姉はすぐに辞めてしまったが、カルセドニーと弟はずっと続けている。

悲しいが、弟の方が成績が良く、大会に出てもカルセドニーは賞さえ取れないが、弟はそれなりの順位を手にしている。

自分だって何か得意な事があっても良いのに、と思ったが、クルーザー運転手の資格が取れ、クルーザー運転手の仕事をしていたくらいしか、自慢できる事がない。

だからこそ、この国では何とか趣味をもう少し頑張って、賞くらい取れるようになりたい、とこの教室へ通う事になった。

今日ここに来たのは、今日からこの教室で学ぶためだ。

「はぁ、緊張するな」

「そうね、でも、また教室に通えるようになったのは、嬉しいわ!」

「先生はどんな人なのかしらね」

その時どこからか、カルセドニーの声に似た声で返事が返ってきた。

「たぶん、カルセドニーのように賞も取れないような男じゃない事は確かだろうな」

声が聞こえた方を二人で振りむと、そこに二人の男女が立っていた。

「よう、元気か?カルセドニー?エレスチャル姉さん」

「聞きたくもない声だし、会いたくもない人物だな」

「どうしてここにいるの?あなた達は実家のご両親と同じ土地を離れたくないって言ってたじゃない!」

「いやー、ロザリンドが島暮らしし始めた兄さん達が羨ましいと言ったから、思い切って俺らも島暮らししようと思って」

「最悪だ、折角君らと離れて平和になったと思ったのに。」とカルセドニーが言うと、カルセドニーの弟、セバスチャンは、「これからもよろしく、お兄ちゃん、義姉ちゃん(おねえちゃん)」と返してきた。

エレスチャルは「あなたにそう呼ばれたくないわね」と返すと、セバスチャンの妻、ロザリンドは、「そう言わないでよ、この兄弟の妻になった者同士、また仲良くしてよね」と返してきた。

カルセドニーの実の弟、セバスチャンと、セバスチャンと結婚したロザリンドは、カルセドニー達より早く結婚し、子供は双子の女の子がいる。

そして社交ダンスでは、二人もパートナーだ。

カルセドニーとセバスチャンは二人同時に、社交ダンス教室に入れられた。

子供の頃は、違うダンスを習っていた為、カルセドニーが十八歳頃から社交ダンスを習っている。

その頃からセバスチャンとロザリンドもパートナーである。

四人の年齢は、カルセドニーが三十五歳、エレスチャルが三十四歳、セバスチャンとロザリンドが共に三十二歳である。

子供はカルセドニーの子が三歳、セバスチャンの子が十歳である。

ちなみにコーデリアとしろねこちゃんは、二人共十一歳である。

カルセドニーとセバスチャンは年齢の幅が狭いため、いつも何かを争ってきた。

その為、結婚も早く、子供も早く、賞も取れる弟が、カルセドニーにとって、非常に厄介な存在である。

賞を取れない事をバカにされ、結婚が遅い事をバカにされ、子供は何とか結婚後、直ぐに出来たから良かったものの、コーデリアを押し付けられた事を、散々言われ、ようやく離れた相手だった。

…ハズだったんだが、どうやら追いかけてきたようだ。

「で、今はどうしてるんだ?」とカルセドニーが聞くと、カルセドニー達がいた施設にいる。と返ってきた。

「金はどうしたんだ?お前の家は、やたらと金回りが良くて、困っている事も多々あっただろう?」

「そんなの、親の金に決まってんじゃん」

「そうか、そうだよな、おまえはそういう奴だ」

「で、今日からここで、俺の元で教わるんだろ?それならそれで、条件がある。」

「いや、言わなくても分かる、島は俺の物だ、勝手に建てたりするな、金を貸せもダメだ、全てダメだ」

「じゃあ、退会してもらうけど」

そこで、エレスチャルが口を挟んだ。

「講師ならもう一組いるでしょ?」

「いるけど?それがどうした?俺らには教わりたくないって?エレスチャル姉さん?」

「曜日を変えれば良いのよね」

「まぁねー、でもこちらはそっちの情報を簡単につかめる」

「…今日はもう来ちゃったし、しょうがないとして、私達は曜日を変えさせてもらうわ」

その時だった。

「ねえ、島に住めないの?その為に私達、ここに来たのに!」と口を挟んだのは、ロザリンドだった。

「ロザリンド、大丈夫だよ、優しい兄さんがなんとかしてくれるから」

「いや、おまえの事は今後、無視をする、この教室が最後だ!」

「カルセドニー!」

カルセドニーとエレスチャルは、そのまま歩き出し、教室の方へ入って行った。




散々な再会となり、落ち込んでいた二人は、今後の事を話し合う為、わざわざアーテル村まで足を運んだ。

教室で社交ダンスをして、疲れているのにも関わらず、こちらに足を延ばした。

ココまでくれば、弟は追いかけて来ないと思っての行動だ。

実際、弟は姿を現さなかった。

話し合いは、児童公園でしていたが、子供達に変んな顔をされながら行われ、一旦家へ帰る事となった。

島に帰ってくると、周りや家の中をくまなく探したが、二人の姿や痕跡は無かった。

一安心して、リビングでくつろいでいると、子供達が集まってきた。

何か変わった事は無いかと聞くと、何もなかったという答えが返ってきた。

とりあえずまだ、この島は弟夫婦に侵略されてないようだ。




その日の夜、ルージュ市の簡易宿泊施設で寝泊まりしているカルセドニーの弟、セバスチャンとその妻、ロザリンドは、今後どうするかの話し合いから、口論に変わっていた。

兄より優れている弟だったはずなのに、まさかの養子を連れての生活で、悠々自適な島暮らしという生活を手に入れたと聞いて、ロザリンドは夫を説得しなんとか義両親にお金を出してもらい、移住してきたというのに、まさかの義姉からの言葉。

さらに義兄からの言葉。

なにも言い返さなかった夫。

夫は何とかなる。と言っていたが、義姉が出てくるとどうも弱くなるらしい。

そんな夫の態度に、ロザリンドは声を荒げた結果、今現在の口論に繋がっている。

「はぁあ、真面目で一途で、おまけに優しい、そんなカルセドニーはなんて素晴らしいんでしょうね!」

「そうだな!綺麗で冷静沈着、おまけに金使い荒くない所は、エレスチャルの方が良い女だよな!お前と違って!」

「なによ!あんな地味女!」

「なんだよ、カルセドニーだって地味男だぞ!」

「それでも、島を持ってる!プライベートビーチ!クルーザーボート!」

「あー、うるせー、もう疲れてんだよ、今日はこの辺にしようぜ。」

「ダメ!曜日替えられて、会えなくなっちゃう!」

「会いたいのか?あいつに?」

「ちょっと!違うわ!だって、島に行きたいじゃない!」

「あー、分かったから、今度兄貴にちゃんとあって話すよ」

「エレスチャルは?」

「会う必要ないだろ」

「二人で会うのね」

「当り前だろ」

「分かった」

こうして二人は口論を辞めたが、二人の話し合いはいつも口論に発展してしまう。

似たもの同士なのだろう、だからこそ二人は、意見がぶつかり合ってしまう事が多々あり、そんな日は二人共、疲れてしまっている。

子供が出来てしまっての結婚で、最初から口論は絶えなかったが、それでも夫婦やダンスパートナーとしては、相性が良いらしい。

しばらくして時間が経てば、二人はいつも通り、仲の良い夫婦に戻っていた。




翌日

カルセドニーは弟の連絡を受け、指定された場所へ向かった。

まだあまり、この国の事はほとんど分からないが、それは向こうも同じである。場所は簡易宿舎の近くだった。

弟は指定の場所にすでに来ていた。

「今日はどうした?」

「もちろん、島の話だ」

それなりに洒落たカフェの席にカルセドニーの弟、セバスチャンは座っていた。

カルセドニーも二人席に座っているセバスチャンと向かい合うように席へ座り、メニューを見た。

「また随分と洒落たカフェだな、メニューも若者向けみたいだ。」

「いうほど若者向けか?普通だろう?」

「まぁ良い」

カルセドニーはメニューから顔を上げて、店員を呼び、ドリンクを一つ注文した。

「で、俺を呼び出したのは、俺の島の一部に家を建てて、そこに住みたいと」

「そうだ」

「無理だ」

「そこを何とか…金なら仕事もあるし、二人で稼いでるから、貯めるのも早い。」

「ロザリンドの浪費癖は治ったか?」

「…治るわけないだろ」

「ここはロザリンドの趣味の店だな、値段といいメニューといい、店の雰囲気だったり…彼女がとても好きそうな店だな。彼女の事だ、この店は頻繫に来ているだろう?」

「そんな事は良いから」

「生活がキツいんだな、昔からそうだった。そんなんでよくこの国まで来たな」

「親に出してもらったんだ」

「そんな親元を離れて良かったのか?」

「だから、ロザリンドが…」

「おまえも、彼女には頭が上がらないらしいな」

「頼むよ、ロザリンドの為に島の一部を」

「条件がある」

「条件?」

「エレスチャルとロザリンドが話し合って決めてくれ、それが条件だ」

「一番嫌な条件だな」

「その条件をクリアしてからだ」

「…エレスチャル姉さんが良いと言ったら、良いんだな?」

「その時は俺とエレスチャルで、最終的に話し合ってから決める」

「分かった、ロザリンドに話してみる」

「こちらもエレスチャルに話しておくよ」




二人が店を出て、セバスチャンは早速ロザリンドの元へ向かった。

ロザリンドはデパートにいた。

デパートの地下で、仕事中のエレスチャルと一緒にいた。

良いのか悪いのか分からないが、近付いてからエレスチャルの表情を見て、良くない状態だと気付いた。

「ロザリンド」

「あっ、ねえちょっと!エレスチャルったらひどいのよ!」

「それは後で聞くから!エレスチャル姉さん、またね!」

そう言ってセバスチャンは、デパートの地下から妻を引っ張り出した。

その後、デパートの外に出て、家として利用している簡易宿泊施設へ戻った。

歩いている間、ロザリンドは一人で喋っていた。

それは全てエレスチャルに対しての愚痴だった。

部屋に入るころには、島に住みたいという話に変わっていた。

早くここを出たい、と騒いでいる。

「出ても住所は変わるぞ?ルージュ市で住んだ方が良いんじゃないか?」

「楽しそうに住んでるのが羨ましいの!」

「いうほど、楽しそうか?まぁ、カルセドニーと話したぞ、エレスチャルと話し合って欲しいって」

「はあ?なにそれ?」

「そこまでして、あの島の一部の所に家を建てたいか?金だってかかるんだぞ?こっちで支払わなきゃいけないんだぞ?分かってるか?」

「お金がかかるのは分かっているわよ、分かった、話してみるわ」

「じゃあ、そういう事で」

「…はいはい」




カルセドニーはカルセドニーで、仕事帰りエレスチャルと落ち合い、弟と話した事を説明した。

エレスチャルはすんなりと了承した。

「でも、私は良くても、向こうはこの話を受けるのかしら?相手はロザリンドでしょ?」

「どうだろな、分からん」

「でも、今日も偶然、会っちゃって、向こうから話しかけてきたから、しかたなく話したけど、だいぶ困ってるらしいわ。安くしてくれだの島に住まわせてくれだの、うるさいくらい話しかけてきて、そうすれば安く家が手に入るって。」

「まぁ、勢いでこちらに来てしまったもんだからなー。」

「あなたはどう思っているの?」

「できれば離れて暮らしたいさ、その為に来たんだから、でも住むところが無くなったら、と思ったが、国へ返した方が良さそうだな」

「そう簡単に返せるかしら?」

「…無理だろうな、金やなんやらと騒ぎそうだ、

俺の両親だって、弟の肩を持つだろう。」

「そうね、そうよね」

「結局、セバスチャン達の思い通りになりそうだな」

「あきらめるしかなさそうね」




その後、エレスチャルとロザリンドの女二人の話し合いは、あっさりと終わった。

ロザリンドが以外にも「私達が悪かった。お願いだから島の一部に家を建てさせて欲しい。お金は私達だけで支払う。あなた達には一切支払わせない、少しも借りたりはしない。エレスチャルお姉さんの言う事を聞くわ。子供達も楽しみにしてるのよ。あー、コーデリアの事も、二人に任せっきりで、悪かったと思ってる。これからは私達も彼女のめんどうを見るわ」と言ってきたからだ。

それに対して、エレスチャルは少々驚いたが、何か裏があるのかと考えたが、今日はやけに素直だった為、話を聞き入れた。

そして、もう一つの条件を、ロザリンドに出した。

「あの、うちにもう一人、島に住むのに、承諾が必要な子がいるの。その子にも合わせてから、考えるわ」

「…誰?」

「子供だけど、手強いわよ」

「えっ、どんな風に?」

「不思議ちゃんよ、つかみどころが分からないの、私も最初、戸惑ったわ」

「えっと、どういう事?」

「島に…キャンプしながら生活している子がいて、その子に私達は了承を得て、暮らす事となったの、今は家族のように暮らしているわ、家族じゃないんだけど、うちに居候してる子よ」

「コーデリアじゃなく?」

「違うわ」

「意味わかんないけど、まぁ分かった。その子に了承を取れば良いのね」

「私から言えることは、これだけ」

「分かった、了承を得られるようにするわ」

「まぁ、どうせ、国に帰る事も出来ないんでしょ?だからって他に住むことも出来ない。どうすることも出来ないんでしょ?お金が無くて」

「…欲しい物が目の前にあると、つい…」

「私達に迷惑かけないと、約束出来るなら良いわ」

「ありがとう」

「居候の子には、ある程度カルセドニーが話をしてくれるって言ってたから、頼んどくわ」

「そう」

「じゃ、私はこれで失礼するわね」

「ありがとう、それじゃ」

二人はそこで話を終え、お互いの来た方向へ帰って行った。

その日の晩、カルセドニーは妻から話し合いの内容を聞き、彼女の元へ向かった。

外でテントの中で過ごしている彼女は、カルセドニーの話を聞いて、「えっと、今はもうカルセドニーさんの、あの、島になったので、カルセドニーさんの好きにして良いです。」と、とてもあっさりした答えを返してきた。

「えっと、私はこの島で暮らせれば、あの、それで良いので、えっと、家が建とうが、木のお家が出来ようが、別に良いです」

「木のお家?」

「はい、この間コーデリアちゃんが、えっと、おじさんはツリー何とかを、欲しがっているって、言ってました。なんなのか聞いたら、木のお家で、外国ではたまにあるって、言ってました。」

「ツリー、木の家?あぁ、もしかしてツリーハウスか、確かに欲しいな」

「はい、私も欲しいです」

「そうか、じゃあ、考えてみるよ」

「はい」

彼女は、頭が良いのか悪いのか、分からないが、それなりにカルセドニーの言葉を理解できるようになっていた。

コーデリアのおかげでもあるだろう、やはり友達と会話したい。というのがやる気を出させるのか、子供には謎の吸収力があるのか、まだまだ会話が成り立たない時はあるが、簡単な言葉は覚えてくれていた。

カルセドニーはテントを出ると、家に戻り、コーデリアの部屋へ向かった。

コーデリアにも、話しておくべきだと考えたからだ。

コーデリアの方も、だいぶあっさりしていた。

「あっそう」「ふーん」「別にどうでも良い」という返事しか返って来なかった。

コーデリアに「居候中のしろねこちゃん」について、聞き出すことにした。

普通に生活しすぎて、感覚が麻痺いていたが、彼女はあくまで居候である、しかし保護者という立場に勝手にされてしまった事もふまえ、カルセドニーは定期的に、彼女の事を聞き出している。

「しろねこちゃんは、今は学校が楽しくて、勉強も少しだけ楽しくなってきたみたい。

私より成績良いよ、私のが、しろねこちゃんに勉強を教わったりしてる。元々国語とか本とか好きだったみたいだし、言葉に関しては、その辺から興味が湧いて、共通語も覚えた方が人生楽しくなるって言ってたし、それで覚えるのが早くなったんじゃない?学校での成績は、普通くらいだし、なにも問題ないよ」

コーデリアの言葉を聞いて安心できたが、カルセドニーは、コーデリア自身も変わったと気付いた。

今までとは言葉使いが柔らかくなったのだ。それは、しろねこちゃんの影響と考えた。

彼女のお陰で、コーデリアにもいい影響を与えているらしい。

お互いがお互いに対し、良い影響を与えるなら、この環境になった事も悪くないと、考えるようになった。

後は弟たちがこちらに来ることになったら、また波乱が起きそうだが…、それは来てから考える事にした。




それから数日後

セバスチャンとロザリンド夫婦は、双子の娘を連れて、島へやってきた。

まずは家の外を案内して、ここにツリーハウスを建てる、と説明した。

自分達も使いたいと言い出すかと思えば、全く何も言い出さなかった。

なにか急に大人しくなってしまって、今までのセバスチャンとロザリンドとは、別人のように思えた。

娘二人は相変わらずといった感じで、大人しく親の後ろにくっついている。

元々、二人の娘とは思えないほど冷静で冷たい感じを放つ二人だったが、今も変わらず冷静沈着らしい。

“しろねこちゃん”に会わせても、四人ともあまり興味無いようだった。

しろねこちゃんもごく普通に接していた。

カルセドニーは、急に一人だけ別世界にでも来てしまったのかと思ったが、エレスチャルも拍子抜けしていたらしい。それは後で確認が取れた。

家の中に案内すると、カルセドニーの子供達が出迎えてくれた。

三つ子のうち、娘二人は、物怖じせず、顔を見せてくれたが、息子だけは母の後ろに隠れてしまった。

三つ子は、女の子、男の子、女の子という順番で産まれてきたのだが、女の子二人は元気一杯で、どこか強く、姉の血が混ざっているように感じる時もあるほど、わがままで、勝手に動き回るタイプだった。

真ん中の男の子はそんな姉妹に囲まれて、大人しく引っ込み思案で、カルセドニーの息子らしい子だった。

女に振り回される運命をカルセドニー同様、受け継いでいるらしい。

つくづく彼らの遺伝子は、女性が強い傾向にあるらしい。

セバスチャンも、意外とそういう所が垣間見れた。

リビングで全員が集まり、狭いリビングだった為、ぎゅうぎゅうに押し込まれているように見える。

大人が四人、話している間、子供達はしろねこちゃんとコーデリアが二人くっつき、三つ子のうち姉妹は好き勝手に動き回り、息子だけが大人しく母の元にくっついている。

セバスチャンの双子の姉妹は、二人でくっついてお喋りしていた。

引きはがすことはないが、双子の娘は二人でくっついている事が多かった。

騒がないで大人しくしているが、それが余計に怖い時もある。

結構賢く、セバスチャンとロザリンドの子供というより、カルセドニーとエレスチャルの子供という方がしっくりきそうだ。

その分、三つ子の姉妹の方が、セバスチャンとロザリンドの子供に見える。

どこかで間違ったようだが、年齢が違う時点でそれはない。

やはり血縁関係上、それなりの遺伝によるもののようだ。




その日、弟家族が帰った後、カルセドニーは、島のどの辺に家とツリーハウスを建てるか考えていた。

ツリーハウスは家のすぐ隣、弟たちの家は…あまりくっついて建てて欲しくない。

しかし、島の面積上、それなりにくっついてしまうのはしょうがない。

せめて、「少しでも離れた場所」として、島の端の方に建ててもらう事にした。

くじら島の左側に、小さい無人島がある。

そこも買い取るか聞かれたが、管理が必要なのと、お金の問題で、くじら島のみ、自分の所有物にした。

村長の話だと、そこも合わせて、二つの島が昔あった施設の所有している島だったらしい。

こちらは何も無かったが、隣のペンギン島には、何か建物が建っている。

島を買う際、両方の島を見させてもらった。

一島で十分と判断したが、まさかこうなるとは。

お金があれば、今からでもあの島を買って、弟たちをあちらに住まわせたいが、それもなんだか変な話だと思い止めた。

島はまだあると、弟に話しても、お金が無くて無理だろう。

どの道、自分の島に弟を住まわせるしかない。

ならばそうか、この左端の場所に家を建ててもらうか。

ペンギン島が見える場所なら、しろねこちゃんもキャンプ道具を置いていないし、空いたスペースとして充分、場所を確保できる。

よし、この辺で大丈夫だろう。

後は、しろねこちゃんに改めて場所の確認を取ってもらおう。

彼女は島が大好きで、景観も気にしている。

その報告は大事だろう、折角自分に託すと言ってくれたんだ、それくらいするのは、当たり前だと考えて、カルセドニーは、キャンプ道具を置いている場所へ向かった。




「あれ、コーデリア、何してるんだ?」

「寝転んで星の観察」

「しろねこちゃんは?」

「家の中でおばさんと共通語の勉強」

「ん?エレスチャルと?」

「そう、おばさんはアーテル語、しろねこちゃんは共通語」

「なんか随分だな」

「そう?」

「まぁとにかく、家の中だな」

「ねぇ、お母さんがいないって寂しくないのかな?」

「ん?」

「私は、離れたけど、一応生きてるだろうし、あんな奴、親だって思いたくないし、でも親がいないって、寂しくないのかな?」

「そりゃ、人によっては寂しく思うだろうな」

「私としろねこちゃんって、似てるようで違うんだよね」

「ん?」

「彼女、自分の事ほとんど話さないけど、親は二人共いないんでしょ?どうしたのかさえ、知らないけど、でも寂しいとか言わないんだよね、私は親のグチばかり話してるのに、彼女、何も言わないんだ」

「そうか」

「ねえ、おじさん、可能なら家族として迎えてあげようよ、私みたいに」

「うーん、それは経済的な理由で無理だな」

「セバスチャンは…もっと無理か」

「そうだな」

「私、おじさんが親になってくれて、正直良かった。なんかロザリンドとクラウディアとルーシーが嫌い」

「ありがとう、でも…」

「分かってる、来たらなんとか上手くやるよ」

「うん、よろしくな」

「クラウディア」と「ルーシー」は、セバスチャンとロザリンドの双子の子供の名前だ。

そういえば、確かにその双子とコーデリアが仲良くしている姿は見かけなかった。

元々、この国で生まれ育ったコーデリアは、今回親元を離れ、初めて親戚の人達と会った。

近場に住んでいた弟家族とは、向こうの国で、頻繁に会っていたが、コーデリアも弟家族も、交流は全くという感じだった。

お互い距離を置いていた。

セバスチャンだけは、それなりに話しかけていたが、それ以外の三人は、確かに距離を取り、話しかけもしなかった。

なるほど、そういう感情があったのか。

女同士の事だし、上手くやると思っていたが、そう簡単ではなかったのか、とカルセドニーはようやく気付いた。

今、「上手くやるよ」と言っていたコーデリアの顔は、“本当は納得できていない”という感情も混ざっている顔だった。

カルセドニーは改めて、弟たちがこの島に来た後の事を考えた。

子供に負担かけていたらダメだな、セバスチャン…というよりロザリンドと双子の子達はちょっと問題ありだな。なるべくその三人とコーデリアは、離していた方が良さそうだな。

カルセドニーは、家の中に入る前にごちゃごちゃと色々考えていた。

「きゃっ」という声と、床に何か倒れた音がした。

見ると足元に白い毛の少女が転がっている。

「うー…」とうなだれているのを見て、カルセドニーは、ようやく誰だか気付いた。

「ごめん、しろねこちゃん、どっかぶつけたか?」

音を聞きつけ、エレスチャルも来た。

「あら、大丈夫?頭打ってない?」

しばらくしてゆっくり立ち上がったが、心配してカルセドニーが、夜間の病院へ連れていく事にした。




診察結果は、とりあえず大丈夫そうだが、念のため一晩寝ていけ、という事で、カルセドニーは家に連絡をして、二人で病院にお泊りだと告げた。

病室に戻ると、しろねこちゃんはベッドの上で「死んじゃうかもしれない、お母さん…」と泣いていたが、カルセドニーの声を聞いて安心したようで、泣き止んだ。

しろねこちゃんを寝かせて、カルセドニーは椅子に座り、コーデリアの言っていた事を思い出していた。

小さな白い手を握り、「すまない、私が他の事を考えていたせいで…」と声をかけたが、彼女は小さく寝息をたてていた。

翌朝、病院を出て、島に帰り、家の中に彼女を連れて入った。

「しばらくは私達と一緒に寝よう。」と、しろねこちゃんを、夫婦の寝室へ案内した。

気持ちがすっかり甘えモードに入り、しろねこちゃんは、ずっとカルセドニーに甘えていた。

症状は大した事はなく、体は元気なのだが、心が元気ではないらしい。

ずっとカルセドニーの手を放そうとしなければ、何かぶつぶつとつぶやいていた。

今日は学校をお休みさせ、カルセドニーは仕事へ行こうと思ったが、お留守番はしないと言い張る為、カルセドニーは仕事を休んだ。

「結構簡単に休めるもんだな、さて、どうしようか、子猫様」

と言ってみたが、彼女には伝わらなかったらしい。

眉間に皺を寄せて、「アーテル語で話して下さい、何を言ったのか分かりません」と返された。

もちろんアーテル語で…。

コーデリア…はもう学校へ行く時間か、困ったな。昨日から言葉の壁が少々出てくるな。

人はパニックになるとダメだな…。

コーデリアー!!

その時、廊下で子供の声が響いていた。

「おじさん、ここにいるの?どこ?」

部屋のドアは空いている。

彼女に聞こえるよう声を出すと、コーデリアの姿が目に入った。

コーデリアは部屋の出入り口の所に立ち、カルセドニーを見つめた。

「おじさん、船の時間なんだけど」

「コーデリア、すまない、彼女との間に通訳として入ってくれ」

「…手短にね」




部屋からコーデリアが出てくると、手招きしている人影が見えた。

コーデリアはその人物の所まで行くと、部屋での様子はどうだったか聞かれたため、「めちゃくちゃ甘えモードで甘えてる」とだけ言っておいた。

その後、コーデリアはカルセドニーの運転するクルーザーボートに乗り、一人学校へ行った。

その日の夜には、もうすっかり元気になったしろねこちゃんだったが、これがキッカケで、カルセドニーには、多少甘えるようになった。

エレスチャルは子供だからと、大目に見る事にした。

甘え方が親に甘えるような甘え方だった為、許せたが、カルセドニーは女性が甘えてくると、弱い部分がある。

自分にはそんな可愛らしい部分は無いと思っているエレスチャルだが、だからこそ悪い虫が付かないかいつも心配なのだ。

女性の言いなりになりやすいカルセドニーだからこそ、目を光らせておく必要があった。

エレスチャルは、たとえ子供だろうと女は警戒しなくてはならない。

しかし今回、親に甘えたい年頃の子のように甘えているのを見て、彼女だけは警戒から外すことにした。

「コーデリアが言ってた通り、甘えん坊モードだけど、あれは大丈夫ね」

エレスチャルは家の隅でこっそり二人を監視していた。




弟家族が島に移住する事が決まり、建築士などと話し合う事となった。

この国の建築士で、良い人がいたら、という話で、村長の名が挙がった。

家を建てたら、ツリーハウスも建てるか。とカルセドニーは考えている。

準備を始めるとやたら忙しくなった。

場所は前にカルセドニーが決めた場所で問題ないようだ。

設計図やら、金銭的の話やら、カルセドニーも同席しての話し合いとなった。

カルセドニーはただ、話を聞くだけだったが、やたら気疲れをしていた。

あっちこっちと弟達と移動し、気を使わないロザリンドの世話をし、カルセドニーは一人疲れていた。

家が建ち、引っ越しする時期となると、何ヶ月もいつのまにか過ぎ去って行った。

やっと落ち着いて、念願だったツリーハウスを建て、カルセドニーは自分だけの城を手に入れた。

たまに息子が一緒に使いたがる為、二人で使う時があるが、基本、自分の城となった。

子供達が遊びに使う時もあるが、それは全く影響はない。

ブランコや滑り台を使うだけで、それ以外ほぼカルセドニーが使っている。

やっと夢の島暮らしが充実してきた。

言葉も分かるようになり、ほぼ問題なく過ごしている。

弟家族が引っ越して来たら、波乱の幕開けか?と思っていたが、そんな事はなく、むしろ穏やかだった。

クルーザーを運転する機会が増えたが、そのくらいはどうって事なかった。

子供達に社交ダンスを習わせたかったが、自分達で精一杯と言われてしまった。

現在、島での生活は、カルセドニーの家族五人と姉の子を養子にした為、家族は六人となった。そしてあまり自分の事を話したがらない謎の少女、しろねこちゃんが加わって、彼女は居候という形を取っているので、全員合わせて七人で生活していた。

それが、弟家族四人が一緒に住む事となった為、十一人で生活している。

家族だけではあるが、お互いに気を使いながら…は無理そうだが、それなりに距離を取りつつ、着かず離れずで生活出来ている。

弟夫婦も、ぎこちないがコーデリアの事では、前に言っていたように、ちょこっとだけ手を貸してくれるようになった。

コーデリアも苦手そうな顔をしながらも、おじ、おばと呼び始めた。

紛らわしいからと、カルセドニーとエレスチャルの事は、お母さん、お父さん呼びになっていた。

その事について本人は「説明めんどくさいし、今でも変わらず、パパはパパ、ママはママだよ、だけど、カルセドニー達の事はそう呼ぶことにしないと、省きたい説明を入れる事となっちゃうから」らしい。

パパ、ママは本当の両親、姉と姉の元夫の事だろう。

二人は今、どこで何をしているのか、全く分からないが、「どうせ一人になって、羽根を伸ばしてるでしょ。私という邪魔者も居ないし」とコーデリアは言っていた。

「とにかく、今の私の両親は、カルセドニーとエレスチャル、あなた達よ」

「わかった、そう言ってくれて嬉しいよ。ママの事も、頭の片隅に置いといてくれ」

「まぁね、ほんの少しだけね」

「あなたも、私達の子供よ、コーデリア、改めてよろしくね」

「…はいはい」

コーデリアの横で、小さくなって見ているのはしろねこちゃんである。

彼女は、なにも答えない為、両親がいないとしか分かってはいない。

しかし、それ以外はちゃんと学校へ通っているし、特には無かった。

(キャンプ生活は相変わらずだが)

弟家族にも、嫌な顔は見せず、よろしくお願いしますと挨拶していたし、ロザリンドがなにか言っても、無視させようと思ったが、ロザリンドはやはり珍しく大人しくしていた。

双子は変わらない。

セバスチャンは、しろねこちゃんに対し、ごく普通に話しかけている。

「最初はカルセドニーの隠し子発覚かとおもったのにな。まぁいいや、猫ちゃんよろしく」と声をかけ、ロザリンドに突っ込まれていたのは、引っ越して来た日の事だった。

そこから、変わらず軽口を叩いているが、その辺は毎度の事で、ロザリンド以外、無視するか、簡単にあしらっている。

しろねこちゃんも最初は不穏な顔をしていたが、段々と扱いが分かると、皆と同じような行動をし始めた。

そんなこんなで、総勢十一人となっているが、カルセドニーは、問題なく暮らせている事に、満足している。

不安や不満は消えないが、なんとかなっているので、あまり考えない様にしている。

仕事もそれなりに順調である。

やはり宝石やパワーストーンとは相性が良いのだろうか、ちょっと腑に落ちないが…。

海の街とされ、新しい街が出来て、島に人が住み、陸側の街も活気が出ている。

陸と島を合わせて「アズーロ町」となった町は、新しい町として、成功を収めた。

学校などはルージュ市の方にある学校となるが、子供達はそれでも文句を言わずに登校している。

住所はアズーロ町だが、それがめんどくさいくらいで、それ以外に不満は無いらしい。

まぁ、主に港があるだけで、民家は少ないからしいからしょうがないのだが。

後は、ルージュ市からの分離された、空港のある街と新しくヴィオラ町からまた分離された新しい町が出来るのが、国の目標だ。

それまでの間、町や市に住む住人は、普通の生活をしながら待ち望んでいる。

そして、この国にまた新たな住人が増えたり、なにか問題を抱えた住人が減ったり…。

国は一歩一歩動いている。

今、この瞬間も…。


              第六話 終わり

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